2014/11/17

わたらせ渓谷紀行(その3)

大間々からは大勢の観光客が乗ってきました。座席はすべて埋まり、通路に立っている乗客もかなりの数いる状況になりました。見ると、クラブツーリズムと読売観光の観光バスツアーの客のようです。ここからわたらせ渓谷鐵道に乗せて、神戸まで連れていくのでしょう。確かに国道を走るよりも、わたらせ渓谷鐵道線のほうが谷筋に沿って走るので、渓谷美は堪能できますから。とてもいいコース選択です。

大間々からは若い男性と女性1人ずつのわたらせ渓谷鐵道のアテンダントさんも乗り込んできて、沿線の観光案内やわたらせ渓谷鐵道グッズの車内販売を開始しました。そうなんですね、わたらせ渓谷鐵道わたらせ渓谷線の見処、醍醐味はここから先の区間なんです。大間々駅を出発してすぐに「七曲の渓」と呼ばれる渓谷が見えてきます。ここから奥の区間がその名の通りの渡良瀬渓谷の谷筋に沿って走る区間で、渓谷美が思う存分楽しめます。ところどころで国道が見えますが、渓谷に近いところを走っているのは古くからあるわたらせ渓谷鐵道線のほうです。

観光客で満員になった乗客を乗せた2両編成のレールバスは(懐かしい)重低音のディーゼルエンジンの唸り音を響かせながら、渡良瀬川に沿って緩やかな昇り勾配を上流を目指して登っていきます。


沿線風景3

沿線風景5



短いトンネルを3つ抜け、次に停車した駅が上神梅(かみかんばい)駅。この駅の木造駅舎は足尾銅山全盛期の昭和初期に建てられたもので、国の登録有形文化財に登録されています。途中駅の駅舎(しかも今は駅員のいない無人駅)にしてはなかなか立派な建物です。この上神梅駅の駅舎以外にもわたらせ渓谷鐵道線では神戸駅の駅舎や城下トンネルなどなんと37件の施設が国の登録有形文化財に登録されていて、わたらせ渓谷鐵道わたらせ渓谷線そのものが国の登録有形文化財だと言っても過言ではないくらいです。それくらい足尾銅山ってのは日本の産業発展を支えた極めて重要な場所だったということのようです。改めてそのことを意識することができました(ちなみに、先ほど触れた大間々駅の駅舎もプラットホームもともに国の登録有形文化財です)。


沿線風景4



上神梅駅を発車して次の本宿駅を過ぎると、そこからが「古路瀬渓谷」と呼ばれる渓谷になります。まだ紅葉の時期には早く、やっと黄色く色づき始めた葉っぱがあるかな…って感じですが、紅葉真っ盛りの頃にはさぞや美しい渓谷美が楽しめるだろうな…ということは容易に想像がつきました。車窓から見える渡良瀬川は昨日までの台風27号による雨で幾分水嵩が増している感じで、エメラルドグリーンの水がところどころ岩にあたって、白い飛沫をあげながら流れています。

国の登録有形文化財に指定されている城下トンネルを抜けたあたりのアテンダントの案内によると、このあたりには、その昔、処刑場があったとされていて、今でも幽霊の出る心霊スポットとして全国的に知られているのだとか。国道のトンネル付近にはその供養塔まで建っているのだそうです(*_*)


沿線風景6

沿線風景7



次は水沼駅。この駅の駅構内に温泉があることで知られています。畳敷きの広い休憩所があり、近所の人やハイカーがくつろいでいるほか、この温泉を目当てに乗車する観光客も多いとのことのようです(入場料500円)。


渡良瀬渓谷鉄道駅舎



次の停車駅は花輪駅。この地は童謡の父と呼ばれる「石原和三郎」の出生の地であることから、彼が作詞した童謡「うさぎと亀」の歌に登場するうさぎと亀の石像が駅前にあり、列車が通る時には同駅のスピーカーから「うさぎと亀」の曲が流されます。

列車は渡良瀬川の渓谷に沿いながら、右へ左へ細かい蛇行を繰り返しながらさらに上流へと進んでいきます。かなり上流になってきたようで、川幅は狭まり、川の流れも急になってきています。中野駅、そしてその次が私が下車して、戻りの列車に乗り換える小中駅です。

小中駅ではアテンダントも下車。本来なら次の神戸駅で上りの列車に乗り換えて大間々駅まで戻るのですが、今日は大勢の団体観光客が乗ってきて、運行遅延も起きているとかで、神戸駅の1駅手前のここ小中駅で折り返すことにしたのだそうです。私の他にも小中駅で折り返すのだという家族連れがいました。

小中駅はホームが一面しかない無人駅です。列車がディーゼルエンジンの音を響かせて行ってしまうと、あとは渡良瀬川のせせらぎの音しか聞こえません。近くに数軒の民家はあるものの、静かそのものです。特にやることもないので、アテンダントとしばしお喋り。この若い男性アテンダント君はわたらせ渓谷鐵道の正規の社員ではなくて、アルバイト。自身も鐵道マニア(乗り鉄)で、観光シーズンだけわたらせ渓谷鐵道でアテンダントのアルバイトをして、紅葉シーズンが終わる12月になると「青春18きっぷ」を使ってまたどこかの鉄道に乗りに出掛ける予定なんだとか。どうりで。最初に見掛けた時から“鉄ちゃん”特有の“匂い”のようなものを感じました(笑)。


渡良瀬渓谷鉄道ホーム

渡良瀬渓谷鉄道車両3



ちなみに、小中駅の次の神戸(こうど)駅はわたらせ渓谷鐵道の中間駅としては一番大きな駅(とは言え、駅員のいない無人駅)で、駅構内には元東武鉄道の特急車デラックスロマンスカー1720系の中間車両2両を利用した列車のレストラン「清流」があります。人気が高いようで、混雑することもしばしばあるようです。また、頸髄を損傷し手足の自由を失ったものの口に筆をくわえて文や絵を書く画家で詩人の星野富弘さんの作品を集めた「富弘美術館」はこの神戸駅からバスで結ばれていて、わたらせ渓谷線を利用して訪れる人も多いとのことです。(富弘美術館、私も以前、家族とドライブで訪れました)

今回は断念しちゃいましたが、神戸から先の区間について少し触れると、神戸駅を出ると列車はわたらせ渓谷線で一番長い草木トンネルに入り、そのトンネルを通過した後すぐに草木湖を鉄橋で渡ります。このあたりの景観がわたらせ渓谷線の中で一番綺麗だから是非一度訪れてください…と、アテンダント君から熱心に薦められました。草木湖を鉄橋で渡ると渡良瀬川の流れは右の車窓から左の車窓に変わり、沢入駅に到着。沢入駅から先の足尾方面は急カーブや急勾配が連続する山岳区間で、列車はゆっくりと景色を見るのには十分過ぎるくらいの速度で走します。時々野生動物が線路のすぐそばにいることもあるのだとか。沢入駅から3つ目の笠松トンネルの中で群馬県から栃木県に入り、トンネルを抜けると足尾の市街地が見えてきます。かつて日本の銅の約40%を採掘したという足尾銅山の施設跡を横目で見ながら通洞駅、足尾駅、そして終着駅間藤駅に到着します。ここまで、桐生駅を出発して約1時間30分。アテンダント君の話を聴きながら、是非乗覇してみたいと思いました。


渡良瀬渓谷鉄道車両4



遠くからディーゼルエンジンの響きが聞こえてきて、定刻14時35分からはほんの少し遅れて上りの列車がやって来ました。往きと同じく2両編成のレールバスです。この列車にも往きの列車と同じく団体観光客が大勢乗っていました。この団体客は水沼駅で下車。もしかしたら、駅構内の温泉に入るのかもしれません。こういうツアーもいいかも。

水沼から先はガラガラになった車内で小中駅で仲良くなったアテンダント君との会話を楽しみながらの帰路になりました。ここまで書いてきた情報のほとんどは、実は帰りにこのアテンダント君から仕入れたものです(^^)d

アテンダント君も大間々駅で下車。列車はスピードを上げて桐生駅には定刻の15時27分に到着。わたらせ渓谷線ホームに設置されているSuicaの入場タッチ画面にSuicaを触れて、JR両毛線のホームに急ぎました。5分の連絡で両毛線高崎行きの115系3両編成の電車が入線してきました。

JR両毛線はJR宇都宮線(東北本線)の小山(栃木県)とJR高崎線の高崎(群馬県)を結んでいるのですが、昨日来る時には小山から桐生に入ったので、帰りは桐生から高崎に向かって両毛線の残りの区間に乗り、両毛線を制覇することとしました。

JR両毛線高崎行きの電車はかなりの混雑でした。部活帰りなのかもしれません、日曜日の午後だと言うのに車内は制服姿の高校生がギッシリ。しばらくは立っての乗車を余儀なくされてしまいました。

桐生駅~新前橋駅間は、北に赤城山を望みながら関東平野をひた走ります。桐生駅を出ると、わたらせ渓谷鐵道線と同様にすぐに高架から切通しに変わり、渡良瀬川にかかる鉄橋をわたります。鉄橋を渡り終えてすぐにわたらせ渓谷鐵道線が分岐。さらに東武鉄道桐生線と交差します。桐生市街地を抜けると最初の停車駅、岩宿駅に到着。ここは桐生競艇場の最寄り駅ですが、この日は開催されていないようで静かです。ここで高校生がドッと降りたので席に座ることができました。ちなみに桐生競艇場は日本最北に存在する競艇場なんだとか。

田園風景が広がる中を走る電車は、次に国定忠治の出身地として知られる伊勢崎市国定町にある国定駅に停車します。国定忠治は元々は博徒(バクチ打ちの渡世人)ですが、天保の大飢饉で農民を救済した侠客として知られ、講談や映画、新国劇など数々の演劇の題材となったことで、全国区のヒーローになりました。

上州出身の有名な渡世人と言えばもう1人、「木枯らし紋次郎」。こちらは笹沢佐保さんの小説の主人公ですが、私が高校時代に中村敦夫さん主演でドラマ化され、大ヒットしました。ボロボロな大きい妻折笠を被り、薄汚れた道中合羽を羽織り、口には長い楊枝をくわえる紋次郎。リアルさを追求した渡世人同士の喧嘩に近い殺陣で相手を叩き斬り、劇中で紋次郎が口にする「あっしには関わりのねぇことでござんす」との決め台詞は流行語になりました。上條恒彦さんが歌ったこのドラマの主題歌『だれかが風の中で』も大ヒットしました。この木枯らし紋次郎の出身地とされるのが上州新田郡三日月村、三日月村は架空の村ですが、群馬県太田市には「三日月村」と称する「木枯らし紋次郎」をイメージしたテーマパークがあります。この太田市も群馬県東部のこのあたりにあります。

余談が長くなりました。国定駅でもまた高校生がドドッと降り、私も窓側の席に移動することができました。

次の停車駅は伊勢崎。伊勢崎駅では東武鉄道の伊勢崎線と接続します。伊勢崎市は桐生市と並んで古くから絹の生産が盛んな街として栄えました。今も北関東有数の工業都市として栄え、製造品出荷額は1兆円を超えているそうです。現在、伊勢崎市の人口は20万人を超えています。伊勢崎にはオートレース場があって、桐生市の競艇場と並んで、この両毛線はギャンブル路線といった感じです。まぁ~、国定忠治に木枯らし紋次郎…、バクチ打ちの渡世人の故郷は今でも博打好きの方が多いようです。東武鉄道の主力路線の1つで大動脈路線である「東武伊勢崎線」の終点にあたり、東京の方にも妙に馴染みのある地名ですが、正しい読み方は「いせさき」で、「いせざき」ではありません。ちなみに、「いせざき」は横浜市中区にある「伊勢佐木町」です。

両毛線が伊勢崎に立ち寄るため桐生~前橋間で三角形の2辺を辿るようにV字に大きく迂回しているということを前に書きましたが、伊勢崎駅を出ると両毛線の電車は今度は北西に進路を変え、駒形駅に至ります。この駒形駅から前橋駅までは複線区間となっていて、周辺には工業団地が広がっています。前橋市街地が近づき高架区間に入ると、群馬県の県庁所在地である前橋市の中心駅・前橋駅に到着します。前橋駅は高架駅で、遠くに群馬県庁などを望むことができます。

前橋駅を出て利根川を渡り、高架区間を過ぎると、右側から上越線の線路がカーブして近づいてきて新前橋駅へ到着。上越線と合流します。次が終点の高崎です。

改めて鐵道の路線図を眺めてみると、群馬県というところ、関東地方に住む鉄ちゃん、特に“乗り鉄”にとってはバラダイスのようなところで、実に魅力的な鉄道路線が目白押しで走っています。鉄道会社名だけ並べてみてもJR東日本、東武鉄道、上信電鉄、上毛電鉄、わたらせ渓谷鐵道。さらにJR東日本だけとっても高崎線、上越線、信越線、吾妻線、両毛線、八高線と路線があり、東武鉄道にいたっては本線である伊勢崎線に加え、館林をから分岐する佐野線(館林駅~ 葛生駅)と小泉線(館林駅~西小泉駅・太田駅~東小泉駅)、太田から分岐する桐生線(太田駅~赤城駅)といった支線があって、複雑この上なし! 地元群馬の方でも地図がないとなかなか乗りこなせないのではないか…と思えるほど複雑です。

この両毛線制覇でJRの路線の群馬県内完全乗覇な果たせたものの、私鉄、第3セクター路線に関しては、今回のわたらせ渓谷鐵道の桐生~小中間のみ。まだまだ残っています。さて、次はどこに乗りに行こう!

高崎駅で停車中の上信電鉄の電車を眺めながら、また近いうちに乗りに来ようと思いながら、JR高崎線E231系の二階建てグリーン車の二階席に乗って大宮に戻りました。さすがに疲れが出て、高崎を発車した直後に車内で爆睡。気がついたら大宮の1駅前の宮原に停車する直前でした。寝過ごさなくてよかったよかった(^^;

まだ18時前。この時間なら孫娘に逢いにいけます(^^)d

執筆者

株式会社ハレックス前代表取締役社長 越智正昭

株式会社ハレックス
前代表取締役社長

越智正昭

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