2016/04/22

管理者が抱える問題 「上っ面症候群」

地方自治体の災害対応マネジメントの現場についての意識調査結果を、以前のブログで 紹介したことがあります。

1

災害対策本部長は、目の前の問題を片付けなくてはならないという強いプレッシャーの中で、絶えず仕事をしています。災害対策本部という組織が続く限り、本部長の仕事には終わりがありません。膨大な量の仕事を自分で抱え込む本部長は、じっくり計画を練るよりも、押し寄せてくる情報に対処するだけの管理者になりがちです。
本部長の仕事から手を退き、マクロリーダー的行動に終始する本部長もいます。
仕事の理解が深まらない要因に「何事も急がなければならない。」という本部組織の体質があります。「巧遅よりも拙速を尊ぶ」という格言がありますが、緊急事態対処という場面においては、「仕事の適時性は、完璧性に優先する」とされています。
「ベストな案はいらない。時間に間に合わせろ。」が口癖になっている本部長は、世の中に大勢います。時間に間に合う仕事をするという事は、災害対策本部に限らず、職業人として大変重要な資質です。あらゆる場面において、「仕事を急ぐ」体質が、本部長以下、本部職員の仕事に対する理解の深化を阻害していると思われます。

「どうすれば、災害対策の仕事の理解を深められるのか。」本部長にとって重大な課題です。
私なりの経験から、いくつか処方箋を提示したいと思います。

〈処方箋1〉本部の喧騒から一歩下がった場所に本部長の思考環境を整える。
トップアスリートは、普通の選手より少しだけスローモーションで試合の動きが見えているとよく言われます。そのおかげで、土壇場で相手の裏を掻く事ができるのだと思います。
本部長にも同じ事が云えます。本部が激しい重圧にさらされ、喧噪状態が続いているとき、短時間でも一歩下がって、冷静に物事を観察する事ができれば、対象の動きが、少しだけ、スローモーに見え、慌てずに思慮深い対応ができるようになると思います。
私の経験上、オペレーションルームの近くで、本部の喧騒をいくらか遮断した場所に、本部長のための思考環境を設けることが、大いに役立つと思います。

〈処方箋2〉参謀長役を本部長の傍に置く。
本部長は、地方自治体の首長として、豊かな常識、信念、使命感、倫理観、政治的経験といった資質を基本的に身に着けています。
これらは、重大な意思決定に直面した管理者に求められる総合判断力の基盤となる重要な資質です。一方で、殆どの首長は、災害対応のアマチュアです。アマチュア首長は、判断はできるが、判断のための御膳立てをすることは苦手です。「何を」「いつ」判断するかを判定し、スタッフを指導して判断のための選択肢を準備するのは、プロの仕事です。役割分担を割り切って行う事が、首長の大切な判断であると思います。危機対応のプロを首長の傍らに配置することで、本部長の足りない部分を補い、本部が、将来に対する深い洞察に基づいた災害対策を実行できる可能性が増加します。

〈処方箋3〉重要な時期に、本部長指針を示す。
本部が重大な場面に直面し、激しい重圧に曝されているとき、その場にいる職員は、誰もが本部長の顔を窺います。「何をすべきか」という具体的な指示が欲しいのです。このような場面で、「何を、いつ決定する。」「これからのスタッフ検討で深堀する項目は、コレとコレ」というような指針を出すことは、本部長として大変重要な行為です。
これによりスタッフは、示されたポイントに努力を集中することが出来るようになります。その結果、本部は、適切な時期と場所に対処力を効果的に運用するオペレーションを創造することが可能になるのです。

〈処方箋4〉行動の結果を振り返る。
災害対応は想定外の連続です。想定外の出来事は、後から消化し、じっくり反芻して、一般的なパターンと関連付けて、ほかの出来事と結び付けて考えることによって、次に役立つ経験と呼べるものになります。「行動と振り返り」を結び付けることにより、豊かな経験を生み出します。その経験が、仕事の深みを増し、次の機会に必ず役に立ちます。
ここで考慮しなければならないことは「追体験」です。自分が体験したことを振り返り、その結果を他の自治体に伝える仕組みが重要になります。
逆に言えば、災害を経験した自治体に職員を派遣して「振り返り」を真摯に学ぶ態度が必要です。振り返ることをしない行動は、無思慮な態度を生み、「上っ面症候群」の解消には、決して繋がりません。

以上