2014/07/04

平成22年7月5日 東京板橋で1時間114㎜の記録的大雨

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南海上に梅雨前線が停滞しており、関東地方南部には湿った気流が入りやすい状況であった。そこに上空に寒気を伴う気圧の谷が通過したことで、大気の状態が不安定となり、積乱雲が発達し所々で雷雨となった。東京都板橋区では時間雨量114㎜を記録する猛烈な雨が降り、練馬区、板橋区、北区で660棟が浸水する被害出た。特に被害が大きかった北区では石神井川が溢水はん濫した。幸い人的な被害はなかったが、河道からあふれた水の勢いでブロック塀などの破壊も起こっており、狭い範囲だが危険性が高いものであった。

この事例を取り上げたのは都市部での猛烈な雨によって、川が凶器に変わりうることを知ってほしいためである。こう述べるのは、平成20年7月28日に神戸市の都賀川で上流に降った激しい雨により急激な水位の上昇で河道内にいた5名の子供が亡くなった事例を思い起こしたからである。

この時の猛烈な雨の降り方と、この付近を流れる石神井川の水位の変化を図にした。1時間114㎜を観測したのは東京都の板橋区雨量観測所(図中の)であり、この北側に石神井川が流れている。川の近くの雨量計でも同様な激しさの雨がふっいていた。この雨量観測点から1kmほど下流にある加賀橋水位観測所(図中の)では、最も激しく降った時間とほぼ同時に10分間で298㎝も水位が上昇していた。まだ、天端までに余裕があったが、溢水が発生した地点(図中の)は、ここから2kmほど下流で川が大きく左にカーブを切っている地点であった。地図で直線的になっている部分が飛鳥山公園下を抜ける直線的なバイパス部分で流速を増した雨水がこの曲りの部分で溢れてしまったのだ。

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この石神井川は昭和40年代までは大雨の度に京浜東北線の王子駅前ではん濫を繰り返していた。この対策として、王子駅近くにある飛鳥山公園の地下にバイパスを作り、河道改修を行ったのである。川が変わったことが、被害の形態を変えたことも考えられる。

この河川改修に伴って、王子駅前での水害は激減している。駅近くには前の河道を整備した親水公園もできた。さらに新しい河道でも、水辺近くまで下りて遊べる公園もできた。ただし、大雨が降れば、この事例のように水位は急激に上昇する危険を伴っている。このため、急な増水を喚起する対策として上流部での水位変化に合わせて、サイレンを鳴らして緊急に川から避難する形を取っている。
神戸市都賀川での事故は、河道から速やかに離れる手立てができていれば防げた事故だけに、こうした浸水公園などで遊ぶときには、近くに警告の看板等が立っているのでそれらも見てからにしてほしい。

この事例の雨についても詳しく見ることにする。下に示す図は10分間隔で捉えた雨雲の変化である。板橋で猛烈な雨が降った前後の状況であるが、東京と埼玉の県境付近に強い雨雲があってほとんど停滞している。北の群馬県と栃木県にも雨雲がかかっているが、こちらはそれほど発達したものは見られない。ここだけに集中し、強い状態を維持した理由を説明することはなかなか難しいが、激しい雷雨に遭遇した際には、その時間は1時間程で終わるので、焦らず安全な場所に退避する気持ちを持って行動してほしい。

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この時の詳細な1時間雨量分布をみる。この図は1km×1km格子毎の雨量を示しており、100㎜以上と解析したのは4点しかない。80㎜以上の部分を合わせても10格子ほどで極めて狭い範囲に集中していたことがわかる。

ところで、「1時間に100㎜を超えるような猛烈な雨が東京で降ることがあるの」と思われるかもしれない。実は、東京で1時間に100㎜を超えるような猛烈な雨は、数年に1度くらいの頻度で起こっているのです。

東京都の雨量観測所の記録を基にして、1時間雨量が上位の事例を並べてみると表のようになり、その気象要因は、夏場の雷雨によって起こっているのです。

まだまだ、これからが雷雨のシーズンです。
外で行動する際には、空の様子を見て、早めの行動をとるよう心掛けてください。