2014/09/24

秋の七草

「萩の花 尾花 葛花 瞿麦の花 女郎花 また 藤袴 朝貌の花」
(はぎのはな おばな くずはな なでしこのはな おみなえし また ふじばかま あさがおのはな)
         山上 憶良(やまのうえのおくら)

『秋の七草』とは、秋の野に咲く代表的な花を数え上げたもののことで、万葉集の時代(7世紀後半から8世紀後半頃:うわっ!また斉明天皇の時代だ(^^; )から現代に至るまで幾人もの人が様々な『秋の七草』を数え上げてきましたが、万葉集(第八巻)に詠まれた山上憶良のこの『秋の七草』を越えるものは、これまで現れてこなかったように思われます。なので、私もこの7種類の草花が日本を代表する『秋の七草』だと認識しています。皆さんはこの『秋の七草』を全種類言えますか?

ちなみに、『秋の七草』という言葉自体も、同じく万葉集(第八巻)に詠まれた山上憶良の

「秋の野に 咲きたる花を 指折り(およびをり) かき数ふれば 七種(ななくさ)の花」

が由来だとされています。

この七草の中で、“尾花”とはススキ(芒)、“朝貌”とはキキョウ(桔梗)のことです。ちなみに、現在、我々が一般にアサガオ(朝顔)と呼んでいる植物は、元々は東南アジア原産の草花、すなわち外来種の草花で、日本に持ち込まれたのは平安時代中期以降とされています。従って、現代人である我々がアサガオと呼んでいる花を、7世紀後半の飛鳥時代に生きた山上憶良は見てはおりません。ですから、“朝貌”とはキキョウ(桔梗)のことなんだそうです。

この『秋の七草』、言葉としては、『春の七草』ほど有名ではありません。これは『春の七草』が“七草粥”になることで知られているように、全て食用になるどちらかと言うと実利的な植物を数えているのに対して、『秋の七草』は花としての価値で選ばれたもののように思えます(もちろん、食用・薬用になる植物も入っているのですが…)。

それでは『秋の七草』のそれぞれを、山上憶良の歌の順に少し紹介したいと思います。

まずは「萩(ハギ)」。草カンムリに秋と書くこの花は、まさに字の通り、日本の秋を代表する花です。これは万葉の時代からそうだったようで、万葉集にはこの萩の花を詠んだ歌が100首以上と最も多いのだそうです。背の低い落葉低木ですが、マメ科の植物です。この萩の花、赤紫色のとっても美しい花なのですが、ただの鑑賞用の花であるだけではありません。マメ科植物特有の根粒菌との共生のおかげで、痩せた栄養分の少ない土地でも良く繁殖する特性があり、この特徴を活かして古くから道路の斜面や、治山、砂防などの現場に植えて、山崩れを防いだり、海岸などの砂が飛ばないように緑化植物として活用されています。

中秋の名月の季節に、この萩の花と団子と一緒にお供えし、月見を楽しむことが多いのが、次の「尾花」、すなわち「ススキ(芒)」です。「尾花」というのは、正しくはススキの花穂が出ている時の呼び名です。イネ科の植物で、その昔、穂は家畜の飼料として貴重でした。また、ススキの別名は「茅(カヤ)」。昔の農家などでは茅葺き屋根が多く見られましたが、その屋根に葺かれていたのが茅、すなわちススキの茎でした。このように、家畜の飼料や屋根を葺く建築資材として大量なススキ(茅)が必要とされたので、昔の日本の集落の近くには、必ず定期的に大量のススキを刈り取るためのススキの繁殖地が置かれていて、「茅場」と呼ばれていました。現在、東京証券取引所があることで知られている東京の「茅場町」。ここはまさにその昔、江戸の町で使うススキの一大繁殖地だったところなのでしょう。

次は「葛(クズ)」。この「クズ」という植物はマメ科クズ属の植物ですが、とにかく物凄く繁殖力の強い植物で、野山の至るところに蔓延り、生命力が強くて、10メートル以上にもなるツルが草地を這い回って、あちこちで根をおろします。いったん庭にクズが生えてくると駆除するのが難しいほどで、我が家の庭に自然に生えてきたクズも毎年抜いてはいるのですが、まだまだ駆除しきれていません。濃い紺紫色の小さな穂状の花が咲かせ、甘い芳香を発します。で、東京に「葛飾区」という区がありますが、ここはもともとクズが大繁殖していた湿地帯だったところから、「クズ(葛)」に飾られたところという意味で、「葛飾」という地名になったとのことです。このクズの肥大な長芋のような根(大きなものは長さ1.5メートル、直径20センチほどにもなります)を潰して水にさらして取ったデンプンが「葛粉(くずこ)」。この葛粉は“葛切り”や“葛餅”等の原料になります(冷害で飢饉のおり等には、貴重な食材になりました)。また、この葛粉をそのままお湯に溶いたものが“葛湯”で、これを飲むと身体を温め、血行を良くしてくれるということで、風邪引きの薬や、胃腸不良時の薬としても昔から利用されてきました。この“葛湯”、「葛根湯(かっこんとう)」とも言います。読んで字のごとくで、まさに葛の根をお湯で溶かしたものという意味です。

続いて「ナデシコ(瞿麦:撫子)」。繊細なピンク色の花を咲かせます。その小さくてつつましく控え目で可憐な花の姿に、日本女性の美しさを重ね合わせた言葉が「大和撫子(やまとなでしこ)」です。女子サッカーの日本代表チーム「なでしこジャパン」は小さくて可憐ではありますが、決してつつましく控え目とは言えませんが…。むしろ、逞しいです(笑)。ちなみに、ヨーロッパにもフランス南部や東部にナデシコの花は自生していて、15世紀頃から観賞用に栽培され始めたものが品種改良の末にカーネーションになりました。また、18世紀にイギリスで観賞用に栽培された品種の名前が“ピンク”。これがピンク色の語源になりました。

ピンク色の花の「ナデシコ」の次は黄色い「オミナエシ(女郎花)」です。北米原産の外来種であるセイタカアワダチソウと姿形は似ていますが、セイタカアワダチソウの花が毒々しい黄色をしているのに対して、日本原産の「オミナエシ」の花の黄色は実に優しい色合いの黄色です。可憐な乙女や清楚な妻をイメージさせる「ナデシコ」と異なり、「オミナエシ」をいわゆる玄人女性を意味する「女郎花」とどうして書くのかという理由については私にはよく分かりません。一説には、茎や根がちょっと生臭いので…と言われていますが、どうなんでしょうね。ちなみに、「オミナエシ」を茎ごと乾燥させ煎じたものには解熱・解毒作用があるとされ、昔から生薬として使われてきました。

次は「フジバカマ(藤袴)」。このフジバカマは、原産は中国だとも言われていますが、万葉の昔から日本人に親しまれてきた淡い紫色の花で、かつては日本全国どこでも河原などに行けば群生していました。乾燥させると桜餅の葉のような甘い香りを放ち、お風呂のお湯に入れて香りを楽しんだり、擂り潰して飲むと利尿作用があるとされていました。しかしながら、近年は都市化の影響でその数が急速に減らし、今や環境省から準絶滅危惧種に指定されているほどです。

『秋の七草』の最後は「アサガオ(朝貌)」、すなわち「キキョウ(桔梗)」です。キキョウは透き通った青紫の花が一般的で、極稀に白い花をつける種類もあります。花の形がいいので、古くから観賞用として日本人に親しまれてきました。また、キキョウの花の形の紋章“桔梗紋”が明智光秀の家紋であったことがよく知られています。キキョウの花はだいたい6月下旬頃に咲き、秋ではありません。ではなぜキキョウが『秋の七草』に入ったかと言うと、キキョウの根に理由があると言われています。キキョウは花の季節が終わり、地上の部分が枯れた秋から冬にかけての時期に、掘って根を取り出します。その根を乾燥させてできる生薬が“桔梗根”で、この粉末は、鎮咳や鎮痛、解熱によく効き、冬の風邪の治療に欠かせない植物でした。また、キキョウの葉や茎から採れる白乳液は、漆のかぶれによく効く塗り薬でした。このような生薬としての活躍から『秋の七草』の一員になったと言われています。このキキョウもフジバカマ同様、自生のものは近年急速に減少傾向にあり、環境省からは絶滅危惧種に指定されています。


『秋の七草』だけでなく、この時期は様々な美しい花が見頃を迎えます。このブログを書くために『秋の七草』について調べていましたら、1935年に東京日日新聞が、万葉の歌人・山上憶良の『秋の七草』に対抗すべく、当時の著名人7人から一種類ずつ推薦させて『新・秋の七草』を作ったことを知りました。その『新・秋の七草』とは次の通りです。〔 〕内は推薦者です。

 ●コスモス  〔菊池寛…小説家〕
 ●オシロイバナ  〔与謝野晶子…歌人、作家〕
 ●ヒガンバナ  〔斎藤茂吉…歌人、精神科医〕
 ●シュウカイドウ  〔辻永…洋画家〕
 ●ハゲイトウ  〔長谷川時雨…小説家〕
 ●アカノマンマ(イヌタデ)  〔高浜虚子…俳人〕
 ●キク  〔牧野富太郎…植物学者〕

添付の写真は、この『新・秋の七草』に名前があがっているオシロイバナ(白粉花)とヒガンバナ(彼岸花)です。今朝、JR与野本町駅までの通勤路の途中の道路の植え込みの中で見つけました。綺麗です。

皆さんも週末に近くの野山に足を伸ばして、この季節ならではの草花に癒されてみませんか?(^-^)v

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【追記】

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昨日(23日)、秋らしい寄せ植えを2鉢、作りました。オクラの収穫を終えた菜園プランターには、セロリとサンチュも植えてみました。
しばらく楽しめそうです(^-^)v