2015/09/10

栃木・茨城などで記録的大雨

昨日(9月9日)から今日(10日)にかけて、台風18号から変わった温帯低気圧の影響で、栃木、茨城両県では記録的な大雨となり、気象庁は10日未明に、両県に対し、「大雨に関する特別警報」を発表しました。この「特別警報」は、大雨、暴風、高潮、大雪、津波、噴火、地震などで数十年に一度しかなかったり、危険度が非常に高かったりするような災害の発生が予想され、「ただちに命を守る行動が必要」と気象庁が判断した時に出される警報です。特別警報を受けた都道府県は市町村へ通知し、市町村は住民に知らせることが気象業務法で義務づけられています。「特別警報」は東日本大震災で大津波警報が迅速な避難に結びつかなかった反省などから2013年8月に運用が始まった警報なので。栃木県や茨城県といった北関東地方に対して「特別警報」が発表されたのは、おそらく今回が初めてのことだったのではないでしょうか。

報道によると、栃木県鹿沼市では川に面した住宅2棟が流されたほか、土砂崩れが起き、行方不明者1人の救出が続いているのだそうです。日光市でも斜面の土砂が崩れ、巻き込まれた男性2人のうち1人が意識不明の重体。茨城県常総市や古河市では河川の越水や堤防の決壊が起き、茨城県は自衛隊に災害派遣を要請しました。

10日午前8時半現在の総務省消防庁のまとめによりますと、茨城、栃木、千葉の各県で64棟が床上浸水し、茨城、栃木、千葉などで300棟近くが床下浸水しました。また、茨城、栃木、千葉県で約5万3千人に避難指示が出され、全国で約42万5千世帯、約92万6千人に対して避難勧告が出されました。

その後もさらに被害が拡大しました。栃木県鹿沼市日吉町では10日未明、住宅の裏山の斜面が崩れ、女性1人が住宅内に取り残されました。茨城県内を流れる鬼怒川は常総市や筑西市の数カ所で堤防から川の水があふれる越水が発生。福島県南会津町では2ヶ所で橋が橋脚ごと流されたほか、同町舘岩地域で土砂崩れがあり、313世帯833人の住民が孤立していたままになっています。

気象庁によりますと、関東地方から東北地方南部にかけて積乱雲が断続的にかかり、今後も10日の夕方まで局地的に猛烈な雨が降るとみられています。これまでの雨量が、栃木県では600ミリ、茨城県で250ミリを超え、記録的な大雨となっているところもあります。10日午前10時20分までの24時間降水量が、日光市五十里で534.5ミリを観測したほか、鹿沼市で432ミリ、栃木市で355ミリと栃木県内の複数の地点で観測史上1位の記録を更新しました。下図は10日14時00分までの栃木県鹿沼市鳴蟲山付近での24時間累積雨量を示しています。9日10時20分から14時00分までの24時間累積雨量のデータとは異なり、若干少なくなっていますが、それでも累積雨量は400ミリ近くになっていることが分かります。

2015年9月10日の降水ナウキャスト


栃木県鹿沼市鳴蟲山付近の9.9.14~9.10.14までの累積雨量


栃木、茨城両県では鉄道の運休や高速道路の閉鎖も相次いでいて、JR東日本によると午前11時半現在、日光線、烏山線、水戸線などの全区間と山形新幹線の福島~新庄駅間の上下線で運転を見合わせています。このほか、東武鉄道では宇都宮線、鬼怒川線、佐野線の全区間、東武スカイツリーラインと日光線の一部区間でも運転を見合わせています。関東鉄道常総線でも水海道~下妻駅間で線路が冠水し、運転を見合わせています。NEXCO東日本によると、午後0時半現在、栃木県や茨城県を中心に東北自動車道の宇都宮~佐野藤岡、北関東自動車道の佐野田沼~桜川筑西、圏央道の茂原長南~木更津JCTの両方向で通行止めとなっています。栃木県内の栃木~鹿沼間ではのり面が崩れているという情報もあります。

これ以上大きな被害にならないことを祈るばかりです。

今回の栃木県や茨城両県などでの記録的な大雨の原因について、気象庁は次のような原因分析を行っています。

『記録的大雨 2つの台風の影響か』

栃木県や茨城県などで記録的な大雨になったことについて、気象庁は台風18号から変わった低気圧に向かう暖かく湿った空気と日本の東の海上にある台風17号の周辺をまわる風が関東付近で合流し、帯状に発達した雨雲が同じような場所にかかり続けたことが原因とみられるとしています。

気象庁によりますと、日本海には台風18号から変わった温帯低気圧があり、日本の東の海上には、台風17号があって北西へ進んでいます。

この日本海にある低気圧に向かう暖かく湿った空気と台風17号の周辺をまわる東よりの風が関東付近で合流したことで、帯状に発達した雨雲が栃木県や茨城県などの同じような場所にかかり続けたことが今回の記録的な大雨の原因とみられるということです。

日本海の低気圧と台風17号は、北の高気圧に阻まれて動きが遅くなっているため、今後も同じような場所に湿った空気が流れ込み、発達した雨雲がかかるおそれがあります。

気象庁は、特別警報が出ている地域では、川の氾濫や土砂災害、浸水に最大級の警戒を呼びかけるとともに、特別警報が出ていない東北や関東のほかの地域でも厳重な警戒が必要だとしています。
(NHKニュース&スポーツ 09/10 13:07)



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ここにします図は弊社ハレックス独自の気象ビッグデータ可視化ツール『WeatherView2』で可視化した日本近海における風の流れです。図①を見ると、まさに「台風18号から変わった低気圧に向かう暖かく湿った空気と、日本の東の海上にある台風17号の周辺をまわる風が関東付近で合流し…」というのがお分かりいただけると思います。図②はそれをもう少し拡大した図です。見事に茨城県から栃木県にかけてが強い風の通り道になっていることがお分かりいただけると思います。

この気圧配置の状態がしばらく続いている原因を説明したものが図③です。日本の北には強いオホーツク海高気圧があって、さらに中国大陸には同じく強い大陸高気圧が居座っています。この両方の高気圧から流れてくる強い風がせめぎ合っていて、台風18号崩れの温帯低気圧も台風17号もそのせめぎ合いの中で動きが取れなくなっていることが見て取れます。「北の高気圧に阻まれて動きが遅くなっているため」ということです。

さらに500hPa(高度5,500メートル付近)を流れる偏西風の蛇行の状況を表したのが図④です。これを見ると、南に大きく蛇行した偏西風が台風18号崩れの温帯低気圧と台風17号の間、ちょうど栃木県や茨城県を含む関東地方上空を通り過ぎているのが分かります。これも茨城県から栃木県にかけてが強い風の通り道になっていることの原因になっていて、また台風17号はこの現在のところ偏西風の流れからまだ少し遠いところに位置しているので、その偏西風の流れに乗れないで停滞しているというわけです。

まさに「The answer, my friend, is blowin’ in the wind.(友よ、答えは風の流れの中にある)」です。