2015/02/04
大人の修学旅行2015 in 土佐の一本釣り(その3)
特急「宇和海5号」は定刻の9時30分に終点の宇和島駅に到着しました。松山発が8時08分ですから、松山~宇和島間の所要時間は1時間22分。新線の開通と高出力の2000系ディーゼル特急車両の導入で、随分と短くなったものです。宇和島は四国の南西部、愛媛県の南部(南予地方)に位置する都市で、南予地方の中心都市。宇和島伊達藩10万石。宇和島城を中心に発展した城下町です。元和元年(1615年)に伊達政宗の長男秀宗が遠く東北の仙台の地からここ宇和島に移封させられ、ここに伊達文化が花咲きました。ちなみに幕末の四賢侯として知られる伊達宗城(むねなり)は宇和島伊達家第8代藩主です。
JR宇和島駅はJR予讃線の終着駅であり、頭端式(行き止まり式)のホーム2面3線を持つ構造になっています。松山からの特急列車は全て改札口前の1番線からの発着。ホームが別の2番線と3番線は1番線よりもホームの長さが短く、普通列車専用となっています。その普通列車用の3番線ホームに次に私が乗るJR予土線のディーゼルカーがたった1両(鉄道用語で“単行”と言います)でポツンと停車していました。
予土線(よどせん)は、愛媛県宇和島市の北宇和島駅から高知県高岡郡四万十町の若井駅に至るJR四国のトーカル鉄道路線です。「予土線」という名称は伊予の国(愛媛県)の“予”と土佐の国(高知県)の“土”の字を合わせてもので、愛媛県と高知県を結ぶ唯一の鉄道路線です。高知県内では四万十川の上流部に沿って走る路線であることから、「しまんとグリーンライン」の愛称が与えられて、現在、観光路線として大いに売出し中の路線です。とは言え、走っているのは典型的な中山間地。人口の流出と住民の高齢化が激しい過疎の村々です。正式には予讃線の北宇和島駅と土讃線の若井駅とを結ぶ路線になっていますが、運行上は愛媛県側は宇和島駅、高知県側は窪川駅を起終点として列車が発着しています。宇和島~窪川間を直通する列車のほか、宇和島~江川崎・近永間などの区間運転の列車があり、1~3時間に1本の間隔で運行されています(なので、1本乗り過ごすと、あとが大変なんです)。
過疎化が激しい区間を走るローカル路線ではありますが、高知県内は日本最後の清流と呼ばれる四万十川に沿って走るため、車窓の景色が素晴らしく、JR四国ではこの予土線を観光路線として大々的に売り出しを図っています。そこでJR四国が予土線の利用促進を図るため他に先駆けて導入したのがトロッコ列車。1984年夏に二軸無蓋貨車のトラ45000形を改造してトロッコ列車を製作し、運行を開始して以来、毎年春から秋にかけては「清流しまんと号」、「清涼しまんと」、「四万十トロッコ」、「しまんトロッコ」などの名称を付けて運行され続けています。
企画型の車両はトロッコ列車のほかにも「ホビートレイン」と呼ばれる車両もあります。その第一陣が「海洋堂ホビートレイン」。これは2011年6月に登場したキハ32形改造の車両で、株式会社海洋堂が高知県四万十町にオープンの『海洋堂ホビー館四万十』とコラボレーションしたものです。外観は赤や濃紺をベースに恐竜や動物の画像をラッピングで貼り付けたものとなっています。車内は一部の座席を撤去し、約500体にも及ぶ大小さまざまなフィギュアの展示スペースを設けています。
株式会社海洋堂はフィギュアや食玩等の各種模型を製作する会社で、造形物の精巧さや造形センスは世界屈指の水準を誇ることで有名な会社なんだそうです。創業社長の宮脇修氏が高知県幡多郡黒潮町の出身である関係で、2011年7月、高知県四万十町に、廃校舎を再利用したホビー博物館「海洋堂ホビー館四万十」を開館させています。この「海洋堂ホビートレイン」、当初は1年間ほどの運行予定であったのですが、人気が高いためか期間が延長され、しかも2013年7月にはリニューアルされ、以後も定期運用がなされています。
「ホビートレイン」としては、予土線の全線開通40周年および宇和島~近永間開通100周年に合わせ、初代の0系新幹線をイメージしたビックリするような外観の「鉄道ホビートレイン」を2014年3月15日から運行開始しています(詳細は後述します)。
で、普通列車用の3番線ホームでポツンとたった1両で発車を待っていたのはこのうちの「海洋堂ホビートレイン」でした。予土線の「海洋堂ホビートレイン」窪川行きの普通列車は9分の連絡で9時39分に発車しました。車内は私が乗り込んだ時点で座席は首から一眼レフカメラをぶら下げた鉄道マニアや四万十川の清流を見に来た観光客で満席。仕方なく最後尾に立って乗ることにしました(このほうがいろいろと車窓を楽しめるのでいいです)。フィギュアの展示スペースとして撤去されたぶんの座席があれば、乗客全員が十分に座れるのに…と思うのですが、そんな野暮なことを言ってはいけません。展示されているフィギュアですが、どれも精巧で大変によく出来ていることは認めますが、サンダーバード2号以外はちょっと私の趣味の範疇外です(笑)
予土線は、私鉄の宇和島鉄道によって1914年に開業した宇和島~近永(ちかなが)間の軌間762mmの軽便鉄道が元々の原点です。1923年に近永~吉野生(よしのぶ)間が開業して路線を延長しました。1941年にのちに予讃線となる宇和島~卯之町間が開業し、これに合わせて現在の1,067mm軌間への改軌と起点付近の線路の付け替え工事を実施し、北宇和島駅が起点となりました。第二次世界大戦後に愛媛県(伊予の国)と高知県(土佐の国)の間を結ぶことを目的に2回に渡る延長が実施され、ついに1974年に全線が開通。これに合わせて旧国名の頭文字をとって予土線としたのだそうです。
北宇和島~吉野生間はもともと軽便鉄道であった名残りから、低規格で非常にカーブが多く、この区間、列車は極度に低速で走ります。後ろの運転席の速度計を見ていると、時速20km/h~30km/hと言ったところでしょうか。時刻表を見ると、北宇和島を出て、次の務田(むでん)駅までの所要時間が13分となっていますが、この速度だと、さもありなん…って感じです。とにかくゆっくりゆっくり自転車並みの速度で、山の中を、基本的に地形を忠実になぞって走ります。なのでとにかく急勾配や急なカーブが多く、車窓からは壮大な山の中の風景を望むことができます。
ちょっと開けたところに出てきたと思ったら北宇和島駅から最初の停車駅である務田(むでん)駅に到着。単式ホーム1面1線の無人駅で、駅舎はなく、小さな待合室がホームの真ん中あたりに設置されています。この務田駅、四国霊場第41番札所の龍光寺と第42番札所の佛木寺の最寄駅で、待合室には上りの宇和島域を待っているのであろう巡礼のお遍路さんの姿も見えます。
務田駅を出るとすぐに伊予宮野下(いよみやのした)駅に停車。時刻表を見ると、務田駅と伊予宮野下駅の駅間は900mとなっています。この伊予宮野下駅、2面2線ホームで、ちょっとした木造駅舎もあり、周囲に民家も多く、乗降客もそこそこあります。調べてみると、この伊予宮野下駅、旧・北宇和郡三間町(現在は平成の大合併で宇和島市に編入)の中心駅で、近くに愛媛県立三間高校もあります。
二名駅、大内駅、深田駅と単式ホーム1面1線の無人駅が続き、ちょっと民家の密集地に出てきたと思ったら近永駅に停車。この近永駅は島式ホーム1面2線とちょっとした木造駅舎を有する駅で、ここでもそこそこ乗降客がいます。この近永駅で宇和島方面へ折り返す列車が何本か設定されています。ここ近永駅は北宇和郡鬼北町の中心部で、近くに愛媛県立北宇和高校もあります。ふぅ~~ん、このあたりが北宇和郡鬼北町か…。愛媛県に関係する者として北宇和郡鬼北町と言う地名は知っていましたが、やって来たのは初めてのことです。狭い人口密集地を抜けると、線路際に畑が見え、すぐ傍まで山が迫ってきています。
次の出目(いずめ)駅も、北宇和郡鬼北町にある駅です。こちらは1面1線のホームに小さな待合室だけが建っている駅です。
次の停車は松丸(まつまる)駅。単式ホーム1面1線の駅なのですが、このあたりにしては立派な駅舎が建っています。この駅舎、「松野町ふれあい交流館」との合築で、2階には「森の国ぽっぽ温泉」という温泉施設も入っているそうです。駅名表を見ると、ここは北宇和郡松野町に変わっています。ここ松丸駅は北宇和郡松野町の中心部にあって、駅周辺は旧街道沿いに店舗の建ち並ぶ松丸商店街があり、町役場や農協、伊予銀行松丸支店等の施設も集積しています。ふむふむ、このあたりが北宇和郡松野町か…。先ほどの北宇和郡鬼北町と同様、町名だけは知っていましたが、来たのは初めてのことです。こういうこともローカル線の旅の面白さです。
続く吉野生(よしのぶ)駅も北宇和郡松野町にある駅。周囲の景色に不似合いな相対式ホーム2面2線を有し、列車の交換が可能な駅で、古びた木造駅舎が建っています。この吉野生駅、前述のようにかつて私鉄の宇和島鉄道(軽便鉄道)だった時代には終着駅だったところです。
次の真土(まつち)駅も北宇和郡松野町にある駅ですが、こちらは単式ホーム1面1線の無人駅です。周囲は一面の茶畑で、なぁ~んにもありません。この真土駅が愛媛県最南端の駅で、この駅と1つ先の西ヶ方駅との間で高知県との県境を越えます。県境は通常分水嶺になっているところが多いのですが、この予土線の愛媛県・高知県県境の場合はそうではなくて、それよりも手前の愛媛県側に分水嶺があるようで、川の流れが反対になります。基本的に進行方向左側には線路に沿って川が流れているのですが、予土線の起点である北宇和島駅を出てすぐは宇和島方向に向いて流れていた川が、北宇和郡松野町の真土駅付近で気がついた時にはその反対側の窪川方面に流れを変えています。県境は真土駅と隣の西ヶ方(にしがほう)駅との間にあるのですが、分水嶺はそのもっと手前の愛媛県側にあるようです。この真土駅あたりで線路の横を流れている川は清流四万十川の支流の一つ、広見川です。と言うことは、清流四万十川の源流は愛媛県にもあるってことです。
分水嶺と書きましたが、このあたりの山はさほど高くも険しくもなく、どちらかと言うと低い山々が続きます。川の流れを確認しないと、分水嶺を過ぎたとは気づかないほどです。また、川は右へ左へと大きく蛇行を繰り返し、それに沿う形で予土線の線路も右へ左へ蛇行を繰り返します。
高知県に入って最初の駅、西ヶ方(にしがほう)駅に停車。駅名標識の表記によると、この駅の所在地は高知県四万十市となっています。ここも単式ホーム1面1線の無人駅で、ホームは異様に長いのですが、駅舎はなく待合所があるだけです。この長いホームは何のため? 疑問です(^^;
……(その4)に続きます。
執筆者
株式会社ハレックス
前代表取締役社長
越智正昭
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