2016/11/16

IBM World of Watson 2016(その3)

『IBM World of Watson 2016』の最終日には会長(Chairman)としてこの世界的企業IBMを率いる最高経営責任者(CEO)で社長(President)のGinni Rometty(Virginia Marie Rometty)女史のKeynote講演がありました。Ginni Rometty女史は米Fortune誌が選ぶ「ビジネス界で最もパワフルな女性」の一人として長年ランクインしている女性経営者です。女性の年齢について触れるのは気が引けますが、現在、彼女は59歳。私より1歳年下です。

さすがにその一挙手一投足、発する言葉の一言一言に世界が注目するIBMのCEO兼社長です。2万人収容と言われるT-Mobile arenaの座席はほぼ満席。よく見ると、立ち見の人もいるくらいです。『A World with Watson』と題したKeynote講演には、参加した全ての人が注目していて、中央の壇上に登場しただけでT-Mobile arena全体が大きな拍手に包まれました。

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Ginni Rometty女史のKeynote講演は今回の『IBM World of Watson 2016』の最後を締めるようなものだったので、期待したわりにはインスパイアを受けるような新しいメッセージのようなものはありませんでした。ただ、ヒトは言葉で動かす…とよく言われますが、まさにその通りで、英語がさほど得意ではない私にも、発する言葉の一つ一つが重みを持って伝わってきます。これを“カリスマ”と言うのでしょうね。インスパイアを受けるような新しいメッセージはなかったものの、IBMがWatsonのパートナーとして既に連携している各分野のトップが登壇して、Ginni Rometty女史との対談の形式で、Watsonの有効性を具体的に紹介していくというものでした。

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まず最初に自動車業界からゼネラル・モーターズ(GM)のCEO(最高経営責任者)であるMary Barra女史が登壇しました。この日、GMとIBMはこのラスベガスにおいて自動車向け情報サービス分野で提携すると共同でプレス発表したばかりです。この提携はGMが1996年から展開している自動車向け情報サービス「オンスター」に、IBMのWatsonの機能を搭載するというもので、GMはIBMの協力を得て、来年2017年から新たにWatsonの機能を搭載した「オンスター・ゴー」というサービスを始めます。来年末までに200万台以上のGM車で利用できるようになるとのことです。Watsonを活用して、運転手の癖や好みを考慮したOnly oneの情報サービスを提供するのが売りで、例えば、運転手が知らない土地でも本人の好みにあったレストランの案内や、燃料の残量を考慮して最適なタイミングでガソリンスタンドに誘導することができると想定しているのだそうです。GMのMary Barra CEOは「Watsonを活用することで、車内でより価値のある経験を顧客に提供することができる」と述べ、Watsonが他社の自動車向けサービスとの差別化要素になると強調しました。

それにしても、世界的IT企業のIBMと米国を代表する自動車メーカーのGM。そのどちらも企業のトップは女性です。IBMのCEO、Ginni Rometty女史といい、GMのCEO、Mary Barra女史といい、米国にはパワフルでカリスマ性を持った“理系の”女性経営者が多いようです。

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次に登壇したのが教育分野からJohn B. King, Jr.米国教育庁長官(United States Department of Education)。John B. King, Jr.長官は実証実験の結果をもとに、Watson導入により教育の現場がどのように変わっていくのかについて、熱く語られました。

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次に登壇したのは、ヘルスケア分野からイスラエルに本拠を置く世界最大級のジェネリック医薬品メーカーTeva PharmaceuticalのYitzhak Peterburg教授。予防医学にシフトしていく中で、Watson導入によりヘルスケア分野がいかに変貌を遂げていくのかを熱く語られました。

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もう1人、医療分野からは東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターの宮野悟センター長(教授)が登壇されました。東京大学医科学研究所のWatsonは、2,000万件以上の癌に関する論文を既に学習していて、正しい診断が難しい白血病患者の診断に役立てる研究に使われているのだそうです。その中で、宮野悟教授は特殊な白血病患者の病名を10分ほどで見抜き、その生命を救った事例を発表されました。宮野悟教授は「医師がすべての医療情報を把握するには限界がある。人工知能の活用は医療の世界を変える可能性を持っている」と述べられました。大量の情報を記憶し、適切に引き出して使うのはコンピュータが最も得意とするところ。今後、人間の医師の役割はWatsonが出す診断のチェック、及び治療処置と、新たな知識を発見する研究分野などに特化していくのかもしれません。この分野がすぐに、そして最もWatsonに馴染む分野ではないかと思いました。

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最後に登壇したのはIBMがWatsonのパートナーとして連携するには実に意外な分野の方でした。音楽プロデューサーのAlex da Kid氏。イギリスを拠点として活躍されていて、KIDinaKORNERという独自のレーベルもお持ちの方です。まだ34歳という若さながら、既にグラミー賞の最優秀アルバム賞にノミネートされた輝かしい経歴の持ち主です。そのAlex da Kid氏が最近Watsonを使って取り組んでいるのが、ヒット曲の製作。最近ヒットしている楽曲の歌詞やメロディをWatsonを使って解析し、世の中の人々に受け入れられ、ヒットしやすい楽曲をプロデュースするのに役立てようというもの。エンタープライズ(産業)分野だけでなく、こういうクリエイティビティ(創造性)が求められる分野においてもWatson が有効であることを実証しようというものなのでしょうが、私としてはこの分野だけにはWatsonに関わって欲しくないと思っています。面白い取り組みではあるのですが、これって商業主義に偏りすぎていて、人間が持つクリエイティビティを否定するみたいで、私は嫌いです。全てのプロデューサーがWatsonを使って楽曲を製作するようになったら、同じような感じの楽曲ばかりが世の中に流れるようになって、画一化されていってしまうのではないかと心配してしまいます。

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いずれにしても、Watsonが導入されることによって、世の中のありとあらゆる業務において、これまでの常識が根底から覆されるような大変革が起こるかもしれません。そこにおいて重要となるのは、人と機械(コンピュータ)との関わり方。一番最初に、「コグニティブ・ビジネス」は、人と機械(コンピュータ)との関わり方を根本から変えようとしているということを書かせていただきましたが、まさにその通りで、大量の情報を記憶しておき、その大量の情報の中から真に必要な情報を適切に引き出してくるというのは機械(コンピュータ)が最も得意とする分野で、そういう中で、最終的な判断を下すのはあくまでも人間。こんな感じになっていくのではないでしょうか。そうなって来ると、人に求められる能力というものも大きく変わってきます。これは私達、気象情報の分野においても十分に当てはまることであると私は思っています。

私は気象情報分野における人と機械(コンピュータ)との関わり方に関して、野球に喩えるならば、“見逃し”防止は基本的にインテリジェンスを定式化して組み込んだ機械(コンピュータ)が行い、人は“空振り”防止を担うべき……という根本思想を持っていて、弊社の様々なサービスもその根本思想に基づいて構築してきました。そして、気象予報士の仕事のあり方もそれに伴って少しづつ変革を起こしつつあります。IBMが唱える「コグニティブ・ビジネス」とは少し異なるかと思いますが、ビッグデータ、クラウド・コンピューティング、インテリジェンス、アナリティクス、API提供、そしてソリューションという6つのキーワードは共通なので、広義にはIBMが唱える「コグニティブ・ビジネス」と同じと捉えていいかと思っています。むしろ、弊社のシステムでいうと、状態の可視化を志向した弊社の気象ビッグデータ可視化ツール『Weatherview2』。これは元々気象予報士の現業業務の品質確保と業務革新を目的に開発したもので、こちらの方がIBMが唱える「コグニティブ・コンピューティング・システム」により近いものなのかもしれません。

世界的企業IBMを率いるCEOで社長のGinni Rometty女史は、Keynote講演の最後を「私は世界を変えたい!」という言葉で締めくくられました。「5年後か10年後に世界が大きく変わった時、振り返ってみたら、そのきっかけになったのが今日のこの日だったということになるかもしれない」とも。今回、『IBM World of Watson 2016』に参加してみて、これってあながち否定することはできないな…と思った越智です。

「よぉ〜し、やったろうじゃん!」 なぁ〜んか久し振りにIT屋としてワクワクした気分になってきています。

弊社ハレックス社の事業に関する分野では、気象データ活用による自然災害の発生リスクの判定や農業における植物生育モデルの研究等にWatson は十分活用できると思われます。弊社ハレックスとしてもWatsonの活用に積極的に乗り出していきたいとの考えを、私は持ちました。

T-Mobile arenaの外では、Watsonを使った自動運転の車両のデモンストレーションが行われていました。最初は100フィートしか走れなかったのだそうですが、自動学習することにより、かなりの距離を走行できるようになってきたのだそうです。

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……(番外編)に続きます。

執筆者

株式会社ハレックス代表取締役社長 越智正昭

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越智正昭

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