2017/02/10

Act for 2050(その3)

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JR福山駅前からはタクシーを利用して会場である農研機構西日本センターに向かいました。タクシーに乗り込んで運転手さんに「農研機構西日本センターにお願いします」と行き先を告げたところ、運転手さんからは「のうけん……?」というつれない返事が返ってきました。個人タクシーなので地元のベテラン運転手さんのようなのですが、どうも農研機構西日本センターを知らないようです。慌てて鞄から案内状を取り出して「なら、西深津町6-12-1へ」と農研機構西日本センターの住所を告げると、「ああ、農業試験場ね」という返事が返ってきました。地元ではいまだに“農業試験場”という旧名称で呼ばれていて、“農研機構西日本センター”の名称は一般的ではないようです。

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(NARO:National Agriculture and Food Research Organization)は、茨城県つくば市に本部を置く農林水産省所管の国立研究開発法人で、名称の通り、食料・農業・農村に関する総合的な研究開発を行う研究機関です。略称は『農研機構』。茨城県つくば市にある本部のほか、13の内部研究所や研究センター、生物系特定産業技術研究支援センターから構成されています。

農研機構は、2001年4月に、農林水産省に属する試験研究機関のうち農業研究センター、果樹試験場、野菜茶業試験場、家畜衛生試験場、畜産試験場、草地試験場、北海道農業試験場、東北農業試験場、北陸農業試験場、中国農業試験場、四国農業試験場、および、九州農業試験場の合計12機関を整理統合し、農業に関する技術上の試験及び研究等を行う「農業技術研究機構」として発足しました。2003年10月に、特殊法人改革に伴い、農林水産省所管の「生物系特定産業技術研究推進機構(生研機構)」と統合して「農業・生物系特定産業技術研究機構」と改称。2006年4月には「農業工学研究所」及び「食品総合研究所」を統合するとともに、廃止された「農業者大学校」の機能を受け継ぎ、「農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)」として発足しました。

この広島県福山市にある農研機構西日本センターはそうした農研機構の全国に4つある地域研究センターの一つで、正しくは近畿中国四国農業研究センター。その名の通り、近畿地方、中国地方、四国地方を管轄しています。農研機構はこの西日本センターのほか、北海道(札幌市豊平区)、東北(岩手県盛岡市)、九州沖縄(熊本県合志市)に同様の地域研究センターを保有しています。この農研機構西日本センターは元々は中国農業試験場で、先ほど乗車した個人タクシーの運転手が農研機構西日本センターと言ってもピンとこず、住所を伝えてやっと「ああ、農業試験場のことね」と目的地を理解してくれたのは、そうした背景でした。それにしても、中国農業試験場が農研機構の前身である「農業技術研究機構」に整理統合されたのが2001年4月のこと。それから16年も経っているというのに、地元では「農研機構」の名称が浸透しておらず、今でも「農業試験場」と呼ばれていることに驚きました。それだけ地元では国の機関である「農業試験場」が広島市ではなくて福山市に置かれていたという意義が大きかったということなのでしょう。

近畿中国四国農業研究センターの名称の通り、この日の会議には中国地方だけでなく、近畿地方、四国地方の全府県の農業試験場や農林水産研究所等で農業研究、特に「農業環境工学推進部会」ということで農業を取り巻く自然環境分野について研究をなさっておられる研究員の方々が集まっておられました。参加者名簿を眺めてみると、私の出身地である愛媛県をはじめ、小学校高学年時代を過ごした高知県、中学校高校時代を過ごした香川県、大学時代を過ごした広島県…と私にとって大変に馴染みのある地名ばかりが並んでいます。特に、農研機構の西日本センターは元の中国農業試験場であるこの広島県福山市だけでなく、香川県善通寺市にも地域の研究拠点となる四国研究センターを有していて、この日の会議にはその善通寺市の四国研究センターからも何人もの研究者の方が参加されておられました。善通寺市の四国研究センターは元の四国農業試験場です。そして善通寺市といえば私が中学校高校時代を過ごした丸亀市の隣町。高校時代の友人には善通寺市から通学してきていた友人が何人もいます。申し訳ありませんが、そういうことで、初対面の方がほとんどなのに、その場の雰囲気に“アウェイ”感はまったく感じられず、私にとって完全に“ホーム”と呼べるくらいのものでした。会場内で飛び交う言葉のイントネーションがなんと心地よいことか(笑)

会議次第によると、1月25日と26日の2日間にわたって開催された今回の「平成28年度近畿中国四国農業試験研究推進会議 農業環境工学推進部会」は、それぞれの地域で取り組んでいる研究の成果を発表・評価し、地域研究・普及連絡会議で検討する技術的課題候補の選定を行うこと、さらには平成29年度の問題別研究会の実施計画を議論することを目的とした会議のようです。

そうした中、そうした研究者の皆様への話題提供と言うことで3人の外部スピーカーが招かれ、「ICT、IoT技術の作業技術分野における活用の現状と展望」という基本テーマで講演をさせていただきました。

トップバッターは鳥取大学農学部生物資源環境学科の森本英嗣准教授。森本准教授のご講演の題目は『SIPにおけるスマート農機群の開発・展望』というものでした。SIP(Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program)とは平成25年6月7日に閣議決定された国の科学技術イノベーション総合戦略に基づき、内閣府に設置された総合科学技術・イノベーション会議が自らの司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野の枠を超えたマネジメントに主導的な役割を果たすことを通じて、科学技術イノベーションを実現するために新たに創設するプログラムのことです。

内閣府・科学技術イノベーション総合戦略

鳥取大学農学部ではそのSIPの一環として、農業分野におけるICT・ロボットの導入に関する研究をなさっていて、今回はその事例をご紹介いただきました。その内容もさることながら、私が最も敏感に反応したのは、森本准教授が講演の冒頭におっしゃられた「ACT for 2050」という言葉。少子高齢化が進み労働人口が急激に減少していく中で、一番最初に、そして最も大きく影響を受ける産業が農業をはじめとした第一次産業と言われています。

世界の食料需給は、人口増加や開発途上国の経済発展に伴う食料需要の増大が見込まれるなか、農業生産は水資源の不足や地球温暖化の影響等の不安定要因も抱えていて、中長期的には逼迫する可能性が指摘されています。我が国は、食料の多くを海外に依存している状況にあり、食料自給率は現在40%と主要先進国のなかで最低水準にあります。このようななか、我が国の食料の安定供給を図り、食料自給率の向上や食料供給力の強化、さらには食品の安全確保等が国の最重要課題の一つになっています。

そのためには、従来からのやり方を踏襲するのではなく、農業の分野にも他の産業分野で使われているような技術や知見を積極的に取り入れてイノベーションを起こす必要があるというのが「Act for 2050」という森本准教授の提言です。2050年といえば今から33年後。現在、農業に従事する方々の平均年齢は65歳前後なので、33年後といえば現在日本の農業を支えていただいている主力の方々はすべて鬼籍に入っておられるか、完全にリタイアされておられます。逆に現在30歳以下の若い農業従事者の方々が33年後は日本の農業を支える主力になっている計算になります。そうした33年後を目指して我が国の食料の安定供給の仕組みを構築するためいろいろと取り組もうというのが「Act for 2050」の趣旨です。これには私は大いに賛同します。それで、今回のブログの題名にもこの「Act for 2050」を使わせていただきました。

私も森本准教授のおっしゃられる「Act for 2050」と同じ意味のことを別の表現で表しています。それは「孫達の世代にジイジとして何を残せるのか」ってことです。これは還暦を過ぎて2人の孫がいる私の仕事に対するモチベーションの大きな源泉になっています。2人の孫は現在3歳半の女の子と7ヶ月の男の子。2050年には36歳と33歳ですから、まさに社会に出て大活躍している頃です。その時、たぶん私はこの世に生きていないかもしれませんが、そうした孫達の世代に安心安全で安定して暮らせる世の中を残すために少しでも貢献することが、還暦を過ぎたジイジのこれからの仕事だと思っていますから。

そして今、気象情報会社の社長として農業という国の基盤をなす産業に関わるチャンスを得たことで、まさに「孫達の世代にジイジとして残せるものはこれ(農業向け気象情報提供)だ!」と思っているところです。私が通信エンジニアとして、ITエンジニアとして、また気象情報会社の社長としてこれまでの経験を通して学んできたことを余すことなく発揮し、ビジネスキャリアの最後を飾るに相応しい農業というフィールドを得ることができたと嬉しく思っているところです。まだ現役としてビジネスの最前線でバリバリやれているうちに農業という日本の基盤となる産業の末端に関わることができて、間に合ってよかった…とも思っています。「Act for 2050」、その通りです!

次にご講演なさったのは株式会社クボタ アグリソリューション推進部の技術顧問を務めていらっしゃる青山郷さんで、ご講演の題目は『土地利用型農業を支援するクボタ・スマート・アグリ・システム(KSAS:Kubota Smart Agri System)』というもので、(株)クボタにおけるICT関連の取り組みについてご紹介いただきました。KSASとは農業機械に最先端技術とICT(情報通信技術)を融合させたクラウドサービスのことです。青山技術顧問のご講演の内容は、ほぼこのHPに掲載されておりますので、こちらをご覧ください。

クボタ・スマート・アグリ・システム(KSAS)公式HP

私がここで申し上げるまでもなく、株式会社クボタは、大阪府大阪市浪速区に本社を置く産業機械(農業機械、建設機械等)、建築材料、鉄管、産業用ディーゼルエンジンの製造メーカーで、農機(農業機械)メーカーとしては国内トップ、世界でも第3位の会社さんです。トラクターやコンバインといった農業機械(ハードウェア)を製造するメーカーとしての印象の強いクボタ様ですが、最近力を入れておられるのがKSASという営農支援システム(ソフトウェア)。特に農業機械と連動し、品質・収量の向上と、順調稼働をサポートするためのシステム(サービス)というのが農機メーカーさんらしい特徴です。

特筆すべきは、PF(Precision Farming:精密農業)コンバインに備え付けられた玄米タンパク含有率を自動的に測れる食味センサーや収穫したモミ(籾)の重量を自動計測する重量センサーで取得したデータに基づき、施肥見直しを行おうという取り組み。「This is IoT」って取り組みです。

クボタ様のKSASでは、弊社の「HalexDream!」を用いた気象情報提供を検討いただいており、現在、両社でその準備を進めているところです。最後に青山技術顧問からそのことに触れていただき、上手に講演のバトンを渡していただきました。

最後に登壇したのは私で、『農業生産における気象情報の活用について』という題目で講演させていただきました。農研機構の近畿中国四国農業研究センター様から今回の講演のご依頼をいただいたのは昨年の11月のことでした。以前にどこかでやった講演を聴いていただいた近畿中国四国農業研究センターの方から話題提供のため是非に…ということでご依頼があったのですが、私のほうとしても気象情報を農業分野で上手く活用していくためには、農業分野の研究機関の皆様との連携が不可欠と思っていたところでしたので、「ついに来たよぉ~。渡りに舟」って感じで、二つ返事でお引き受けさせていただきました。なので、実は今回の講演はいつも以上に楽しみにしていました。

農業分野の研究機関の方々がお相手の話題提供ということですので、通常の農業向けの講演とは異なり、弊社の農業気象の取り組みに関する基本的考え方や、今後の拡充計画、現在考えているAI(人工知能)技術の活用を含めた今後の方向性等についてもご披露させていただきました。

この日、講演をお聞きいただいた方は約60名。そのほとんどがこれまでずっと農業という産業に主体的に関わって来られた方々ばかりで、この場にいる中では唯一私だけが通信、IT、そして気象…と農業以外の“異業種”でこれまでキャリアを積んできた人間です。話題提供ということでいうと、そうした異業種の人間から見て、農業という産業がどのように見えるのかということも今後皆様が研究を進めて行かれる上において刺激(参考)になるのではないかと思い、皆さんの反感を買うことを恐れず、敢えて述べさせていただきました。

農業関係者にとっては若干耳の痛いようなことも述べさせていただいたのですが、聴いていただいた方々の反応はすこぶる良く、真剣な眼差しでスライド画面を見つめ、熱心にメモを採っておられる方がほとんどでした。これまで数多くやらせていただいた講演の中でも反応はかなりの上位です。講演時間は30分の予定だったのですが、あまりに皆さんの反応がいいので、調子に乗りすぎて、5分ほど予定をオーバーしちゃいましたが…。反応が良かったので講演の後に質疑応答の時間では、いっぱい質問が飛んでくるのかな…と大いに期待して待ち構えていたのですが、その意に反して、場内はシィーーーン。静まり返ったままです。私の前に講演されたお二人には幾つも質問が出たのですが、「アレっ? スベっちゃったかな?」と肩透かしを食った感じがしちゃいました。

講演の後、福山駅近くの居酒屋に場所を変えて開催された懇親会で、聴いていただいた皆さん方との意見交換をさせていただいたのですが、逆にその場では質問の嵐に遭っちゃいました。どうも皆さん方は私の講演をお聴きいただいた直後には、この情報を農業の分野で、もっと具体的には自分達の今後の研究においてどう使おうか…と考えることの方ばかりに頭がいってしまい、質問に至らなかったってことのようでした。中でも、私が唱える農業におけるディジタル化とモデル化。ITの基礎中の基礎ともいえるこの考え方が一番インパクトがあったようです。「これまで研究の進め方等でモヤモヤしていたことがスッキリとして、腑に落ちました」というお言葉もいただきました。これが一番インパクトがあったようで、聴いていただいた皆さん方の今後のヒントになったのかな…と思いました。

また、「農業の関係者は皆、口々に“気象は大事だ、気象は大事だ”と言うのですが、実際には農業の研究者の間では気象分野は非常に影の薄い存在で、本当に重要と考えているのか、私個人は甚だ疑問に思ってきました。しかし今回の越智社長の講演を聴いて、気象情報の活用というものに、本当の意味での関心が高まるのではないかと期待しています」という嬉しいお言葉もいただきました。

そういうお言葉を聴きながら、福山までやって来て講演をさせていただいて本当によかったな…と思いました。「今度、ウチでも講演をお願いします」といった講演依頼を幾つかの府県の方々からいただきましたし、「具体的な研究に関して一歩踏み込んだ意見交換の場をもうけていただけませんか」といった声もいただきました。これで農業分野における気象情報活用を推進するために、研究者の方々との連携を図りたい…という念願が果たせそうな雰囲気になってきました。少なくともその糸口はできたと思っています。

翌朝、東京に戻ったのですが、福山駅から新大阪駅までは敢えて九州新幹線の「さくら」に乗りました。車両は東海道・山陽新幹線で「のぞみ」等に使用されているN700系なのですが、車体の色が薄い水色になっています。九州新幹線は博多駅~鹿児島中央駅間が2011年3月に全線開業し、このN700系「さくら」もその時から運行されているのですが、実は私、N700系「さくら」に乗るのは今回が初めてです。前日、福山駅に降り立った時から、帰りは「のぞみ」ではなく、敢えて新大阪駅までN700系「さくら」に乗ろうと目論んでいました。いつか、東京から「のぞみ」、「さくら」と乗り継いで、陸路で鹿児島まで行ってみたいと思っています。鹿児島は妻の出身地で、妻は40年前に大学進学のため初めて上京する時に夜行寝台列車を使った以降は、ほとんど空路を使っての帰省だったそうなので、久しぶりの陸路、それも昼間のうちに鹿児島にまで到着できる新幹線での帰省を体験して、故郷鹿児島が近くなったことを実感してもらいたいと思っています。

20170210-3

――――――――〔完結〕――――――――

執筆者

株式会社ハレックス代表取締役社長 越智正昭

株式会社ハレックス
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越智正昭

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