2017/02/22

銀の匙Silver Spoon第2章(その2)

秘かに氷点下20℃を期待してやって来た中標津ですが、その期待に反して、この日の中標津は前日までと一変して晴れて気温も高め。中標津空港に着陸してボーディングブリッジのところまでタキシングしている間にキャビンアテンダントさんから「中標津の気温は1℃」という機内放送がありました。マイナス1℃ではなく、プラスの1℃。前日の予報では暖かくなるということでしたが、その通りになりました。ちょっと拍子抜けした気分です。でもまぁ〜、それでも1℃は1℃。それなりに寒いですけどね。

雪はさほど積もってはいません。オホーツク海には親潮という寒流が流れていて、雪の原材料になる水蒸気が発生しにくいので、気温が低いわりには積雪はさほど多くはありません。それと風が強いので降った雪も積もりづらいところもあります。ただただ、寒いだけです。道路脇に雪が残っているものの、路面に雪はありません。クルマで迎えに来ていただいたオーレンス総合経営の社員さんによると、2月にこんな暖かくなることは滅多にないのだとか。これもやはりレジェンド級の“晴れ男”の私がやって来た影響なのでしょうか…。

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株式会社オーレンス総合経営さんの入っているビルは、中標津空港のすぐ近くにあります。まずはオーレンス総合経営さんに立ち寄って、高橋武靖社長をはじめ幹部の方々とご挨拶。満面の笑みで出迎えてくれた高橋社長の言葉は「せっかくこの時期に気象情報会社の社長さんに当地にお越しいただくのだから、ホワイトアウトしそうなくらいのブリザードを是非体験していただきたかったのですが、あいにく今日はよく晴れて、気温も高めで、拍子抜けされたのではないですか?私はこの中標津で生まれ育ったのですが、2月に中標津がこんなに暖かくなるなんて、記憶にないくらいなんですよ」…でした。

ホワイトアウトとは激しい吹雪(ブリザード)のため視界がまったくなくなり、真っ白で1メートル先ですらまったく見えず、極めて危険な状態になることです。中標津でも4年前にこのホワイトアウトによりクルマが立ち往生して、中標津町だけで4人の方がお亡くなりになったのだとか。先ほどクルマで空港まで迎えに来ていただいたオーレンス総合経営の社員さんも「私もその日は空港から自宅に帰っていて、ホワイトアウトに遭い、身の危険を感じました」とおっしゃっていました。雪だけでなくオホーツク海から吹き込む風が強いところならではです。空港への着陸の途中で眼下に見えた格子状の防風林がそれを物語っています。

高橋社長のお言葉を受けて、私からは「レジェンドと呼ばれるくらいの“晴れ男”の私がやって来たわけですから、こういうこともあるでしょう。私が当地に滞在する明日もこれと同じような天気で、私が帰る金曜日からは再び西高東低の冬型の気圧配置が戻ってきて、この週末は例年通りの2月らしい寒い日に戻りますよ」と応え、ガッチリ握手しました。

高橋社長とは昨年10月31日に札幌市で開催された北海道TMRセンター連絡協議会で私が講演をさせていただいた時が初対面だったのですが、その後、2度、高橋社長が中標津から東京に出張でいらっしゃった際に弊社を訪ねてきてくださり、意見交換をさせていただいてきました。私と同世代(私より1歳年下)で、農業という産業に向き合う立ち位置と姿勢が私とほとんど同じなので(しかも業種が全くカブらない)、一気に意気投合。両社がお互い補完しあえるよきビジネスパートナーになるべくその第一歩を踏み出したのが今回の私の講演でした。

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株式会社オーレンス総合経営はこの道東の中標津町に本社のある税理士事務所で、北海道の農業経営者を主顧客として税務および会計業務の支援を中核に、事業計画・経営支援・法人設立など多角的な視点で農業経営に特化した各種サポートサービスを行っている会社です。1970年に個人事業である「福田紀二税務事務所(現・オーレンス税務事務所)」として創業したのが始まりで、1981年に地方の情報産業発展に寄与するため「中央コンピューターサービス株式会社」、1989年に企業経営者に向けた情報支援環境の受け皿として「株式会社オーレンス総合経営」、1996年に地域の情報通信環境支援として「株式会社オーレンス」とそれぞれ設立し、最近ではオーレンスグループ全体として、地方における情報過疎を排除すべくその総合的な活用と発展に重きを置いて活動しておられます。従来は中標津町のある北海道の道東エリアを中心に事業を展開しておられましたが、ここ10年で帯広市、札幌市など道内各所に支社を設立し、エリアを北海道内全域に拡大していらっしゃいます。現在、顧客の数は約3,000。そのほとんどが農業法人および農業関連の企業です。

株式会社オーレンス総合経営 公式HP

オーレンス総合経営さんとの最初の接点は昨年の2月に農林中央金庫系列の投資会社、株式会社アグリビジネス投資育成さんが東京目黒で若手の農業経営者向けに開催したセミナーに私とオーレンス総合経営の福田直紀専務の2人が講師に呼ばれ、その講師控え室でお会いしたのが最初でした。その場で福田専務と意気投合。「是非、中標津の弊社にお越しください」というお声をかけていただきました。その時、「ええ是非!機会があれば中標津に行かせていただきます」とお応えしたのですが、その約束をあれから1年後に果たすことができました。オーレンス総合経営では札幌支社長も務めているその福田専務は翌日(2017年2月16日)に私の講演に間に合うように中標津に戻ってくるのだそうです。お会いするのが楽しみです。

「戦略とストーリーで会計・税務業務の価値は高まる」(カイケイ・ファン)

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オーレンス総合経営さんのビルの入り口には私の講演のチラシが貼られていて、ちょっと恥ずかしい感じがします。酪農関係者を中心に既に120名を超える参加申し込みがあるのだとか。それを聞くと、ちょっと緊張しちゃいます。私の講演は翌日(2017年2月16日)の13時30分からなので、それ以外の時間帯は、是非、当地の酪農法人さんや農業法人さん、TMRセンター等をいろいろと視察させて欲しいというリクエストを出していたので、オーレンス総合経営さんにはしっかり私の希望に合ったスケジュールを組んでいただいていました。

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まず訪問させていただいたのは中標津町開陽にある株式会社 開陽D.A.Iが運営する「開陽D.A.I TMRセンター」。TMR(Total Mixed Ration)とは、牧草やトウモロコシ等の粗飼料(サイレージ)と各種ミネラル等の濃厚飼料を適切な割合で混合し、乳牛に必要となる養分を十分供給できるように調整した乳牛用の飼料のことです。以前はこうした飼料の製造を酪農家それぞれがやっていたのですが、それでは非効率的で、規模を拡大すると設備投資も運用費用も馬鹿にならないほど嵩むため、10〜20軒ほどの酪農家が共同でTMRセンターを設立して、そこで飼料の製造を集中して行うようになってきています。

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開陽D.A.I TMRセンターは12戸の構成員(FS飼養6戸、つなぎ3戸、育成1戸、畑畜1戸、畑作1戸)により平成21年に設立。現在は牧草(チモシー)地とトウモロコシ(デントコーン)畑等922.2haを有し、飼養頭数は974頭。すなわち約1,000頭の乳牛の飼料をこの設備で供給しています。施設内には62.0m(奥行き)×12,0m(幅)×2.7m(高さ)の巨大なバンカーサイロ24本が並んでいるのが、まず目につきます。

牧草地とトウモロコシ畑など合わせて922.2haと言ってもピンとこないかもしれません。広い面積のところをイメージするために比較対象として使われるのが東京ドーム何個分とか、JR山手線の内側の面積の何分の1という表現なので、それで表現してみると、東京ドームの建築面積は約4.7haなので、922.2haというのは「東京ドーム約200個分」。JR山手線の内側の面積は約6,500haなので、922.2haというのはJR山手線の内側の面積の約7分の1。イメージがつきましたでしょうか。乳牛1,000頭が1年間に食べる牧草やトウモロコシの量がいかに多いかがお分かりいただけると思います。

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牧草地等で刈り取った青刈り作物や生の牧草を乳酸菌の作用により発酵させた飼料のことをサイレージと呼ぶのですが、サイロは刈り取った作物を漬け込んでサイレージに調整するための”容器”のことです。言ってみれば、漬物を作るための樽のようなものです。刈り取った青刈り作物や生の牧草はサイロに漬け込んで密封しておくと、ふつう3ヶ月ほどでサイレージになります。日本では、青刈り作物のほとんどは、このサイレージ用に利用されています。サイロにも、さまざまな種類があります。牧場の風景として真っ先にイメージする、あの塔のようなかたちをしたタワーサイロは、実は現在ほとんど使われておりません。主流となっているのは、バンカーサイロと呼ばれる箱型のものなのです。仕組みは簡単で、この巨大な箱の中に牧草地等で刈り取った青刈り作物や生の牧草を詰め込み、その上からビニールシートなどを被せて、密封するというものです。漬物と同じように、そのビニールシートの上からでっかいトラクターの古タイヤを漬物石のように載せて、ビニールシートを風で飛ばされないのと同時に重しにして、密封します。このバンカーサイロには地上と半地下式があり、開陽D.A.I TMRセンターのバンカーサイロは地上式です。

ちなみに、サイロのもっと簡単なものにスタックサイロがあります。これは、平坦な場所にビニールシートを敷き、この上に刈り取った牧草を積み上げて、さらにその上にビニールシートを覆い、土砂などで密封します。一方、ラップサイロと呼ばれるものは、気密性のあるフィルムで材料を包むというものです。牧場へ行くと、白や黒のフィルムで大きな丸い包みのようにしたものを幾つも積み上げている風景を見たことがおありの方もいらっしゃるかと思いますが、それがそうです。

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開陽D.A.I TMRセンターのバンカーサイロは現在雪に埋まっているように見えますが、実はビニールシートの上に雪が載っているだけです。あの中には牧草地等で刈り取った青刈り作物や生の牧草を乳酸菌の作用により発酵させたサイレージがギッシリと詰まっています。ちょうどサイレージの運び出し作業を行っていたので、中を見させていただきました。こちらはトウモロコシ(デントコーン)のサイレージです。

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こちらは牧草(チモシー)のサイレージです。乳酸菌の作用により発酵させているので、ほとんど匂いはしません(もちろん多少は匂いますが、気になるほどではありません)。

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そのサイレージをこの25トン積載と言う超大型トラック(ミキサー車)で運びます。と言っても、このトラックが走れるのは開陽D.A.I TMRセンターの構内だけです。ナンバープレートを付けてはいますが、あまりにも車体が大き過ぎて、一般公道は走れません。このトラックが2台あります。

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粗飼料(サイレージ)を積載したこのトラックがこの12基並んだ飼料タンク(各タンクには別々の濃厚飼料が入っています)の下を通り、サイレージに各種ミネラル等の濃厚飼料を適切な割合で混合し、乳牛に必要となる養分を十分供給できるように調整した乳牛用の飼料を作り上げていきます。各種ミネラル等の濃厚飼料の配合具合は粗飼料(サイレージ)の栄養分析や、与える乳牛の状態によって微妙に異なります。毎週、専門の鑑定士がサイレージの発酵具合や栄養の分析を行い、それにより与える乳牛ごとの濃厚飼料の配合具合を設計したカルテのような指示書を作り、TMRセンターではその指示書に基づいて配合を行っていきます。かなり科学的です。

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それにしても乳牛が約1,000頭もいると、1年間にこの巨大なバンカーサイロ24本分の牧草を食べるのですね。凄い量です。

ちなみに、6月になると、このような超大型の自走式コンバインハーベスターで922.2haもある牧草地とトウモロコシ畑を一気に刈り取るそうです(これは模型です)。一面緑の畑を、この機械でガァ~~~って刈り取っていくわけです。想像しただけで大迫力の光景のようなので、是非、見学に来たいと思っています。

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事務所で開陽D.A.I TMRセンターの千葉清正代表取締役のお話をお聴きしました。酪農は牧草次第のところがあり、牧草の栽培は極めて大事なんだそうです。その中でも気象は重要で、昨年の夏は雨の日が多く、牧草が予定した必要量貯められなかったのだそうです。また、牧草を収穫する時は、絶対に雨に濡らしちゃあダメなんだそうです。濡れた牧草はサイロの中でカビ(黴)ることがあり、少しでもカビてしまったら、またたく間にサイロ中に影響して、最悪の場合、サイロ1本分ダメにしてしまうこともあるのだそうです。なので、収穫期(刈り取り期)には特に気象の情報に敏感になるのだそうです。なるほどぉ~。

開陽D.A.I TMRセンターの前に廃校となった小学校を利用して大規模なシイタケ栽培を行っている農業法人があるので、そこも見学させていただきました。

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シイタケ栽培(培養)用の大型のビニールハウスが幾つも並んでいます。

シイタケは古来日本では古くから産したものの、栽培は不可能で自生したものを採集するしかありませんでした。その一方で精進料理において出汁を取るためには無くてはならない素材であり、かつては高価で取り引きがされた食材でした。江戸時代から、原木に傷を付けるなどの半栽培が行われ始めたのですが、シイタケの胞子が原木に付着してシイタケ菌の生育が見られるかどうかは全く不明であり、シイタケ栽培は成功した場合の収益は相当なものでありましたが、失敗した場合は全財産を失うほどの損害となる一種の博打のようなビジネスだったようです。様々な試行錯誤の結果、20世紀に入ってからシイタケの人工栽培の方法が確立されました。最近では原木栽培または菌床栽培されたものが市場流通品のほとんどを占めるようになっています。

シイタケは生産量ではエノキタケに及ばないのですが、日本で最も生産額が多いキノコです2010年(平成22年)には生シイタケが77,079トン・721億円、乾シイタケが3,516トン(生換算重量24,614トン)・151億円生産されました。乾椎茸は大分県が、生椎茸は徳島県が日本一の産地で、そのほか鳥取県、島根県、岡山県、愛媛県、熊本県、宮崎県、群馬県、栃木県、静岡県、長崎県、岩手県、新潟県などで栽培が盛んです。シイタケは自然界では、主にクヌギやシイ、コナラ、ミズナラ、クリなどの比較的温暖なところに生える落葉広葉樹の枯れ木に発生するため、そうした落葉広葉樹がほとんど生えていない北海道では、これまでシイタケの栽培は行われてきませんでした。そのシイタケをこの厳寒の中標津で栽培しようというわけで、かなりチャレンジブルな取り組みだとお見受けしました。

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中標津では原木の入手が難しいため、菌床栽培法が採られています。菌床栽培とは、菌床(オガクズなどの木質基材に米糠などの栄養源を混ぜた人工の培地)でキノコを栽培する方法で、主に室内で栽培します。栽培の基本はシイタケが生育しやすい天然環境を室内に再現することです。室内で栽培することで「光」「温湿度」「二酸化炭素」を管理し、外部環境の影響を受けにくい環境を作り出せるので、安定した品質と収穫量を得ることができます。反面、培地の高温滅菌や最適な生育条件を作り出すため「滅菌後の冷却」「冬は暖房」「夏は冷房」と多くのエネルギーを必要とします。 また、「害虫と害菌」の侵入を阻むため、生産現場によっては食品加工工場と同程度かそれ以上の衛生管理と「エアーシャワー」「紫外線殺菌灯」などによる対策を行い、「菌糸体の培養蔓延」から「子実体の発生」および「収穫」まで全ての過程を管理された屋内で行っています。大規模な生産者では、クリーンルーム内で生産を行っているところもあります。

見学させていただいた農業法人さんの農場もクリーンルームとまではいきませんが、かなり厳重な環境管理の下で、シイタケの栽培を行なっています。シイタケを栽培している大型のビニールハウスの中をチラッと見させていただいたのですが、中はムッとするくらいの高温多湿の環境が作り上げられていて、メガネがすぐに曇ってしまったので、よくは見えていません。

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……(その3)に続きます。

執筆者

株式会社ハレックス代表取締役社長 越智正昭

株式会社ハレックス
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越智正昭

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