2015/03/27

作戦指揮の循環(その2)

これから先は、オペレーションの循環過程についてお話しします。

3 オペレーションのフィードバックループ
この段階は、指揮活動の重要な結節です。各地区から報告された作戦結果と自ら収集した情報に基づき、本部長は自治体領域全体の現状と問題を把握します。
ここで認識した問題は、「技術的な問題」「戦術的問題」「戦略的問題」に仕分けします。技術的問題とは、オペレーションの実行担当部隊が、その権限の範囲で対応する問題です。技術的問題の場合は、オペレーション目標を変更することなく、必要があれば、資源の再配分等の支援を受けて活動態勢を再構築し、目標達成を目指して、作戦を再開します。
技術問題への対応は、フィードバックプロセスの基本です。
オペレーション終了時は、色々な問題にじっくり取り組む好機です。
この段階で、戦術的な問題が発見され、この問題への対応を検討する事があります。
戦術的問題とは、大目標を変更する程の問題ではなく、かと言って、技術的対応では解決が難しく、従来の大目標の下に新しいオペレーションの検討が必要と思われるレベルの問題です。
活動地区で、新たなオペレーションが必要と判断されるような戦術レベルの問題が起こっている場合、予め準備している選択肢の中から状況に適合したオペレーションを選択して対応します。この選択は本部が決定責任を持ちます。自治体によっては、本部長が適当な職員を指名して戦術問題の意志決定を委任する場合があります。
この段階で、戦略問題の検討が必要な場合があります。
戦略的問題とは、大目標の変更が必要な問題であり、本部長の決断が必要な問題です。
端的な例が、これまでの大目標の達成の目途が立った場合です。
もう一つの例は、状況が急変し、従来の大目標では対応できない新たな種類の問題が、各地区を跨って発生しつつある場合です。これは作戦上の大変化を伴う決断です。
フィードバックループは作戦を見直す重要な作業ですが、問題は時間です。
実行中のオペレーションが終了するまでには相当な時間を要します。その間に、環境条件は急速に変化する場合があります。そのような状況の変化に柔軟に対応できない事がこのプロセスの弱点です。

4 オペレーションのフィードホワードループ
ソニーの創業者の盛田昭夫氏は、創業当時から「朝令暮改」と云う言葉を頻繁に口にし、間違ったと思う事は、朝礼暮改どころか、朝礼朝改でもいいから、どんどん直すべきだと云うのが彼の持論だったそうです。
私達のオペレーションも計画通りに行く事は殆どありません。盛田氏の持論と同じ様な対応が必要な場面はよくあります。
巨大災害の強烈な衝撃は地域社会の隅々まで広がり、その対応は、やればやる程、更にやるべき事が、次々と出て来ます。計画の前提としていた環境条件が目まぐるしく変化し、当面の問題よりも緊急性が高い問題が、後から発生する事があります。そんな時に過去に立てた計画に縛られていると、緊急性が高い重要な問題への対処が遅れ、手つかずのまま放置された問題は災害拡大誘因として、あっという間に最悪の事態を引き起こす事になりかねません。私達の作戦指揮の世界でも「朝礼暮改」、時には「朝礼朝改」が必要です。フィードバックの時機を待つ事なく、朝礼暮改の機能を果たすのが、フィードホワードです。現実の作戦指揮活動においては、フィードホワードは、フィードバックよりも重要であると私は認識しています。
フィードホワードループは、基本的に、フィードバックループと同様なプロセスを辿ります。違いは、2種類の時間への対応です。
一つは、問題対応の時機であり、もう一つは、レスポンス時間です。
先ず、対応時機です。フィードホワードでは、早期の問題対応に特徴があります。
問題を認知したら、速やかにその性質を仕分けし、問題のレベルに応じた対応を検討します。その結果によって、オペレーションの終了時期を待たず、作戦の変更、追加等の対応を行います。まさに、朝礼暮改的な対応です。
この時の情報活動は、「トンボの眼」、即ち複眼的な機能が、特に重要です。
作戦の最中は、当然のことながら、現在実行中の作戦が円滑に進むように、眼を光らせます。しかし、それ以上に重要な問題が進行している可能性があります。
重要な事は、オペレーションの最中でも、そのオペレーションでは対応できないような重要な問題の発生を見逃ささないように、眼を光らせておく必要があると云う事です。
そこで重要になるのは、早期警報センサーの配置です。そのセンサーで、いかなる情報のキャッチを期待するのか、そのために何処に向けて、どのようなセンサーを配置するのかは、情報収集のための重要な決定です。それを見れば、本部長が作戦の最中に何を心配しているかを読み取ることが出来ると云うものです。

「対応時機」は重要なポイントですから、別の角度から、重複を厭わず説明します。
実は、このブログ原稿を大体書き終えた或る晩に、ジャパネットタカタの前社長の高田明氏が某テレビ局の報道番組にゲスト出演していました。
何となく画面を眺めていた私は、彼の言葉に思わず耳をそばだてました。
「今は、変化の時代です。」
「商品に対するお客さんの好みやニーズは、目まぐるしく変わります。」
「販売業者は、お客さんのニーズの変化に追いついていけないのです。だから売れない。」
「お客さんのニーズに対応するという考え方では間に合わない。遅いのです。」
「業者がニーズに対応できる商品販売の準備ができた頃には、お客さんはいませんよ。」
「ニーズに対応すると云う考え方は、変化の時代に合わないのです。」
「私達販売業者が、お客さんのニーズを創造し、お客さんに、それをさりげなく、気付かせなくてはならないのです。」
私は、この言葉に痺れてしまいました。
『センサーの配置を見て、本部長が作戦の最中に何を心配しているかを読み取る。』
『本部長の情報ニーズを確認してから、ニーズに応える情報活動を行う。』
この感覚では、遅いと云う事を高田氏の言葉で、強く認識させられました。
以下は、本部長を基準にした情報活動のプロセスです。
①危機的事象の発生
②問題の認知
③対応行動判断のための情報要求
④情報の収集・分析
⑤インテリジェンスの使用(判断)
このプロセスで、本部長の情報要求は問題認知の後に行われます。
問題認知が遅れれば、情報ニーズに対応して情報活動を行っても、その間に状況が変化拡大し、問題そのものが変わってしまいます。このような活動では災害に追いつくことは出来ません。これでは遅いと云うのがジャパネットタカタの高田明氏の話に触発された私の認識です。
高田氏が云うところの「販売業者がお客さんのニーズを創る。」とは「情報スタッフが本部長の情報ニーズを創る。」と云う言葉に置き換える事が出来ます。
情報スタッフ(アナリスト)が、状況の変化を予測し、本部長の問題認知に先回りして、問題を先取りし、本部長のニーズを創造し、情報活動を一回り早く廻しておきます。
危機事象が発生し問題が認知された時には、問題対応に必要なインテリジェンスを報告するという手順が理想的です。
ジャパネットタカタの高田明氏のお話は、大変示唆に富んだものでした。
もう一つの時間は、レスポンス時間です。フィードバック作業は、オペレーション終了後の比較的余裕のある時間帯に実施します。このため作業はスタッフを中心に密度が濃い検討作業の実行が可能ですが、フィードホワード作業は、オペレーション最中の、状況が急速に変化している時に、短いレスポンス時間で対応しなければなりません。
短いレスポンスで対応できるかどうかが、フィードホワードの成否を左右します。
このレスポンスは、単なる情報収集作業ではありません。
情報の収集・分析・判断といった作業が、ギュッと詰まった指揮活動そのものです。
そのため、リーダーが陣頭に立って取り組む必要があります。
早期警戒も、他人(ヒト)任せ、器材任せではなく、重要現場には本部長自ら進出して、自分の眼と自分の耳で実態を把握する事が大変重要です。
その上で状況の全体像を大局して、対応をタイムリーに判断する事が求められます。
このレスポンス作業は、本部長のリーダーシップ抜きでは不可能です。

5 オペレーションのプロセス管理
最後に、オペレーション管理について、少し説明します。
数年前、陸上自衛隊の東部方面隊が主催し、関係都県の防災担当者が参加した首都直下地震対処の指揮所演習を研修したことがあります。その時、JTF(統合任務部隊)の司令部指揮所で、JTFで行われる全共同作戦のプロセス管理をしているボードを発見しました。その管理のためだけに、専任の士官が一人配置されていました。それを見れば、JTF司令部として作戦のプロセス管理を、如何に重視しているかが分かります。 これは、自治体の災害対策本部でも役に立つと思い、メモして来ました。

共同作戦の管理



自治体災害対策本部でも「作戦管理」をする者が認識しておかなければならないオペレーションは多種多様です。それらのオペレーションは、○実行の要否を検討中のもの、○具体的な企画が進んでいるもの、○準備に入っているもの、○実行中のもの、○終了したもの等、進行過程は、いくつもの段階に区分出来ます。オペレーションは、それなりの準備が必要であり、思い付きでは実施できないと云う事です。
オペレーションを、適切なタイミングで、効果的に実行するためには、オペレーションの全体管理が、大変重要です。

6 おわりに
災害対策本部のスタッフ業務は、次の二つの特性を持っています。
○作戦指揮業務を中心に運営される。
○スタッフ業務は、作戦指揮の流れを予測する事から始まる。
今回のブログは、災害対策本部業務の中心を流れる「作戦指揮の循環」の「見える化」に努めました。
この流れに登場する全オペレーションについて、流れの中における現在のポジションとその状況・問題を認識し、必要な対応を考察しながら将来を予測しなければなりません。
本部スタッフ(作戦指揮、インテリジェンス、ロジスティックス、その他)は、オペレーションが循環している実相を読み取ることにより、上記業務に関する指標を確認し、自己の業務スケジュールを構築し、先行的に業務を進めていきます。
作戦指揮の循環の理解は、彼等にとり、業務遂行上の重要な準拠を提供するものです。


以上