2017/12/11
中山道六十九次・街道歩き【第18回: 岡谷→贄川宿】(その2)
塩尻峠を下っていきます。「熊出没注意 岡谷市」と書かれた警告板が気になります。
松本平(塩尻)側は比較的傾斜の緩やかな坂と聞いていたのですが、頂上付近は下りの坂道も急坂で、すぐ右手に「明治天皇塩尻嶺御膳水」の碑があり、使用したと思われる井戸が残っています。
最初こそ急ですが、その先は比較的緩やかな下りが続きます。
峠から数分下ると塩尻峠の上条茶屋本陣跡があります。塩尻峠の前後には一里ほど人家がなく、参勤交代の大名をはじめ旅人達が難儀したこともあり、峠の両側に茶屋本陣が設けられました。下諏訪宿側が前回【第17回】でご紹介した今井茶屋本陣で、塩尻宿側がここ塩尻峠の上条茶屋本陣でした。この建物は寛政8年(1796年)に建てられたもので、堂々たる本棟造りの建物です。門、玄関、上段の間、次の間が残されています。降嫁途中の皇女和宮もここで休息をとられました。築後200年以上の風格ある本棟造りの建物に圧倒されます。現在もふつうの民家として使われているのだそうです。
茶屋の向かい側には明治天皇塩尻嶺御膳水の石碑と、その後ろには古い井戸があります。明治天皇も皇女和宮もきっとここで休憩なさったのでしょう。
塩尻峠(柿沢)茶屋本陣は現在もふつうの民家として使われていると書きましたが、おそらくそこの奥様なのでしょう、タクワンを漬けるための大根を湧水で洗っています。
塩尻峠(柿沢)茶屋本陣跡を過ぎると、緩やかな下り坂の道となります。木立の中を気持ちよく進んでいきます。
しばらく行くと右手に親子と思われる2体の地蔵が祀られています。傍らに「伝説夜通(よとう)道」と書かれた標柱が立っていて、その謂れが記されています。それによると、「その昔、このあたりに住む美しい村娘が、岡谷に住む若者に恋をした。娘は、毎夜若者に会うために峠を越えて通ってくる。若い娘が夜一人で峠を越えてくることに疑問を持った若者は、ある夜、藪に隠れてその娘を見た。その様子はとても普通の人間とは思えず、若者は恐ろしくなり逃げてしまった」……とのことだそうです。その夜ごと娘が通った道が夜通道のようなのですが、それらしい道もなく、地蔵との関係もよくわかりません。
夜通道の地蔵から5分ほど下ると江戸の日本橋から数えて57番目の一里塚である「東山一里塚」の跡があります。山道から畑の中の道に移る位置に南塚だけが残っています。北塚は開拓により壊されたのだそうです。当初中山道はここを通らず、岡谷の東堀追分を東に進み、三沢峠から小野集落へ下り、再び険しい牛首峠を越えて桜沢へ出るというルートでしたが、元和2年(1616年)に塩尻峠を越えるルートが開通されたことにより、こちらのルートが中山道になりました。ちなみに、牛首峠は中央アルプスに続く峠で傾斜が極めて険しい難コースだったので、当時の人はさぞや苦労したことと思われます。なので、比較的平坦な塩尻峠ルートの開通は、当時としては画期的な出来事だったのではないでしょうか。
さらに坂道を下って行きます。ここから高ボッチ高原へ行く遊歩道が分岐するようです。高ボッチ高原とは長野県塩尻市の東部に位置し、高ボッチ山(標高1,665メートル)のなだらかな傾斜に広がる高原のことです。高ボッチ高原自然保護センターを中心に、高ボッチ牧場や三大標高に愛を誓うビューポイントなどが整備されています。360度の眺望が開けた山頂からは、北アルプスの山々はもちろん、諏訪湖、南アルプス、富士山まで景色を存分に楽しむことができます。レンゲツツジやハクサンフウロなどの多種多様な高山植物を気軽に観察できることでも人気があり、春から秋にかけて多くの来訪者で賑わいます。高ボッチ(たかぼっち)という不思議な名前は、はるか昔、国づくりの神様と言われる”ダイダラボッチ”が腰を下ろして休んだという言い伝えが所以なのだそうです。
見事に色づいたモミジ(紅葉)です。右の写真の生け垣はナナカマドのようにも見えますが、マンリョウです。これも見事に真っ赤に色づいた実がたわわについています。綺麗です。
塩尻峠を下りおえ、中央自動車道を越えると柿沢集落に入ります。
本棟造りの立派な家が建っています。「雀オドリ」と呼ばれる松本平特有の個性的な堂々たる棟端(むなはし)飾りがあり、それに懸魚(げぎょ)の飾りが加わります。立派!の一言です。「雀オドリ」はこの松本平地方特有の切妻屋根に設けた棟飾りのことで、当初は屋根から落ちる雪除けだったものがデザインとして進化したものだそうです。
本棟造りの立派な家に加えて、歴史を感じさせる漆喰の蔵造りの立派な家も建っています。
国道20号線と合流しかけるのですが、ここで右の側道のほうに入っていきます。
このあたりに「犬飼の清水碑」が立っています。ある公家の愛犬が飲んだという清水の跡なのだそうです。今は清水はなく、碑のみが残っています。うっかりして碑の写真を撮るのを忘れていました。
無人の販売所です。近所の農家が自分の家の畑で採れた野菜を販売しています。こういう形式の無人の販売所が成立できているのも日本の国ならではのものですね。
その無人の販売所のところで国道20号線と合流するのですが、すぐに右の道に分け入っていきます。
永井坂です。このあたりヒノキ(檜)の防風林が続きます。
林の中の道を下っていった先で、再び国道20号線と合流します。そこに建っている立派な建物はどこかの宗教法人の建物でしょうか?
交通量の多い国道20号線を地下道で潜ります。
ワイン工場があります。塩尻においては明治後期にワイン造りが始まり、現在では市内に10軒のワイナリーがあります。この日の昼食はそのワイン工場の1つ「サンサンワイナリー」の駐車場に停車中の観光バスの車内でお弁当をいただきました。時刻は14時近くになっています。中央自動車道が事故で渋滞していて、この日の街道歩きのスタートが1時間半ほど遅れたのが原因ですが、諏訪湖サービスエリアでサンドウィッチを買って小腹を満たしてから歩き出したとは言え、塩尻峠を越えてきたこともありさすがにお腹が空いていたので、ペロペロって食べちゃいました。
このサンサンワイナリーは元ブドウ畑で農家の高齢化によって遊休荒廃地となった土地を利用して2年前の2015年秋にオープンしたという新しいワイナリーです。レストランとショップも併設されています。予定では昼食後にここのワイン工場の見学が組み込まれていたのですが、街道歩きのスタートが遅れたことでそれは中止。代わりにショップでこのワイナリーで製造したワインのいくつかを試飲させていただきました。味が軽めの私好みの美味しいワインではあったのですが、さすがにボトル1本を持って帰るのは荷物になるので購入までは至らず、代わりにレーズンや干し芋をお土産に購入しました。
サンサンワイナリーの駐車場からは雄大な穂高岳や北アルプスの山々の景色が綺麗に見えます。
……(その3)に続きます。
松本平(塩尻)側は比較的傾斜の緩やかな坂と聞いていたのですが、頂上付近は下りの坂道も急坂で、すぐ右手に「明治天皇塩尻嶺御膳水」の碑があり、使用したと思われる井戸が残っています。
最初こそ急ですが、その先は比較的緩やかな下りが続きます。
峠から数分下ると塩尻峠の上条茶屋本陣跡があります。塩尻峠の前後には一里ほど人家がなく、参勤交代の大名をはじめ旅人達が難儀したこともあり、峠の両側に茶屋本陣が設けられました。下諏訪宿側が前回【第17回】でご紹介した今井茶屋本陣で、塩尻宿側がここ塩尻峠の上条茶屋本陣でした。この建物は寛政8年(1796年)に建てられたもので、堂々たる本棟造りの建物です。門、玄関、上段の間、次の間が残されています。降嫁途中の皇女和宮もここで休息をとられました。築後200年以上の風格ある本棟造りの建物に圧倒されます。現在もふつうの民家として使われているのだそうです。
茶屋の向かい側には明治天皇塩尻嶺御膳水の石碑と、その後ろには古い井戸があります。明治天皇も皇女和宮もきっとここで休憩なさったのでしょう。
塩尻峠(柿沢)茶屋本陣は現在もふつうの民家として使われていると書きましたが、おそらくそこの奥様なのでしょう、タクワンを漬けるための大根を湧水で洗っています。
塩尻峠(柿沢)茶屋本陣跡を過ぎると、緩やかな下り坂の道となります。木立の中を気持ちよく進んでいきます。
しばらく行くと右手に親子と思われる2体の地蔵が祀られています。傍らに「伝説夜通(よとう)道」と書かれた標柱が立っていて、その謂れが記されています。それによると、「その昔、このあたりに住む美しい村娘が、岡谷に住む若者に恋をした。娘は、毎夜若者に会うために峠を越えて通ってくる。若い娘が夜一人で峠を越えてくることに疑問を持った若者は、ある夜、藪に隠れてその娘を見た。その様子はとても普通の人間とは思えず、若者は恐ろしくなり逃げてしまった」……とのことだそうです。その夜ごと娘が通った道が夜通道のようなのですが、それらしい道もなく、地蔵との関係もよくわかりません。
夜通道の地蔵から5分ほど下ると江戸の日本橋から数えて57番目の一里塚である「東山一里塚」の跡があります。山道から畑の中の道に移る位置に南塚だけが残っています。北塚は開拓により壊されたのだそうです。当初中山道はここを通らず、岡谷の東堀追分を東に進み、三沢峠から小野集落へ下り、再び険しい牛首峠を越えて桜沢へ出るというルートでしたが、元和2年(1616年)に塩尻峠を越えるルートが開通されたことにより、こちらのルートが中山道になりました。ちなみに、牛首峠は中央アルプスに続く峠で傾斜が極めて険しい難コースだったので、当時の人はさぞや苦労したことと思われます。なので、比較的平坦な塩尻峠ルートの開通は、当時としては画期的な出来事だったのではないでしょうか。
さらに坂道を下って行きます。ここから高ボッチ高原へ行く遊歩道が分岐するようです。高ボッチ高原とは長野県塩尻市の東部に位置し、高ボッチ山(標高1,665メートル)のなだらかな傾斜に広がる高原のことです。高ボッチ高原自然保護センターを中心に、高ボッチ牧場や三大標高に愛を誓うビューポイントなどが整備されています。360度の眺望が開けた山頂からは、北アルプスの山々はもちろん、諏訪湖、南アルプス、富士山まで景色を存分に楽しむことができます。レンゲツツジやハクサンフウロなどの多種多様な高山植物を気軽に観察できることでも人気があり、春から秋にかけて多くの来訪者で賑わいます。高ボッチ(たかぼっち)という不思議な名前は、はるか昔、国づくりの神様と言われる”ダイダラボッチ”が腰を下ろして休んだという言い伝えが所以なのだそうです。
見事に色づいたモミジ(紅葉)です。右の写真の生け垣はナナカマドのようにも見えますが、マンリョウです。これも見事に真っ赤に色づいた実がたわわについています。綺麗です。
塩尻峠を下りおえ、中央自動車道を越えると柿沢集落に入ります。
本棟造りの立派な家が建っています。「雀オドリ」と呼ばれる松本平特有の個性的な堂々たる棟端(むなはし)飾りがあり、それに懸魚(げぎょ)の飾りが加わります。立派!の一言です。「雀オドリ」はこの松本平地方特有の切妻屋根に設けた棟飾りのことで、当初は屋根から落ちる雪除けだったものがデザインとして進化したものだそうです。
本棟造りの立派な家に加えて、歴史を感じさせる漆喰の蔵造りの立派な家も建っています。
国道20号線と合流しかけるのですが、ここで右の側道のほうに入っていきます。
このあたりに「犬飼の清水碑」が立っています。ある公家の愛犬が飲んだという清水の跡なのだそうです。今は清水はなく、碑のみが残っています。うっかりして碑の写真を撮るのを忘れていました。
無人の販売所です。近所の農家が自分の家の畑で採れた野菜を販売しています。こういう形式の無人の販売所が成立できているのも日本の国ならではのものですね。
その無人の販売所のところで国道20号線と合流するのですが、すぐに右の道に分け入っていきます。
永井坂です。このあたりヒノキ(檜)の防風林が続きます。
林の中の道を下っていった先で、再び国道20号線と合流します。そこに建っている立派な建物はどこかの宗教法人の建物でしょうか?
交通量の多い国道20号線を地下道で潜ります。
ワイン工場があります。塩尻においては明治後期にワイン造りが始まり、現在では市内に10軒のワイナリーがあります。この日の昼食はそのワイン工場の1つ「サンサンワイナリー」の駐車場に停車中の観光バスの車内でお弁当をいただきました。時刻は14時近くになっています。中央自動車道が事故で渋滞していて、この日の街道歩きのスタートが1時間半ほど遅れたのが原因ですが、諏訪湖サービスエリアでサンドウィッチを買って小腹を満たしてから歩き出したとは言え、塩尻峠を越えてきたこともありさすがにお腹が空いていたので、ペロペロって食べちゃいました。
このサンサンワイナリーは元ブドウ畑で農家の高齢化によって遊休荒廃地となった土地を利用して2年前の2015年秋にオープンしたという新しいワイナリーです。レストランとショップも併設されています。予定では昼食後にここのワイン工場の見学が組み込まれていたのですが、街道歩きのスタートが遅れたことでそれは中止。代わりにショップでこのワイナリーで製造したワインのいくつかを試飲させていただきました。味が軽めの私好みの美味しいワインではあったのですが、さすがにボトル1本を持って帰るのは荷物になるので購入までは至らず、代わりにレーズンや干し芋をお土産に購入しました。
サンサンワイナリーの駐車場からは雄大な穂高岳や北アルプスの山々の景色が綺麗に見えます。
……(その3)に続きます。
執筆者
株式会社ハレックス
前代表取締役社長
越智正昭
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