2016/06/01

男の隠れ家(その4)

長澤クンにヤマダ君、イチノセ君、ノダ君、それに私と懐かしい顔が5人揃いました。ノダ君同様、イチノセ君とも卒業以来38年振りの再会です。私とは反対に当時よりちょっと痩せた感じはしましたが、イチノセ君に間違いありません。嬉しくなってきます。長澤クンに「ここが噂の長澤の“隠れ家”か?!」と声を掛けると、「そうです。立派なもんでしょ。もっとちゃっちいところを想像したのとちゃいますか?」という声が返ってきました。おっしゃる通りです。もっとこじんまりしたところを想像していました。

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長澤クンはここの古民家を100坪の土地とあわせて4年前に○百万で購入し、休日を利用して4年間をかけて自らの手で改修してきたのだとか。最初に目に入ったなんとも可愛らしい感じの白い小さな建物は陶芸用の窯を置いている窯小屋で、これは設計から建設まで全て長澤クンが1人で手掛けた建物なんだとか。名付けて『ぽっぽ舎』。趣味の陶芸に嵌った長澤クンは将来本格的に陶芸家を目指そうと念願の灯油窯を手に入れることになったのですが、問題になったのがその灯油窯の設置場所。陶芸の窯だけに室内に置くわけにいかず、専用の小屋が必要になり、まずこの古民家を購入。その古民家の庭先にその灯油窯を設置する小屋を建てる事にしたのだそうです。通常、陶芸小屋はコンクリートブロックで四角く建てるのが一般的なのですが、ここからがさすがは長澤クンです。それに物足りなさを覚えた長澤クンは自ら設計して建設することを思い立ちます。そんな時、奥さんとの旅行で大分県の長湯温泉にある“ラムネ温泉館”を訪ね、その建物の面白さに感動し、その建物を設計した建築家・藤森照信さんの設計哲学に大いに刺激を受けたのだそうです。

(ラムネ温泉館HP)

小屋は鉄筋モルタル主体でできたこの窯小屋。製作費はほとんど材料代(ほとんどが廃材利用)だけなので僅かに約15万円、製作期間も約2ヶ月なんだとか(もちろん、製作に取り掛かる前に小型の模型を作ったり、図面を引いたりで1年はかけているのだそうです)。さすがはDIYです。さらに驚くことには、長澤クンにとってこの窯小屋製作が初めてのDIYなんだそうです。モルタルワークだから実現できた丸味を帯びたなんとも可愛らしい感じのデザインは何度見ても新鮮です。長澤クンはこの小屋のデザインを“フジツボ構造”と呼んでいます。デザインだけでなく、灯油窯を使う時には熱が室内に籠り過ぎないようにする必要があり、窓を全開にして思いきり換気できるようにするなどの実用性にも優れています。いかにも鉄道マニアの彼らしい小屋の正面に掲げている『ぽっぽ舎』と書かれた表札も軟鋼板を万力で曲げ、アーク溶接で組み立てたのだそうです。サビ止め入りのスプレーで塗り、ツヤを消すために塗装が乾く前にセメントの粉をこすりつけてザラついた質感を出したのだそうです(このあたり、鉄道模型作りのノウハウが存分に活かされています)。

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このあたりが高く評価されて、この窯小屋はDIY雑誌『ドゥーパ!』(学研ムック)が開催した2012年度DIY大賞で栄えあるグランプリ(大賞)を受賞しました(初出展作品がグランプリ受賞という信じられないような快挙です)。ということで、この小屋はDIYを趣味とする人達の間で一躍有名となり、最近では、「あの『ドゥーパ!』でグランプリを獲得した小屋はあれか!」と、小屋目当てに訪ねてくる人もいるのだそうです。

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驚くのはこれだけではありません。窯小屋の完成後、長澤クンはいよいよ古民家の本格的な改造に乗り出し、前述のように、休日を利用して4年間をかけて自らの手で改修してきたのだそうです。1階は工房(アトリエ)になっているのですが、ここもモルタルと漆喰を利用してとても素敵な空間になっています。大きなテーブル(もちろん廃材を利用した手作りです)が真ん中にデェ~ンと置かれ、同好の士が大勢集まってここで趣味を楽しんだり語ったりすることができるようになっています。

標高が200メートル以上という高いところにあることから、冬はかなり寒いのでは‥‥と思ったのですが、室内には薪を燃やして暖をとるロケットストーブが置かれていました。ストーブを取り囲む椅子の下を暖気が通過する仕組みで、非常によく考えられています。これがあるので、冬に来てもらっても大丈夫ですよ‥とは長澤クン。むしろこのロケットストーブが活躍する冬のほうが味わいがあっていいかも。もちろんこれも自作で、前述のDIY雑誌『ドゥーパ!』が開催した2013年度DIY大賞で栄えある準グランプリを受賞した作品です。本当は審査員からグランプリ(大賞)を受賞してもおかしくないほどの高い評価を貰ったそうなのですが、2年連続グランプリはさすがに‥‥という“大人の事情”で、準グランプリの受賞になったんだそうです。凄すぎです。さすがは中学校の技術の先生です。そうした長澤クンに刺激を受けて、技術屋(エンジニア)になった教え子も大勢いるのだとか。そりゃあそうでしょう。素晴らしい!!

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正面の大きな壁一面には彼のこれまでの陶芸作品の数々が並べられています。これがさらに凄いんです。通常、陶芸というと茶碗や皿、壺など実用的なものを作るイメージなのですが、彼の作品にはそういう実用的なものはいっさいありません。もちろん最初は先生について茶碗や皿、壺などを作っていたそうなのですが、腕が徐々に上達するに従ってそれでは物足りなくなり、「自分が作りたいものを陶芸で作ってみよう」と思い立ったそうなんです。自分で作りたいものとは、とりもなおさず自分が好きなもの。で、長澤クンが好きなものと言えば、鉄道と歴史。以下の写真で写っている蒸気機関車や自動車は全て彼の陶芸作品なのです。ボイラーの周りの配管のパイプやスポークの付いた車輪など細かいところまで精密にできていて、リアルすぎて、とてもこれが陶芸作品であるとは思えません。粘土は乾燥するに従って収縮率の違いから大きく変形してしまうものなのですが、そういう変形はほとんど見られません。しかも素材の厚みが薄い。色も窯から出した後に着色したものではなくて、焼き上げて窯から出したそのまんまなんだそうです。予めこういう色を出そうと粘土に顔料(?)を練りこんで着色してから焼き上げたものなのだそうです。繰り返しになりますが、驚異の陶芸作品です。

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長澤クンは歴史好きでもあるので、このような作品も作っています。新撰組の近藤勇と土方歳三、宮澤賢治、宮本武蔵、流浪の俳人・種田山頭火なんか、表情までシッカリと表現されていて秀逸という表現以外にうまい言葉が見つかりません。

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これらの作品の多くは全国レベルの陶芸コンクールの創作部門で様々な賞を受賞しているのだそうで、長澤靖の名前はDIYだけでなくこの分野でも有名になってきているのだとか。そりゃあそうでしょう。「僕が作っているのは“芸術”作品ではなくて、あくまでも“技術”の作品です」とは長澤クンの言葉です。試行錯誤を繰り返し、こうすれば直線のままで焼き上げることができる‥とか、こういう色に焼き上げることができる‥といった技を身に付けて、その上で、計算づくで作っていくのだそうです。その技とは粘土の調合にはじまって、窯の温度とか焼く時間とか自分が好きなようにできる必要があり、それで自分だけの灯油窯と工房を手に入れる事にしたのだそうです。他の人の迷惑にならないようにするには、それしか方法がなかったから‥‥と平然な顔をして言っていましたが、それがこの“隠れ家”を持つことのきっかけになったわけですから、凄いことです。趣味も極めるとここまでいっちゃうのですね。

このアトリエが一応完成したので、やっと人を呼べるようになったとのことで、初めて招待したのが私達、昔の仲間だったということのようです。光栄です。

もともと長澤クンは鉄道模型作りを趣味にしていました。それも軽便鉄道の車両の模型作り。軽便鉄道という極めてマイナーなジャンルの模型ですから、適当なキットなど発売されてなくて、設計図面を自分で描いて真鍮製の薄い板を切るところから始めないといけません。しかも縮尺は1/80。元の車体が小さいので、全長が10cmにも満たない小さな模型ばかりです。しかし、その腕たるや凄いものがあり、完成した模型を見せて貰った時、私達は一様に感嘆の声を漏らしたものです。彼の作った模型は鉄道模型の雑誌でも取り上げられたほどです。その模型がこれです。実は、この車両の小さな車輪まで彼の手作りで、車輪には扇状に穴が開けられていて、スポークまでもが表現されている拘りぶりです。

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その鉄道模型の素材が真鍮製の板から粘土に変わったと捉えればいいのですが、この変化は進化と言っても過言ではありません。土という素材が持つ素朴さが、軽便鉄道や蒸気機関車といったものにピッタリとマッチして、なんとも言えない独特の味わいを醸し出しています。「この作品には1つ大きな問題があって、それは飾っていると誰もこれが陶芸による作品であることに気が付いてくれないこと。これは焼き物なんですよ‥‥といちいち説明しないと驚いて貰えないんです」と長澤クン。そのくらい精密に出来ているってことです。最近は一目で陶芸だと分かるデフォルメした機関車の作品も作っていて、欲しいと言ってくる人に安価で販売も始めているのだそうです。

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‥‥‥‥(その5)に続きます。さらに引っ張りますが、次が完結です (;^_^A

執筆者

株式会社ハレックス代表取締役社長 越智正昭

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越智正昭

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