2014/08/28

いのちを守る気象情報(その1)

広島市の大規模な土砂災害は昨日(27日)で発生から1週間が経過しました。今日も新たに1人の死亡が確認され、これで犠牲者の数は71人となりました。また、いまだ行方が不明の方の数は11人となっています。警察と消防、自衛隊はおよそ1,500人の態勢で夜を徹しての捜索活動を続けています。報道で犠牲になられた方々の年齢を見ると、心が痛みます。人口120万人の大都市広島市近郊にある新興ベッドタウンらしく、2歳や11歳の子供さんやら、新婚まもない若いご夫婦、なかにはお腹に新しい生命を身籠った新婦さんもいらっしゃいました。30歳や40歳代の働き盛りの人達、そして、私と同世代の方々…。犠牲になられた多くの方々、残されたご家族のことを思うと、言葉になりません。合掌………。

全壊や半壊等、建物が損壊する被害を受けた広島県内の住宅は、これまでに確認できただけで119棟に上り、浸水被害を受けた建物は、確認できただけでも床上浸水、床下浸水を合わせて272棟に上っています。今も11の避難所に1,300人近くの方々が避難していて、避難生活の長期化による影響が懸念されています。

土砂災害の程度も徐々に明らかになってきていて、広島県と国土交通省などが調査した結果によりますと、広島市の安佐北区と安佐南区、それと西区で土石流が75箇所で同時多発的に発生していたことが分かってきました。また、崖崩れは安佐北区と安佐南区を中心に、37箇所で確認されました。

被害の程度が明らかになるにつれ、「自然の脅威の来襲から人々の生命と財産をお守りする情報を提供すること」を弊社の最大のミッションであると考えている気象情報会社の経営者としては、なんとも言えない虚しさと無力感に襲われています。加えて、私にとって広島は学生時代を過ごした思い出の土地だけに、このところ、とても気持ちは“重い”です。この『おちゃめ日記』も、ここしばらくはこれまで書き貯めてきた軽めの在庫ネタの一掃セールに出ていて、正直、新たな文章が書けないような状態が続いています。

テレビや新聞等の報道によりますと、今回の大規模な土砂災害が起きた原因について、被災現場を視察した専門家は、「現場一帯が風化した花崗岩が堆積して出来た“真砂土(まさど)”と呼ばれる脆い地盤だとした上で、その脆い地盤の上に局地的な豪雨が降って、地面の表面に近い部分が崩れる“表層崩壊”が同時多発的に起きたのではないか」と指摘しています。

これまで土砂災害の危険性を予見するためには、累積雨量や土壌内の水分の含有量を示す土壌雨量が主に使われてきましたが、それは地面の奥深く崩れる“深層崩壊”のようなものには有効な手法ではあるものの、局地的な豪雨によって地面の表面に近い部分が崩れる“表層崩壊”においては必ずしも有効なものではなかったことが、今回の広島市の大規模土砂災害で明らかになったように思えます。

“表層崩壊”を引き起こす局地的な豪雨に関しては、原因となる積乱雲の幅が10km程度と狭いこともあり、発生するかもしれないということは分かったとしても、ピンポイントの場所の特定や量的な予測までは直前まで非常に難しいという側面があります。そういう中でも、弊社としても、今回の大災害から次に残す教訓を少しでも探るために、当日の気象予報情報の再現等を行い、こうした“表層崩壊”を引き起こす局地的な豪雨に対して、1時間でも、せめて30分でも、10分でも早く災害の発生を予見する方法がないものか…と、検討を始めているところです。それが、犠牲になられた方々に対する、気象情報会社としての最大のご供養だ…との思いです。

日本は国土の70%が山間地であり、(亜熱帯である)北緯20度から(亜寒帯である)北緯46度の間に位置する南北に非常に細長い島国です(見逃しがちですが、経度としても東経123度から東経154度の範囲にあり、陸地の面積は狭いものの緯度経度的にはかなりの幅がある国です)。世界最大の大陸(ユーラシア大陸)と世界最大の海(太平洋)の間に位置し、大陸からの寒気と太平洋からの暖気が列島の付近でぶつかりやすく、かつ、偏西風の通り道にもあたるため、台風や前線などの影響で世界有数の雨の多いところと言えます。このため、有史以来、毎年のように台風の襲来や前線の停滞等による集中豪雨の発生が繰り返され、洪水や土砂災害、落雷、竜巻などの被害が多発してきました。

加えて、このところ世界的な気候変動が原因と思われるいわゆる“異常気象”により、北(大陸)からの乾いた寒気と、南(太平洋)からの湿った暖気が日本列島上空でぶつかり合うことにより大気の状態が不安定になることが多く、過去にない大雨・洪水・土砂災害、局地的集中豪雨(いわゆるゲリラ豪雨)等が発生し、過去に災害が発生したことのないような場所でも内水氾濫や洪水、崖崩れ、土石流等が発生する危険性が高まってきています。特に最近は、雨の降り方が以前とはかなり変わってきているような感じで、各地で何十年ぶりや観測史上最高といった“記録的豪雨”と呼ばれるものが頻発し、極めて短時間のうちに住宅浸水や土砂災害が発生し、深刻な被害をもたらしているような傾向にあります。

東日本大震災のインパクトがあまりに強烈だったこともありますが、昨今の自然現象に対する防災に関しては、巨大地震や大規模な津波に対する防災対策のほうにどうしても関心が向かいがちなようなところがありましたが、実は日本では大雨による災害のほうが発生する確率は遥かに高く、100年というような単位で見ると、被害の程度も巨大地震や津波による災害以上のものになっています (人的被害の みならず、物流の大幹線である交通網の遮断・寸断による経済的な被害や、家屋の倒壊や流出、浸水による被害、なによりも、我々が生きていく上で絶対的に欠かせない食料供給に大きく関わる農業という基幹産業に対する被害を考えると、むしろ大雨災害のほうが被害の程度が大きいのではないか…とも思われます)。

加えて、“異常気象”と呼ばれる事象が極々日常的になってきた現代(そもそも、気象は(自然は)我々人類の思い通りになることはなく、常に異常なものではあるのですが…)、今後も記録的な猛暑、豪雨、豪雪、突風などの極端な気象現象が毎年のように繰り返される可能性があります。

このような背景から、我々気象情報会社としても、情報が皆様の災害回避行動に直接結び付くように、情報の提供の仕方に一工夫も二工夫もしていかないといけないと思っておりますが、それと同時に情報の受け手の皆様におかれましても、気象庁さんや我々民間気象情報会社、テレビやラジオ等に出演している気象予報士等が発信する各種情報の意味を正しくご理解し、是非とも自らの“命を守る行動”に役立てていただく必要があると思っております。

ということで、この機会に、現在一般的に使われている主に大雨に関する気象情報等の意味を以下に列記いたしますので、少しでも参考にしていただければ…と思います。


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【雨の降り方と強さ】

気象用語〔降雨量の目安:時間雨量〕 /  降り方・強さ・危険性の目安

① やや強い雨〔10~20ミリ未満〕 / ザーザーと降り、地面一面にすぐに水溜まりができるような雨の降り方です。この程度の雨でも、長く降り続く場合には、土砂災害や河川の氾濫等への注意が必要です。

② 強い雨〔20~30ミリ未満〕 / 一般的に“土砂降り”と言われる状態のことで、傘をさしていても全身ビショビショに濡れてしまうくらいの雨の降り方です。側溝や下水、小さな河川が溢れ、小規模の崖崩れが起きる心配もあります。低地や斜面などの危険区域は特に注意が必要です。

③ 激しい雨〔30~50ミリ未満〕 / バケツをひっくり返したような激しい雨の降り方です。道路が川のようになり、山崩れ、崖崩れなどの土砂災害発生の危険が出てきます。土砂災害警戒区域や急傾斜地の付近では「避難準備情報」が出ることがあります。

④ 非常に強い雨〔50~80ミリ未満〕 / 滝のように雨が降り、傘が全く役に立たたない状態の降り方のことです。あたりが水しぶきで白っぽくなり、少し先でもまったく見えなくなります。マンホールから水が噴出したり、中小河川が氾濫し、土砂災害が発生・拡大する危険性が高く、厳重な警戒が必要です。

⑤ 猛烈な雨〔80ミリ以上 〕 / 見ているだけで息苦しく感じるような圧迫感があり、恐怖を感じるような雨の降り方です。雨による大規模災害発生のおそれが極めて高く、厳重な警戒が必要。このくらいの雨が降ると、気象庁から「記録的短時間大雨情報」が出されることがあります。

今回、大きな土砂災害が起こった広島市の被災地周辺では、午前1時から午前2時までの1時間に40ミリを超える“激しい雨”が振り、その後午前4時まで、1時間当たり100ミリを超えるくらいの“猛烈な雨”を観測しています。その時どういう状況だったかを、上記の表現で少しでも読み取っていただければ幸いです。

※雨が長く降り続いている場合、上流や周辺で集中豪雨が発生している場合、それほど強い雨でなくても洪水や土砂災害への注意と警戒が必要です。



【気象警報・注意報】

① 注意報 / 災害が起こるおそれのある時に“注意”を呼び掛ける予報のことです。

② 警報  / 重大な災害が起こるおそれのある時に“警戒”を呼びかけて行う予報のことです。

③ 特別警報(2013年8月30日より運用開始されました) / 重大な災害の危険性が著しく高まっている場合に“命を守る行動”を呼びかける予報のことです。

※特別警報が出ていないからといって安心してはいけません。注意報・警報でも災害発生のおそれは十分にあります。避難情報が出ていなくても危険と思ったら「念のため、明るいうちの自主避難」が大切です。



【特別警報が出た場合の『命を守る行動』】…立ち退き避難と屋内安全確保

気象庁から特別警報が発表されると、都道府県から市町村に伝達され市町村から住民に『直ちに命を守るため最善の行動をとってください』というような呼び掛けがあります。それでは、大雨特別警報が発表された場合の「命を守る行動」とはどんな行動をいうのでしょうか。この場合、その家の建っている位置、地形などの状況によって、その避難方法も大きく異なります。

例えば、家の裏が急傾斜地であれば、崖崩れなどの土砂災害の恐れがありますので、直ちに安全な場所への〔立ち退き避難〕が必要です。また、河川の流域に家がある場合は、浸水や流失の危険性がありますので、直ちに安全な場所へ〔立ち退き避難〕をしてください。

しかし、崖崩れや流失のおそれがない家の場合でも、低地であれば浸水のおそれがありますので、2階などへ避難する〔屋内安全確保〕等の行動を取る必要があります。大雨特別警報は市区町村の防災無線、広報車、エリアメールなどで広報されます。そのほかに市区町村から出される避難情報にも注意が必要です。



【避難情報】

避難情報は様々な情報と危険度を考えて市区町村が避難が必要と判断した場合、住民に対して発表されます。

① 避難準備情報 / 住民に対して避難の準備呼びかけるとともに、高齢者や障がい者などの災害時要援護者に対して、早めの段階で避難行動を開始することを求めるものです。

② 避難勧告 / 災害によって被害が予想される地域の住民に対して、避難を勧めるものです。

③ 避難指示 / 住民に対し、避難勧告よりも強く避難を求めるものです。避難勧告よりも急を要する場合や、人に被害が出る危険性が非常に高まった場合に発表されます。避難指示が出された場合には、ただちに避難行動を開始してください。



【避難の選択肢】…避難の種類

① 留まる / 濁流などで外に出ることが危険な場合や、夜間などで避難途上で遭難する危険性がある場合、すぐに流失の危険性がないと判断した場合はその場(自宅等)に留まるようにしてください。浸水や孤立のおそれがある場合は、ただちに救助を要請し救助隊を待ちます。その間、出来るだけ高い場所へ移動します。浸水し危険が迫ってきた場合は、天井を破って屋根の上で待ちます。〔屋内安全確保・垂直避難〕

② 垂直避難 / 流失の危険はなくても洪水のおそれがある場合、自宅や隣接建物の2階以上の高いところへ避難します。〔屋内安全確保・垂直避難〕

③ 水平避難(指定避難場所)/市区町村が指定している体育館などの避難場所にします。〔立ち退き避難〕

④ 水平避難(知人・親戚宅など) / 同じ水平避難なのですが、指定避難場所への避難でなく、安全な知人や親せきの家などに避難します。〔立ち退き避難〕

※2009年8月に発生した佐用水害では、佐用川支流の幕山川沿いの町営団地に住む住人が夜8時頃、避難場所の小学校に避難する途中で8人が流されてしまいました。これは夜間、濁流の中での避難がいかに困難で危険なものであるかを物語っていると思います。同じ佐用町で避難勧告が出たのに避難しなかった(自宅に留まった)地域の人々は床上浸水はしたものの、建物の2階等などに避難〔垂直避難〕して全員無事だった地域もあります。また、指定避難場所までの経路が危険と判断し、知人宅へ避難して助かった人達もいます。命を守る行動としての避難行動は、その場所、状況などによって異なりますので、状況に合わせて臨機応変に対応を選択する必要があります。今回の広島市の大規模土砂災害でも、2階にいて難を逃れた方が何人もいらっしゃいます〔垂直避難〕。そうした方々の事例、経験は、大いに参考になります。



【番外編】 街中で突然ゲリラ豪雨に遭遇してしまったら…

ゲリラ豪雨、雷雨、竜巻、降雹などをもたらす積乱雲のうち、平均的な積乱雲の大きさ(平面的な広さ)はせいぜい10㎞程度のものです。ですから、積乱雲による集中豪雨は30分程度で弱まる可能性が高いので、街中で突然ゲリラ豪雨に遭遇したような場合には、とにかく安全なビルの中などに避難して、ゲリラ豪雨をやり過ごすことが大切です。

しかし、短時間に想定外の大雨が降ると排水能力(たいていの都市は時間雨量50ミリの雨を想定して排水施設の設計がなされています)を超えることがあるため、内水氾濫等の都市型水害が発生する危険性があります。ですから、浸水する可能性の高い低地からは速やかに離れること、特に地下や地下街から出て、安全なビルの2階以上に避難する必要があります。ゲリラ豪雨が発生する場合は、落雷、竜巻、突風、降雹なども同時に発生する可能性があるので、合わせて注意が必要です。



【避難するときの注意事項】

① テレビやラジオ等で気象情報(特に時間あたり降雨量、警報、注意報)や防災情報(避難指示、避難勧告、避難準備情報等)に十分に注意をしてください。

② クルマでは避難しないようにしてください。1時間あたり20ミリ以上の降水量の雨が降っている時、ワイパーは効かず、また、路面が冠水するとブレーキが効かなくなる(ハイドロプレーニング現象)可能性があり、大変に危険です。さらに、アンダーパス(低地の立体交差道路)などに突っ込むと身動きがとれなくなる可能性があります。

③ 浸水が40~50㎝以上になると外開きドアは開かなくなるので、早期の自主避難が大切です。

④ 浸水が進行すると歩行が困難になります。成人でも浸水が30~50cm以上になると歩行が困難になります。そうなったら、無理をせず救援を呼ぶか、安全な場所に身を隠して、じっと救助を待ってください。

⑤ 「遠くの避難所より、近くの2階」…低地に家がある場合でも、すぐに流失するような危険性が低い場合は、濁流の中を遠くまで避難することはかえって危険です。近くの2階家に避難させてもらってください。〔屋内安全確保・垂直避難〕

⑥ 立ち退き避難をする時には、隣近所に声を掛け合って避難してください。特に要援護者の支援は隣人の大事な役目です。

⑦ 複数人で避難する時は、避難者同士それぞれがロープ等を掴んだりして、必ず集団で避難するようにしてください。

⑧ 荷物は必要最小限にし、極力両手を開けて避難するようにしてください。荷物を持っているとバランスを崩しやすいので、「持ち出すものは命だけ」くらいの気持ちで考えてください。

⑨ 冠水箇所や濁水の中には、マンホールや側溝のフタが外れていたり、急に深いところがあったり…と目には見えなくとも障害になる箇所があったりするおそれもありますので、長めの「探り棒」のような棒を持って、前を探りながら進んでください。

⑩ 避難する時はできればヘルメット、手袋、雨具、長ズボン、長袖シャツ姿で、懐中電灯、ラジオを持って避難するようにしてください。

⑪ 長靴は少量の雨の場合は有効ではありますが、避難が必要となるような激しい雨の場合はかえって逆効果です。靴の中に水が入ると動けなくなりますので、脱げにくい紐で縛るタイプの歩きやすいスニーカー等を履いて避難してください。

⑫ 火の元、ガスの元栓、電気のブレーカーを閉じ、戸締まりをしてから避難するようにしてください。

⑬ 半地下・地下室には絶対に近寄らないでください。

⑭ 川、用水路、側溝、橋、マンホール等には絶対に近づかないようにしてください。1人で様子を見に行くことなど、もってのほかです。絶対に止めてください。

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また、普段(平常時)の備えとして、降雨時の「雨の日散歩」をお薦めします(あくまでも身に危険を感じない弱い雨の時に限りますが…)。

雨が降ると周囲の状況は一変することがあります。雨が降った時、降雨量によって周囲の状況がどのように変わるかを平常時に確認しておくと、災害リスクを把握する上で、非常に役立ちます。豪雨の際に河川を流れる水の濁り具合や小石や土砂の流れ具合等で、この先、土砂災害や鉄砲水に発展するかどうかの異常を見分けることに役立ちます。また、平常時と異常時の違いや、濁流の流れる方向などを普段から確認しておく、早期自主避難の判断目安にもなります。

また、都市型の内水氾濫等では、道路を流れる雨水の方向や強さ等を見ることにより、あらかじめ危険箇所を把握しておくのに役立ちます。行政機関等が作成する洪水ハザードマップもありますが、それって洪水が発生した場合被害を受ける可能性がある地域を示すものがほとんどです。しかし、いざという時に必要なのは避難経路にある詳細な危険箇所(マンホール、側溝、小河川)の情報です。濁流で冠水した場合、そうした危険箇所が見えなくなります。避難途上に蓋の外れたマンホールや側溝に落ちて犠牲となるケースが圧倒的に多いのです。自宅からの避難経路にある危険箇所などを普段から確認しておき、自前のハザードマップに位置を記入しておくことが大切です。

『“安全”とは、与えられるものではなく、自ら努力して勝ち取るものだ』…ということを忘れないでいただきたいと思っております。

執筆者

株式会社ハレックス前代表取締役社長 越智正昭

株式会社ハレックス
前代表取締役社長

越智正昭

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