2015/07/10

第10回 防災情報連絡会 (後半)

3 特定災害に対する対応計画について

○危機に対して迅速な対応を行うためには、特定災害に対する対応計画が必要である。
以前、陸上自衛隊東部方面総監部で、首都圏自治体の防災担当職員、関係機関・民間団体職員、自衛隊の部隊長等が参加し、首都直下地震対応の調整会議が開催された事がある。陸自JTF(統合任務部隊)司令部は、作戦構想を説明したが、災害対処の主人公である東京都は、JTF計画に対応する都の災害対処構想を説明しなかった。首都直下地震対処の戦略計画が無いので説明出来なかったのだ。
会議終了後、都の担当者から、JTFの作戦構想を都側に提供するように要請があった事を、JTFの作戦課長から聞いた。
自治体職員も自分達は作成しないが、その必要性は認めているのである。

○災害対応の指揮実行という点から云えば、地域に風水害の発生が切迫した段階で、或いは、首都直下地震等の大規模地震が発生した段階で、速やかに、対応策を決定し、行動の準備を完了しなければならない。その時間を最小化する必要がある。その時になって初めて「災害の診断・予測」、「災害対応の基本方針の決定」「一貫性あるオペレーション計画の作成と調整」「実行担任の決定」等の検討考察を一から始めるのでは、対応準備は、遅きに失してしまう。特定災害の対応計画を策定すると云う事は、上記の具体的検討を、平素から、行うと云う事である。こういった計画が整備されていると、平時の訓練が実践的になる。万一、災害が発生した場合、最小限の時間で、計画内容を現実の状況に合わせて修正することにより、迅速に行動が可能になる。

○現在、地方自治体は、基本法で定められた地域防災計画を作成しているが、前述の通り、法律による定めがない「特定災害対処計画」は作成していない。
この種計画が策定されて初めて、ソフト、ハードを含めて、深掘りした対応準備が可能になると考える。

○風水害タイムラインは、「特定災害対処計画」である。
タイムラインの普及は、今の自治体の法定計画一辺倒に風穴を空けるかもしれない。
今後、多くの自治体で、「風水害タイムライン」の策定が進むと、これを応用して、例えば、「首都直下地震タイムライン」という「特定災害対処計画」の策定が視野に入ってくると思われる。タイムラインの指揮情報システムの現状は、寡聞にして、よく知らないが、新しい課題としてチャレンジする価値があると思う。

4 自治体トップのリーダーシップについて

1)自治体トップにリーダーシップの発揮を期待できない。

非常時は、平時の合議体制では乗り切れない。緊急かつ重要な問題の解決には、トップのリーダーシップは必須と、誰もが思っている。
現実の状況では、トップは、職員全員が解決方法を分かっている技術的問題に対し、セレモニー的に、リーダーシップを発揮しようとする傾向がある。
「災害対策本部を開設する!」「自衛隊の災害派遣を要請せよ!」
「都知事に、災害救助法の適用を要請せよ!」と、声を高めて号令する。
一方、誰もがトップのリーダーシップ発揮を期待する、「未経験の問題」、「緊急性を要する問題」、「戦略的決断を要する問題」には、トップは口をつぐむ。
戦略に必要な事は、様々な要求に、「NO」と云えるリーダーであるが、トップは政治家である。この種の問題に対して、リーダーシップを発揮して、NOと云う事の危険を本能的に知っているのだと思う。このような場面で、通常、トップがやる事は、「会議の招集」である。急ぐ場合であっても、集団による合議を重視する。

2)トップのリーダーシップは、幻想であると認識しておいた方が良い。

判断が難しい重要問題の解決にリーダーシップを発揮しなければならない人は、トップではなく、現にその問題を抱えるミドルクラスの管理職員である。
本部スタッフチームが直面している問題であれば、参謀長のような立場の職員が、問題解決に向けて、リーダーシップを発揮しなくてはならないと思っている。
重要な問題解決に、トップのリーダーシップは向かない。

5 本部の情報業務について

今日の会が、情報連絡会という事なので、最後に、情報業務の問題を採りあげる。

○組織の実行力は、戦略能力と組織能力で決まる。
成果に対する貢献度は、圧倒的に組織能力の方が高い。モノの本によると、戦略能力が20%に対し、組織能力は80%と云われている。
戦略能力と組織能力のバランスと融合が情報の世界でも重要である。

○情報活動のための計画がない。
情報は重要という認識は、自治体の中でも共通認識になっているが、では、どうすると云う具体策がないので、そこから進まないのが現状だ。
情報は、戦略の基本構造の第1番目に挙げられている「診断」のための重要な手段である。戦略に直結する業務である。この業務を遂行し、情報活動の目標を達成するためには、情報活動のための戦略計画が、どうしても必要である。
ここで云う情報計画とは、特定災害対応計画とセットの特定災害対応情報計画のことである。
この情報計画に準拠しながら、状況の的確な診断を行い、特定災害対応戦略を支えるのである。情報計画の地位役割は、そこにある。

○診断情報(インテリジェンス)を創り出す仕事のやり方・流れが出来ていない。
インテリジェンスを創り出すためには情報業務のプロセスが必要である。
それを、「インテリジェンスプロセス」と呼ぶ。
「インテリジェンスプロセス」は、本部長が、情報の必要性を認識する段階から、情報組織が本部長のニーズに応えるべく良く分析したインテリジェンス成果物を提供するまでの段階を指すということは、以前のブログ(インテリジェンスプロセス)で話した事がある。
インテリジェンスを創造するプロセスは、「情報要求の決定」「収集」「処理」「分析」「提供」の五段階に区分される。
このプロセスは、戦略にガイドされた「情報活動の目的」達成のための一貫した流れでなくてはならないが、多くの自治体にとって、解決すべき様々な課題がある。
・プロセスの各段階を分担する組織は、どのように編成したら良いか?
・各段階業務のやり方は、どうしたら良いか?
・次の段階に業務を引き継ぐため、其々の段階のアウトプットはどのように定めたら良いか?
・検索容易なデータベースを構築するため、情報の整理区分をどのように設定したら良いか?

○無駄な情報収集活動を行っている。
本部長からの情報要求がないから、情報組織は収集すべき情報について明確なイメージを持たない。いかなる情報素材を、どこの情報源から入手すると云う情報収集構想がない。その結果、本部の情報収集活動は、市民からの電話通報を待つ事になる。寄せられる内容の殆どが、本部長の判断に役立たないものばかりだ。全くと言っていい無駄な作業に、本部の情報組織のほぼ全力を注ぎ込んでいる。それで、情報が重要とは、笑止である。

(以上が、会議出席者に事前配布した資料の内容です。)

6 会議に参加して感じたことを最後にお話します。

ユーザーサイドの悩み・問題点を発表したのは、私だけです。私の発表に対し、「自治体職員に戦略やインテリジェンスの必要性を、どのような切り口で認識させたら良いか?」と云う質問がありました。それは、現在の自治体が抱える問題を鋭く突いた本質な質問でした。その場では、「我々が直面する危機的状況は、戦略とインテリジェンス無しに克服できない重大な困難が待ち受けている厳しい状況であるという認識を持たせる事が重要である。」と、漠としたお答えしか出来ませんでした。質問者には不満が残ったと思います。
一方、私は、グループ各社のICTソリューションの発表を聴きながら、なんとなく物足りなさを感じました。発表内容の技術レベルの事ではありません。各社が発表する内容に、ユーザーの顔が見えて来ないのです。こうした会議で生産的な議論を進めようとするなら、先ず、ユーザー側の運用ニーズを明確にすることから始める必要があると感じました。

話は、突然、横道に逸れますが、私が自衛隊の現役として、宮城県多賀城市に駐屯する陸上自衛隊22連隊の連隊長をしている時代の事です。連隊には、結婚の意思があっても、縁に恵まれず、適齢期が過ぎようとしている独身の隊員が沢山おりました。彼らに良き伴侶を見つけてやる事が、連隊長の重要な務めです。その頃、連隊を不定期に訪問してくる、松島町在住の茶道の師匠をしている御婦人がおりました。訪問の際には、何人かの若い女性のスナップ写真と必要な情報を記載したメモを持参してきます。人事班長と相談し、彼が推薦する何名かの隊員と面談して、最良の組み合わせ案を考えます。彼女のおかげで纏まったカップルは、何組もありました。ブログを書く途中で、当時、お世話になった松島の御婦人の事を思い出したのです。

ユーザーとソリューション提供者双方の間を取り持つ、松島の御婦人のような人生経験豊かな世話焼きおばさんの存在が必要と感じました。この世話焼きおばさんの役割を果たす人物は、技術的な可能性とユーザーの運用ニーズの両方を良く解っていることが、大変重要です。特に、自分自身を理解していないユーザーに、「運用者として重要な事」とか、「戦略やインテリジェンスの業務を支援する技術的可能性」とかを理解させる事が大切です。一方、ソリューション提供側には、ユーザーの悩みとか、運用者が真に必要なニーズを的確に伝える事が大切です。そういう役割を果たす、強かな世話焼きおばさんチーム(一人では無理かもしれません)が、この情報連絡会に、是非とも必要であると感じました。

                                       以上