2015/05/11

おそるべき讃岐うどん(その1)

この『おちゃめ日記』の場で何度も書いてきていますが、私の故郷は四国です。生まれと本籍地は愛媛県、両親が住む現在の帰省先も愛媛県の松山市ですが、転勤族の子供なので、おおよそ3年ごとに転居したのでどこが故郷と言うのも言いにくいのですが、香川県の丸亀には多感な時期の中学・高校時代の6年間を過ごしたので、友人も多く、故郷はどこかと聞かれれば、2年前までは「香川県の丸亀です」と答えるようにしていました。

で、その香川県は別名『うどん県』と称しているように、名物といえば、御存知!『讃岐うどん』です。たいていの人にとって、「香川県のイメージは?」と問われると、100人が100人とも『讃岐うどん』の名を挙げられるのではないでしょうか。確かにその通りです。香川県出身を自認していた私でさえもそう思います。(他にも名物や名産はいっぱいあるのですが…)

たがしって、いや間違い、したがって、私にとって『うどん』はソウルフード。『うどん』の食べ方にはちょこっとうるさいんです。

『うどん』と言うと、こちら関東地方では“かけうどん”が主体ですが、地元香川では“かけうどん”だけでなく、実に様々な『うどん』の食べ方があります。『釜揚げ』、『釜玉』、『おろし』、『生醤油』、『ぶっかけ』、『熱熱(あつあつ)』、『熱冷(あつひや)』、『冷熱(ひやあつ)』、『冷冷(ひやひや)』……などなど。うどん屋の数だけ食べ方があるって感じで、実に様々です。

よくご存知のように、『釜揚げ』とは、茹でた『うどん』をそのまま丼に移し、出汁(ダシ)につけて、つけ麺にして食する食べ方です。丼じゃあなく、タライに移して『タライうどん』と呼ぶ店もあります。ちなみに『うどん』はふつう茹で上がった後、いったん冷たい水で〆(しめ)るんです。麺の表面に残った余分なヌメリを綺麗に洗い流して、食感(喉越し)を良くすると意味もあるんです。ですが、この『釜揚げ』は水で〆ません。茹で上がったそのまんまを食するのが特徴です。

で、ここから先が少しばかり難解な食し方が続きます。

基本的に地元香川では、めいめい製麺所に行って、打ちだちの『うどん』をセルフサービスで(客自らが湯がいて)食べるんです。うどん屋さんなんて上品なところではふつうは食しません(もちろん、最近は観光客目当てにふつうのうどん屋さんもありますが…)。セルフ、すなわち自分で好き勝手に食べるもんですから、各人各人その人なりのこだわりの食べ方ってもので食するわけです。

で、最初の『釜玉』。これは香川県のちょうど真ん中ほど、高松空港からすぐの綾歌町にある『山越』という製麺所が発祥の地とされている食べ方です。毎日毎日卵を持参して食べに来るお客さんがいらっしゃって、いったいどうやって食べるんだろうと周囲の皆さんが見ていると、そのお客さんはまず丼に卵を割り入れて、まずそれをよく掻き混ぜるんです。次にそうした中に暖かくホカホカに茹で上がった釜揚げの『うどん』をそのまま移し、さらに先程割り入れて掻き混ぜておいた卵とさらに掻き混ぜるんです。そうすると出来上がっちゃうんです、『うどんカルボナーラ』が…。それに生醤油をちょいと垂らして食するわけです。ただそれだけ。そんな食べ方で美味しいんだろうか…と皆さん思われるでしょうが、試してみるとこれがメッチャ美味いんです。で、地元で評判になって、今や『讃岐うどん』の食し方の定番メニューになっちゃいました。好みにより、ネギや生姜、鰹節等の薬味をちょいと入れると、なお美味しいです。

(ちなみに、現在、サッカーのJ2リーグで戦っている地元香川のプロサッカーチームのチーム名は『カマタマーレ讃岐』と言います。もちろんチーム名の由来は『釜玉』です・笑)

次に『生醤油』。これは茹で上がった麺をいったん冷たい水で〆た後、皿に移し、それにただ単に生醤油だけをかけて食するという極めて単純な食し方です。よっぽど『うどん』の玉(麺)自体が美味しくないと食べられません。

その『生醤油うどん』に大根おろしをトッピングしたのが『おろしうどん』。夏はこれに限ります。ネギや生姜、花カツオといった薬味をちょいと乗せるともっと美味です。私はネギの代わりにミョウガを乗せるのが大好物です。大根おろしの代わりに山芋をおろしたものをかけて『やまかけうどん』にしても美味しいです。要は、水で〆て取り除いたぬめりの代わりに、なにか他の食材で新たなぬめりを加えるって食べ方なんだ…と考えていただければよろしいかと思います。

先に紹介した『山越製麺所』では『釜玉やま』というメニューがあります。これは『釜玉』の上に“やまかけ”を加え、ワサビをちょいと乗っけて食べる食し方で、こいつは絶品です。

『ぶっかけ』はつけ麺の出汁をそのまま皿に盛られた『うどん』の上に文字通り“ぶっかける”食し方です。世界一のファーストフード『うどん』ならではの食し方です。

(ちなみに、関東ではカツオ出汁が一般的ですが、本当の本場では『うどん』の出汁にはイリコ出汁を使います。イリコとは関東で言うところの“煮干”のことですが、使用する魚の種類が違います。『讃岐うどん』には、やはり瀬戸内海産の小魚を干して作ったイリコに限ります。)

で、問題はここから。 『熱熱(あつあつ)』、『熱冷(あつひや)』、『冷熱(ひやあつ)』、『冷冷(ひやひや)』……これはいったい何のことなのか? これは関東地方でもふつうに食している『かけうどん』の食べ方なのですが、地元香川では一口に『かけうどん』と言ってもこの4種類に大別されます。この違いが分かると、本当の“うどん通”です。

まず最初の文字が麺の、そして次の文字が出汁の状態を意味します。熱くした麺にこれまた熱い出汁をかけて食するのが『熱熱』。熱い麺に冷たい出汁をかけて食するのが『熱冷』で、その反対が『冷熱』と呼ばれるものです。で、冷たい麺に冷たい出汁をかけるのが『冷冷』。『熱冷』と『冷熱』、どちらもものの3分もするとただの生ぬるい『うどん』になっちゃうのですが、出来上がりをツルツルとかきこみ、喉越しと言うか、微妙な食感の違いを楽しむわけです。善通寺市の『宮武製麺所』というところが発祥の地とされているこの食し方、『うどん』を食べ慣れた讃岐人の間で、簡単にふだんと違う『うどん』の味わいを楽しめるということで、瞬く間に広がったようです。ちなみに、私は『冷熱(ひやあつ)』が好みです。

まぁ~、一口に『かけうどん』と言っても、このように本場香川ではバリエーションが豊富にあります。

同じ『かけうどん』でも、本場香川県人は『きつね』や『たぬき』や『天麩羅』といった上にトッピングする“ブツ”にはそれほどこだわりません。麺そのものの味や食感が全てなんです。あえて書くと、私は竹輪(チクワ)の天麩羅(通称“竹天(チクテン)”)。こいつが一番『うどん』には合うと思っています。なんと言っても安いので、高校時代は学校の帰りにこの“竹天”を一つ総菜屋で買って、それを持って製麺所に行っていました。(竹天を買う日は、ちょっと贅沢な日でした。)と言うことで、食べ慣れているんです。

いかがですか? 少しはお分かりいただけたでしょうか?

『讃岐うどん』ってメッチャクチャ奥が深いんです。東京でまがい物の『讃岐うどん風うどん』を食べて、『讃岐うどん』を語っていただいては困ります。『讃岐うどん風うどん』と『讃岐うどん』は、まるで違う種類の食べ物です。

ちなみに香川県では、あの世界的なファーストフードとして知られるマクドナルド・ハンバーガーが随分前に完全撤退したんだそうです。と言うことは、『讃岐うどん』は世界最強のファーストフードということなのかもしれません(笑)。


……(その2)に続きます。

執筆者

株式会社ハレックス前代表取締役社長 越智正昭

株式会社ハレックス
前代表取締役社長

越智正昭

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