2016/10/14

災害とは“災い”が“害”になると書く

①「世の中の最底辺のインフラは“地形”と“気象”」
そして、
②「災害とは“災い”が“害”になると書く」

これは私の基本的な考え方です。防災に関して考えるにあたっては、このうちの②「災害とは“災い”が“害”になると書く」が重要だと思っています。“災い”とは大雨や暴風、大地震等、自然の様々な脅威(事象)のことです。“災い”は時として想像を遥かに超える圧倒的破壊力をもって我々人類に襲いかかってきます。

「防災」や「減災」という言葉があります。漢字の意味からすると「防災」とは“災い”を“防ぐ”こと、「減災」とは“災い”を“減じる”ことってことになりますが、前述のように、時として想像を遥かに超える圧倒的破壊力をもって我々人類に襲いかかってくる大雨や暴風、大地震等、自然の様々な脅威(事象…すなわち“災い”)を真っ正面から防ごうと思ったり、その勢いを減じようとすることは到底無理な相談であると私は考えています。極端な言い方になってきますが、それって自然をも支配し、コントロール下に置こうとする西洋の一神教的な考え方で、高緯度で大雨や暴風になることが少なく、地震もほとんど起きない欧州のようなところでは通用する考え方かもしれませんが、日本列島のように、中緯度のモンスーン気候帯、しかも台風の通り道にあって、複数の大陸プレートが複雑に重なり合って地震の発生が多いところでは、そもそも適用しない考え方であると私は思っています。

日本列島は圧倒的破壊力をもつ自然の脅威が襲ってくることの多い“災害大国”です。毎年のように襲ってくる大雨や台風により甚大な被害を出し、また、数年に一度、大きな地震の直撃を受けて、甚大な被害を出します。それでも私達日本人はこの日本列島から逃げ出すことなく、現在のような繁栄を築いてきました。そこには、自然界の様々なモノに神が宿るという“八百万(やおよろず)の神”という多神教の考えにより、すべての自然事象に対して畏敬の念をもって接する日本人固有の精神文化と、その精神文化に裏打ちされて、自然の脅威の来襲をむしろ受け入れて、そうした自然との調和の中で、少しでも安心安全に安定的に暮らしていこうという長年にわたる努力と様々な社会的な工夫があるように私は思っています。「防災」の議論においては、ともすればそうした日本人が古来から受け継いできた精神文化や、積み重ねてきた努力、様々な社会的工夫のことを忘れがちなところがあるように私は思い、危惧の念を抱いています。

「災害とは“災い”が“害”になると書く」ということを最初に書かせていただきましたが、“災い”も“害”にさえならなきゃあ、それでいいんです。すなわち、“災い”が問題なのではなく、それが引き起こす様々な“害”が問題なのだという考え方です。(人が住んでいない)サハラ砂漠のど真ん中でマグニチュード9の地震が発生したとしても、それは“災害”とは言いません。その意味では「防災」ではなく、「防害」と呼ぶほうが、言葉としては正しいのではないか…と私は思っています。

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“災い”は人々が暮らす地域特性、特に“都市の脆弱性”と相まって、はじめて“害”となります。“都市の脆弱性”とは地形(低地、扇状地、中洲、傾斜地等)、土壌(土質、植生、斜面の傾斜等)、開発(都市化、下水道等のインフラ整備状況等)によって、その地域その地域で異なり、1つとして同じところはないとも言えます。しかも、その“都市の脆弱性”によって、同じ災いが襲ってきたとしても、現れる“害”の形はまるで異なってきます。同じ大雨が降っても、この地域特性と言うか“都市の脆弱性”が異なるため、あるところでは、河川氾濫による浸水、またあるところでは急傾斜地での土砂災害、その土砂災害でも地滑り、土石流、深層崩壊等と形状は異なり、さらには内水氾濫、アンダーパス等の低地への浸水等々、発生する災害の形は様々です。

積乱雲がほぼ同じところで次々と発生し(バックビルディング形成)、局地的な集中豪雨をもたらす線状降雨帯、2年前の平成26年(2014年)8月19日から20日にかけては、北日本から対馬海峡付近に延びた前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込んだ影響で、西日本と東日本の広い範囲で大気 の状態が非常に不安定となり、広島県と山口県の県境付近で積乱雲が次々と発生し、線状降雨帯が形成され、局地的に猛烈な雨が降りました。特に、広島県広島市安佐北区三入では、最大1時間降水量が101.0ミリ、最大3時間降水量が217.5ミリ、前日からの最大24時間降水量が257.0ミリとなり、いずれも観測史上1位の値を更新する大雨となりました。この大雨により、広島県広島市北部の安佐北区や安佐南区などで大規模な土砂災害が住宅地を襲い、死者76名、負傷者68名の人的被害が出たほか、住家の全壊179棟、半壊217棟、一部損壊190棟、床上浸水1,086棟、床下浸水3,097棟という大きな被害が出ました。(消防庁HPより)

いっぽう、同じ線状降雨帯でも、昨年の平成27年(2015年)9月9日に愛知県知多半島に上陸した台風第18号は、日本の南海上を北上し、翌9月9日の午前10時過ぎに、日本海に抜けて、同日21時に温帯低気圧に変わったのですが、その台風から変わった温帯低気圧に向かって南から湿った空気が流れ込んだ影響で、西日本から北日本にかけての広い範囲で大雨となり、特に関東地方と東北地方では記録的な大雨となりました。9月7日から9月11日までに観測された総降水量は、栃木県日光市今市で647.5ミリ、宮城県丸森町筆甫で536.0ミリを観測するなど、関東地方で600ミリ、東北地方で500ミリを超え、9月の月降水量平年値の2倍を超える大雨となったところが続出しました。特に、9月10日から11日にかけて、栃木県日光市今市や茨城県古河市古河、宮城県仙台市泉区泉ケ岳など関東地方や東北地方では、次々に線状降雨帯が出現。統計期間が10年以上の観測地点のうち16地点で、最大24時間降水量が観測史上1位の値を更新するなど、栃木県や茨城県、宮城県では記録的な大雨となりました。この台風及び南からの湿った気流の影響で、土砂災害、浸水、河川のはん濫等が発生し、死者8名、負傷者79名、住家の全壊79棟、半壊6,014棟、一部損壊410棟、床上浸水2,870棟、床下浸水10,059棟という大きな被害が出ました。特に栃木県から茨城県を流れる一級河川の鬼怒川の堤防が決壊し、茨城県常総市などで大規模な浸水被害が発生しました。(消防庁HPより)

このように、同じ大雨でも、雨の降り方と地域特性(都市の脆弱性)により、現れてくる災害の形は、かたや土砂災害、かたや河川氾濫とまるで異なってきます。このように、「防災(防害)」を考えるにあたっては、動的な“災い”となる自然の脅威の特性と、静的な“地域特性(都市の脆弱性)”の両面から総合的に評価して考えないといけないということです。

私達が住む日本列島は6,852の島(本土5島+離島6,847島)から成る島国で、国土の面積は約37.8万平方km(日本政府が領有権を主張する領域)。その国土の約70%が山岳地帯であり、約67%が森林地帯です。1億2711万人(2015年)の総人口のうち、ほとんどは約30%の平野部に暮らしています。

平野は、山地に対して、低く平らな広い地形のことを指す地理用語ですが、成因などにより“堆積平野”と“侵食平野”に分類されます。“堆積平野”とは河川などが運んできた土砂等の堆積物が積もってできた弊社のことで、“侵食平野”とは古生代から中生代にかけて隆起したり堆積したりしてできた地層が河川などの侵食により土地が削られてできた平野のことです。また、“堆積平野”は“沖積平野(河川の働きによりできた平野)”、“海岸平野(沿岸流や波の働きによりできた平野)”、“風成平野(風の働きによちできた平野)”に大別されるのですが、日本列島の平野のほとんどが堆積平野、それも沖積平野です。すなわち、北海道から九州に至るまで、日本列島のほとんどの平野が、日本列島が形成されて以来、長い長い年月をかけて、河川が運んできた土砂等の堆積物が積もってできた平野だということです。広い平野を形成するほどの量の大量の土砂です。それほどの土砂が河川に運ばれて堆積しているということは、私達現代人の記憶には残っていないものの、その河川の流域ではこれまで何度も何度も土砂災害や河川氾濫が繰り返されてきたということを意味しています。ほとんどの日本人が暮らす日本中の平野という平野はそもそもがそういうところであって、程度の差こそあるものの、日本全国のどこも土砂災害や河川氾濫に対する“都市の脆弱性”を抱えたところなのだということを、私達は決して忘れてはいけません。

その都市の脆弱性を十分に理解した上で、迫り来る自然の脅威の来襲により、いったいどういう被害がその地域に発生しようとしているのかを正しく推察できるようにすること、これが「防災(防害)」においては最も大事なことではないかと私は思っています。

今年(2016年)は8月には相次いで発生した台風7号、11号、9号が、それぞれ8月17日、21日、23日に北海道に上陸し、8月30日には台風10号が暴風域を伴ったまま岩手県に上陸し、東北地方を通過して日本海に抜けました。これら4つの台風等の影響で、東日本から北日本を中心に大雨や暴風となりました。特に北海道と岩手県では、記録的な大雨となり、河川の氾濫、浸水害、土砂災害等が発生し、北日本を中心に全国で死者24名、行方不明者6名、負傷者87名が出たほか、住家全壊25棟、半壊76棟、一部損壊991棟、床上浸水1,111棟、床下浸水1,917棟などの住家被害が生じ、停電、断水、電話の不通等ライフラインにも被害が発生したほか、鉄道の運休等の交通障害が発生しました。(被害状況は平成28年9月13日06時00分現在、消防庁HPより)

特に、台風10号による河川の氾濫で、死者・行方不明者が20人以上に上るなど大きな被害を受けた岩手県下閉伊郡岩泉町。高齢者グループホーム「楽ん楽ん」では、近くを流れる小本(おもと)川が氾濫し、入所者9人がお亡くなりになりました。地図を見ると、岩泉町の面積は東京23区を上回り、本州の町としては最大の街です。大半が深い山林で、民家は山間部に点在し、蛇行する小本川の渓谷沿いを走る道路が各集落を繋いでいることが分かります。地図で小本川の蛇行具合を見る限り、この川はこれまで何度も河川氾濫を繰り返した川だということが容易に見て取れます。実際、5年前の2011年の9月にも大雨により氾濫し、周囲で浸水被害が出たということが報道されていました。ここはもともと大雨が降った時に、容易に小本川が氾濫する脆弱性をもった場所だったということです。報道によりますと、小本川を管理する岩手県では、この2011年9月の被害を機に治水計画が検討されていたのですが、残念ながら具体的な設計や工事の発注には至っていなかったそうです。

防災対策は一朝一夕に進みませんし、災害発生時の行政の能力には限界があります。なので、住民1人1人が自分で身を守る備えをし、早め早めの避難行動を取らなければ地域防災は成り立ちません。そのためには、まず、自分の住む場所に潜む“都市の脆弱性”を正しく理解することから始めないといけないな…と私は思っています。

皆さんもご自分が住む場所に潜む“都市の脆弱性”を考えてみませんか? それが防災の第一歩です。

執筆者

株式会社ハレックス代表取締役社長 越智正昭

株式会社ハレックス
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越智正昭

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