2014/08/06

既存顧客という幻想

弊社もそうですが、企業が年度毎に立てる事業計画(売上と支出、利益、投資の予算計画)は、その年度の企業(組織)の行動指針として大変重要なものです。しかしながら、その予算計画の内容は、現在取引のあるユーザを「既存顧客」と表現して、過去の取引実績を基に作成している企業がほとんどではないでしょうか。

「既存顧客」とは、言葉通りに受け止めれば「既に取引をしている固定のお客様」という意味なのでしょうが、市場が変化している現在、それは単に売り手側の視点で都合よく解釈しているだけのことではないか…と私は思っています。

昨今は、携帯電話や液晶テレビなど市場に出回っている実に多くの商品やサービスで標準化が極度に進んだ上に、インターネットの検索エンジン等のメディアの発達により、メーカやサービス提供者(供給者)側からの一方通行的な情報提供だけではなく、買い手側が購入の検討・判断を行うために必要な情報を、必要な時に、容易に入手することができるようになりました。その結果、供給者側にとってみればお客様の“囲い込み”が非常に困難な時代になってきています。

自動車産業や電機産業などでも以前はグループ企業優先のいわゆる“系列取引”が主流でしたが、現在ではグローバルな戦いの中で企業として生き残るために、“いかにコスト競争に勝てるか”ということが経営上のメインの課題となり、取引先の選別がシビアに行われるようになっています。

私が以前身を置いていたITの業界も同様です。メーカ固有のシステム(汎用機やオフコン)が主流の時代には、他メーカへのソフトウェア資産の継承は非常に困難であり、お客様が取引先を変更することにはかなりのリスクが伴いました。

実際に、その当時、新規開拓のためこれまでまったくお取引のない企業を訪問すると、「折角ですが、弊社は○○社と取引していますから…」と、具体的な話をするまでもなく、にべなく断られてしまうようなことが多々ありました。

しかし、現在では当時のようなことを言われる企業はまずありません。クラウドやSaaSと呼ばれるものが主流となり、オープンシステムと言ってソフトウェア資産の継承が容易となった現在では、お客様が取引先あるいはメーカを変更するリスクが大幅に減少してきています。

弊社が身を置く気象情報の業界においてもまったく同様ではないでしょうか。

気象の予報が民間企業に開放されて既に21年という長い年月が経過しました。当初は数少なかった民間気象情報会社も今や幾つも出てきて、乱立気味、狭い市場(マーケット)は既に飽和状態にあるとも言えます。

この状況をお客様の側から見ると、選択肢がいっぱい増えたと言えるのではないでしょうか。しかも予報認可を受けた民間気象情報会社と言っても気象情報は基本的に気象庁様の数値予報データに基づいていて、そんな情報をただ単に再配信しているだけなら、どこの民間気象情報会社から情報を購入しても大差はありません。だったら価格の安いところから購入すればいいだけのことです。この21年間でお客様はそういうことを十分に理解してきました(完全にバレちゃいました)。

つまり、お客様自身、自社が生き残るために既存の取引に左右されない経営判断をしており、「メリットがない」と判断すればいつでも取引先を変更し、メリットをもたらす企業を取引先として選択する…ということは当然な時代になってきているということなのです。

お客様の側がそのような状況であるにもかかわらず、売り手側は既存顧客が今後も継続的に自社と取引を行ってくれることを前提に予算を組み立てているのが悲しい現状です。いったいそのような予算数字にどれだけの説得力があるのでしょうか?

既存顧客の取引実績をあてにした計画、また、“御用聞き”のように定期的にお客様を訪問してあくまでもお客様主導で言われるままの提案を行う…というような営業スタイルを続けていては、企業としての未来は間違いなく先細りです。ましてや、お客様のところに顔も出さず、ただ待っているだけのスタイルなど、もってのほかです。

売り手側は既存顧客に対しても、常に“新規開拓のような意識や体制”で立ち向かわなければなりません。

・お客様の課題を聞く適任者は誰なのか?
・課題を聞き出すために必要なスキルは何か?
・課題解決策をどのように立てるのか?
・低コストの戦いにいかに勝ち残るか?

これらの項目以外にも、既存顧客も新規開拓顧客と同様と捉え、そのためのマネジメント、人財育成、組織連携などをスピーディに具現化する必要があると考えます。

なぜ他社に顧客をとられたのか?……その答えは実に簡単なことです。それは、“売り手側の意識”と“買い手側の意識”の大きな“ズレ”以外のなにものでもありません。お客様の側からすると、もうこれ以上、取引をするメリットがない…と単純に判断を下された結果だということです。

弊社も決して例外ではありません。常に『既存顧客とは単なる売り手側の幻想に過ぎない』…という意識を持って常に改革を行わなければ、取り返しのつかない結果になる…と私は心から危惧しています。

そういう意味でも、弊社は頑張ります!


【追記】
過日、本屋でふと目に留まり、購入して読んだ本に『売る力』(鈴木敏文著 文春新書発刊)があります。鈴木敏文さんといえば、経営者であれば知らない人はいないセブン&アイ・ホールディングスの会長兼CEOであり、現在の「セブン・イレブン」の創業者であることはあまりにも有名で、雲の上の存在のような方です。

以下は、私がこの鈴木敏文さんの著書『売る力』を読んで共感した部分を抜粋してみたものです。

◆「売る力」とは?

売る力とは、お客様から見て「買ってよかった」と思ってもらえる力のこと。「お客様の立場」を徹底的に追求した結果、「セブンイレブン」は全店舗平均67万円/日(2億4500万円/年)という実績を挙げ、この数字は同業他社より12万円/日以上上回っているのだそうです。


◆大切なのは、変わらない「視点」と新しい「ネタ」である

この本の中で鈴木さんは、多くの著名人と対談していらっしゃいます。そのお一人、対談相手の秋元康さんは、変わらない「視点」と新しい「ネタ」を換言して、「漢方薬」と「抗生物質」に例えています。要するに、新しいものを生み出すためには、長期間処方して体質改善するための「漢方薬」と即効性のある「抗生物質」をミックスすることで、結果的にヒット商品が生まれるのだ…と。

◆モノが豊富な時代に人は何を求めているのか?

満腹な人は、自分の好きなもの、そして目新しいものから先に手を出す傾向にあります(それしか食べない)。昔のように大好物の「エビフライ」は、最後にとっておこう(私だけか?)という発想はもう通用しないのだそうです。そのために必要なのは、お客様に新しい価値観を感じてもらえるように、常に「お客様の立場」でモノの提供を考えることであると鈴木さんは強調しています。


◆「予定調和」を壊す

「ココアとバターと文庫本」……一見、何の関係もなさそうなモノであるが、秋元康さんに言わせれば、「冬の夜長には、バターの入ったココアを飲みながら、片手には文庫本」というイメージが、特段目新しいものではない3つのモノに新しい価値を創造させるのだそうです。これまでにない結びつきを提案や提供することを「予定調和を壊す」というそうで、鈴木さんも常にこの「予定調和を壊し」続けてきたお一人のようです。「予定調和を壊す」ことこそ、「売る力」の本質であると鈴木さんはおっしゃっています。


◆「上質さ」と「手軽さ」の両立

コンビニの変わらない「視点」とは、「近くて便利」という「手軽さ」ということです。そして、この「手軽さ」に加えて、新しい「ネタ」がないとヒット商品は生まれないのだそうです。 「セブンイレブン」はその新しい「ネタ」として「上質さ」に挑戦しました。本来、両立しない関係にある「上質さ」と「手軽さ」とを追求した結果、「セブンプレミアム」という商品を開発しました。この「セブンプレミアム」では、PB(プライベート・ブランド)の持つ低価格という「手軽さ」に、NB(ナショナル・ブランド)に負けない「上質さ」を追求した商品作りをしたそうです。
具体的には、おでんつゆ・お弁当・コーヒー豆に代表される厳選された「材料」、専用コーヒーサーバーに対する「デザイン」、自店舗周辺地域ごとに専用工場を自ら設置する「製造」と、あらゆる面に対する「質」のこだわりが人気の秘密だとのこと。


◆「真の競争相手」は、「絶えず変化する顧客ニーズ」である

この言葉は、鈴木語録の代表格だと私は思います。「競争」とは同業他社との成績比較に目が行きがちであるが、その競争自体にお客様の満足が得られなければ、単なる自己満足に過ぎないと鈴木さんは言い切ります。結局、他社比較はお互いが「ものまね」に陥り、どちらの商品もいずれは魅力がなくなるということです。
実は、競争相手として常に意識していなければいけないのは、「同業種」ではなく「異業種」であると鈴木さんはおっしゃいます。コンビニの当面の競争相手は、お弁当なら「レストラン」、セブンカフェのコーヒーなら「コーヒーショップ」、セブン銀行なら「銀行」であり、これを「異業種間競争」と呼びます。真の競争相手は決して同業者であるローソンやファミリーマートではないと鈴木さんはおっしゃっています。
また、真の顧客ニーズとは、顧客からのアンケートからでは絶対に出てこない。真の顧客ニーズとは、顧客の潜在的なニーズに気づくことであるそうです。「そうそう、こんなのが欲しかったのよ」と言わせなければ、顧客ニーズを満たしたことにならない…とも。


鈴木敏文さんは次のようにおっしゃっています。常に「もう一人の自分」から「自分」を見る視点を持つことが、結局、「お客様の立場にたった気づき」を与えてくれるのだと。それを徹底的に貫き通したからこそ、売上高9兆円の総合流通業のトップでいられるのだと思います。この「売上高」の大きさは、その気持ちに共感してくれたお客様の集合体なのだ…と、私は理解しました。

以上、私がここに書いたこと、これってコンビニだけでなく、我々気象情報業界にだって十分に当てはまることではないかと私は考えています。特に、「真の競争相手」は、「絶えず変化する顧客ニーズ」である …これは我々も常 に意識しておかないといけない名言ですね。

執筆者

株式会社ハレックス代表取締役社長 越智正昭

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越智正昭

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