2015/03/23
ターミナル…あゝ上野駅(その1)
『ターミナル(Terminal)』という言葉があります。交通輸送の分野では、「ターミナル駅」や「バスターミナル」、「トラックターミナル」、「フェリーターミナル」、「空港ターミナルビル」等でこの「ターミナル」という言葉が使われます。広義の意味としては、各種の輸送形態において、その輸送路の終端や末端、あるいは乗り換え・積み替えを行なう施設のことを「ターミナル」と言います。電子機器の分野では、電子回路において、電子信号の入出力のための電線を接続する部品、端子のことを「ターミナル」と言いますし、コンピュータ用語では、 コンピュータへのデータ入出力に用いる電子式あるいは電気機械式のハードウェア(端末)のことを「ターミナル」と言います。また、医療の分野でも、不治の病と診断され、数週間から数カ月以内に死亡すると予期される状態のことを「ターミナル」といい、このような患者に対する、身体的苦痛や精神的苦痛を軽減する目的の医療・看護のことを「ターミナルケア」、 終末期医療と言います。このように「ター
ミナル」とは終端や末端という意味です。
鉄道の駅の場合、「ターミナル」というと、例えば新宿駅や渋谷駅のように複数の路線、鉄道会社の線が乗り入れていて各線間やバスの乗り換えのある規模の大きな駅を思い浮かべます。実際、世間一般の人のイメージとしては「ターミナル」はそのように使われているように思います。しかしながら、上記の述べたように「ターミナル」とは、その輸送路の終端や末端、あるいは乗り換え・積み替えを行なう施設のことを指すわけで、鉄道の場合は「終点」や「終着駅」がこれに該当します。施設の規模に関係なく、電車や列車が停車したり通過したりするだけの駅は、「ステーション(Station)」と呼ばれます。
実は「終着駅」という言葉は今から60年ちょっと前に作られた比較的新しい日本語なのです。それまでは単に「終点」と呼ばれていました。「終着駅」という言葉が作られたのは1953年のこと。日本でも公開されたある外国映画の題名(邦題)からなのです。その映画とはズバリ『終着駅』。アメリカ映画ですが、原題はイタリア語で『Stazione Termini』と言います。この映画はローマのテルミニ駅を舞台に、ジェニファー・ジョーンズ演じるアメリカ人の人妻と、モンゴメリー・クリフト演じるイタリア人の英語教師の間のひと時の恋を描いた恋愛映画の名作です。日本でも公開され大ヒットしました。日本で公開される時に「終点」ではあまりにも風情が出ないだろう…ということになり、付けられた題名が『終着駅』でした。そして、今ではこの映画の題名のみならず、日常でも使われる言葉になったということです。
この映画『終着駅』、この作品は私が生まれる前に公開された映画なので、私はリアルタイムでは観ていませんが、題名が題名なので、鉄ちゃんとしては観てみようと思い、学生時代に旧作映画を主に上映する「名画座」で観たことがあります。コテコテの恋愛映画なので、ストーリー自体は私にとってはつまらなかったのですが、舞台となったローマのテルミニ駅の光景にだけは圧倒され、強く印象に残りました。
テルミニ駅はイタリアの首都ローマの玄関口である中央駅で、パリ、ミュンヘン、ジュネーブ、バーゼル、ウィーン等に向かう国際列車が毎日運行されているほか、全てのイタリア主要都市を結ぶほとんどの定期列車が、このテルミニ駅から出ています。ホームの数が32個という極めて規模の大きな駅で、そのホームは頭端式と言う“櫛の歯形”の構造をしています。開業は1852年と言いますから今から153年前。現在の駅舎のうち正面のメインコンコース部分は1947年~1951年に建設されたモダニズム建築であり、この駅舎が映画『終着駅』では舞台として使われました。
テルミニ(Termini)という駅の名称は、駅の近くに古代ローマ帝国の皇帝ディオクレティアヌスの作った浴場の遺跡があり、古代ローマの公衆浴場を意味するテルマエ(Thermae)を由来とする同じ名前の地名から名づけられたそうです(阿部寛さん・上戸彩さん主演で『テルマエ・ロマエ』という邦画が2012年に公開されましたが、その「テルマエ」がそれです)。なので、映画の題名『Stazione Termini』をそのまま日本語に翻訳すると「テルミニ駅」ということになるのですが、それじゃああまりにも味気ないということで『終着駅』と名付けられたのでしょう、きっと。
このイタリア・ローマのテルミニ駅(中央駅、正式名称:Stazione di Roma Termini)、前述のように頭端式のホーム32線を有するあまりに大規模な堂々とした終端駅で、まさに「すべての道はローマに通ず」を現代に再現したような駅です。まだ飛行機による移動が一般的でなかった1960年代まではヨーロッパ内であっても国を跨がった人々の移動も鉄道の利用が一般的で、このローマのテルミニ駅の壮観さは人々の憧れの的のようなところがありました。
前述の映画『終着駅』(原題:Stazione Termini)は、イタリア映画ではなく、アメリカ合衆国のハリウッド映画です。主演の2人、アメリカからやって来た人妻を演じたジェニファー・ジョーンズも、そのアメリカ人の人妻と恋に堕ちるイタリア人の英語教師を演じたモンゴメリー・クリフトも、どちらもアメリカの俳優さん(イタリア人があまりに流暢に英語を話すということで、英語教師という(安易な)設定にしたのではないか…と私は推測します)。1945年に製作・公開されたイギリスの恋愛映画の傑作『逢びき』(原題:BriefEncounter)に匹敵する恋愛映画を作ろうとプロデューサーが選んだロケ地が正面コンコース部分が1951年に竣工したばかりのこのローマ・テルミニ駅だったというわけです。それくらい当時はローマ・テルミニ駅は旅情を誘う世界の人々の憧れの場所だっということです。
余談ですが、映画『終着駅』も『逢びき』も、配偶者を持つ身でありながら道ならぬ恋に惑う男女の出会いと別れを描いた恋愛映画の傑作で、当時はこういう映画が人々に人気だったんですね。まぁ~、今も恋愛映画、恋愛ドラマの定番ではありますが…。
テルミニ駅に話を戻しますが、テルミニ(Termini)は今でこそイタリア語でも“終点”を意味する言葉になっているようですが、元々からあったイタリア語の“終点”を表す言葉ではなく、その駅名の由来は、近くに古代ローマ帝国の皇帝ディオクレティアヌスの作ったテルマエ(公共浴場)の遺跡があったことからこの土地の地名となっていたテルミニ(Termini)からとって名付けられたということは前述の通りです。映画『終着駅』が大ヒットしたことで、日本でも“終着駅”という言葉が広く使われるようになったと書きましたが、これは日本に限ったことではなく、ヨーロッパの他国においても、このローマのテルミニ駅にあやかって、頭端式のホームを持つ終着駅のことを“ターミナル(Terminal)”と呼ぶようになったわけです。ターミナルの語源が古代ローマ帝国の公共浴場(テルマエ)にあったなんて、意外でしょ(^^)d まぁ~、ターミナル駅も公衆浴場も多くの人が集まる場所という意味では似たようなものではありますすが…。
ネットワークに繋がるコンピュータの端末のことを“ターミナル”と言いますが、この端末(ターミナル)のそもそもの語源も古代ローマ帝国の公共浴場(テルマエ)にあったなんて、夢があっていいでしょ(^^)d どちらも、まぁ~、癒されるものではあります(笑) 特にコンピュータエンジニアにとっては(^-^)v
……(その2)に続きます。
鉄道の駅の場合、「ターミナル」というと、例えば新宿駅や渋谷駅のように複数の路線、鉄道会社の線が乗り入れていて各線間やバスの乗り換えのある規模の大きな駅を思い浮かべます。実際、世間一般の人のイメージとしては「ターミナル」はそのように使われているように思います。しかしながら、上記の述べたように「ターミナル」とは、その輸送路の終端や末端、あるいは乗り換え・積み替えを行なう施設のことを指すわけで、鉄道の場合は「終点」や「終着駅」がこれに該当します。施設の規模に関係なく、電車や列車が停車したり通過したりするだけの駅は、「ステーション(Station)」と呼ばれます。
実は「終着駅」という言葉は今から60年ちょっと前に作られた比較的新しい日本語なのです。それまでは単に「終点」と呼ばれていました。「終着駅」という言葉が作られたのは1953年のこと。日本でも公開されたある外国映画の題名(邦題)からなのです。その映画とはズバリ『終着駅』。アメリカ映画ですが、原題はイタリア語で『Stazione Termini』と言います。この映画はローマのテルミニ駅を舞台に、ジェニファー・ジョーンズ演じるアメリカ人の人妻と、モンゴメリー・クリフト演じるイタリア人の英語教師の間のひと時の恋を描いた恋愛映画の名作です。日本でも公開され大ヒットしました。日本で公開される時に「終点」ではあまりにも風情が出ないだろう…ということになり、付けられた題名が『終着駅』でした。そして、今ではこの映画の題名のみならず、日常でも使われる言葉になったということです。
この映画『終着駅』、この作品は私が生まれる前に公開された映画なので、私はリアルタイムでは観ていませんが、題名が題名なので、鉄ちゃんとしては観てみようと思い、学生時代に旧作映画を主に上映する「名画座」で観たことがあります。コテコテの恋愛映画なので、ストーリー自体は私にとってはつまらなかったのですが、舞台となったローマのテルミニ駅の光景にだけは圧倒され、強く印象に残りました。
テルミニ駅はイタリアの首都ローマの玄関口である中央駅で、パリ、ミュンヘン、ジュネーブ、バーゼル、ウィーン等に向かう国際列車が毎日運行されているほか、全てのイタリア主要都市を結ぶほとんどの定期列車が、このテルミニ駅から出ています。ホームの数が32個という極めて規模の大きな駅で、そのホームは頭端式と言う“櫛の歯形”の構造をしています。開業は1852年と言いますから今から153年前。現在の駅舎のうち正面のメインコンコース部分は1947年~1951年に建設されたモダニズム建築であり、この駅舎が映画『終着駅』では舞台として使われました。
テルミニ(Termini)という駅の名称は、駅の近くに古代ローマ帝国の皇帝ディオクレティアヌスの作った浴場の遺跡があり、古代ローマの公衆浴場を意味するテルマエ(Thermae)を由来とする同じ名前の地名から名づけられたそうです(阿部寛さん・上戸彩さん主演で『テルマエ・ロマエ』という邦画が2012年に公開されましたが、その「テルマエ」がそれです)。なので、映画の題名『Stazione Termini』をそのまま日本語に翻訳すると「テルミニ駅」ということになるのですが、それじゃああまりにも味気ないということで『終着駅』と名付けられたのでしょう、きっと。
このイタリア・ローマのテルミニ駅(中央駅、正式名称:Stazione di Roma Termini)、前述のように頭端式のホーム32線を有するあまりに大規模な堂々とした終端駅で、まさに「すべての道はローマに通ず」を現代に再現したような駅です。まだ飛行機による移動が一般的でなかった1960年代まではヨーロッパ内であっても国を跨がった人々の移動も鉄道の利用が一般的で、このローマのテルミニ駅の壮観さは人々の憧れの的のようなところがありました。
前述の映画『終着駅』(原題:Stazione Termini)は、イタリア映画ではなく、アメリカ合衆国のハリウッド映画です。主演の2人、アメリカからやって来た人妻を演じたジェニファー・ジョーンズも、そのアメリカ人の人妻と恋に堕ちるイタリア人の英語教師を演じたモンゴメリー・クリフトも、どちらもアメリカの俳優さん(イタリア人があまりに流暢に英語を話すということで、英語教師という(安易な)設定にしたのではないか…と私は推測します)。1945年に製作・公開されたイギリスの恋愛映画の傑作『逢びき』(原題:BriefEncounter)に匹敵する恋愛映画を作ろうとプロデューサーが選んだロケ地が正面コンコース部分が1951年に竣工したばかりのこのローマ・テルミニ駅だったというわけです。それくらい当時はローマ・テルミニ駅は旅情を誘う世界の人々の憧れの場所だっということです。
余談ですが、映画『終着駅』も『逢びき』も、配偶者を持つ身でありながら道ならぬ恋に惑う男女の出会いと別れを描いた恋愛映画の傑作で、当時はこういう映画が人々に人気だったんですね。まぁ~、今も恋愛映画、恋愛ドラマの定番ではありますが…。
テルミニ駅に話を戻しますが、テルミニ(Termini)は今でこそイタリア語でも“終点”を意味する言葉になっているようですが、元々からあったイタリア語の“終点”を表す言葉ではなく、その駅名の由来は、近くに古代ローマ帝国の皇帝ディオクレティアヌスの作ったテルマエ(公共浴場)の遺跡があったことからこの土地の地名となっていたテルミニ(Termini)からとって名付けられたということは前述の通りです。映画『終着駅』が大ヒットしたことで、日本でも“終着駅”という言葉が広く使われるようになったと書きましたが、これは日本に限ったことではなく、ヨーロッパの他国においても、このローマのテルミニ駅にあやかって、頭端式のホームを持つ終着駅のことを“ターミナル(Terminal)”と呼ぶようになったわけです。ターミナルの語源が古代ローマ帝国の公共浴場(テルマエ)にあったなんて、意外でしょ(^^)d まぁ~、ターミナル駅も公衆浴場も多くの人が集まる場所という意味では似たようなものではありますすが…。
ネットワークに繋がるコンピュータの端末のことを“ターミナル”と言いますが、この端末(ターミナル)のそもそもの語源も古代ローマ帝国の公共浴場(テルマエ)にあったなんて、夢があっていいでしょ(^^)d どちらも、まぁ~、癒されるものではあります(笑) 特にコンピュータエンジニアにとっては(^-^)v
……(その2)に続きます。
執筆者
株式会社ハレックス
前代表取締役社長
越智正昭
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