2018/06/08

4つのCH

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現在、我が国経済は、企業業績の持ち直しや家計での回復の兆しが見られ緩やかに拡大基調を継続しています。また、景気の先行き観につきましても、企業業績の上振れ、製造業での在庫調整の進展、人手不足を背景にした雇用所得の改善、政府による経済対策に伴う公共投資等が景気を下支えに作用し、欧米諸国での政治・政策動向や東北アジア地域での政治的緊張が高まっていることに留意する必要があるものの、東京オリンピックに向けた関連需要の本格化など受けて緩やかに拡大基調を維持していくとみられています。

いっぽうで、少子高齢化の急速な進行や、国際的な景気の減速と低迷、環境問題の深刻化など、我が国を取り巻く社会経済環境は厳しさが増してきています。また、世の中にモノが溢れている現在、多様化する顧客ニーズを正確に掴んで売れる商品を作り続けることは非常に難しい時代になってきています。苦労して作った製品も、その“旬”の時期は年々短くなってきており、企業経営においても製品やサービスのライフサイクルにかかわるコストを抑えながら品質を保持し、市場が求める製品やサービスを最適なタイミングで投入する仕組み作りが急務の時代となっています。

特に大きな転換点を迎えているのはIT(情報技術)産業の市場ではないでしょうか。これまでパソコンやインターネットの普及により成長を続けてきたIT産業の市場は、今や成熟の時代を迎え、新たにスマートフォンやスマートテレビ、ビッグデータ、IoT、AI等、実に多様なサービスがネットワーク上に重畳されつつあります。「産業のIT化」や「スマート化」と表現されるこれらの新たな市場において、IT産業は、これまでともすれば陥りがちだった「自身を中心に他の産業が回っているという“天動説的”な自己認識」を根底から改めざるを得ない時代に直面していると言っても過言ではないように思えます。

こういう時代においてはそれぞれのシチュエーションに合わせて企業戦略を練るのでは遅過ぎます。市場環境、顧客ニーズは時々刻々と変化しています。それもこれまで経験したこともないような速度で。やっと自社の仕組みが変わったと思えた時には、既に市場は想定していた状況とは異なっていた…ということがしばしばあります。また年度ごとに立案される事業計画では市場の変化に追いつけず、市場のニーズに合わなくなった途端に古臭いレガシープロセスとして取り残されることになり、これが将来のプロセス改善を妨げるというケースもあちこちで散見されるようになってきています。言ってみれば、企業経営者にとってはこれまでの企業経営の考え方のままでは生き残っていけない…という危機的状況に立たされつつあると言えます。この危機から脱却するためには、これまで通りの旧態依然とした考え方に安住することは決して許されることではなくなってきています。

こういう中にあって時代が求めているキーワードは、『4つのCH』……ではないかと私は思っています。

ここで言う『4つのCH』の意味するところとは、

 PinCH
 CHance
 CHange
 CHallenge

のことであり、文字通り、
「現状に対して常に危機意識を持って臨み、しかもそれをむしろ前向きに好機として捉え、自ら(自らの組織)を変革し、今後に向けて挑戦する」
ということです。

特に最初の『PinCH』が一番重要だと私は思っています。前述のように市場環境、お客様ニーズは大きく、そしてこれまで経験してきたことのないような速さで変化してきています。一番最初に述べましたように、我が国の経済は、現状、緩やかに拡大基調を継続しています。ですが、これは総体としての市場の状況であって、その市場の中身は急激に変化を起こしてきているということを忘れてはいけません。これまで自社を支え続けてきたビジネスモデルにこの先も頼るだけで本当にいいのか、そのビジネスモデルに市場としての成長性はあるのか…という問題意識、それも強い問題意識を企業経営者は持つ必要があると思っています。それがすべての原点、出発点であると思っています。

私は株式会社ハレックスという気象情報会社の経営に15年間携わらせていただきましたが、常にこの問題意識、危機意識を持ち続けてきました。これだけは自信を持って言えます。そして、今、「経営の本質は、変転する市場とお客様の要求を見定めて、自社の経営の定義を書き換えること」だという経営哲学に至りました。その原点にあったのが、この危機意識だったように思っています。

私は代表取締役社長に就任させていただいた時、実は弊社は倒産寸前の崖っぷちに立たされていました。そして、私は経営立て直しのために筆頭株主の会社から送り込まれた社長でした。お恥ずかしい話ですが、銀行からの資金の貸し渋りに遭ったり、社員に対しても給料の遅配を余儀なくされるような状況でした。それをなんとか3年で単年度黒字にまで戻し、その後、13期連続で黒字経営を続けさせていただいています。で、その15年の間に二度、大きく自社の事業の定義の転換、すなわちビジネスモデルの変更を行っています。言ってみれば、倒産寸前の崖っぷちという企業経営においてこれ以上はないようなPinch中のPinchからスタートだっただけに、危機意識が人並み以上に研ぎ澄まされ、危機意識がすべての原点になると言い切れるのだと思っています。

弊社は気象情報会社と言うように“情報”の2文字が付いています。なので、IT産業の市場の変化に関しては大きく影響を受けます。2度にわたるビジネスモデルの転換、特に2度目に行った転換は、このIT産業の市場の変化(の兆し)を受けてのものでした。自社を取り巻く市場環境の変化の兆しを感じ取った時、もはや、従来のような気象情報を単純に提供するビジネスモデルではもはや市場としての成長性に乏しく、従来のビジネスモデルばかりに頼っていたのでは、我々はそのうちに市場から淘汰させられることも覚悟せねばならない本当に危機的な状況に陥ってしまうと強く感じたからです。ですから、まさに「生き残り」を賭けてのビジネスモデルの大転換でした。

気象の業界というところは総じて専門性が高く、転換前の弊社にもこういう業界ならではの「技術屋さん」主体、「営業」軽視のような企業風土がありました。まずは根底とも言えるここから変えていく必要があると思い、手を入れました。「技術屋さん」はどうしても自分のサービスに妙に自信をお持ちなのか、『プロダクトアウト』の考え方になりがちです。ですが、今起こっている市場環境の変化は「技術」面の変化ももちろんありますが、むしろ「お客様ニーズ」の面での変化のほうが大きいと言えます。そうした顧客の側の変化を的確に捉え、『マーケットイン』の発想から、いかにしてお客様に提供する付加価値を高めていくかは本来的に『営業』の役割です。この業界も他の業界と同様、『営業主導』の業界に変えていかないとどうしようもない状況になってきていると私は認識し、着手したわけです。『営業主導』のもと、『マーケットイン』の発想で、それこそ“生き残りを賭けて”新たな市場、サービスの創出を模索していかざるを得ない時に来ていると認識したからです。その意味ですべての原点は『PinCH』なのです。

すべての原点は『PinCH』だと言いましたが、危機感ばかりを社員に説いてもなにも前には進みません。萎縮してしまうだけのことです。また、人も「慣性の法則」で動いていますので、「明日も今日の延長線上にある」と思いがちです。なので、私はこうした『PinCH』の時こそ『CHance』だ、この『PinCH』をむしろ『CHance』と捉えるような発想の転換をしよう…と、社員には言い続けました。市場環境が停滞しているような時にはビジネスモデルの転換はなかなか難しいのですが、市場環境が大きく変わろうとしている中においては比較的容易ですからね。それと、15年前、弊社は倒産寸前という崖っぷちの状態にあったと書きましたが、その辛い経験も変革に大きく作用したと私は思っています。弊社はNTTグループの会社であるにも関わらず、インターネットとモバイル通信(iモード)の普及という2つの大きな市場環境の変化に乗り遅れてしまったことが15年前の大きな危機のそもそもの原因でした。次こそはこの市場環境の変化に決して乗り遅れることのないように、むしろ他社に先駆けて先取りをしていこう!…という呼び掛けが社員達の心に確実に響いたように思います。誰も二度とあのような辛い思いはしたくありませんのでね。

弊社は9年前からこのビジネスモデルの2度目の大変革に乗り出し、徐々に事業の幅は広がり、分野は限定的ですが、「市場競争力」もここ数年でそれなりについてきたと私は認識しています。これからはそこで蓄えた「市場競争力」を武器に、この『PinCH』をさらに『CHance』に変える前向きの取り組みを期待したいところです。市場の大きな変化とその中で混乱しているように思える今のような状況(カオスな状況)こそ、新たに魅力ある市場を作り上げるまさに『CHance』なのではないかと考えるからです。

勘違いしていただきたくないことですが、ここで言う「市場競争力」はサービスを提供する自分達が勝手に思うことではなく、お客様がそう思っていただいて初めて備わっていると言えるものです。すなわち、「市場競争力」は基本的にお客様(市場)が判断するものです。したがって、常に主語はお客様です。お客様の視点で考えるものであると言うことを決して忘れてはいけません。なお、お客様の「期待値」も立派な「市場競争力」そのものです。

また、「市場競争力」が足りないと言って新たな投資を行うのもそれなりに重要なことだとは思いますが、今、ゼロベースから新たに「市場競争力」を見つけるための投資を行っても、それがお客様(市場)から自社の圧倒的な「市場競争力」だとして認識していただけるようになるまでには、相当の時間が必要となります。それでは今日、明日の営業活動にすぐに結びつけることはできません。今の「市場競争力」は、これまでの実績や、市場に提供してきた価値、やってきたことの中にこそある…と私は思っています。これまでやってきたことを、今一度棚卸ししてみること、社員達の危機意識を煽った次に私が行ったのはこの棚卸しでした。これまでもお客様は弊社が提供している価値に何らかの魅力を感じていただけたから、お取引をしていただけたのです。その価値とは何か…をこの棚卸しをやるによって明確にしようとしたわけです。この棚卸しにより、これまでとは別の視点、特にお客様や競合他社といった別の視点で振り返ってみた時、進むべき方向性が見えてきたような気がしました。

次に『PinCH』『CHance』に変える時に必要となってくるのが、仕事のやり方についてまさに根本から変えるくらいの覚悟で臨むということです(これが『CHange』です)。特に弊社の場合は「営業主導型」の会社への企業風土の大転換がこの『CHange』でした。その『CHange』の中身や方法論はここでは省略させていただきますが、私がスローガンのように声を大にして言い続けたことは次のような言葉でした。
 「営業なくして会社なし! 改革なくして利益なし!」

また、次のような課題認識を持ってくれるように社員には言い続けました。
 ・我々は本当に営業力があると言えるのか?
 ・我々はお客様(市場)の投資の成長に単に支えられてきただけのことではないのか?

今の状況を他人のせい(周囲環境の変化のせい)にしているだけでは何も変わりませんし、成長もありません。なので、次のようなことも言い続けました。
 「明けない夜はない。そして、ヒトは夜、寝ている間に成長するものだ!」

今までのやり方でこの先も上手くいくと言うのなら、無理にそれを変える必要はありません。ですが、上手くいっていないところ、あるいはこのさき上手くいきそうにないと予想されることが少しでもあるのなら、これまでやってきたやり方を一度完全に捨て去り、本来あるべき姿を追求してみる必要があると私は思っています。これまでのやり方を明日も同じように続けてみたところで、明日も今日と同じ日の連続でしかありません。その時、忘れてはならないことは、中途半端は絶対にいけない!…と言うことです。過去のやり方を総括し、間違っていたところはしっかりと認識して、あるべき姿に切り替えて、次に進まないといけません。その際、先人のやったことを否定・批判することだって、多少はしたっていいんです。それくらいやらないと、これまでのやり方を変えるなんてことは出来っこありません。ヒトの思考や行動を変えることって、決して生易しいことではありません。綺麗事を並べてみたって、変わることなんて不可能です。今はまさに「戦乱の世」。下克上の世界です。先に気がついて、変われた者だけが次の時代の勝利者になる権利を得ます。

大事なことは、自ら考え、そして行動することだと私は思っています。まず、自ら考えてみること。そして、小さくてもいい、なんらかの具体的な行動を起こしてみることだと思っています。ヒトは所詮自分がこれまで経験してきたことの中でしか物事を考えることはできません。今の状況がこれまで自社が、そしてこの業界、この国が誰一人経験したことがない状況なのであるならば、先人や先輩、上司の教えだってさえも、所詮はアテにすることはできません。アテになるのは、詰まるところ当事者である個人個人のみです。こういう変革期にあっては、お客様に、そして市場に一番近いところにいるヒト、すなわち営業の“感性”のみが一番頼りになると私は思っています。そして、これが弊社の「営業主導型」の会社への企業風土の大転換の本質でした。

まず、一人一人が考え方を切り替えること。そして、次にその一人一人の集合体である組織(会社を含め)が変わることが重要です。急激な変化が求められる今と言う時代は、順番はそうでなくっちゃいけない…と私は思っています。

そして『CHange』の次にやらねばならないのが『CHallenge』です。ここまで来られたのなら、次には新たな市場に果敢に乗り出していく「チャレンジ」を続けていくことが重要となります。現状を継続することは楽で、経験したこともない新たな市場に乗り出していくことには常にリスクが伴います。しかし、このリスクを社内外の英知を集めることによって乗り切っていかないと、市場からは必ずやそのうち淘汰されてしまいます。会社は継続することが最低限求められることだと思っています。崖っぷち会社を立て直した経験を持っている者だからこそ、それは強く思うことです。そして、今、日夜頑張ってくれている社員達を将来路頭に迷わすことは絶対にしてはいけません。いや、継続すること以上に、これからも発展する会社にしていくことです。そのためには社員達が将来に夢が持てる会社、働き甲斐がある会社にしていくことが重要で、その意味でも常に『4つのCH』の意識を持ち続けること、そしてそれを企業風土として根付かせていくことは大いに意味のあることだと思っています。

ちなみに、『危機』という漢字は、“危険”を“機会”に変えるとも読めます。
Pinch(危機)をChance(機会)として捉え、Change(変革)に果敢にChallenge(挑戦)せよ!……という『4つのCH』
弊社ハレックスは生き残りを賭けて、そして大いなる発展を夢見て、これからも頑張っていきます!!


【追記】
4つのCHを「4CH」……こう書くと、有機化学の“亀の甲羅”、すなわち「ベンゼン環」みたいですよね(笑)。これを見て、ベンゼン環を思い出す人は理系の人に限られると思いますが…。

元素記号のCとH、すなわち炭素と水素の化合物のことを“炭水化物”と言います。ベンゼン環はこの炭水化物の素になるものです。で、炭水化物はヒトをはじめとした生物が生きていく上で必要となる栄養素で、エネルギーの素になるものです。真っ白いお米も、私の大好きな讃岐うどんも炭水化物の塊のようなものです。炭水化物を摂らないとヒトは生きていけません。

上記の『4つのCH』も、きっと弊社に限らずどんな会社にとっても何にも増して大きなエネルギー源となる筈です。そして、この厳しい世の中を生きていくためには、常にこの『4つのCH』を摂り続けないといけません。

執筆者

株式会社ハレックス前代表取締役社長 越智正昭

株式会社ハレックス
前代表取締役社長

越智正昭

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