2014/11/14

わたらせ渓谷紀行(その2)

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桐生駅からは『わたらせ渓谷鉄道わたらせ渓谷線』という鉄道路線が延びています。この鉄道は元の国鉄(JR)足尾線を第3セクター化した路線で、JR両毛線の桐生駅から栃木県足尾町の間藤駅までを結んでいます。

『わたらせ渓谷鐵道』、略称が『わ鐵』。全線非電化で、路線名のとおり、利根川の支流である渡良瀬川上流の渓谷の谷筋を遡るようにワンマン運転のディーゼルカーが1両、あるいは2両の短い編成で走ります。眺めも素晴らしく渓谷美を堪能できることから、初夏の新緑と秋の紅葉といった観光シーズンにはトロッコ列車なども運転されています。


沿線風景1

沿線風景2



わたらせ渓谷線の終点、渡良瀬川の最上流部の足尾近辺にかつてあったのが足尾銅山です。この『わたらせ渓谷鐵道』、元々は足尾銅山から産出される鉱石輸送のために足尾鉄道が敷設した路線で、全線の開通は1914年(大正3年)。鉱石輸送は国策上重要であったことから1913年には全線が国によって借上げられ、1918年には国によって買収されて国有化されました。

最盛期には日本国内の銅産出量の4割を占めた足尾銅山ですが、資源の枯渇により1973年に閉山され、その後も輸入鉱石の製錬が継続されたものの、1986年にはそれも縮小され、足尾線による鉱石、精錬用の硫酸の輸送も廃止されました。銅山の衰退と歩調を合わせるように、足尾線の輸送量も減少を続け、1989年に第3セクターである『わたらせ渓谷鐵道』に転換されました。

足尾銅山と言えば、歴史的に有名な「足尾鉱毒事件」。この鉱毒事件の影響によりいまだ足尾付近には禿山が連なり、異様な景観を呈していて、その光景を目当てに銅山観光で訪れる観光客も多いと聞きます。また、日光側から細尾峠を経て足尾を訪れるハイカーも多く、『わたらせ渓谷鐵道わたらせ渓谷線』は北関東を代表する観光鉄道路線の1つとなっています。

ちなみに、渡良瀬川もかつては足尾銅山の鉱毒事件の影響で「死の川」と化していましたが、現在では、国が主体となって行った周辺の山々への植林活動をはじめ様々な努力によりかつての自然を取り戻してきています。

そうそう、国鉄足尾線と言えば、“鉄ちゃん”にとって忘れてならないのが宮脇俊三さん。“鉄ちゃん”、特に“乗り鉄”の皆さんが神と崇める紀行作家の宮脇俊三さんが国鉄全線完全乗覇を達成したのが、この足尾線の終点間藤駅で、1977年5月28日のことでした。その意味では足尾線の後を継ぐ『わたらせ渓谷鐵道わたらせ渓谷線』は“乗り鉄”の皆さんにとっては“聖地”のようなところになっています。

で、私が桐生駅に着いて次列車案内のLED表示を見て、愕然としちゃいました。次の間藤行きの列車は13時34分の発車。時計を見ると、今、12時30分! なんと次の列車まで1時間近くもあります。急いで駅の時刻表を確認すると12時ちょうどに間藤行きが出たところでした。桐生から終点間藤までの所要時間は約1時間半。12時台の列車に乗ることができたら、終点間藤で同じ列車で折り返してくると16時前後に桐生に戻ってくることができ、それからさいたま市に帰ると19時前後には到着する。それならば1週間ぶりに孫の顔も見に行ける…と勝手に思って内心ほくそ笑んでいたのですが、列車の案内表示がその甘い考えを脆くも打ち砕いてしまいました。

日中の運転間隔が1時間半以上!(@_@) これは想定外でした。都会の電車の感覚でいるとダメだということを改めて思い知りました。事前に時刻表を見て確認しておけば(もう一本前の両毛線の電車に乗れる時間に自宅を出ておけば)、なにも問題はなかったことなのですが…。無計画の行き当たりばったりってダメですね(^^;

わたらせ渓谷線の全線乗覇は諦めたものの、次の13時34分発の列車で行けるところまで行って、折り返しの列車に乗り換えて16時前後に桐生駅まで戻ってくる…と作戦を切り替えて、改めて時刻表を眺めてみたところ、ちょうどいい戻りの列車がありました。次の13時34分発の列車で途中の神戸(こうど)到着が14時31分。この神戸では間藤から桐生行きの列車がスレ違いのために待っていて、その発車時刻は1分後の14時32分。際どい乗り換えになりますがこれに乗り換えることができたなら、桐生到着は15時27分。すぐに両毛線の高崎行き電車に乗り換えることができるので、うまくいけば18時前後には大宮に到着できます。この時間であれば、孫娘に逢いに行くことも可能です。

ちなみに、神戸発14時32分の列車は、12時00分桐生発間藤行きの列車の折り返しの列車で、12時00分発の列車に乗ることができたなら、私の当初の甘い計画はなんなく達成できたわけです。13時34分桐生発の列車で終点の間藤までは行って、折り返してくると、桐生到着が17時04分。これならば遅すぎて、孫に逢うのは諦めないといけません。今は趣味よりも“孫”優先です(^^)d

次の列車まで1時間も時間があるので、駅前の大衆食堂で昼食。さすがに地方都市。休日の昼間の駅前は“定休”の札を下げた店が多く、唯一見つけた店でした。大衆食堂でヒレカツ定食を食べて、コーヒーを飲んで…、なんとか時間を潰し、わたらせ渓谷鐵道の列車が発着する1番線ホームに上がりました。

わたらせ渓谷鐵道わたらせ渓谷線は桐生駅が始発駅です。桐生駅はJR両毛線と共用し、業務はJR東日本に委託しているようです。わたらせ渓谷鐵道の列車は1番線から発車します。私がホームに上がった時、既に1番線には車体全体を濃いマルーン色(こげ茶色)1色に塗装された2両編成のディーゼルカーが入線して、発車の時刻を待っていました。

わたらせ渓谷鐵道の一般列車は全て「わ89」と呼ばれるディーゼルカーで運行されています。この「わ89」、JRのローカル線で使用されているディーゼルカーより一回り小型で、“レールバス”と呼ばれている車両です。線路の上を鉄の車輪で走行する鉄道車両ではありますが、ディーゼルエンジンをはじめ車体内部で使われている部品はバスのものを多く流用しており、製造コストや維持管理コストの削減を図っています。多くの第3セクター鉄道がこの“レールバス”を導入しています。

レールバスはふつうのバスと異なり、車体の両端に運転席があり、単行(1両のみ)での運行が可能になっていますが、『わたらせ渓谷鐵道』では通常2両を連結しての使用が多いようです。2両と言ってもワンマン運転なので“後乗り、前降り”が基本です。2両編成の後ろ側の車両の後ろ側のドアから乗り込みます。せっかくなのでかぶり付きの“鉄ちゃんシート”に座ろうと前の車両に進んでみると、このレールバス、同じ「わ89形」であっても車内の仕様がまるで違っていることに気付きました。「わ89」の100番代の車両はトイレ・ボックス席なし、200番代の車両はトイレ・ボックス席付きの車両です。で、私が乗った編成は前の車両が100番代、後ろの車両が200番代でした。「う~~ん…」と悩み、“鉄ちゃんシート”を諦め、私は後ろの200番代の車両に乗ることにしました。景色を楽しむにはボックス席の窓側、進行方向に向かって座るに限りますから(^^)d

(帰ってから調べたことですが、わたらせ渓谷鐵道の「わ89形」にはこのほかに300番代と310番代の車両があり、こちらはやや大型でレールバスと言うよりは一般の鉄道車両に近いタイプになっています。このうちの特に300番代の車両はイベント対応列車になっています。さらに、トロッコ列車とお座敷車両が在籍し、春~秋はトロッコ列車、冬はお座敷車両が運転されています)

運転士に左右どちらの席が景色が楽しめるのかを確認したところ、途中の神戸駅までは進行方向右側に渡良瀬川の渓谷が見え、神戸駅を過ぎたあたりで渡良瀬川を渡るので、今度は渡良瀬川は進行方向左側に変わる…と言うことだったので、神戸駅折り返しを考えている私はしっかり進行方向右窓側の座席を確保。ペットボトルのお茶と好物のピーナッツも買い込み、準備万端で出発の時刻を待ちます。

そうそう、運転士に神戸駅で折り返しの列車に乗り換えられるか?…と確認したところ、

「神戸駅では同じホームの向かい側ではなく、跨線橋を渡って別のホームでの乗り換えになるので、僅か1分の乗り換え時間では、お客さんが相当しんどい思いをしないといけませんよ。おまけに今日は途中で団体観光客が多く乗車し、神戸で降りる予定なので、ダイヤが遅れるし、神戸での下車に時間がかかると予想されるから、神戸での乗り換えはまず無理と考えられたほうが無難です。それよりも神戸の1駅手前の小中。ここでこの列車を降りられて、小中で折り返しの列車を待ち受けるようにすると確実です。絶対に乗り換えられます(^^)d」

という極めて適切なアドバイスをいただいたので、目的地を小中駅に変更することにしました。

13時34分、定刻に桐生駅を出発。発車のベルも鳴らない静かな出発です。次の下新田駅の手前までは、JR両毛線と線路を共用しています。桐生を発車するとすぐに渡良瀬川を鉄橋で渡ります。列車は、このあと、この渡良瀬川に沿って上流へと遡って進んでいくわけです。

下新田駅の手前で両毛線から分岐し、足尾方面に向かいます。分岐して最初の駅は下新田駅。この駅はJR東日本の訓練施設や引き込み線などがあり、運転訓練で使うのでしょうステンレス製車体の211系電車が何編成も停まっていました。

下新田駅を発車し、JR両毛線から完全に離れてしまうと、今度は左側から東武鉄道の桐生線と合流し、相老(あいおい)駅に到着です。この東武鉄道の相老駅は東京の浅草から直通する特急「りょうもう号」の停車駅であり、わたらせ渓谷線との乗り換え駅でもあるため、乗り換え客が多いようです。また駅の周辺には工場が立ち並んでいて、通勤で利用する乗客も多そうです。ローカル私鉄の駅にしてはなかなか立派な駅です。

相老駅より先は国道にほぼ沿う形で住宅地を通るのですが、ここでまた何かの線路のガード下を通ります。東武鉄道の桐生線か? まさか…? 実はこの線路は上毛電鉄上毛線。次の運動公園駅が接続駅なのですが、同じ構内に上毛電鉄の駅があるわけではなく、運動公園駅から徒歩5分ほどのところに上毛電鉄の桐生球場前駅があって、そこで乗り換えが可能との案内表示が出ていました。

上毛電鉄上毛線は群馬県赤城山の麓を県都・前橋市の中央前橋駅から群馬県の東の端にある桐生市の西桐生駅までを結んでいる私鉄路線です。前橋から桐生を結ぶとなるとJR両毛線と競合することになりますが、JR両毛線が途中の中核都市・伊勢崎に立ち寄るべく三角形の2辺を進むように大きく迂回するルートを辿るのとは異なり、上毛線のほうはJR両毛線の遥か北側、赤城山の麓をまっすぐにショートカットするような感じで路線を延ばしています。ショートカットしていると言ってもさほど速いわけではなく、途中に大きな街があるわけでもないので、経営はかなり苦しいようです。最近は京王井の頭線をリタイヤした3000系電車が2両の短い編成になって関東平野の北のはずれ、赤城山麓の長閑な光景の中をトコトコ走っています。(ここもなかなか魅力的な鉄道路線です)

運動公園駅を出てしばらく走ると大間々(おおまま)駅に到着します。大間々駅はわたらせ渓谷鐵道の中心駅で、車両基地があります。また、よく見ると旧貨物ホームを転用したトロッコ列車専用乗り場があり、わたらせ渓谷観光列車はこの大間々から出るようです。さらには、この専用乗り場だけでなく、貨車の留置設備や機関車の機回し(機関車の位置を列車の先頭から最後尾に移動させて逆方向に走行できるようにすること)設備を備えているなど、ローカル第3セクター鉄道の途中駅とは思えない立派な駅です。足尾銅山が全盛期の頃は、さぞ賑わった駅だったんだろうな…と、当時の様子が十分に偲ばれる駅です。この大間々駅も東武鉄道桐生線と上毛電鉄上毛線との接続駅です。先の運動公園駅と同じく、駅舎は同じではなく、少し離れたところに別の駅舎があって、駅名は「赤城駅」。東京浅草発の東武鉄道の特急「りょうもう号」はこの赤城駅が終点です。

執筆者

株式会社ハレックス前代表取締役社長 越智正昭

株式会社ハレックス
前代表取締役社長

越智正昭

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