2017/02/06

Act for 2050(その1)

1月25日(水)、広島県の福山市に1泊2日で出張してきました。この日の福山出張は、国立研究開発法人・農業食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構と略す)西日本農業研究センター様からの依頼を受けて、同センターが主催する平成28年度近畿中国四国農業試験研究推進会議の「農業環境工学推進部会」で講演をさせていただくためでした。

強い冬型の気圧配置の影響で、近畿北部や中国地方の日本海側などでは山間部や山沿いを中心に23日から雪が降り続き、各地で大雪となりました。24日午後10時の積雪は、鳥取県の大山で2メートル35センチ、岡山県の真庭市蒜山で1メートル23センチ、広島県の庄原市高野で1メートル22センチ、鳥取県智頭町で1メートル6センチに達しました。23日の午前0時から24日夕方までに、鳥取県大山では1メートル20センチ余り、鳥取県智頭町で90センチ余り、岡山県の真庭市蒜山で70センチ余りそれぞれ積雪が増えました。また、西日本では平野部でも大雪となり、24日午後10時の積雪は兵庫県豊岡市で58センチ、滋賀県彦根市で55センチ、鳥取市で51センチなどとなりました。

私が福山に出張した25日には近畿北部や中国地方では降雪のピークはすぎましたが、西日本の日本海側の山沿いを中心に雪が降り続く見込み…という予報が出ていました。こうなると気になるのが東海道新幹線の遅延です。毎年雪のシーズンになると「関ケ原付近の積雪のため、東海道新幹線が運転を見合わせています」というニュースをよく耳にします。関ヶ原は伊吹山の岐阜県側の麓(ふもと)にあり、毎年結構な量の雪が降るところです。関ヶ原で落ち切らなかった場合は名古屋まで雪をもたらすことがあります。これはこのあたりの風の流れを見るとよく判ります。

琵琶湖の北には福井県と滋賀県の県境にあたる標高974メートルの三重嶽を最高峰とする野坂山地の山々と、標高1,617メートルの能郷白山を最高峰とする越美山地の標高1,300メートルを超える高い山々(荒島岳、平家岳、屏風山等)が東西方向に連なっていて風を遮るため、若狭湾から流れ込む北西の風の本流は、その野坂山地と越美山地の間にある回廊のような狭い低地(ちょうどJR北陸本線や北陸自動車道、国道8号が通っているルート)を抜けるようにして琵琶湖北部(滋賀県湖北地域)に流れ込んできます。その回廊は標高があまり高くないため、風向きが西北西寄りだと若狭湾から流れ込む風はさほどの大雪を降らせることもなく水蒸気をタップリと多く含んだそのままの勢いでその風が収束するような形となって関ヶ原付近を南東の名古屋方向に流れていっているのが見て取れます。これはこのあたりの地形と大きく関係しています。

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地図を御覧いただければお判りになると思いますが、この関ヶ原一帯の北西には滋賀県と岐阜県の県境を形成する標高1,377mの伊吹山があり、その伊吹山を最高峰とする伊吹山地の標高1,000メートルを超える山々(金糞岳、貝月山、横山岳等)が関ヶ原の北に屏風のように連なっています(写真は26日の帰りに東海道新幹線から撮影した伊吹山の風景です)。

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また関ヶ原の南に位置する標高1,083メートルの霊仙山に端を発して南に向かって、鈴鹿峠に至るまで標高1,247メートルの御池岳を最高峰とする鈴鹿山脈のこれまた標高1,000メートルを超える山々(御在所岳、雨乞岳、国見岳等)が屏風のように連なっています。さらに関ヶ原の南東にある標高908メートルの笙ヶ岳や標高859メートルの養老山といった標高が800〜900メートル級の養老山地の山々が南東方向に連なっています。このように、関ヶ原付近は北側にも南側にも標高1,000メートルを超える高い山々が風の行く手を塞ぐように立ち並んでいて、漏斗のような形状の地形になっているのです。すなわち、北西から南東に流れる冬の季節風の風向に沿って、琵琶湖側から名古屋方面に延びる谷状の地形のど真ん中に関ヶ原は位置しているわけです。このため、ビル風のように気流が関ヶ原付近で収束して集まりやすいので、そこで空気の上昇が促され、降雪量が多くなる…と考えられています。

皆さんご存知のように、冬の北日本、なかでも北陸や信越地方といった日本海沿岸地域は世界有数の豪雪地帯です。新潟県十日町市の山間部などは毎年3メートル近い雪が積もります。ところが、積雪量の最高記録は意外なことにそうした北陸や信越地方ではなく、近畿地方に属する滋賀県の伊吹山がもっているということをご存知でしょうか。この滋賀県の伊吹山で1927年2月14日に記録した11メートル82センチは、世界山岳気象観測史上1位としてギネスにも記録されている積雪量なんです。しかも、日本国内で観測された積雪量の第2位は青森県の酸ヶ湯で2013年2月26日に観測した5メートル66センチ、第3位は新潟県の守門で1981年2月9日に観測した4メートル63センチですので、11メートル82センチというのは、それこそブッチギリの1位というわけです。それにしても11メートルを超える積雪ですか…。4階建てのビルがスッポリ埋まってしまうほどの雪の量です。ビックリです。近畿地方は豪雪となるイメージがほとんどありませんが、この関ヶ原を含む滋賀県の伊吹山地一帯の地域だけは豪雪地帯に指定されています。前述のように、この世界最大の積雪量を観測した伊吹山は滋賀県最高峰で、山頂の標高は1,377メートル。伊吹山を中心とした伊吹山地は太平洋岸式気候と日本海式気候の接合点にあたり、その南北で気候は大きく変わります。

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余談ですが、日本列島が世界有数の豪雪地帯になっているのには地形と海流、そして偏西風が大きく関係しています。雪は、海(またはカスピ海クラスの大きな湖)の水が蒸発し、それが風に運ばれて、山に当たり、凍って落ちて来ることで降ります。したがって、雪がたくさん降るためには、まず大きな海が必要ですが、日本列島の場合は、日本海がそれにあたります。次に、その海の海水温はあまり冷たすぎてもダメで、水が蒸発するぐらいにそこそこ暖かくなければいけません。ですが、日本海には南西から対馬暖流が流れ込んでいて、これまたこの条件を満たします。海から蒸発した水が雪雲を発生させ、風に乗って陸地までやってこなければいけませんが、日本海で蒸発した水は、大陸から吹いてくる非常に冷たく乾燥した偏西風という強い北西からの季節風とぶつかることで雪雲を発生させ、さらにその雪雲は季節風に乗って日本列島にやってきます。ちなみに、同じく日本海に面していながら、朝鮮半島にある韓国がさほどの豪雪にならないのは、この偏西風が大きな理由です。さらに、その雪雲を含む湿った冷たい空気が山に当たって雪となって落ちてこなければいけませんが、日本列島は、国土の約7割が山という山岳国なのでその条件も満たしています。このような大量の雪が降る条件をすべて満たした場所というのは、世界地図を見ても、ほとんどありません。

(1年後の2018年、韓国の平昌で冬季オリンピック&パラリンピックが開催されることになっているのですが、雪は本当に大丈夫なのでしょうか…。しかも、1年前の今年はその準備状況確認のためプレ大会が開催されなくっちゃあいけない筈なのですが、まったく新聞やテレビニュースの話題にものぼりません。加えて、政府が機能停止状態に陥っているようにも思え、来年無事に冬季オリンピック&パラリンピックが開催できるのか…って、私はかなり心配しちゃっています。)

脱線が長くなっちゃいました。このように25日の朝はもしかしたら関ヶ原付近の積雪で東海道新幹線が大幅に遅れるのではないか…と心配になり、予定していた列車の1本前の「のぞみ15号」(東京駅8時10分発)で福山に向かいました。福山には山陽新幹線の駅があり、東京駅発の「のぞみ」も停車する列車があるにはあるのですが、その本数は1時間に1本。1本前の列車といっても、1時間前の発車です。福山駅に停車する山陽新幹線の列車はこの他に新大阪駅〜鹿児島中央駅間の九州新幹線「さくら」と新大阪駅〜博多駅間を各駅に停車する「こだま」があるのですが、どちらも1時間に1本か2本ずつの運行なので、乗り換え時間を考えると結局のところは1時間前に東京駅を発車する1本前の「のぞみ」に乗るのが一番の得策ってことになってしまうんです。東京駅の案内表示盤を見ると、「東海道新幹線の下りは関ヶ原付近の積雪により最大で15分程度の遅れ」という案内表示が出ていました。15分程度の遅れなら1時間後に東京駅を発車する「のぞみ19号」でもよかったかな…とも思いましたが、早く着くぶんにはまったく問題ありません。せっかくなのですから車内の駅弁ではなく、福山駅に着いてから尾道ラーメンをはじめとした地元の名物料理で昼食を摂りたいですからね。

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この日の日本列島は中国地方から北陸地方にかけての日本海側でまだ雪が降っているものの、太平洋側は概ね晴れ。東海道新幹線の車窓からは上部に雪を被った富士山の雄大な姿が楽しめました。冬季のこの時期は大気も乾燥しているので、富士山がハッキリクッキリ見えますし、ちょういい感じに冠雪しているので、しばらく見惚れるほどの車窓でした。やはり、富士山は私達日本人の心の山です。私の座席の周辺でもパシャ、パシャとスマホやカメラでこの美しい富士山の姿を撮影する音が聞こえました。

岐阜羽島駅を過ぎたあたりから車窓の景色が少し暗くなってきました。それまでは雲一つない…と言ってもいいくらいの澄み渡った快晴の空だったのですが、徐々に低い雲が垂れ込めてきました。ほどなく地面に白い雪が目立つようになってきました。西に向かって進むにつれ、その積雪の量も増えていき、新幹線も徐々に速度を落とします。いよいよ問題の関ヶ原付近に差し掛かかってきました。車窓にはチラチラと雪が舞うようになり、時速数十kmという徐行に変わります。外はかなりの積雪です。積雪量は多いところで30~50センチといったところでしょうか。伊吹山も舞い降る雪で霞んで、よく見えません。

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関ヶ原を抜け米原駅を過ぎると車窓の景色に雪の白さがまったくなくなりました。車窓の風景も明るくなり、一面の青空が戻ってきました。新幹線も速度を上げ、通常の速度での運行に戻ります。結局、定刻のちょうど15分遅れで京都駅に到着しました。岐阜羽島駅と米原駅の間の距離は約50km。その約50kmの間でここまで極端に気象が異なるわけです。さすがに関ヶ原、これが関ヶ原です。「世の中の最底辺のインフラは“地形”と“気象”」です!


……(その2)に続きます。

執筆者

株式会社ハレックス代表取締役社長 越智正昭

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