2016/08/24

どうしたんだ!? 太平洋高気圧

 このところ台風が相次いで日本列島に接近・上陸しています。特に北海道。8月17日には台風7号が襟裳岬付近に上陸しました。今年、日本列島に台風が上陸するのは初めてのことで、それがいきなり北海道への上陸でした。台風が九州や四国、本州に上陸せず、北海道に直接上陸するのは1993年の台風11号以来、23年ぶりのことです。続いて21日には台風11号が、そして昨日23日には台風9号が相次いで北海道の道東地方に上陸しました。1シーズンで北海道に3つの台風が上陸するというのは、1951年に統計を取り始めて以来初めてのことです。さらに、この3つの台風に先立ち、8月9日には台風5号が北海道の東の海上を接近・通過していきました。この度重なる台風の接近・上陸による大雨で、各地で河川の氾濫や土砂崩れ、家屋の浸水等の冠水被害が相次ぎ、大きな被害が出ています。大雨により流されてお亡くなりになられた方もいらっしゃるようで、痛ましい限りです。

台風9号に関しては関東地方でも大きな被害を出しました。台風9号は22日の12時半過ぎに千葉県館山市付近に上陸し、関東地方を北上していきました。この台風9号の影響で、東海や関東、東北地方にかけての広い範囲で激しい風雨に見舞われ、鉄道や空の便に大きな影響が生じたほか、各地で冠水被害が出ました。また、神奈川県相模原市で58歳の女性が死亡するなど、関東地方などの1都7県で1人が死亡、62人が怪我をする被害が出ています。

被害に遭われた方には心よりお見舞い申し上げます。

このように今年は台風の進路が例年とは大きく異なっているようです。例年の台風の進路は概ね以下の通りです。

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例年、8月に発生する台風の典型的な進路は、まず赤道直下のマリアナ諸島近海の南太平洋で発生、最初西寄りに進み、フィリピンの東海上で北寄りに進路を変更。その後、沖縄諸島を過ぎたあたりで今度は北東へ進路を変更し、日本列島本土に到達というコースです。日本列島も九州に上陸することがありますが、そのまま中国地方から日本海に抜けて、日本海を北上するというコースを辿るのが8月の台風の一般的なコースです。

台風の進路は太平洋高気圧の張り出し具合と偏西風の流れの具合で決まります。その中でも季節ごとの台風の進路の違いに大きな影響を与えるのが太平洋高気圧です。太平洋高気圧とは、太平洋に発生する温暖で非常に強い勢力を持つ高気圧のことで、7月から8月にかけての夏季にはその影響範囲が広く日本列島全体を覆うように張り出し、強い直射日光が照り付ける日々が続いて、暑い夏になります。台風は、その太平洋高気圧の縁(ヘリ)を回り込むように進みます。9月に入り太平洋高気圧の勢力が弱まり、日本列島への張り出しが減ってくると、台風はその弱まった太平洋高気圧の張り出しの縁(ヘリ)を回るコースを取るために、四国、紀伊半島、関東に迫ることが多くなってきます。

で、今年の状況を下に示します。

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この図をご覧いただくとお分かりいただけると思いますが、太平洋高気圧の中心が日本列島の遥か東の海上、それも北緯40度~45度と高い緯度のところにあります。例年、北太平洋の太平洋高気圧の中心はハワイ諸島近辺、北東太平洋上にあり、東西に張り出して、東側ではアメリカ合衆国西海岸に年間を通じて温暖で乾燥した気候をもたらし、夏の日本の天気を支配します。広大な太平洋高気圧のうち、日本の南海上付近のものは小笠原諸島付近に中心を持つことが多いことから小笠原高気圧と呼ばれることもあります。小笠原高気圧の名前の通り、日本列島の南の海上、北緯20度~25度付近に高気圧の中心があることが多いのですが、今年の夏はそれが大きく北東に位置がズレていることが見て取れます。これにより、今回のような台風の進路になっていると考えられます。

これに偏西風の流れの影響が加わります。8月22日午前9時の時点での偏西風の流れを下に示します。

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太平洋高気圧が例年より北東に位置している関係で、偏西風もその太平洋高気圧に引っ張られて、例年よりも東の位置で北向きの蛇行が起きているのが見て取れます。この気圧配置と偏西風の蛇行の具合が、今年の台風の進路を決定付けているわけです。

マスコミ報道等によると、「今年は台風の進路が異常」という声を時折聞きますが、それって正しくは、太平洋高気圧の位置が例年と大きく違っているのです。

今年の夏は、南米沖の赤道付近の海域で、一昨年の夏から起きていた海面水温が高くなる現象『エルニーニョ現象』が終息し、一転して南米沖の海面水温が低くなる『ラニーニャ現象』が発生する可能性が高いとの予測から、猛暑の夏になるとの予想が当初は出されていました。日本が夏の時期にラニーニャ現象が発生すると、気温が高くなる傾向があるため、かなり高い確率で猛暑になるという経験則から出された予想なのですが、実際は東日本ではその予測は的中せず、ここ数年の中では比較的過ごしやすい夏になったのではないかと思われます。それもこの太平洋高気圧の中心が例年よりもずっと北東に位置していて、太平洋高気圧の張り出しが日本列島を覆っていなかったからでした。一昨年の夏から起きていた『エルニーニョ現象』は観測史上最強の『エルニーニョ現象』とも言われ、それまでの経験則が当てはまりませんでした。このあたりの予測は本当に難しいです。

いっぽうで、西日本では連日猛暑の日々が続いていますが、これは太平洋高気圧の張り出しではなく、大陸高気圧の張り出しの影響ではないか…と、上に示す図からは読み取れます。

気になる今後の台風ですが、もっとも気になるのが現在九州の南にほとんど停滞したままでいる台風10号です。停滞したまま徐々に勢力を強めて、ジッと日本列島を狙っているように思えて、ちょっと不気味です。気象庁の24日15時35分 発表の情報によると、台風10号は、24日15時現在、南大東島の南東約160km付近にあって、中心気圧が950hPa。中心付近の最大風速は40m/s(80kt)です。
その後もほとんど南大東島近海に停滞したまま、徐々に勢力を強め、
12時間後の25日03時には中心気圧が945hPa、中心付近の最大風速は45m/s(85kt)、
24時間後の25日15時には中心気圧が940hPa、中心付近の最大風速は45m/s(90kt)、
48時間後の26日15時には中心気圧が930hPa、中心付近の最大風速は50m/s(100kt)、
72時間後の27日15時には中心気圧が930hPa、中心付近の最大風速は50m/s(100kt)、
南大東島近海でずっと停滞すると予想されています。前述のように北西から勢力の強い大陸高気圧が張り出してきているため、その大陸高気圧から噴き出して上空に流れる強い風の勢いに押されてなかなか北へ進めず、ずっと南大東島近海にとどまって南の海上で暖かい湿った空気を貯めて徐々に勢力を強めているようです。

日本の台風情報は最大5日先までしか予想が出せないのですが、気になるのはその後。気象庁の予報によるとその後28日から北東方向に移動を開始するとなっていますが、予想円の半径は28日15時の予想で410km、29日の15時の予想で600kmと大きく、どこへ向かうのかはまだよく分からないって状況のようです。日本近海で徐々に勢力を強めているので、ちょっと不気味です。

それと、今日、マリアナ諸島付近の南太平洋に熱帯低気圧が発生しました。この熱帯低気圧も、今後台風に発達する恐れがあり、注意が必要です。

以上、台風に関しては、今後の情報に十分お気を付けください。


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ちなみに、今年は台風1号が発生したのが7月3日と、1951年に統計を取り始めて以来、1998年に次ぐ史上2番目に遅い台風1号の発生だったのですが、その後、例年を上回りそうなペースで次々と台風が発生し、次に発生する台風が12号。これから9月、10月と台風シーズンが続くことから、年末にはほぼ例年並みの台風の発生数(約26個)に近くなりそうなペースです。ただ、日本列島への上陸数が既に3個と、既に平均の上陸数に達していて、こちらが気掛かりです。今年の台風は日本近海で突然発生する傾向がみられていて、この数はもう少し増えるかもしれません。十分にご注意ください。


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【追記】
台風は自らでは移動するための推進力をいっさい持っておりません。なので、周りの環境の言いなりにしか動けない存在なのです。台風は、地球の自転の関係で相対的に抵抗が少ない方角に向かって進んでいくという宿命があり、まずは北に向いて進んでいこうとします。しかも発生直後の熱帯地方では、赤道のすぐ北のあたりを常に東から西の方角に流れる“貿易風”と呼ばれる強い風が流れているので、その両方の力に押されて、結果として北西の方向に動きます。

そして、日本列島に徐々に近づいてくると、上空の風の流れの“せめぎ合い”によって移動速度を落としたり停滞したりしながら、次第に緯度の高いところを貿易風とは反対に西から東の方向に流れる“偏西風(ジェット気流)”に押される形でコースを変えて、今度は北東の方角に向かいます。最後は、ジェット気流に吹き飛ばされるような形で、猛スピードで日本列島近海からロシアのカムチャッカ半島の方向に駆け抜けていくわけです。

赤道から北緯30度あたりまでの海洋上を東から西の方角に吹く貿易風は、地球の自転の関係から生まれる風で、1年中ほとんど同じ向きに吹くのと異なり、北緯30度から60度付近にかけての中緯度帯の上空を西から東の方向に恒常的に流れる偏西風は、赤道と北極との温度差が大きくなると南北に大きく蛇行するようになります。この蛇行のことを偏西風波動というのですが、季節により蛇行の位置や幅は大きく移動するので、偏西風が流れるコースも大きく変わります。この編成風波動により、季節によって台風の進路も大きく変わってくることになります。

このように、台風はその大きさもコースもスピードも、すべてその場その場の環境次第で決まるわけです。なので、海水面の水温の情報や上空の風の流れに関する情報は台風の進路の予報をする上で極めて重要な情報になるのです。予報現場の気象予報士達は、常に気圧800ヘクトパスカル面(高度約1,500メートル付近)や500ヘクトパスカル面(高度5,500メートル付近)、250ヘクトパスカル面(ジェット気流の流れる高度10,000メートル付近)といった上空における大気の気温や風の流れに注目して、日々の気象予報を行っています。こうした上空の大気の状態に関する情報を一般の方々はあまり目にする機会はないと思いますが、私達民間気象情報会社は気象庁から上空約16,000メートルくらいまでの(気象に影響する対流圏界面までの)各気圧面(高度)ごとの気温や風に関する様々な気象の数値予報データの提供を受けています。

執筆者

株式会社ハレックス代表取締役社長 越智正昭

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