2015/12/18

COP21、「パリ協定」採択し閉幕

次のような報道が流れていました。


『COP21、「パリ協定」採択し閉幕』

フランスの首都パリの郊外で先月30日から開催されていた地球温暖化対策を話し合う国連の気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)は、日本時間の13日午前3時半ごろ、発展途上国を含むすべての国が協調して温室効果ガスの削減に取り組む新たな地球温暖化対策の国際的な枠組み、「パリ協定」を採択し閉幕しました。

「パリ協定」は法的な拘束力のある2020年以降の国際的な枠組みで、気温上昇を産業革命前に比べて1.5℃に抑えるよう努力するとし、世界全体の温室効果ガスの排出量を今世紀後半には実質的にゼロにするよう削減に取り組むとしています。また、途上国も含めたすべての国が5年ごとに温室効果ガスの削減目標を国連に提出し対策を進めることが義務づけられ、削減目標は提出するたびに改善されるべきだとしています。さらに途上国への資金支援については、経済力がある新興国なども自主的に資金を拠出できるとしたほか、先進国は資金支援の状況を2年に1度、報告する義務が盛り込まれました。

温暖化対策の国際的な枠組みとしては、先進国だけに温室効果ガスの排出削減を義務づけた京都議定書以来18年ぶりで、途上国を含むすべての国が協調して削減に取り組む初めての枠組みとなり、世界の温暖化対策は歴史的な転換点を迎えました。 (NHKニュース&スポーツ 12/13 10:23)



今回のCOP21、大幅に会期を延長して熱心な議論が繰り広げられたようで、それ自体は大変に結構なことだと思っています。ただ、COP21で議論されたことはあくまでも「気候変動(Climate Change)」についてであって、その気候変動とは「人為的・自然起源に関わらないすべての気候の時間的変動」と定義されています。主催者である国連の気候変動枠組み条約事務局の正式名称はUNFCCC(United Nations Framework Convention on Climate Change)、あくまでも議論の主題は「Climate Change(気候変動)」なのです。地球温暖化(global warming)はその一つの要素に過ぎません。ちなみに、COPとは締結国会議(Conference of the Parties)のことで、COP21とは第21回の締結国会議という意味です。

日本では「気候変動」と言うと「地球温暖化」ばかりがクローズアップされている傾向が強いのですが、繰り返しになりますが、それは「気候変動」のほんの一つの側面に過ぎません。日本では気候変動というと「地球温暖化」、それも人為的原因によるCO2排出量の増加を原因とした「地球温暖化」ばかりが語られているようなところがありますが、それって実は日本だけのことで、海外では地球規模で大きな、そして様々な「気候変動」が起きていると捉えるのが一般的です。そして、それが「グローバルの視点」と言うものになっています。また、対応策にしても、日本では「CO2排出量の抑制策」ばかり語られるのが一般的ですが、米国はじめ諸外国では「気候変動全般への適応策」が、国にしても自治体にしても企業にしても、危機管理の重要なテーマの1つとして語られているのが一般的です。このあたり、決定的に異なります。

なので、今回のCOP21の成果に関しては、単に日本のマスコミの報道を鵜呑みにするのではなくて、「パリ協定」の全文を読んでみないと分からないので、ここではこれ以上のコメントは避けさせていただきます。

ただ、気候変動と緊迫した国際情勢、この両者には深い相関関係があると私は思っています。

今回のCOP21の開催地であるフランスのパリと言えば、さる11月13日に130名を超える犠牲者を出す同時多発テロが起きたばかりです。その報復として、現在フランス空軍は過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」が首都と称しているシリア北部の都市ラッカに対して空爆を繰り返し行っています。また、同じくシリアに空爆に向かっていたロシア空軍の爆撃機がトルコ空軍の戦闘機に撃墜されたことを受けて、ロシアがトルコに対する経済制裁を決めるなど、現在、両国間の関係が極めて緊張した状況に陥っています。こうした緊迫した国際情勢の中、さらにはそれによる厳戒態勢が続く中で、同時多発テロ後初めて、それも同時多発テロが起きたフランスのパリで世界各国の首脳約150人が一堂に会する大きな国際会議が開催されたことに、大きな意味があるように私は思います。

報道によりますと、フランス政府は同時テロ発生後、全土に警官と兵士計約12万人を動員。今回の会議のため、新たに警官と憲兵隊を2,800人、国境周辺にも8,000人を配置し、24時間態勢で警戒したのだそうです。欧州諸国間で廃止されていた入国審査も復活していたそうで、多くの旅行者が入国を拒否されたりしたようです。初日に行われた首脳会議には、日本の安倍晋三首相やオバマ米大統領、中国の習近平国家主席ら各国首脳が集結し、その場で議長国フランスのオランド大統領は「自由の尊重と過激思想と戦う意志」を示しました。このように、一連の会議では、異常気象の原因と指摘される温暖化問題を協議するとともに、テロ対策での国際的連携を探る場にもなったようです。

日本のマスコミはほとんど報道しないのですが、シリアでは2009年以降、気候変動を原因とした壊滅的とも言える深刻な干ばつが続いているのです。一説には、この干ばつによって農地と家畜の大半が失われ、農村部から150万人以上の人々が食料や経済的安定を求めて都市部に押し寄せました。この干ばつと資源不足が、長期にわたる大きな政情不安(内戦)を引き起こしたと言われています。

シリアは今でこそ中東のアラブ諸国の一つとして、トルコ、レバノン、ヨルダン、イラクに囲まれた内陸国家であすが、世界史上のシリアは、それら周辺諸国を含む広大な地域を意味していました。すなわち、シリアという地名は、世界史上での範囲と、現在の国家としての範囲とが異なるわけです。現在の国家としてのシリアは、東地中海岸の北部から内陸のユーフラテス川流域いたる地域に位置する小国であり、中東のアラブ諸国のひとつですが、現在の国境線は、第一次世界大戦後にオスマン帝国領をイギリスとフランスが分割して委任統治領としたときに線引きされて縮小された領域なんです。いわば、両国の都合のいいように画定したものであって、自然の地形や現実の民族や宗教、文化的伝統、経済関係などを無視した、「人為的に線引き」した国境あり、実際にそこに住んでいた人々の預かり知らぬものでした。現在のシリア、イラク、レバノン、ヨルダン、そしてイスラエルなどはいずれもそのような西欧列強によって定められた国境線を強いられています。これはアフリカ諸国でも同様であり、帝国主義時代の負の遺産であると言わなければなりません。

かつてのシリアはメソポタミア文明から帝政ローマの時代にかけて、いわゆる「肥沃な三日月地帯」の一角を占め、小麦や大麦と言った穀物の生産が豊かで、かつ南に隣接するパレスチナとともに、メソポタミア文明とエジプト文明の双方に影響がおよび、東地中海世界とも結びついたオリエント世界の十字路の役割を果たしてきました。現在のシリアも同様で、これまで砂漠地帯の多い中東アラブ諸国の中にあって、貴重な食糧供給減の役割を担ってきました。その食糧供給源であるシリアが気候変動を原因とした深刻な干ばつに襲われたわけです。

これが2009年のこと。干ばつの影響は単にシリア一国にとどまらず、中東アラブ地域全域に広がります。そりゃあそうです。人間食料がないと生きていけません。人々は生きるために限られた食料を奪い合い、各地で政情不安な状態になり、それをきっかけとして各国で前例のないほど大規模な反政府デモが頻発します。2010年12月18日にはチュニジアで「ジャスミン革命」が起こり、大統領がサウジアラビアに亡命したことから23年間続いた政権が崩壊しました。この流れはチュニジアだけにとどまらず、その後、エジプトなど他のアラブ諸国へも広がり、各国で長期独裁政権に対する国民の不満と結びつき、数々の政変や政治改革を引き起こしました。いわゆる「アラブの春」と呼ばれるものです。一方で、2012年に入ると政権の打倒が実現したエジプトやリビアでも国内の対立や衝突が起きるなど民主化に綻びが見られ始めました。また、遅れて反政府デモが盛り上がりを見せたシリアでは泥沼の内戦状態に突入し、国内のスンナ派とシーア派の対立やアルカイダ系の介入などによる火種が周辺国にも影響を及す恐れが懸念されるようになりました。そしてついに2014年には、元アルカイダ系のイスラム過激派組織「ISIL」がシリアとイラクの国境をまたぎ台頭。2015年には世界的な難民問題が勃発。これにより宗派の対立をさらに激化させ、地域での人権問題を悪化させるなど、地域情勢、国際情勢は極めて深刻な事態に陥っています。

この地域は、世界の原油・天然ガスの産出・埋蔵量の多くを持つことから、日本ではどうしてもそれら地下資源の利権の奪い合いのように捉えられているようなところがありますが、ことはそんなに単純なものではないと私は思っています。そこに気候変動による深刻な食糧問題が絡むからです。今回のCOP21が予定された会期を大幅に延長して開催されたことの背景には、こういうことがあったのではないか…と私は想像しています。

ちなみに、この地域の雨量は今世紀中旬までに最高で50%減るとの予測もあります。もしそうなると、さらに多くの地元住民の暮らしが低迷し、慢性的な飢餓のリスクが劇的に高くなり、事態はさらに深刻になると思われます。

執筆者

株式会社ハレックス代表取締役社長 越智正昭

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越智正昭

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