2016/06/24

麦うらし2016(その1)

 初夏とも言える五月中旬の今、松山市郊外の田圃は一面黄金色と紫色に彩られて、麦の収穫時期を迎えています。麦の収穫期、いわゆる“麦秋”ってやつです。

 5月14日(土)、「NPO法人 坂の上のクラウド利用研究会」の理事長で愛媛県農業法人協会会長を務められている牧秀宣さんから、牧さんが代表を務められている東温市の農業生産法人ジェイ・ウィングファームの麦の収穫感謝祭『麦うらし』に招待されたので、出席してきました。

『NPO法人 坂の上のクラウド利用研究会 設立!』

 この『麦うらし』、愛媛県や香川県といった四国の瀬戸内海沿岸では昔からやられていた「春の収穫祭」のことです。『麦うらし』とは『麦熟らし』とも書き、麦が成育して(熟して)、収穫を待つだけの状態になったことを意味した言葉です。通常、収穫祭といえば秋の風物詩のようなものなのですが、米よりも麦を栽培する割合が多かったこの地方の農家では、麦の収穫時期を迎える“麦秋”の今の時期にも収穫祭を開催するところがありました。昔は多くの近隣の農家がこの時期に『麦うらし』を行っていたそうなのですが、最近では農業の衰退、特に「二毛作」に取り組む農家の減少とともにその数は激減。牧さんによると、松山市や隣接する東温市で『麦うらし』を開催している農家は、このジェイ・ウィングファームだけになっているのだそうです。と言うか、一度完全に絶滅してしまったものを、牧さんが子供の頃にやっていたことを思い出して14年前に自分の農園で復活させたもので、今年で15回目なのだそうです。

 この時期に行う収穫祭は、農閑期から農繁期へ移り変わるキックオフの決起集会のような意味合いも持っているようです。「二毛作」が基本のこの地方の農家では、5月の中旬あたりから麦の収穫が始まり、収穫した麦の脱穀と並行して、今度は麦の収穫が終わった田圃を耕して水を入れ、イネ(米)の田植えをします。なので、これからの約2ヶ月、農家はとんでもなく忙しい農繁期に突入するというわけです。昔はその地域の人が総出で相互に助け会いながら、この農繁期を乗り切るってことをやっていて、地域コミュニティの力の結集ってものが農業においては重要な鍵を握っていました。その大事なコミュニケーションの場というものも、この『麦うらし』というイベントが担っていたように思われます。

 『麦うらし』の会場は、牧社長が20年ほど前に政府の減反政策で減反対象になって耕作放棄地にせざるを得なかったご自身の田圃に何本もの木を植えて、アメリカの農家の庭をイメージして作り上げたという麦畑の真ん中の公園、というか広場である「Sunny Side Field」で開催されました。この日は陽射しが強かったのですが、「Sunny Side Field」は生い茂る木々でその強い陽射しが遮られて、爽やかでした。とっても素敵な空間です。

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 私はこのジェイ・ウィングファームさんの『麦うらし』には3年前に初めてご招待を受けて出席して以来、今回が3回目の出席です。昨年はちょうど台湾への出張と重なってしまい、せっかくご招待をいただいたのですが、「羽田空港の国内線ターミナルからではなくて、国際線ターミナルから(台北)松山空港行きに乗らなくてはいけなくなったので、残念ながら今回は欠席です」というお返事を出して急遽欠席させていただきました。その前に私が出席した2年間はどちらも開催の数日前まで松山地方は雨の予報だったのですが、前日に微妙に気圧配置が変わったことで、嬉しいことに当日の天気は晴れに変わりました。戸外での開催のため、雨が降っては大変と、牧社長はじめ関係者一同が大いに気にされておられたので「さすがは“ハレ”ックス」と喜ばれたのですが、私が欠席した昨年の『麦うらし』はあいにくの大雨の中での開催でした。もともと私は“晴れ男”を自認自称しているのですが、ここからジェイ・ウィングファームの関係者の皆さんの間では、私の“晴れ男”が伝説のように語られるようになり、今年は「越智さん、絶対に来てくれるんだろうね」という好天を期待しての強い参加要請をいただきました。ちなみに、私はジェイ・ウィングファームさんにはこれまで何度も訪れているのですが、思い返してみると、傘を持って訪れた記憶は一度もありません。たまたまの偶然でしょうが、常に天気は晴れです。ということで、今年は2年ぶりに参加させていただいたのですが、この週の松山地方の天気は数日前まで「雨」。私の“晴れ男伝説”が今年も活きるのかどうか内心ヒヤヒヤしていましたが、この日は快晴、それも初夏を思わせる陽気で、正直、私が一番ホッとしました。牧社長からもこの日の朝、「晴れ男さんに感謝、感謝」というメールをいただきました(笑)

 今年の『麦うらし』にはジェイ・ウィングファームの関係者やご家族、取引先、お仲間の農業生産法人の方々、農業生産研究所の研究員、お取引のある銀行の銀行員の方々等およそ50人ほどの方々が集まりました。麦畑の真ん中にあるアメリカの農家の庭をイメージした広場で、バーベキューや軽食を囲み、いろいろな出し物が披露されます。それも現代風に“和洋折衷”。

 『麦うらし』は、まずは和式で神主さんの神事で始まります。

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 日本では古くから自然界に存在する全てのものには神が宿っているという「八百万の神」という考え方があります。「八百万(やおよろず)」とは非常に数が多いという意味で、「八百万の神」という言葉が示すように、太陽、月、星、風、雷といった天文や気象の神もいれば、土地、田、山、川、石などにも、また、家の台所、かまど、便所などにも神が宿っており、さらには馬、犬などの動物、松、竹などの植物にも神が宿る‥‥というように、我々人間を取り巻く自然界には実に多くの神々があまねく存在すると考えられてきました。

 そのような考え方が何故日本で深く根付いたのかというと、日本が古くから農業が産業の中心である国家であったことが大きいと考えられます。もともと古代日本人は、狩猟採集生活をしてきたのですが、米(コメ)の伝来に伴ってやがて農耕生活へと変わっていきます。農耕生活になるとそれまでの狩猟採集生活とは違って、人間の力の及ばない自然現象に大きく影響を受けるようになります。天候不順や自然災害による作物の不作はまさに死活問題で、それらが起きた時、その原因を自然界に存在する神の“怒り”であると考えるようになるのは無理からぬことである‥‥と私も思います。そこから、あらゆる自然の営みに“神”を見いだし、その神を崇める傾向がさらに強まっていったものと思われます。

 また、農耕社会で定住生活が始まると、土地に対する信仰も強まっていきます。自分たちが生まれた土地を守ってくれる神のことを「産土神」と崇め、産土神を祀る“社(やしろ)を作るようになりました。この社が現代でいうところの神社です。さらにそこへ古来の祖先信仰も合わさって、日本ならではの神々への信仰「神道」 が根づいていったものと考えられます。

 「五穀豊穣」という言葉があります。“五穀”とは米、麦、粟、豆に黍(きび)または稗(ひえ)を加えた5つのことで、人間が主食とする五種類の代表的な穀物のことです。また、“豊穣”とは穀物が豊かに実ることで、この二つを組み合わせて、穀物が豊かに実ることという意味です。自然は、私達人間に、なにものにも代えがたい豊かな恵みを提供してきました。私達人間は自然が与えてくれる恵みなくしては生きていけません。そういう自然に畏敬の念を覚えて、自然の恵みに感謝すること、これは人類において最も大事なことだと私は思っています。そして、農業とは自然の恵みを形にする産業です。農業において八百万の神、すなわち恵みを与えてくれた自然に対してこうして感謝の気持ちを示すこと、これは極めて自然なことであると私は思っています。

 天皇陛下も、毎年、春の耕作始めにあたっては五穀豊穣をお祈りする「祈年祭(きねんさい)」という儀式を行われ、また、秋には収穫された新穀を神に奉り、その恵みに感謝し、国家安泰、国民の繁栄をお祈りする「新嘗祭(にいなめさい)」という儀式を行われます。これが日本人の心というものです。私はそんなことを考えながら、この『麦うらし』の神事の様子を眺めていました。

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 恭しくその自然の恵みに感謝を捧げる神事が終わった後は、一気に賑やかなパーティーが始まります。主にジェイ・ウィングファームで採れた食材が主体で、ジェイ・ウィングファームの社員の皆さんが手分けして作った料理に加え、日頃からジェイ・ウィングファームとお取引のある各社さんが作った料理の数々がテーブルに並びます。

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 愛媛マンダリンパイレーツの栄養指導も行っているスポーツ栄養士の太田美香さんが作ったモチ麦の“はったい粉”を用いたラッシー、東温市のイタリアンレストランLocanda del cuore(ロカンダ・デル・クオーレ)のオーナーシェフ青江博さんがモチ麦をはじめジェイ・ウィングファームで採れた食材をふんだんに使って作ったイタリア料理、新居浜市のboulangerie FUKUSUKE(ブーランジェリー フクスケ:FUKUSUKEベーカリー)さんが作ったモチ麦を使ったパン、東温市の五色そうめん森川さんが作ったモチ麦を使った新しい麺、既にジェイ・ウィングファーム産のモチ麦を使ったモチ麦煎餅を販売している三重県の山盛堂本舗さんが作ったモチ麦クッキー、さらにはジェイ・ウィングファームが独自開発したモチ麦を焙煎して作ったモチ麦コーヒー「麦の香(むぎのか)」‥‥等々が振る舞われました。どれも販売を開始して間もない製品や、発売開始直前の試作品なのですが、ビックリするくらい美味しかったです。どれも間違いなく売れそうだと私は思いました。

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 特にモチモチとした食感が特徴のモチ麦を使ったパン、麺、クッキーはとても新鮮な感じがしました。例えば、五色そうめん森川さんの麺、味はふつうの蕎麦によく似ているのですが、ふつうの蕎麦と比べて讃岐うどんのようにコシが強いのが特徴で、不思議な感じがします。boulangerie FUKUSUKEさんのパンはモチ麦特有のモチモチ感のある独特の食感がたまらない一品です。どれも新鮮な食感がしますが、違和感は全くなく、むしろ、これまで何故こういう食品がなかったのか‥‥と、こちらのほうが不思議に思えるほどです。

 イタリアンレストランLocanda del cuoreのオーナーシェフ青江博さんがおっしゃっていた言葉が印象的でした。青江さんは大阪府出身で東京や大阪の有名イタリアンレストランのシェフとして活躍されていたのですが、ふと訪れた東温市の風景が「修業時代を過ごした大好きなイタリア北部の田舎の風景に似ている」と感じて東温市に移住してきて、ご自身がオーナーのレストランを開業したという経歴の持ち主なのですが、小麦を用いたパスタやピザが有名なイタリアでも、北部ではモチ麦に似た感じの大麦を利用した家庭料理が一般的なのだそうです。そうか地中海か! 愛媛県は温暖な瀬戸内海に面し、背後に高い山々が聳える‥‥ヨーロッパの地中海沿岸地域と気候条件が非常によく似ています。ということは、採れる食材も地中海沿岸地域とよく似ているということができます。なるほど、そりゃあ愛媛県特産のハダカ麦やモチ麦は、素材としてパンや麺、クッキーに絶対に合うはずです。パンや麺、クッキーに使う素材は小麦だけ‥‥という先入観を捨てればいいだけのことのように思います。

 後述しますが、愛媛県は全国の生産量の4割以上を生産するハダカ麦、モチ麦の日本一の産地です。しかも、気候の壁があって、このハダカ麦、モチ麦は他の地域からその地位を脅かされる心配が少ない愛媛県ならではの絶対的な特産品です。特産品とは「地域資源」。農業は自然の恵みを形にする産業です。農業では「適地適作」という言葉がありますが、その土地その土地の地形と気象という自然環境を活かして栽培される作物が特産品と呼ばれる作物、すなわち「地域資源」です。

 また、「6次産業化」という言葉もあります。「6次産業化」とは、そのような「地域資源」を有効に活用し、農林漁業者(1次産業従事者)がこれまでの単なる原材料供給者としてだけではなく、自らあるいは専門の技術や能力を有する他者と連携して加工(2次産業)や流通・販売 (3次産業)までにも取り込む経営の多角化を進めることで、地域の新たな雇用の確保や所得の向上を目指すことを意味します。このハダカ麦やモチ麦といった愛媛県の自然の恵みを最大限に活かした特産品、「地域資源」を素材に、その「地域資源」の特性をさらに活かす“商品”を開発し、広く日本全国の市場に販売していくこと‥‥、この日の『麦うらし』でご提供・ご披露いただいた食品の数々は、この「6次産業化」の本来あるべき姿なのではないか‥‥と思いました。この日の『麦うらし』でモチ麦ラッシーをご提供いただいたスポーツ栄養士の太田美香さんは、毎月1回南海放送のラジオ番組の「地元産が最高」というコーナーに出演なさっているそうなのですが、まさにその題名の通りですね。

 ジェイ・ウィングファームの社員の皆さんは地元愛媛県の出身者だけではなく、全国各地、なかには海外からの農業研修生の方もいらっしゃいます。それぞれ故郷の味を再現してくれて振る舞ってくれたりもするのですが、中でも毎年好評なのがネパールからの農業研修生さんが作る本場ネパールのカレーです。このネパールからの農業研修生さんは既にジェイ・ウィングファームでの研修を終了なさって現在は井関農機にエンジニアとしてお勤めなのですが、この『麦うらし』のために、前日、仕事を終えてから駆け付け、徹夜で仕込みをしてくださったのだそうです。当日は別の仕事のために『麦うらし』本番には出席できなかったようなのですが、一晩かけて彼が作ったネパールカレーは、井関農機から来ている別の研修生君がしっかりと引き継いで振る舞ってくれました。このネパールカレーも絶品で、私はおかわりまでしちゃいました。もちろん、ジェイ・ウィングファームで採れたモチ麦入りの白米にカレーのルーをかけていただきます。モチ麦入りのご飯はカレーに意外なほどマッチします。モチ麦のプチプチとした食感がたまりません。これは東京のド真ん中の店で出しても評判を呼ぶこと間違いないくらいの絶品です。

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……(その2)に続きます。(その2)は6月27日に掲載します。

執筆者

株式会社ハレックス代表取締役社長 越智正昭

株式会社ハレックス
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