2014/09/05

線状降雨帯による東京の局地豪雨

平成17年(2005年)9月4日 東京地方では昼過ぎから5日明け方にかけて雷雨となり、特に4日夜遅くには雨が激しさを増した。東京都の観測では、この日の最大1時間雨量は杉並区下井草で112mm、練馬区石神井で109mmなど7か所で100mm以上の猛烈な雨を記録し、総雨量は下井草で263mm、石神井で242mmなど10か所で200mmを超える局所的な豪雨であった(雨量分布図は東京管区気象台資料)。

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この豪雨により、神田川、石神井川、妙正寺川、江古田川、善福寺川、野川、仙川、入間川などが溢水し、杉並区、中野区、練馬区、世田谷区などで床上浸水2453棟、床下浸水3374棟に及ぶ被害が出た。右図は中野区の資料に加筆した浸水被害地域図で、川筋以外のところでも、まとまって浸水した場所があるが、雨水の排水能力を超えたことによる冠水やマンホールからの逆流などもある。

この時の地上天気図を見ると、南大東島付近に動きの遅い大型で非常に強い台風第14号があり北北西に進んでいた。一方、東北地方南部から北陸・山陰地方を通り九州北部に延びる前線が停滞している。こうした天気図では、前線に向かって台風の東側を回る高温で多湿な空気が流入し、前線の活動を活発化させたことによる大雨と説明されるが、関東の一部でしか大雨となっていない。

衛星画像では、台風14号の大きな雲域が日本の南海上を覆い、その北側に前線の雲域が連なっている。この画像は赤外画像で、白い部分は雲頂高度が高い雲と言え、台風の眼を取り巻く一際白く輝いている部分は活発積乱雲群であり海上は暴風雨となっている。西日本にかかる部分も活発な積乱雲を含んでいる。しかし、黄色楕円で囲んだ関東平野は全体に灰色に見え、その中に細長く北北東方向に延びる周囲より白い雲が見えるが、これが東京に激しい雨をもたらした雨雲である。台風とも前線とも関係ない、離れたところにあるように見える。関東の南海上でも、特に活発な雨雲があるわけではないが、赤矢印で示した方向から湿った気流が関東西部の山地や伊豆半島の地形の影響も加わって関東平野で収束が強まったことが考えられる。

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激しい雨を降らせた時の関東地方の雨雲の分布は下の図のように南北に細長く伸びた形をしており、あまり位置が変わっていない。このため、狭い部分で猛烈な雨が降り続くことになった。
このような形状の雨雲を「線状降雨帯」と言い、線状構造を維持するのは、相模湾付近で新たな雨雲が次々と発生し線の伸びている方向に発達しながら流されることによる。この状態が起こっている状況を「バックビルディング現象」という。

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線状降雨帯が形成され最盛期を迎えるまでのレーダーエコーの動きを、動画にしてみた。 全体を見ると関東甲信北部の山地で雨雲が発達しているが、その中で東京から埼玉の平野部で特に発達している雨雲がある。時間経過と共にこの南に小さい雨雲が次々と発生し、発生場所が次第に南に移り相模湾まで達した頃には神奈川県、東京都、埼玉県、茨城県を連ねる線状降雨帯が形成されている。


去る8月20日の広島での大規模土砂災害の発生もこのような線状降雨帯が持続したため、狭い範囲に集中して猛烈な雨が降る豪雨であった。あの事例での広島市安佐北区三入の記録は、1時間101mm、24時間257mmで、これはこの事例の下井草の記録とほぼ同じである。
このことから判るように、広島での雨が特別な降り方ではなく、全国どこででも現れるものであることを理解してほしい。そして、同じような激しさで同じような大雨に遭遇しても、その地の地質や地形等によって、災害の形態は浸水・洪水が主となる場合もあれば、土砂災害が主となる場合もありさまざまである。日頃から、その地がどのような災害の発生しやすい場所か理解しておくことも大切である。