2016/07/01

麦うらし2016(その4)

 これまで食用の主力であったウルチ麦(=ウルチ性ハダカ麦)以上に食感の優れた品種の麦が「モチ麦(=モチ性ハダカ麦)」です。モチ麦は基本的にモチモチした性質のデンプンだけの麦ですので、「噛むと甘みがあり、歯ごたえが良い」、「冷めても美味しい」といった優れた特徴があります。モチ麦も実は栽培の歴史そのものはとても古く、紀元前3000年頃までには西南アジアで栽培化されていたと言われています。その後ユーラシア大陸全土とアフリカ東北部に広く伝わりましたが、現在は、日本や中国、朝鮮などの東アジアでしか栽培されていません。栽培方法が難しいため量産に向かず、日本でも中国地方や四国地方の瀬戸内海に面した諸県と九州北部の諸県の一部で僅かに栽培されていただけでした(このあたりの気象条件がモチ麦の成育に適していたということなのでしょうね)。主として自家用に栽培され、「モチ麦」や「ダンゴ麦」などと呼ばれ、その名の通り(モチ米の代用として)餅や団子を作るための麦として親しまれてきましたが、優れた特徴があるいっぽうで前述のように栽培が極めて難しいため、残念ながらその栽培は昭和30年頃には食生活の変化により完全に衰退してしまっていました。

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 『麦うらし』と同様、そのモチ麦の栽培を復活させたのがジェイ・ウィングファームの牧秀宣さんでした。牧さんは地域の風土に適合した穀物栽培に取り組み、赤米・黒米・コキビ・アワ・ハダカ麦・シコクビエ・地トウキビ・緑米・小麦等、それまでも様々な穀物を栽培してきていたのですが、その一環で取り組んだのが当時“伝説の麦”のように言われていたモチ麦の栽培でした。モチ麦を作り始めたのは、愛媛県庁の農産課の人から白色と黒色(紫色)のモチ麦を提供されたのがそもそものきっかけだったのだそうです。牧さんは当時既にウルチ性のハダカ麦の栽培はしていたのですが、それだけでは面白くないな…と思っていて、はっきりと違いがわかる黒色(紫色)のモチ麦に注目したのだそうです。前述のようにモチ麦は長い栽培の歴史がありながら作る人がいなくなってしまっていたので、「これを是非復活させてみたい」とモチ麦の栽培に取り組み始めたのだそうです。しかし、実際にモチ麦の栽培を始めてみると、最初は失敗の連続だったそうです。もともとのモチ麦は稈(くき)の丈が高いので、成長すると全部の稈(くき)が根元から倒れてしまいました。そこで、農林水産省四国農業試験場(現・農研機構四国研究センター:香川県善通寺市)の協力を得て、黒色(紫色)の色素を残し稈の丈の短い品種を特別に選別してもらい、数年間の試験栽培を繰り返したうえで、2005年から本格的にモチ麦の栽培に取り組みました。このモチ麦の品種は、農林水産省四国農業試験場のある香川県善通寺市所縁の弘法大師にちなんで「ダイシモチ」と呼ばれ、今ではモチ麦の代表品種の1つになっています。

 しかし、栽培に取り組み始めたものの、誰もその栽培方法や活用方法を知らないことで大変にご苦労されたそうです。いろいろと調べていくとモチ麦が機能食品として素晴らしい特質を持つと知った牧さんは、それでもなんとかモチ麦を商品化したいと懸命に栽培を続けたのですが、すべてが手探りの状態で、苦労の連続だったそうです。自分の舌で確かめ、自分の足で市場を少しずつ少しずつ開拓し、モチ麦を地道な努力で何年もかけて徐々に徐々に復活させてきました。

 栽培していく過程で、通常の大麦(皮麦)は表皮をすべて削ってしまわないと食べられないが、ハダカ麦やモチ麦は表皮を薄く削るだけで、十分に食用に供することができることが分かりました。この表皮部分には、現代の日本人の食生活で不足しているミネラルが多く含まれることが分かっていたので、この特性は実に魅力的でした。鉄やマグネシウム、亜鉛なども通常の大麦のほぼ2倍の含有量であり、また、糖質が少なく食物繊維を多く含むという優れた性質を持っていることも分かりました。このモチ麦が持つ機能食材としての特徴を最大限に活かすための「表皮部分を薄く残す精製技術」も、牧さんが試行錯誤の結果、独自に編み出したものです。そのようなこれまでの苦労の成果がここに来て一気に結実してきている感じがします。

 ハダカ麦は玄米や白米等に比べ、糖質やカルシウムを多く含みます。ハダカ麦の機能性成分の中で最も主要な成分は食物繊維で、白米の10倍以上と言われています。その中でも「β-グルカン」と呼ばれる水溶性繊維は、動脈硬化の原因と言われる血液中のLDLコレステロール値を低下させる働きや、癌(ガン)の予防にも効果があると言われています。β-グルカンの含有量は、一般的に通常の大麦よりハダカ麦が、また、そのハダカ麦の中でもウルチ麦(=ウルチ性ハダカ麦)よりモチ麦(=モチ性ハダカ麦)のほうが多い傾向にあります。そのため、ハダカ麦(ウルチ麦)とモチ麦は健康食品ブームの今、俄かに世の中の注目を大いに集める食材になっています。

 例えば、大腸癌(ガン)。大腸癌の患者数は年々増加していて、最近では男性ではあらゆる癌の中で最もかかりやすい癌となり、女性でも乳癌に次いでかかりやすい癌になっています。この社会的な問題ともなっている大腸癌の患者数の増加ですが、大腸癌による死亡率が低い都道府県ランキングで、愛媛県が男性では1位、女性では2位となっていることをご存知ですか? すなわち、愛媛県は他県と比べ男女共に大腸癌にかかりにくい県なのです。

 この要因は何かということですが、そこにハダカ麦が関係しているという有力な説があります。大腸癌にかかる大きな原因としては動物性脂肪の摂り過ぎが挙げられます。動物性脂肪を摂り過ぎると胆汁が大量に分泌されるのですが、この胆汁が腸内細菌によって分解されて、発癌性のある二次胆汁酸ができるのだそうなのです。従って、大腸癌を予防するには、常に腸内環境を整えておく必要があります。前述のように愛媛県はハダカ麦の生産量日本一の県です。愛媛県の味噌といえば、このハダカ麦を使った麦味噌が主流です。従って、麦味噌にはβ-グルカンをはじめとした食物繊維が豊富に含まれます。さらに麦味噌に含まれる麹菌は、腸のビフィズス菌などの善玉菌を活性化し腸内環境を整えてくれるので大腸癌の予防効果が期待できるというわけです。

 また、ダイシモチの実は紫色をしていると書きましたが、これはアントシアニン色素によるものです。近年、アントシアニンのもつ抗酸化性、抗炎症作用、血糖低下作用等の生理活性が明らかとなり、アントシアニン色素を含む穀物はその供給源として注目されるようになってきています。ダイシモチは、ハダカ麦のため表皮が軟らかく、約6~7分搗きすることでこの大切なアントシアニン色素を残すことができます。牧さんが最初に黒色(紫色)のモチ麦に注目したのは大正解でした。(現在、国内で流通しているモチ麦は、外国産のモチ麦(アメリカ産)がほとんどで、コメのように“白い”のが特徴です。いっぽう、ダイシモチは、外国産のモチ麦のように白くなく、薄い紫色をしています。)

 とは言え、モチ麦(ダイシモチ)の生産量は年間僅かに約150トンほどに過ぎません。健康食品ブームの中で急激に湧き上がった需要に対しては、まだまだ“幻の麦”と呼ばれるほど極めて稀少な麦で、栽培面積も少なく、ジェイ・ウィングファームとそのお仲間の幾つかの農業法人が栽培しているに過ぎません。増産するには作付面積を広げるしか方法がなく、この生産の輪をいかにして広げていくのかが、最大の課題になっています。

 牧さんと知り合って以来、埼玉県さいたま市の我が家では通常の白米にジェイ・ウィングファームで購入してきたモチ麦(ダイシモチ)を混ぜてご飯を炊いています。そうすると炊き上がったお米はお赤飯のように赤い色に染まるのですが、抜群に美味しくなります。おまけに前述のように成人病の予防にも役立つので、今では我が家の必需品になっていますd(^_^o)

 愛媛県の自然の恵みを最大限に活かした「地域資源」として『モチ麦(ダイシモチ)』の生産量が増え、そのモチ麦を原材料として様々な商品が開発され、愛媛県の経済が少しでも活性化していくことを期待してやみません。

【追記】
 私は数年前まで体重が83kg(身長172cm)もある肥満体だったのですが、ハダカ麦やモチ麦入りのご飯を食べるようになって、今では75kgまでの減量に成功しています。スーツのサイズもB6体がAB6体になり、スーツの買い替えを余儀なくされました。また、つい最近まで人間ドックを受診すると常に血糖値が糖尿病の危険値を若干超えて危険水域を漂っていたのですが、この値も今は危険値を超えなくなり危険水域を脱しています。私は極めてモノグサな人間ですので、この間、なにか運動をするとかジムに通うとか特別に減量の努力をしてきたわけではなく、やったことと言えば、ただ単にハダカ麦やモチ麦入りのご飯を食べるようにしただけです。もしかしたら、前述のハダカ麦やモチ麦の持つ機能性成分のおかげなのかもしれません。

 ちなみに、効能・効果には個人差があります(´▽ ` )ノ

執筆者

株式会社ハレックス前代表取締役社長 越智正昭

株式会社ハレックス
前代表取締役社長

越智正昭

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