2015/08/20

天津の大爆発事故、気になる風向きは…

中華人民共和国の天津市港湾部の浜海新区で12日午後11時半(日本時間13日午前0時半)頃、危険化学物質を貯蔵する倉庫が大爆発を起こしました。この大爆発では現場付近に直径100m近い大きな穴が開き、既に114名の方の死亡が確認され、さらに70名ほどの行方不明の方がいらっしゃるという報道もあります。犠牲になられた方の多くが消防関係者とみられ、当時の消火活動が適切だったのかが大きな焦点になっているようです。

爆発の原因について、国営の新華社通信は「現場の状況は複雑で、依然調査中だ」と前置きしたうえで、現場となった倉庫の関係者の話として、まず火災が起きて、その後、爆薬の原料にもなる硝酸アンモニウムに引火し、爆発した可能性があると伝えています。出火場所の近くにあった硝酸アンモニウムの量はコンテナ十数個分、合わせて200トン以上だったということです。この硝酸アンモニウムですが、化成肥料の窒素源として主要な物質であると同時に、火薬・爆薬の原料としても重要な物質です。

そして気になる物騒な物質の名前も。この倉庫にはその硝酸アンモニウムのほか、硝酸カリウム、炭化カルシウムなど40種類を超える危険な化学物質が少なくとも約3,000トン、さらには約700トンの“シアン化ナトリウム”が保管されていて、それらが大量の放水により、爆発し消滅したというなんとも物騒な報道も流れています。このシアン化ナトリウム、青酸ソーダや青化ソーダとも呼ばれ、金属の鍍金(メッキ)に使用されることから工業的には最も主要なシアン化アルカリです。化学的および生理的性質はシアン化カリウム(いわゆる青酸カリ)に類似し、極めて毒性の強い物質です。約700トンのシアン化ナトリウムと言うと、なんとなんと20億人分以上の致死量にも相当すると言われています(@_@)

昨日(19日)、国営の中国中央テレビは、消防当局の幹部の話として、今週に入って現場で採取した空気のサンプルから、毒物であるシアン化ナトリウムと神経ガスが検出されたと伝えています。神経ガスの種類は特定されていませんが、現場周辺の安全性を懸念する声が上がっています。当局は現場から半径3km以内を立ち入り禁止にしているそうですが、極めて毒性の強いガスだけに、地元住民らを中心に人体にどの程度影響を及ぼすのか等、不安が募っているという報道も流れています。そりゃあそうです。

(その後、この報道は天津市環境保護当局者の記者会見で否定され、中国中央テレビの報道もWebサイトから削除され、視聴できなくなったとかで、情報はかなり錯綜しているようです。)

隣国である中華人民共和国の天津で発生した事故だけに、この報道が日本のテレビニュースで流れた直後、私のもとにも、何人かの友人・知人から、天津の大爆発事故の影響、特に毒性物質の日本への飛散の可能性について教えてほしいという問い合わせがありました。

公式見解は気象庁さんや環境省さんなどからいずれ出されると思いますが、速報として、このところの天津近郊の風の流れについてお知らせします。

図1は、弊社の気象ビッグデータ可視化ツールの『WeatherView2』で再現した8月14日の12時(日本時間21時)の高度750m付近(925hPa面)の風の流れを示しています(全球モデルGPVデータ)。爆発が起きた日本時間8月13日午前0時頃のデータは過去のデータとしてシステム的には既に別のところに格納してあるので、再現するにはそれを再度ダウンロードして表示せねばなりません。ちょっと面倒なので、ここは現時点ですぐに再現できる一番直近の8月14日12時(日本時間21時)のデータで代替させていただきます。まぁ~、この時は黄海に高気圧がしばらく停滞した気圧配置になっていましたので、爆発が起きた日本時間8月13日午前0時頃も8月14日21時とほとんど変わらない風の流れだったのではないかと推測されます。

図1


この図をご覧いただくとお分かりいただけるように、黄海に停滞する高気圧の周囲を右回りに巻くように大気の流れが出来ていて、天津付近には南西からの風、すなわち天津から北東の遼東半島、さらには遼寧省といった中国東北部(旧満州)に向けての大きな大気の流れが見られます。図2は日本時間8月19日午前9時の同じく高度750メートル付近の風の流れです。黄海に停滞していた高気圧は日本海に移動していますが、この高気圧から噴き出してくる風が強い大気の流れを作っていて、天津付近は同じく南西から北東の方向に向けての比較的強い風が吹いていて、別の時間のデータを見ても、この数日間、この風向きに大きな変化はありません。

図2


これによると、天津の大爆発事故によって大気中に巻き上げられた強い毒性を持つシアン化ナトリウムを含む神経ガスは、幸いなことに日本列島の方向にはほとんど流れてきていないのではないか…と推察されます。

加えて、シアン化ナトリウムをはじめとした神経ガスは空気より比重がかなり重いため、天津から1,000km以上離れた日本列島まで風に乗って飛来することはまず考えがたいと思われます。気になるのは上空を西から東に流れる偏西風の影響ですが、シアン化ナトリウムをはじめとした神経ガスが大爆発により上空に吹き上げられたとしても、比重の大きさから影響が出るのは、せいぜい高度1,000メートル程度までではないか…と推測されます。なので、偏西風が流れる高度10,000メートル付近の高高度までは到達していないのではないかと推測されます。

念のため、偏西風の蛇行の様子を図3に示します。この図は高度10,000メートル付近(250hPa面)の上空の大気の流れを示しています。これを見ると、確かに偏西風は蛇行しながら日本列島に向かって西から東の方向に秒速100メートルを超える速い速度で流れてはいますが、偏西風のメインルートは日本列島の日本海側をかすめるように流れているので、こちらもたぶん大丈夫ではないか…と推察されます。

図3


天津にある天津港は中華人民共和国の首都北京の玄関港であり、中華人民共和国の4大貿易港の1つ。輸出入の取扱い高も大きく、この爆発事故により機能停止に陥っている天津港の再開が今後長引くことになれば、中華人民共和国だけでなく、我が国経済、さらには世界経済全体にも極めて深刻な影響を及ぼすことも十分に考えられます。爆発により消失したとされる大量のシアン化ナトリウムや神経ガスのこともそうですが、なんとも物騒な事故を起こしてくれたものです。国を挙げての早急な対応を期待したいところです。

それにしても、隣国で起きた20億人分以上の致死量に相当するシアン化ナトリウムや神経ガスの消失というのは、原子力発電所の事故による放射能漏れ以上に深刻かつ重大な事故の筈なのですが、いまいち報道の扱いが小さく、詳細な情報があまりに不足しているのが気になるところです。重大な事故を起こした新幹線車両を、再発防止に繋がるような十分な事故原因の追求を行うこともせずにすぐに地中に埋めて証拠隠滅を図ったように、安心・安全に対する意識が決定的に欠如しているとしか思えないような国で起きた事故だけに、なにか重大な事実を隠しているように思えて、不安が募ります。

執筆者

株式会社ハレックス前代表取締役社長 越智正昭

株式会社ハレックス
前代表取締役社長

越智正昭

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