2014/07/16

待っているだけでは、何も変わらない

私は特定非営利活動法人「ITコーディネータ協会(ITCA)」の事業戦略委員会の委員を、前の会社の時から通じて7年間、務めさせていただいています。ITコーディネータ(ITC)とは、経営者の立場に立って「IT経営」をサポートする経営とITの両面に精通したプロフェッショナルのことで、経済産業省の推進資格の一つとなっています。その資格制度を運用するのが「ITコーディネータ協会(ITCA)」で、前の会社にいた頃から事業戦略委員会の委員として微力ながらお手伝いをさせていただいています。

ITCAホームページ

ITコーディネータ制度は経済産業省所管の資格であり、気象情報ビジネスとはさほど関係しないことから、委員就任から7年が経過したことで世代交代の意味も含めて今年度は固くご辞退を申し上げたのですが、最後は「三顧の礼」ってやつに負けてしまって、今年度も引き続きお引き受けすることにしました。

その“殺し文句”になったのが「ITCAとしては今後イノベーション人財(イノベーションを起こせる人財)の育成に力を入れていくつもりだから、その方面で是非越智さんの力を貸していただきたい」という協会事務局長の言葉でした。実際はどうかは分かりませんし、私は自分自身では決してそんな大それた人物であるとは微塵も思っていないのですが、世の中にイノベーションを起こす人財のように周囲からは思われているようなところがあって、そこのところで力を貸してほしいとのことでした。

このイノベーション人財(世の中でイノベーションを起こせる人財)なんてものは、なにかの教育を受ければ誰でもなれるって性格のものではありません。ましてや、こうすれば必ずイノベーションが起こせるという手法が確立されているようなものでもありません。もし、そういうことに検討の流れが行くようなら、どんなことをやっても成功しない…と私は思い、間違った方向に進まないようにお手伝いしようと委員を引き続きお引き受けしたわけです。

もし仮に私が皆さんが思っているような「イノベーション人財」と呼べる人だとするならば、そこの根底にあるのは「自分との闘い」、「自分の嫌いなところを克服しようとする勇気」ではないか…と私は思っています。

イノベーションに関しては幾つかの定義がありますが、人財育成ということで文部科学省の定義を見ると、

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イノベーションという言葉は、オーストリアの経済学者シュンペーター(Schumpeter)によって、初めて定義された。その著書「経済発展の理論」の中で、経済発展は、人口増加や気候変動などの外的な要因よりも、イノベーションのような内的な要因が主要な役割を果たすと述べられている。また、イノベーションとは、新しいものを生産する、あるいは既存のものを新しい方法で生産することであり、生産とはものや力を結合することと述べており、イノベーションの例として、①創造的活動による新製品開発、②新生産方法の導入、③新マーケットの開拓、④新たな資源(の供給源)の獲得、⑤組織の改革などを挙げている。また、いわゆる企業家(アントレプレナー)が、既存の価値を破壊して新しい価値を創造していくこと(創造的破壊)が経済成長の源泉であると述べている。

第3期科学技術基本計画においては、潜在的な科学技術力を、経済・社会の広範な分野での我が国発のイノベーションの実現を通じて、本格的な産業競争力の優位性や、安全、健康等広範な社会的な課題解決などへの貢献に結び付け、日本経済と国民生活の持続的な繁栄を確実なものにしていくことの重要性が示されており、その中で、「科学的発見や技術的発明を洞察力と融合し発展させ、新たな社会的価値や経済的価値を生み出す革新」とイノベーションを定義付けている。

http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpaa200601/column/007.htm
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と書かれています。一言で言うと、既存の価値を破壊して新しい価値を創造していくこと(創造的破壊)ができる人財ってことですが、これがなかなかに難しい。だって、人は基本的に変化というものを求めないからです。

ニュートン力学を確立したイングランドの哲学者で数学者であるアイザック・ニュートンもこう言っています。
『すべての物体は、外部から力を加えられない限り、静止している物体は静止状態を続け、運動している物体は等速直線運動を続ける』
これは中学校の理科で学ぶ、いわゆる『慣性の法則(運動の第1法則)』と呼ばれるものです。

これが残念ながら自然の摂理なのです。なので、申し訳ありませんが、世の中のほとんどの人が「誰かがやってくれるかも知れない、誰かが助けてくれるかも知れないから、それまで待っていよう」というタイプの人で、自ら行動して大きな変化を起こそうという人は極々限られてしまっているのです。それはどうしてか…を考えるところから始めないと、イノベーション人財育成の議論は始まらないと私は思っています。

誰だって考えるだけならどんなことでも考えられますが、それを実行するとなるとなかなかできないものです。今の苦しみから抜け出すためにどうすればいいのか分かっていても、そのことを実行するとなると難しいのです。何故難しいのか…、その理由は様々でしょうが、「変わろうとしない人」は概ね次の9つのタイプに大別できるのではないでしょうか?

(1) 今だってなんとか生きているのだから、これからどうなるか分からないことはしたくないというタイプ
……これは一般に言う「弱い人間」に多いタイプで、きっとご自身の価値観が変わることが恐ろしくて耐えられないのでしょうね。

(2) 単純に、余計な苦労はしたくないタイプ
……はっきり言って“怠け者”で、こういったタイプは論外です。

(3) 世間の目が気になって、自分を変えるに変えられないタイプ
……いったい、ご自分の何を守ろうとしているのでしょうね。申し訳ないけれど、世間の人はそれほどあなたのことを意識して見ていませんよ。

(4) プライドが許さないタイプ
……そのプライドの源泉は“過去”の業績や栄光、学歴や地位によるようなものがほとんですが、求められているのは、“今”と“これから(将来)”のこと。それの邪魔をするような不要なもの(過去)は即刻捨て去るべきです。時代は劇的に変化している中で、過去なんてほとんどなんの役にも立たないし、そんな無駄なプライドは捨てるに限ると思うのですが…。きっと、今まで築きあげてきた努力が一気に崩壊するかも知れないという大きな不安が心の底にあるのでしょうね。

(5) 自分が変わることによって、相手にいやな思いをさせてしまうと勝手に思っているタイプ
……いわゆる“八方美人”と呼ばれる人達ですね。こういうタイプの人達って、結局のところ見ている世界が狭く、申し訳ないけれど、“自己中”なのです。

(6) 誰かがやってくれるかも知れない、誰かが助けてくれるかも知れないから、それまで待っていようというタイプ
……これが世の中で圧倒的に多いタイプで、単純に依存心が強いだけです。世の中の9割以上の方がこのタイプなので、自分の周囲を見回してみても、やってくれそうな人はなかなか見つかりません。また、誰かが完全に御膳立てをしてくれないと動けないので、いざ、そういうチャンスが訪れても、そのチャンスを逃しがちで、結局は時代の変化から一歩取り残されてしまいがちです。

(7) 自信がないから、やる気になれないというタイプ
(8) 責任をとりたくないから、やる気になれないタイプ
……誰だって、余計な苦労をしたいと思う人はいないと思います。しかしその考え方こそが、自分の生き方をますます苦しくしているのだということに気がついていただきたいのですが…。逃げるからますます自信を失ってしまうのです。基本、意気地のないタイプです。

(9) その場しのぎでなんとか誤魔化せると思っているタイプ
……大企業のスタッフ組織や、経営コンサルタント、偏差値の高い大学の卒業生(頭がいいと言われている人)に比較的多く見られるタイプで、ハッキリ言って「無責任」。平時には声が大きく、もっともらしいことを言うので、コロッと騙されやすいが、イザという時(有事)にはいとも簡単に腰が砕けてしまうことが多いので、実は一番信用してはいけないタイプ。社会にとって一番罪作りなタイプです。常套句は「俺は前からそう思っていたんだよ(成功時)」、「俺は最初から失敗すると思っていた(失敗時)」。また、「◯◯では…」という“ではのかみ”になりたがる傾向が大という特徴もあります (^^)d


一番最初に「誰だって考えるだけならどんなことでも考えられる」と書きましたが、考えるだけでは相手に自分の意志というものは伝わらないので、それにより利害が直接生じることがまったくないから、何だって考えられるのです。しかしながら、いざ自分の考えを実行しようとすると、そこには他の人との利害関係というものが必ず生まれることでもあるということです。その利害関係とは経済的なことに限らず、人間関係という精神的なことも含まれます。言い方を変えれば、自分が行動することは誰かに何らかの形で、陰に陽に影響を与えることが避けられない…ということです。その相手に与えた影響がブーメランのように自分に跳ね返ってくることが恐ろしいし、面倒臭いから行動が起こせなくなるのではないでしょうか。

そして、そうこうするうちに、分かっていても具体的に行動することが出来ない自分がいるという現実を否定することができないから、自分に嫌気がさしてしまい、ついには自己不信に陥り、自信を失っていくのではないでしょうか。イノベーションを興そうという人にとって一番最初に克服しなければならないことが自分自身のそうした弱さです。自分自身の弱さに目を背けるから、何もできなくなってしまっている…と私は考えています。

自分の弱さを克服しようとするには、勇気が必要です。それも一番大きな勇気が…。そして自分の一番弱いところを克服できれば、自然と自信がついてくるのも当然なのです。それさえできれば、大概のことは克服できる自信と勇気が湧いてくる筈ですから。

ここで、スイスの法学者、哲学者、政治家で、日本では『幸福論』の著者として知られるカール・ヒルティの名言を紹介します。カール・ヒルティは敬虔なクリスチャンとして、人生、人間、神、死、愛などの主題について数々の含蓄深い思想書を著しました。

『人間の最も偉大な力とは、その一番の弱点を克服したところから生まれてくるものである』

カール・ヒルティのこの言葉のように、自分の一番の弱点を克服できた人には自信が漲る筈です。多くの人は、考えるだけで、それを行動によって本当に自分のものにするという姿勢がいささか欠けているように思えます。ですから、いつまでたっても苦しみから抜け出すことができないでいるのではないか…と私は考えています。行動で確認することが恐ろしいから、結局は何もできなくなって、自分というものが磨かれない人が多いのではないか…と考えています。

自分の最大の弱点を克服できたのに、自信を持てないということは、普通に考えたらあり得ないことです。まぁ~その自信の大きさや、どんな自信かにもよりますが…。

もしかしたら、失敗は自分の価値がなくなることと同じだと思っているから、何もできなくなるのではないでしょうか。あるいは、世間の物笑いになることが恥ずかしいと思っているから、何もできなくなるのではないでしょうか。確かに失敗は一時的にはその人の社会的な価値に傷を付けますが、そんなことはあくまで一時的なことです。一時的に傷つくことが恐ろしくて、生涯苦しんでもいいのかってことです。

失敗は誰にとっても辛いことなのですが、そこから学ぶべきことは幾らでもあります。失敗を避けようとばかりしているから、何もできなくなるのです。もしくは、やったとしてもちょっとしたことで挫折してしまい、そのうち本当に何もできなくなってしまうのです。

よく言われるように、「失敗は成功の母」なのです。一時的な失敗ばかりに目をとられてはいけないのです。その失敗を教訓として、それを乗り越えられる勇気と自信を持つことが重要なのです。失敗はその勇気と自信の大切さを教えるためにあるのだと確信しています。失敗は辛いことであることには、違いないのですが、それを乗り越えた人だけが、成功を収めることができる…と私は思っています。ただし何度も同じ失敗を何度も繰り返すことは別の問題ですが…。

現実は行動することによってしか変えられません。考えただけでは何も変えられないのです。行動しないから変わらない。変わらないから、簡単に諦めてしまう。だから何も信じられなくなり、自信を失うのです。自分に自信を持つためには、行動しなければならないのです。一時的に挫折することは避けられないことなのです。そのことを体で味わって欲しいのです。行動しないで自分を変えようとするから、いくらやっても自分を変えることができないのです。そしてますます自信を失っていくのです。かと言って、何も大きなことをする必要はないのです。日常生活の些細なことから変えようとすることが、もっとも大切なのです。

『“磨く”をミクロの視点で見ると、“傷つける”ことに他ならない。
傷つくことを恐れていたら、いつまで経っても人間性は磨かれない』
…………by Masaaki OCHI

例えば、爪をヤスリで磨いているところを虫眼鏡で拡大して見てみると、ミクロ的には爪を傷つけていることに他なりません。ダイヤモンドをはじめとした宝石の研磨だって同じことです。宝石は原石のままではさほど美しいものではありません。その原石を磨いて磨いて輝きを出させて初めて人を魅了するほどまでに美しくなれるのです。傷つくことを恐れていたら、いつまで経っても人間性は磨かれませんし、スキルも磨かれません。

自らを変えられないような人に、既存の価値を破壊して、世の中に新しい価値を創造していくこと(創造的破壊)なんて、はなっから出来っこありません。

イノベーション人財育成の第一歩は、こうした地道なことにあると私は考えます。違いますか?

執筆者

株式会社ハレックス前代表取締役社長 越智正昭

株式会社ハレックス
前代表取締役社長

越智正昭

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