2016/11/14

IBM World of Watson 2016(その2)

そのIBMは今年(2016年)1月29日(現地時間)、米国の気象情報会社であるThe Weather Companyの製品およびテクノロジー事業(B2B、モバイル、およびクラウド・ベースのWeb資産)の買収を完了したと報道発表しました。買収金額は明らかにされておりませんが、一説には約20億ドル(約2,000億円)とも言われています。この買収は、2015年3月にIBMが発表したIoT(モノのインターネット)への30億ドルの投資に基づくもので、その30億ドルの投資の大半をこの気象情報会社の買収に充てたことになります。これはIBMがIoTクラウド ・プラットフォームの基盤として気象情報を極めて重要な情報であると位置付けたものであると言って、過言ではありません。

この買収によって、両社のテクノロジーと専門知識が融合されることになり、IBMのクラウド・データ・サービス・プラットフォームの規模と機能が大幅に拡張されるほか、中国やインドなど主要市場への気象情報提供サービスの新規参入計画をはじめ、The Weather Companyのエンタープライズ・サービス機能と利用者へのサービス提供がグローバル規模に拡大されることになります。

実際、この際の報道発表において、IBMのコグニティブ・ソリューションおよびリサーチ担当シニア・バイス・プレジデントであるJohn E. Kelly氏は、次のように述べています。

「The Weather Companyの膨大なデータ・プラットフォームは、IBMクラウドやWatsonの高度なコグニティブ・コンピューティング機能と組み合わせることで、モノのインターネット(IoT)において比類ないものとなります。この優れたプラットフォームによって、お客様が自社のビジネス・データやセンサー・データを気象情報やその他の関連情報とリアルタイムでリンクできるようになるため、競争上の優位性が大幅に高まります。IBMは、企業が日々生成される膨大なデータを分析して行動に移すうえで役立つ、深く多様な洞察をあらゆる業界に提供できるようになるでしょう。」

この言葉にもあるように、この買収により、The Weather Companyのクラウド・データ・プラットフォームは単に気象情報提供の枠を超えてWatson IoTのバックボーンとして機能することになりました。すなわち、日々の利用者数が全米第4位の規模のモバイル・アプリケーションをホストし、そのクラウド・ベース・サービスへの最大260億件の照会を毎日処理するThe Weather Companyの動的なクラウド・データ・プラットフォームが、世界中のIBMクラウド・データセンターで運用され、IBMのデータ・サービスおよびWatson IoT事業のテクノロジー・バックボーンとして機能することになりました。

また、この買収により、これまでThe Weather Companyの会長兼CEOであったDavid Kenny氏がIBM本体のWatsonプラットフォーム事業全体の指揮を担当することになりました。David Kenny氏は、IBMがWatsonテクノロジー・プラットフォームの拡張を継続する中で、1日に数千万人が利用するプラットフォームの構築に関わる深い専門知識をIBMにもたらしたとされています。同氏は、Watsonのパートナーや開発者のエコシステム、主なAPI、Watsonを活用した新たなソリューションの構築など事業全体を今後監督します。また、The Weather Companyは、それまでIBMの製品技術担当部長であったCameron Clayton氏が指揮を執ることになり、完全にIBMのデータおよびアナリティクス・プラットフォーム事業部門の一部となりました。(IT屋が気象情報会社の指揮を執る…って、弊社ハレックスと同じです。)

今回の『IBM World of Watson 2016』の2日目にT-Mobile arenaで行われたIBM幹部によるKeynoteセッションでも、David Kenny氏とCameron Clayton氏の素晴らしい講演がそれぞれありました。

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このように、IBMは気象情報プラットフォームを世界的に見ても最もスケーラブルでパフォーマンスの高い柔軟なデータ・プラットフォームの1つと明確に位置付けたわけです。その情報プラットフォームを利用することで、IBMは、世界各地に設置された何十億ものIoTセンサーからさらに幅広いデータ・セットを迅速に収集できるようになると同時に、世界中の何千万人ものユーザーにリアルタイムの情報と洞察を提供できるようになるとしています。また、この新しいプラットフォームによって、開発者は、IoTセンサー・データへのアクセス、保存、分析をより柔軟に行い、IBM Watsonから提供されるより有意な深い洞察に基づいて新しいアプリケーションを開発できるようになると期待されています。

IBMでは、お客様やパートナー様が、急増する自動車や飛行機に搭載されたテレマティックス機器、ビル内のセンサーや環境センサー、ウェアラブル端末、医療用の埋め込み端末、気象観測所、スマートフォン、ソーシャル・メディア、製造ライン、サプライ・チェーンなどから得られる、まったく新しい形のIoTデータを収集して分析し、行動に移すことができるように、2,500人を超える開発者を世界各地に配置するそうです。

同時に、IBMは、今後3年間で全世界のユーザー基盤を数億単位で増やすことを目的に、中国、インド、ブラジル、メキシコ、日本の5つの主要市場でBtoC向けの気象情報提供サービス「weather.com」を新たに展開する計画を発表しました。IBMは現地メディアとの提携や、45を超えるデータ・センターからなるIBMクラウド・ネットワークを活用して、各地域に合わせてパーソナライズされたコンテンツを提供していく予定なのだそうです。

このように、IBMは現在、同社が社運を賭けて取り組んでいる「コグニティブ・ビジネス(Cognitive Business)」の中核に気象情報を位置付けたわけです。

「世の中の最底辺のインフラは“地形”と“気象”」……これは私・越智が講演などで必ず最初に口にする言葉なのですが、この言葉の意味するところを世界中で一番理解しているのがIBMということのようです。あの世界的巨大企業であるIBMが気づいてくれたということで、私の考えは間違っていなかった…と誇らしくもありますが、その反面、悔しい気持ちもいっぱいです。そして、底知れぬ恐怖心も……。

世界的企業であるIBMがこのことに気づいたわけです。そうなると気象を取り巻くビジネス環境は今後急速に、そして劇的に変化していくことが容易に予想されます。それは日本国内のマーケットにおいても同じことです。それは私の望むところでもあります。よぉ〜し、やってやろうじゃあないの。弊社としてもこれまで取り組んできた事業内容の変革をより加速しないといけないな…という思いを強くしました。そうしないと、間違いなくこのグローバルな大きなうねりを持った潮流になすすべもなく呑み込まれて、淘汰されてしまうだけのことです。幸い、弊社は7年前に気づいて、確実に事業の変革を進めてきました。事業の基盤はできあがりつつありますし、その方向性は決して間違っていないということが今回確認できたので、それをより加速すればいいだけのことです。すぐにやって来るであろう時代の潮流に乗り遅れないようにするために、やらねばならないことは、まだまだ山のように残っています。そのことを再認識できただけでも、今回ラスベガスにやって来てよかったと思っています。

ラスベガスではIBMの幹部の方とも個別に意見交換をさせていただきました。短い時間ではありましたが、IT屋同士なので話は早いです。機密事項に属することですので、話の内容はここでは省かせていただきますが、ただ、目指している方向性がまったく同じであることは相互に確認させていただきました。そして、私達のことを、初対面ながら、話が通じ合える相手であるということだけは、最低限認識していただけたと思っています。

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……(その3)に続きます。

執筆者

株式会社ハレックス前代表取締役社長 越智正昭

株式会社ハレックス
前代表取締役社長

越智正昭

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