2016/09/23
防災:民間気象情報会社だからできること
今年も全国で大雨による甚大な被害が出ています。気象庁が発表した「災害をもたらした気象事例」の平成28年(2016年)の速報版等によると……、
6月19日から25日にかけて、本州付近に梅雨前線が停滞し、その前線上を次々と低気圧が通過した影響で西日本を中心に大雨となりました。19日から30日までに観測された総降水量は九州地方の広い範囲で500ミリを超え、宮崎県えびの市えびので1210.5ミリ、熊本県南阿蘇村阿蘇山で1053.5ミリなど、1000ミリを超えた所が続出しました。また、観測された最大1時間降水量は、熊本県甲佐町甲佐で150.0 ミリ、熊本県山都町山都で126.5ミリ、長崎県雲仙市雲仙岳で124.5ミリなど、多くの地点で1時間に80ミリ以上の猛烈な雨となりました。特に熊本県甲佐町で21日0時20分頃までの1時間に観測した150.0ミリという猛烈な雨は熊本県内では過去最大、全国でも歴代4位となる1時間雨量の記録です。この大雨の影響で、土砂災害、浸水害等が発生し、熊本県で死者6名、福岡県で行方不明者1名を出しました。また、西日本から東日本にかけて住家全壊11棟、半壊15棟、一部損壊85棟、床上浸水389棟、床下浸水1,129棟などの住家被害が発生し、停電、断水、電話の不通等ライフラインに被害が生じたほか、鉄道の運休等の交通障害が発生しました。(被害状況は消防庁HPより)
ついで、8月には相次いで発生した台風7号、11号、9号が、それぞれ8月17日、21日、23日に北海道に上陸しました。さらに、8月30日には台風10号が暴風域を伴ったまま岩手県に上陸し、東北地方を通過して日本海に抜けました。
まず、8月16日から17日にかけて、台風7号が関東地方や東北地方の太平洋沿岸を北へ進み、北海道襟裳岬付近に上陸し、温帯低気圧に変わりました。その後、20日から22日にかけて、台風11号が東北地方の太平洋沿岸沖合を北へ進み、北海道釧路市付近に上陸しました。また、21日から23日にかけては台風9号が伊豆諸島付近を北へ進み、千葉県館山市付近に上陸し本州を縦断した後、北海道日高地方に再上陸しました。さらに、19日に八丈島付近で発生した台風10号ははじめ南西に進んだ後、南大東島付近で向きを北東に変え、29日から30日にかけて日本の東海上を北へ進み岩手県大船渡市付近に上陸した後、31日0時に日本海で温帯低気圧に変わりました。また、17日から22日にかけて北日本に、さらに26日から27日にかけては本州付近に前線が停滞したほか、台風の周辺や日本の東海上の太平洋高気圧の縁に沿って、暖かく湿った空気が流れ込む状況が継続しました。なお、北海道に3つの台風が上陸したこと、台風が東北地方太平洋側に上陸したことは、気象庁が1951 年に統計を開始して以来、初めてのことです。
これら4つの台風等の影響で、東日本から北日本を中心に大雨や暴風となり、特に北海道と岩手県では、記録的な大雨となりました。8月16日から31日までの総降水量は、北海道上士幌町ぬかびら源泉郷で858.0ミリ(平年の8月1ヶ月分の4.3倍)、静岡県伊豆市天城山で812.5ミリ、福島県福島市鷲倉で777.5ミリ(平年の8月1ヶ月分の2.3倍)、埼玉県秩父市三峰で683.5ミリとなるなど、関東地方や北日本を中心に総降水量600ミリを超える記録的な大雨となったところがあったほか、関東地方や東北地方で1時間に80ミリ以上の猛烈な雨を観測した所がありました。また、統計期間が10年以上の観測地点のうち、最大1時間降水量で25地点、最大3時間降水量で44地点、最大24時間降水量で8地点、最大48時間降水量で6地点、最大72時間降水量で19地点が観測史上1位の値を更新しました。
台風7号が接近、上陸した8月16日から17日の間の最大風速は、北海道釧路市釧路で31.8メートルを観測するなど北海道地方で暴風を観測しました。台風9号が接近、上陸した8月22日から23日の間の最大風速は、千葉県勝浦市勝浦で31.5メートル、東京都三宅村三宅島で30.4メートルを観測するなど関東地方で暴風を観測しました。台風10号が接近、上陸した8月30日の最大風速は、山形県酒田市飛島で25.3メートルを観測するなど東北地方で暴風を観測しました。また、統計期間が10年以上の観測地点のうち、最大風速で21地点、最大瞬間風速で1地点が観測史上1位の値を更新しました。
これら4つの台風等の影響で、河川の氾濫、浸水害、土砂災害等が発生し、北日本を中心に全国で死者24名、行方不明者6名、負傷者87名が出たほか、住家全壊25棟、半壊76棟、一部損壊991棟、床上浸水1,111棟、床下浸水1,917棟などの住家被害が生じ、停電、断水、電話の不通等ライフラインにも被害が発生したほか、鉄道の運休等の交通障害が発生しました。(被害状況は平成28年9月13日06時00分現在、消防庁HPより)
9月に入っても9月20日に台風16号が鹿児島県の大隅半島に上陸後、暴風域を伴って四国の太平洋岸を東に進み、紀伊半島を横断し、各地で記録的な大雨に見舞われました。愛知県清須市ではガード下で水没した車の中から意識不明の女性が見つかり、病院に搬送されましたが死亡が確認されました。長野県大町市では増水した川で愛知県江南市の男性が流され行方不明になっているほか、兵庫県宝塚市でも男児が増水した川に流され、死亡しました。神戸市では強風にあおられ高齢者12人が骨折するなど重軽傷を負っています。また、大分や宮崎など西日本を中心に223戸が床上・床下浸水し、宮崎や三重など計94市町村の約44万世帯、約102万人に避難勧告・指示が出されました。気象庁の観測によると、20日朝までの24時間雨量が宮崎県日向市で578ミリ、宮崎県延岡市で445.5ミリに達し、いずれも観測史上1位を更新しました。また、20日の1時間雨量は鹿児島県枕崎市で115ミリ、兵庫県洲本市95ミリ、宮崎県都城市88ミリ、徳島市85.5ミリと、各地で1時間に80ミリ以上の猛烈な雨を観測した所がありました。気象庁は気象レーダーの解析などから、鹿児島、宮崎、徳島、香川県が数年に一度の猛烈な大雨に見舞われたとみて、「記録的短時間大雨情報」を出しました。
このような報道を目にすると、気象に関わる者として常に言いようのない強い虚しさに襲われてしまいます。このブログ『おちゃめ日記』にも気象に関わる者としてなにか書かないといけないな…と思いながら、実はその言いようのない強い虚しさからこの件に関して1字も書けず、今日にいたってしまったようなところがあります。
弊社ハレックスのここ数年の取組みは、この「自然の脅威の来襲がわかっていながら、なぜ尊い人の命が奪われる災害が繰り返されるのだろう?」という言いようのない強い虚しさからスタートしました。
前述のように、近年においては全国各地で記録的な豪雨や竜巻などが多発しており、例年、大きな人的、物的被害が生じています。民間気象情報会社は大きな業務の1つとして防災への対応があり、国の機関である気象庁を補完する立場で、自然の脅威の来襲から国民の生命や財産を守り、安心安全社会の実現に資するための情報を提供するという役割を担っていると私達は考えています。しかしながら、毎年、自然の脅威が襲ってくるたびに多くの犠牲者や多大な被害を出している様を目の当たりにするにつけ、まだまだ十分に世の中の期待に応えきれていないとの認識を強めているところです。
我が国は様々な種類の自然の脅威の来襲に曝されている“災害大国”であり、有史以来、数々の災害に見舞われ、その復旧・復興を繰り返す中で、経験に基づく多くの知恵や知験が世の中の仕組みとして組み込まれてきました。そして今や我が国は、世界最先端の『防災大国』であると言われるまでになっています。しかしながら、ハード面での対策は一定の効果を上げている反面、単にそれだけに片寄った対策だけでは限界に近づいているというのが、国を含め防災関係者の共通認識になっています。これに対して、現在、より重要視されているのがソフト面での対策であり、切迫した状況になる前の事前の備えに対して気象庁から提供される多様な気象予報データを活用することが、十分な時間的余裕を持った適切な住民避難や、民間企業における重要インフラの業務継続等の対応を実現するために求められる必須事項になっています。
しかしながら、これまでの防災対応では、この気象予報の活用が十分に行われてきたとは言い難い現状にあり、その理由を私達は以下の通りではないかと分析しました。
①防災活動は発災後にどのような対応をすべきかという部分ばかりに注目が集まる傾向にあり、災害発生前に被害軽減策として何をなすべきかについては十分に議論されていない現状がある。つまり、災害対応活動を、災害が起きる前の日常の段階から発生時、発生後まで時系列的に整理できていないため、どの状況でどの気象情報を活用すべきかの整理が不十分なままである。
②我が国においては自然災害の発生に関する「警報」のシングルボイス(一元的な発出機関)は気象庁であり、そこから日々、一般の人々の目には触れにくい情報も含め、多種多様な膨大な量の気象情報が配信されている。そして、その情報を適切に読み取り、防災活動に資する情報として活用するためには、情報の利用者側にも一定のレベルの気象や防災に関する知見が求められている。しかし、現実には、自治体や民間企業においては人事異動等により、気象や防災に関する知見を有したエキスパート人材を育成し確保することは難しい。
③依然として雨量計や風速計等の実況データに基づいた意思決定や判断を行う傾向が強い。しかし、実況データでの状況把握だけでは、危険な状態が迫ってきたとしても、気づいた段階では既に手遅れ(例えば、避難のための十分な時間的猶予がない等)になるケースもある。もちろん実況データも重要な判断材料の一つではあるが、気象予報の活用と連動した対応の仕組みの構築が必ずしもできているとは言い難い。
以上の課題は、自治体や民間企業において自然災害に立ち向かう人達だけの課題であるとは必ずしも言い切れない部分があると私達は考えました。なぜならば、そのようなことは、本来ならば自治体や民間企業の防災活動を支え、意思決定に資する情報を提供する役割を担うため気象や防災に関する専門的な人財を擁する私達民間気象情報会社が担うべき側面があると考えるからです。
これら自治体や民間企業の防災活動における課題を踏まえ、本来、民間気象情報会社が果たすべき役割について、私達の考え方を以下に示します。
この考え方の鍵を握っているのが、①膨大な気象情報を最大限に活用するための仕組みの構築と、②ICTと気象予報士が連係した自治体防災活動支援サービスの構築と提供です。これに関する弊社の取り組みを以下に示します。
①膨大な気象情報を最大限に活用するための仕組みの構築
気象庁から提供される膨大で多様な気象データ(気象ビッグデータ)を最大限に活用し、かつ、危険の見落としを防止するためには、これまでのようなマンパワーを主体とした仕組みでは限界があります。従って、この気象ビッグデータを活用するためには、気象予報士の知見をコンピュータの処理ロジックに組み込み、処理の自動化を行い、危険の見落としを防止するとともに、ICTを活用し利用者の判断や行動に直接結びつくように分かりやすく、かつタイムリーな情報を伝達する仕組みを構築する必要があります。
この考えに基づき、弊社では気象レーダーの観測データに基づく降水ナウキャスト情報や降水短時間予報を高速解析し、降雨域の分布画像だけでなく、全国の1kmメッシュ単位での降水量等を数値情報として取得できる仕組みを開発しました。この仕組みを活用することにより、大雨災害や土砂災害の危険度を面的に自動監視し、利用者に迫り来る危険を早い段階で把握するとともに、危険の見逃しを最大限防止することが可能となりました。
また、気象庁の緊急地震速報のビッグデータを活用することで、地震発生後、数秒以内に全国の推定震度を地図上に重ね合わせて視覚的に表示する「推定震度マップ」の提供を行っています。この仕組みにより、被災者の生存確率が高い発災後72時間において、迅速な初動体制の構築を支援することが可能になると考えています。
②ICTと気象予報士が連係した自治体防災活動支援サービスの構築と提供
これは全国各地に約9,000名以上もいらっしゃる気象予報士の有資格者の活用方法でもあるものです。これに関しては日本災害情報学会の2014年大会におきまして『気象防災アナリストによる自治体の防災活動支援』と題して発表させていただきましたので、その発表原稿を以下に示します。是非こちらをお読みください。
『気象防災アナリストによる自治体の防災活動支援』
もちろん、気象予報士の有資格者がすぐに気象防災アナリストになれるかというと、決してそう簡単なことではありません。気象に関する知識や予報現場での実務経験はいうまでもないことですが、それ以上に①自治体防災活動の業務に関する知識や、②気象情報や様々な情報を総合的に分析し、起きうる災害について被害想定ができる仮説構築力、さらには③切迫した状況でも地方気象台等の防災機関と連携し、首長や自治体職員と円滑なコミュニケーションができるコミュニケーション力等が求められます。言うは易しで、これは大変に難しいことではありますが、圧倒的破壊力を持つ自然の脅威の来襲に立ち向かっていくためには、こうした人財の育成は急務であるという課題意識を私達は強く持っています。
弊社のこの提案が気象庁にも届いたのか、今年度、気象庁は(気象庁が指定する)全国6ヶ所の地方自治体に気象予報士を派遣し、災害をもたらすような気象状況時における各種防災気象情報の解説等、当該地方公共団体の防災対応を支援するモデル事業を行うことになり、入札の結果、そのモデル事業を弊社ハレックスが受託いたしました。このモデル事業の詳細は以下の通りです。
今年は度重なる大雨で、期間中、各自治体に派遣している気象予報士の方々も活躍する機会が多く、この気象庁の自治体支援モデル事業、これまでの防災で足りなかった部分が明確になったってことで当初の予想以上にメチャメチャ評判がよろしいようです。残念ながら今月末で気象予報士の派遣は終了するのですが、多くの自治体で継続を求められているほか、関心を持たれた他の幾つかの自治体様からも問い合わせをいただいております。マスコミも強い関心を示してくれていて、6つの自治体のある地方のローカルTV放送局や地方紙ですべて取り上げていただき、取材を受けさせていただきました。
前述のように気象予報士の派遣は今月末までを予定していますが、派遣終了後は本事業の成果を取りまとめ、気象予報士活用の有効性を広く地方自治体や国の防災関連部局等に広めることにしています。
このように、気象に関わる者として常に言いようのない強い虚しさに襲われたことに端を発して、「防災:民間気象情報会社だからできること」と題して弊社がここ数年取り組んできたことが、徐々にではありますが形になり、少しずつ成果に結び付いてきつつあります。
最初に述べさせていただきましたように、今年も全国で大雨による甚大な被害が出ています。地球規模で気候変動が起きている中、この傾向はこの先もより顕著になっていくだろうと私達は予想しています。そういう中、少しでも人的被害や物的被害を抑止することができるよう、弊社ハレックスはこれまでの取り組みをより強化・加速させていきたいと考えています。ご期待ください。
6月19日から25日にかけて、本州付近に梅雨前線が停滞し、その前線上を次々と低気圧が通過した影響で西日本を中心に大雨となりました。19日から30日までに観測された総降水量は九州地方の広い範囲で500ミリを超え、宮崎県えびの市えびので1210.5ミリ、熊本県南阿蘇村阿蘇山で1053.5ミリなど、1000ミリを超えた所が続出しました。また、観測された最大1時間降水量は、熊本県甲佐町甲佐で150.0 ミリ、熊本県山都町山都で126.5ミリ、長崎県雲仙市雲仙岳で124.5ミリなど、多くの地点で1時間に80ミリ以上の猛烈な雨となりました。特に熊本県甲佐町で21日0時20分頃までの1時間に観測した150.0ミリという猛烈な雨は熊本県内では過去最大、全国でも歴代4位となる1時間雨量の記録です。この大雨の影響で、土砂災害、浸水害等が発生し、熊本県で死者6名、福岡県で行方不明者1名を出しました。また、西日本から東日本にかけて住家全壊11棟、半壊15棟、一部損壊85棟、床上浸水389棟、床下浸水1,129棟などの住家被害が発生し、停電、断水、電話の不通等ライフラインに被害が生じたほか、鉄道の運休等の交通障害が発生しました。(被害状況は消防庁HPより)
ついで、8月には相次いで発生した台風7号、11号、9号が、それぞれ8月17日、21日、23日に北海道に上陸しました。さらに、8月30日には台風10号が暴風域を伴ったまま岩手県に上陸し、東北地方を通過して日本海に抜けました。
まず、8月16日から17日にかけて、台風7号が関東地方や東北地方の太平洋沿岸を北へ進み、北海道襟裳岬付近に上陸し、温帯低気圧に変わりました。その後、20日から22日にかけて、台風11号が東北地方の太平洋沿岸沖合を北へ進み、北海道釧路市付近に上陸しました。また、21日から23日にかけては台風9号が伊豆諸島付近を北へ進み、千葉県館山市付近に上陸し本州を縦断した後、北海道日高地方に再上陸しました。さらに、19日に八丈島付近で発生した台風10号ははじめ南西に進んだ後、南大東島付近で向きを北東に変え、29日から30日にかけて日本の東海上を北へ進み岩手県大船渡市付近に上陸した後、31日0時に日本海で温帯低気圧に変わりました。また、17日から22日にかけて北日本に、さらに26日から27日にかけては本州付近に前線が停滞したほか、台風の周辺や日本の東海上の太平洋高気圧の縁に沿って、暖かく湿った空気が流れ込む状況が継続しました。なお、北海道に3つの台風が上陸したこと、台風が東北地方太平洋側に上陸したことは、気象庁が1951 年に統計を開始して以来、初めてのことです。
これら4つの台風等の影響で、東日本から北日本を中心に大雨や暴風となり、特に北海道と岩手県では、記録的な大雨となりました。8月16日から31日までの総降水量は、北海道上士幌町ぬかびら源泉郷で858.0ミリ(平年の8月1ヶ月分の4.3倍)、静岡県伊豆市天城山で812.5ミリ、福島県福島市鷲倉で777.5ミリ(平年の8月1ヶ月分の2.3倍)、埼玉県秩父市三峰で683.5ミリとなるなど、関東地方や北日本を中心に総降水量600ミリを超える記録的な大雨となったところがあったほか、関東地方や東北地方で1時間に80ミリ以上の猛烈な雨を観測した所がありました。また、統計期間が10年以上の観測地点のうち、最大1時間降水量で25地点、最大3時間降水量で44地点、最大24時間降水量で8地点、最大48時間降水量で6地点、最大72時間降水量で19地点が観測史上1位の値を更新しました。
台風7号が接近、上陸した8月16日から17日の間の最大風速は、北海道釧路市釧路で31.8メートルを観測するなど北海道地方で暴風を観測しました。台風9号が接近、上陸した8月22日から23日の間の最大風速は、千葉県勝浦市勝浦で31.5メートル、東京都三宅村三宅島で30.4メートルを観測するなど関東地方で暴風を観測しました。台風10号が接近、上陸した8月30日の最大風速は、山形県酒田市飛島で25.3メートルを観測するなど東北地方で暴風を観測しました。また、統計期間が10年以上の観測地点のうち、最大風速で21地点、最大瞬間風速で1地点が観測史上1位の値を更新しました。
これら4つの台風等の影響で、河川の氾濫、浸水害、土砂災害等が発生し、北日本を中心に全国で死者24名、行方不明者6名、負傷者87名が出たほか、住家全壊25棟、半壊76棟、一部損壊991棟、床上浸水1,111棟、床下浸水1,917棟などの住家被害が生じ、停電、断水、電話の不通等ライフラインにも被害が発生したほか、鉄道の運休等の交通障害が発生しました。(被害状況は平成28年9月13日06時00分現在、消防庁HPより)
9月に入っても9月20日に台風16号が鹿児島県の大隅半島に上陸後、暴風域を伴って四国の太平洋岸を東に進み、紀伊半島を横断し、各地で記録的な大雨に見舞われました。愛知県清須市ではガード下で水没した車の中から意識不明の女性が見つかり、病院に搬送されましたが死亡が確認されました。長野県大町市では増水した川で愛知県江南市の男性が流され行方不明になっているほか、兵庫県宝塚市でも男児が増水した川に流され、死亡しました。神戸市では強風にあおられ高齢者12人が骨折するなど重軽傷を負っています。また、大分や宮崎など西日本を中心に223戸が床上・床下浸水し、宮崎や三重など計94市町村の約44万世帯、約102万人に避難勧告・指示が出されました。気象庁の観測によると、20日朝までの24時間雨量が宮崎県日向市で578ミリ、宮崎県延岡市で445.5ミリに達し、いずれも観測史上1位を更新しました。また、20日の1時間雨量は鹿児島県枕崎市で115ミリ、兵庫県洲本市95ミリ、宮崎県都城市88ミリ、徳島市85.5ミリと、各地で1時間に80ミリ以上の猛烈な雨を観測した所がありました。気象庁は気象レーダーの解析などから、鹿児島、宮崎、徳島、香川県が数年に一度の猛烈な大雨に見舞われたとみて、「記録的短時間大雨情報」を出しました。
このような報道を目にすると、気象に関わる者として常に言いようのない強い虚しさに襲われてしまいます。このブログ『おちゃめ日記』にも気象に関わる者としてなにか書かないといけないな…と思いながら、実はその言いようのない強い虚しさからこの件に関して1字も書けず、今日にいたってしまったようなところがあります。
弊社ハレックスのここ数年の取組みは、この「自然の脅威の来襲がわかっていながら、なぜ尊い人の命が奪われる災害が繰り返されるのだろう?」という言いようのない強い虚しさからスタートしました。
前述のように、近年においては全国各地で記録的な豪雨や竜巻などが多発しており、例年、大きな人的、物的被害が生じています。民間気象情報会社は大きな業務の1つとして防災への対応があり、国の機関である気象庁を補完する立場で、自然の脅威の来襲から国民の生命や財産を守り、安心安全社会の実現に資するための情報を提供するという役割を担っていると私達は考えています。しかしながら、毎年、自然の脅威が襲ってくるたびに多くの犠牲者や多大な被害を出している様を目の当たりにするにつけ、まだまだ十分に世の中の期待に応えきれていないとの認識を強めているところです。
我が国は様々な種類の自然の脅威の来襲に曝されている“災害大国”であり、有史以来、数々の災害に見舞われ、その復旧・復興を繰り返す中で、経験に基づく多くの知恵や知験が世の中の仕組みとして組み込まれてきました。そして今や我が国は、世界最先端の『防災大国』であると言われるまでになっています。しかしながら、ハード面での対策は一定の効果を上げている反面、単にそれだけに片寄った対策だけでは限界に近づいているというのが、国を含め防災関係者の共通認識になっています。これに対して、現在、より重要視されているのがソフト面での対策であり、切迫した状況になる前の事前の備えに対して気象庁から提供される多様な気象予報データを活用することが、十分な時間的余裕を持った適切な住民避難や、民間企業における重要インフラの業務継続等の対応を実現するために求められる必須事項になっています。
しかしながら、これまでの防災対応では、この気象予報の活用が十分に行われてきたとは言い難い現状にあり、その理由を私達は以下の通りではないかと分析しました。
①防災活動は発災後にどのような対応をすべきかという部分ばかりに注目が集まる傾向にあり、災害発生前に被害軽減策として何をなすべきかについては十分に議論されていない現状がある。つまり、災害対応活動を、災害が起きる前の日常の段階から発生時、発生後まで時系列的に整理できていないため、どの状況でどの気象情報を活用すべきかの整理が不十分なままである。
②我が国においては自然災害の発生に関する「警報」のシングルボイス(一元的な発出機関)は気象庁であり、そこから日々、一般の人々の目には触れにくい情報も含め、多種多様な膨大な量の気象情報が配信されている。そして、その情報を適切に読み取り、防災活動に資する情報として活用するためには、情報の利用者側にも一定のレベルの気象や防災に関する知見が求められている。しかし、現実には、自治体や民間企業においては人事異動等により、気象や防災に関する知見を有したエキスパート人材を育成し確保することは難しい。
③依然として雨量計や風速計等の実況データに基づいた意思決定や判断を行う傾向が強い。しかし、実況データでの状況把握だけでは、危険な状態が迫ってきたとしても、気づいた段階では既に手遅れ(例えば、避難のための十分な時間的猶予がない等)になるケースもある。もちろん実況データも重要な判断材料の一つではあるが、気象予報の活用と連動した対応の仕組みの構築が必ずしもできているとは言い難い。
以上の課題は、自治体や民間企業において自然災害に立ち向かう人達だけの課題であるとは必ずしも言い切れない部分があると私達は考えました。なぜならば、そのようなことは、本来ならば自治体や民間企業の防災活動を支え、意思決定に資する情報を提供する役割を担うため気象や防災に関する専門的な人財を擁する私達民間気象情報会社が担うべき側面があると考えるからです。
これら自治体や民間企業の防災活動における課題を踏まえ、本来、民間気象情報会社が果たすべき役割について、私達の考え方を以下に示します。
この考え方の鍵を握っているのが、①膨大な気象情報を最大限に活用するための仕組みの構築と、②ICTと気象予報士が連係した自治体防災活動支援サービスの構築と提供です。これに関する弊社の取り組みを以下に示します。
①膨大な気象情報を最大限に活用するための仕組みの構築
気象庁から提供される膨大で多様な気象データ(気象ビッグデータ)を最大限に活用し、かつ、危険の見落としを防止するためには、これまでのようなマンパワーを主体とした仕組みでは限界があります。従って、この気象ビッグデータを活用するためには、気象予報士の知見をコンピュータの処理ロジックに組み込み、処理の自動化を行い、危険の見落としを防止するとともに、ICTを活用し利用者の判断や行動に直接結びつくように分かりやすく、かつタイムリーな情報を伝達する仕組みを構築する必要があります。
この考えに基づき、弊社では気象レーダーの観測データに基づく降水ナウキャスト情報や降水短時間予報を高速解析し、降雨域の分布画像だけでなく、全国の1kmメッシュ単位での降水量等を数値情報として取得できる仕組みを開発しました。この仕組みを活用することにより、大雨災害や土砂災害の危険度を面的に自動監視し、利用者に迫り来る危険を早い段階で把握するとともに、危険の見逃しを最大限防止することが可能となりました。
また、気象庁の緊急地震速報のビッグデータを活用することで、地震発生後、数秒以内に全国の推定震度を地図上に重ね合わせて視覚的に表示する「推定震度マップ」の提供を行っています。この仕組みにより、被災者の生存確率が高い発災後72時間において、迅速な初動体制の構築を支援することが可能になると考えています。
②ICTと気象予報士が連係した自治体防災活動支援サービスの構築と提供
これは全国各地に約9,000名以上もいらっしゃる気象予報士の有資格者の活用方法でもあるものです。これに関しては日本災害情報学会の2014年大会におきまして『気象防災アナリストによる自治体の防災活動支援』と題して発表させていただきましたので、その発表原稿を以下に示します。是非こちらをお読みください。
『気象防災アナリストによる自治体の防災活動支援』
もちろん、気象予報士の有資格者がすぐに気象防災アナリストになれるかというと、決してそう簡単なことではありません。気象に関する知識や予報現場での実務経験はいうまでもないことですが、それ以上に①自治体防災活動の業務に関する知識や、②気象情報や様々な情報を総合的に分析し、起きうる災害について被害想定ができる仮説構築力、さらには③切迫した状況でも地方気象台等の防災機関と連携し、首長や自治体職員と円滑なコミュニケーションができるコミュニケーション力等が求められます。言うは易しで、これは大変に難しいことではありますが、圧倒的破壊力を持つ自然の脅威の来襲に立ち向かっていくためには、こうした人財の育成は急務であるという課題意識を私達は強く持っています。
弊社のこの提案が気象庁にも届いたのか、今年度、気象庁は(気象庁が指定する)全国6ヶ所の地方自治体に気象予報士を派遣し、災害をもたらすような気象状況時における各種防災気象情報の解説等、当該地方公共団体の防災対応を支援するモデル事業を行うことになり、入札の結果、そのモデル事業を弊社ハレックスが受託いたしました。このモデル事業の詳細は以下の通りです。
今年は度重なる大雨で、期間中、各自治体に派遣している気象予報士の方々も活躍する機会が多く、この気象庁の自治体支援モデル事業、これまでの防災で足りなかった部分が明確になったってことで当初の予想以上にメチャメチャ評判がよろしいようです。残念ながら今月末で気象予報士の派遣は終了するのですが、多くの自治体で継続を求められているほか、関心を持たれた他の幾つかの自治体様からも問い合わせをいただいております。マスコミも強い関心を示してくれていて、6つの自治体のある地方のローカルTV放送局や地方紙ですべて取り上げていただき、取材を受けさせていただきました。
前述のように気象予報士の派遣は今月末までを予定していますが、派遣終了後は本事業の成果を取りまとめ、気象予報士活用の有効性を広く地方自治体や国の防災関連部局等に広めることにしています。
このように、気象に関わる者として常に言いようのない強い虚しさに襲われたことに端を発して、「防災:民間気象情報会社だからできること」と題して弊社がここ数年取り組んできたことが、徐々にではありますが形になり、少しずつ成果に結び付いてきつつあります。
最初に述べさせていただきましたように、今年も全国で大雨による甚大な被害が出ています。地球規模で気候変動が起きている中、この傾向はこの先もより顕著になっていくだろうと私達は予想しています。そういう中、少しでも人的被害や物的被害を抑止することができるよう、弊社ハレックスはこれまでの取り組みをより強化・加速させていきたいと考えています。ご期待ください。
執筆者
株式会社ハレックス
前代表取締役社長
越智正昭
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