2015/05/27

“ビッグデータの可視化”から“状態の可視化”に(その2)

以前にも書きましたが、本来、数値(データ)は状態を程度という観点で分かりやすく表現するための“手段”の1つに過ぎません。前述のように、大気の状態というのは気圧や温度、風向風速といった個々のデータだけでは表現しにくい性質のものなので、それらを複合的に組み合わせて表現しないと、“状態の可視化”と呼べるレベルには、とてもとても到達できません。“状態の可視化”が行えるレベルに達して、初めて『気象情報システム』と胸を張って呼べるものになる…くらいに、私達は思っています。

また、“状態の可視化”を行うことにより、これまではどうしても個々の気象予報士の経験や知識に依存するところが大きかった予報の精度や質も、均質化され、レベルの底上げに大いに貢献できる…との思いでいます。

業界内では、天気図を眺めて、上空の大気の状態が頭の中でイメージできるかどうかが気象予報士の能力の決定的な差である…と言われています。ならば、その優秀な気象予報士の頭の中のイメージをディスプレイ上に、誰の目にも見える形で表現してあげようじゃあないか! それこそが本来IT(情報処理技術)が最も得意としているところ。そして、ITとなれば、私の、いやNTTデータグループの最も得意な分野……この思いが『Weatherview』の開発を始めたきっかけでした。「◯◯(個人名)しか出来ない」から「◯◯でも出来る」…、すなわち、『“しか”から“でも”』への変革ってやつです。そして、これが、気象情報会社としての品質の担保に直結すると、私達は考えました。ビッグデータ時代の今、気象情報会社の実力は気象予報士という“人”ではなく、こうした提供する情報の品質を担保する“仕組み”の有無で決まる…とも私達は考えています。

気象情報は時として人々の生命にも直結するような社会的に極めて重要な情報です。情報の品質を担保する仕組みを用意することは、気象情報会社としての最低限の責務であると思っていますから。そうした仕組みを用意する努力を怠っている会社のことを“まともな気象情報会社”とは呼ばない…、これからの時代は間違いなくそんな時代になっていく…とも思っています。

例えば、“エマグラム(emagram)”というグラフがあります。このエマグラム、一般の方にはほとんど馴染みのないグラフですが、気象に関わる人にとっては、その地点その地点の上空における大気の安定度を評価するために用いられる重要なグラフの1つです。気象予報士を目指して気象を学ぶ上ではまず最初に学ばねばならないレベルの熱力学の基本で、気象予報士試験にも必ずと言っていいほど出題されるので、気象予報士を目指す人にとってはそのグラフで表すことの基本を理解することは、気象を学ぶ上でのイロハのイ、ABCのAのようなものです。

エマグラムは気象に用いられる断熱図(熱力学ダイアグラム)の1つで、横軸に気温を常数目盛で、縦軸に気圧を対数目盛でとったグラフ上に、ある地点の上空の気圧と気温および露点の関係をプロットしたものです。エマグラムを理解すると、水蒸気と空気の混合気体が、大気中で上昇したり下降したときに、水蒸気がどんな挙動を示すのか、気温はどのように変化するのかなど、熱力学に関わる複雑な計算をしなくても、グラフ上で直感的に考えることが出来る便利なツールなのですが、これまでは気象庁から提供される数値予報データから気象予報士が各自でその地点その地点のデータを拾って、グラフ用紙上にプロットしないといけませんでした。

その作業自体は単純な作業ではあるのですが、結構手間がかかる作業なので、次から次に新たなデータが送られてくることもあり、これまでは代表的な地点のエマグラムを作成するくらいで止まっていました。しかしながら、こういう単純作業こそコンピュータが最も得意とするところで、『Weatherview2』では、PCディスプレイの地図画面上の任意の地点をマウスでクリックするだけで、その地点のエマグラムを“瞬時に表示”することを可能にしました。もちろん、時間的な変化もクリック一つで次々と表示が変わっていくので、その地点の大気の安定度の変化が手に取るように分かります。

『Weatherview2』で任意の地点のエマグラムを瞬時に描画する機能を開発したことから分かるのですが、前述のように大気の安定度が気象に大きく影響を与えることから、気象庁さんから提供される数値予報データは、このエマグラムを描くのに最適な形式になっているということに気付きました。今更ながら…って感じがしますが、これが気象のイロハのイってことなのでしょうね(^^)d そして、この各地点地点で微妙に異なるエマグラムの折れ線を眺めていると、どのあたりの大気の状態が不安定になりそうなのか(局地的な集中豪雨が降りやすかったり、雷や竜巻が起きやすかったり…)が見えてきます。さすがに気象のイロハのイ。現場の気象予報士も、今後は予報精度向上のため、これまで以上にエマグラムを活用して予報を出すようになるのでしょうね。


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また、地図上でマウスでクリックした任意の地点地点での気温や気圧、風向風速といったデータの時系列での変化も瞬時にグラフで表示する機能も実現しました。それも、気圧だけ…とか、気温だけ…とかではなくて、気圧や気温など指定したデータの時系列の変化を縦に並べて。前述のように、大気の状態というのは気圧や温度、風向風速といった個々のデータだけでは表現しにくい性質のものなので、それらを複合的に組み合わせて表現することをここでも実現しました。この時系列の折れ線グラフを眺めていると、気象に関しては素人の私でも、いろいろなことが見えてきます(^^)d


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さらに「気象断面図」。気象庁さんから提供される気温や気圧、風向風速等の数値予報データは地表面や◯◯hPa面といった水平面ごとのデータにまとめられて提供されるのですが、これをただ単純に可視化したのでは、水平面だけの二次元の可視化に過ぎず、これではとてもとても不十分であると思っていました。

何度も書いているように、気象は上空の大気の状態(安定度)で決まるので、垂直面を加えた三次元の空間で捉える必要があるわけです。これに挑戦した第一歩がこの「気象断面図」です。エマグラムも垂直方向のデータ表現なのですが、エマグラムの場合はあくまでもその地点その地点での“点”の情報表現。「気象断面図」は同じ垂直方向のデータ表現なのですが、“線”の(断面としての)情報表現というわけです。

私達が目指しているのは“状態の可視化”なので、究極は3Dディスプレイで、大気の状態を三次元で表現し、誰の目にも分かりやすく表現するところまで実現したいのですが、まずは垂直方向の断面での情報表現を実現しました。『Weatherview2』では、PCディスプレイの地図画面上の任意の複数地点をマウスでクリックして知りたい断面を選ぶと、瞬時にそこの断面の気温や気圧、風向風速等の気象データが断面での表現されます。これは他に例を見ない画期的な仕組みではないか…と、思っています。


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さらにさらに、先日、この『おちゃめ日記』の場で「答えは風の中にある」と題して思わせ振りにご紹介した、これまでにない画期的な風の表現方法も実装しました。その画期的な風の表現方法がこれです。

これは、従来の天気図における矢羽根表示が、風を単なる“点”の情報として表現していたのに対して、その“点”の情報に動きを与え、風を“大気の流れ”という“面”の情報に変換して表現したものです。実際のPCディスプレイ上では、この表示はアニメーションのように動きます。すなわち、風が強いところ(大気の流れの速いところ)は速く、風の弱いところ(大気の流れの遅いところ)は遅く、点が動きます。

この表現方法だとその地点その地点ごとの情報を表現するのにさほどのスペースを必要としないので、気象庁から提供される数値予報データの情報をほとんど間引くことなく、全て表現することも可能となります。地表面だけでなく、〇〇hPa面といった上空面を指定すると、その上空面での風の流れを瞬時にこのような表現で表示することが可能です。まさに、「大気の流れである風を、流れとしてそのまま表現する技術」。「ありそうで、これまでなかなか実現できなかった技術」、「“あったらいいな”と思っていた技術」を具現化したとでも言いますでしょうか。


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山岳地帯の様子を拡大していくと、風が高い山を避けるようにして微妙に迂回している様子や、沢筋(谷)に沿って風が吹いている(大気が流れている)様子が見て取れます。ここまで状態を再現できます。


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この風の表示も、気温や気圧などの他の情報を重ね合わせて表示することができます。下の図は海面更正気圧と重ね合わせた表示ですが、左上の天気図と見比べていただくと、高気圧や低気圧、前線などの様子が、気象素人の方にとっても、大変に判りやすくお分かりいただけると思います。高気圧や低気圧、前線って、こういうことなんですね。


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このように『Weatherview2』は弊社ハレックスがこれまで地道に取り組んできたビッグデータ処理技術の取り敢えずの“集大成”のようなシステムです。『Weatherview2』それ自体は現場の気象予報士といったプロ向けのサービスになっていて、これまでの気象予報の概念を根底から変革し、気象予報士の仕事を、これまでのルーチンワークから、より創造的なものに変えるものになるのではないか…と、私は期待しているところです。

それ以上に期待しているのが副次効果。『Weatherview2』を使うことにより、どの情報とどの情報をどのように組み合わせればどういう情報が得られるかが分かってきますので、お客様の課題解決のためのソリューションを生み出すための大きなヒントが得られると思っていて、今後、弊社がより質の高い気象情報を活用したソリューションを創出していく上で、とてつもなく強い武器になるのではないかと期待しています。また、この『Weatherview2』で実現し、手に入れることが出来た様々な要素技術も、今後、弊社の様々なサービスの中に組み込むことが出来ますので、サービスの質を高めることにも大いに役立つと思っています。

気象情報提供の世界は、これから間違いなく“状態の可視化”の世界に入っていくと思います。

1日も早く、皆様に胸を張ってお披露目できる日が来るように、最後の追い込みをかけます!(^^)d

大いにご期待ください。