2014/07/14

戦略的対処について

災害のことを良く考えます。
大きな災害の後では、予防の重要性を強調する人は大勢います。
その通りですが、人の努力によって災害を100%防ぐことは可能だろうか?
高さ15mもの防潮堤が連なる三陸海岸はどんな景色になるだろうか?
そこに住む人々は、どんな生活を送るのだろうか?
この世に完璧な安全は、存在するのだろうか?
私は、人類は、自然災害、事件、事故に対し完璧な安全を確保することはできないと思っています。しかも、求める安全水準が高くなれば、コストは、級数的に上昇します。そのコストにどこまで耐えられるのだろうか?

予防を強調する人は、予防の効果やコストについて、どのように考えているのでしょうか?
私は、予防で災害を100%防止することは、ありえないと思っています。
日本の国の安全を守るためには、予防と対処は車の両輪に位置づけて対策を進める必要があると思います。
私は、自分を対処の人間と思っています。
そこで、今回は、常々感じている疑問を交えて、戦略的対処について、少しだけ、お話したいと思います。
人は誰しも、何か事を為そうとする時、必ず、「目的は何か」という事に思考が向くと思います。仕事の最終イメージを創造せずに突っ走るのは、責任ある人のやり方ではありません。
目的の選択は、大変重要な戦略思考です。

以前、大変不思議に感じたことがありました。
都内の某自治体の危機管理アドバイザーの仕事に就いた時のことです。首都直下地震対策を基本に記述されている地域防災計画を何度読み返しても、首都直下地震災害対処活動の目的や目標のことを記述しているページを見つける事は出来ませんでした。地域防災計画には、首都直下地震対策のノウハウは書かれているが、災害対処の目的や目標は書かれていないことに気づきました。自明の理だから書かなかったのではなく、驚いたことに、災害対策に目的思考が欠落していたのです。

私は、若い頃、クラウゼヴィッツの戦争論を少し、齧りました。 
そこには、目的と手段について、こんなことが書かれていました。
「戦争とは、異なる手段をもってする政治の延長に他ならない。」
「いかなる戦争も政治目的に奉仕すべきである。」
「戦術とは、戦闘の目的を達成するために兵器を使用することである。」
「戦略とは、戦争の目的を達成するために戦闘を使用することである。」
これらの戦争論の有名なテーゼを災害対応に置き換えたらどうなるだろうか?
こんな比喩が可能ではないでしょうか。
「災害対応とは、異なる手段をもってする行政の延長にほかならない。」
「いかなる災害対応も行政目的に奉仕すべきである。」
「戦術とは、応急対策活動の目的を達成するために、様々な資源を使用することである。」
 
ここまでは理解できそうです。
それでは、

「戦略とは、災害対処の目的を達成するために、応急対策活動を使用することである。」
このことを、どのように理解したら良いでしょうか?
今回、取り上げたいテーマは、正にこの問題です。
災害対処の目的とは何か、これを達成するために応急対策活動を道具として使用するとは、どういうことか、これらは、災害対処戦略の核心部分です。これらのことが理解できなければ、災害対処戦略を理解したことにならないのです。
正に、これが、今日の日本の災害対策にかけている点です。
災害救助法は、災害救助の根拠となる法律です。
災害救助活動に従事する自治体職員のバイブルです。
実は、ここに問題の根源があります。
救助法には、災害救助の一般的目的と法律で認められた救助のノウハウが書かれています。
実は、それしか書かれていないのです。ノウホワイやノウホワットについて何も書かれていないのです。
それが、自治体災害対策の根拠になっているのです。
法律の限界というか、法律で認められたことだけを根拠とする災害救助の方法論の問題と言えるのかも知れません。

本来なら、自治体職員にとって、その時に本当に役立つ災害対策の戦略書が あって然るべきと思います。更に一歩進めて、戦略的な思考が担保された指揮システムや戦略計画があって然るべきと思いますが、何故か、そのようなものを求める声は聞こえてきません。
災害対処戦略は、軍事戦略と異なり、素因さえハッキリしていれば、被害予測に不確定要素は少なく、対策の事前プランニングの範囲が広くなります。
戦略計画を事前に作成する意味は、ここにあります。

私は、大規模震災時の住民救済のノウホワイ・ノウホワット系列を次のように構築しています。これは私のノウホワイです。科学的根拠はありません。

○被災状況下で、「市民の幸福実現」という行政目的を達成するため、まず、 「被災住民の生命財産の安全確保」という目的を選択します。

○それを達成するために、「災害の拡大防止(救出救助を含む)」、「被災者の保護」等の緊急課題が予想され、それらを当面の目標として選定します。

○生命財産の安全確保に目処がつくと、次に、「被災者の生活再建」という命題を目的として選択します。

○これを達成するために、先ず、「被災者が自立生活を踏み出すための応急生活基盤の確保」が課題になります。それが達成できてから、被災者の復興意思を醸成しつつ、「本格的な生活再建」に取り組みます。

このような、ノウホワイ・ノウホワットの時間軸の中に、様々な救助ノウハウを使用するオペレーションが展開されます。従って、オペレーションには、
一定の時間・空間の「場」と目標が与えられます。実行責任者には、「場」の中で目標を達成することが要求されます。簡単なことではありません。それ相当の態勢と準備が必要です。
オペレーションについて、詳しい話は、別の機会にお話します。

我が国の災害救助法は、行政の手段そのものです。
「災害対応とは、異なる手段をもってする行政の延長にほかならない。」
というクラウゼヴィッツのメタファーが意味する「異なる手段」とは、如何なるものか、ということをよく考えてみる必要があると思います。
災害対応は行政の延長ですが、災害状況下では、行政の手段と異なる手段が必要になります。
戦略的思考が担保された指揮システム、目的・目標を明確にした災害対応の戦略計画等が、一つの解答になると思います。

以上