2015/05/18

おそるべき讃岐うどん(その4)

先日、高校の2年後輩と話した時、最近の『讃岐うどん』ブームに乗って首都圏にいっぱい進出してきている『讃岐うどん屋』についての話題になりました。(香川県人が複数人集まって、『うどん』のことを語り始めると、一晩中でも語れます・笑)

そういう店ってたいていは“セルフ”を名乗っていますが、あれは『麺通団』の田尾教授(団長)の分類によると、『観光うどん系』の『大衆セルフ店』の『都会うどん』で、『大将系』のうどんがほとんどです。

この後輩に言わせると、首都圏進出のそういう店の『うどん』の味や食感に関しては、「なぁ~んちゃ、うまない!(少しも美味しくない)」とバッサリ! まぁ~、「郷に入らば郷に従え」と言うことで、幾分関東風にアレンジしちゃっていますからねぇ~。作り手だって地元香川で修業を積んだと言っても、元々は関東地方出身の方がほとんど。元々が関東人の味覚で作っていますし、だいいち使用する水が関東の水。ここの違いが決定的です。

『うどん』という食べ物の原材料は小麦粉と塩と水だけ。いたってシンプルなだけにこの3つの原材料の味が命なのです。その中でも重要なのは実は“水”なんです。麺をこねるのにも、茹でるのにも、〆るのにも大量の水を使いますからね。

実は香川県で『うどん』文化が根付いたのは天候と大きく関係があるのです。よくご存知のように香川県はほとんど雨が降りません。皆さん、小学校の社会科で習ったと思いますが、香川県の風景の代名詞のようになっているのが“溜め池”です。日本一狭い都道府県である香川県はほとんどが平野で、その狭い讃岐平野には弘法大師が作ったと言われる最大の溜め池「満濃池」をはじめ、大小幾つもの溜め池が点在しています。高松空港を離陸して上昇途中の飛行機の窓から下を眺めると、讃岐平野に点在する溜め池が太陽の光を反射して、各所でキラッキラッと光っている光景を目にします。その溜め池が点在する平野の中にポコッポコッとした形の低い山(死火山ばかりです)がこれまた点在しているのが香川県の景色の特徴で、こういう風景の土地は、間違いなく香川県だけでしょう。

溜め池があるということは雨があまり降らないということ。水を確保するために、降った雨を少しでも溜め置くための溜め池が昔から作られたということです。と言うことは、香川県ではほとんど稲作が出来ないということを意味しています。水田がなかなか出来ませんからね。そういう自然環境から、米の代わりに栽培されたのが小麦。ですから、基本的に『小麦文化』が根付いたわけです。

また、雨が降らないことから塩作りには適していて、私が高校生時代くらいまで、香川県の瀬戸内海沿岸には入浜式や流下式(枝条架)の“塩田”があって、瀬戸内海の海水を濃縮して塩を製造していました。

これで小麦と塩という『うどん』の原材料が香川県では非常に手に入りやすかったということはお分かりいただけたと思いますが、問題は残りの原材料の“水”。ほとんど雨が降らない土地柄なので、この“水”の確保はどうするんだろう…ってお思いになるでしょうが、実はそれほど困らないのです。高知県との県境に沿って四国の中央部を東西に貫く背骨にあたる四国山脈は西日本最高峰の石鎚山をはじめ千数百メートル級の急峻な山々が連なり、山地を境として南部は多雨の太平洋側気候で毎年台風等による水害が多発しており、反対に北部は少雨の瀬戸内型気候で南部とは逆に水不足に悩まされている地域が多いというまったく逆の特徴を有しています。

その四国山地に降った大量の雨が実は地下水脈となって瀬戸内海側にも流れ込んでいるところがあって、井戸水は潤沢にあるんです。愛媛県新居浜市や西条市など特に高い山々を背にする都市では、四国山脈の高さ故に保水力が高く、やたら地下水に恵まれていて、水道料金が無料となっているくらいです。

(その2)で私が「ディープ香川」と呼んだ香川県中部(中讃)の「綾川土器川三角地帯」周辺もその一つです。しかもこのあたりの地下水は水質が軟水で極めて良質なんです。ですから、米が採れないわりには美味しい日本酒の酒蔵もあります。

映画『UDON』の中でユースケ・サンタマリアさん演じる主人公コースケが『うどん』の美味しさに目覚めるシーンで使われた山間の仲多度郡まんのう町にある『三島製麺所』をはじめ、『讃岐うどん』の有名店は、なんでこんなところに…って思える意外なところにあることが多いのですが、それには訳があるのです。それってすべて美味しい地下水が湧き出している井戸のあるところなんです。

三島製麺所紹介HP

このように、その使用する水の差が、微妙に『うどん』の味や食感(麺のコシってやつです)の差となって現れるんです。

と言うことで、今、東京を中心とした首都圏では紛い(まがい)物の『讃岐うどん』が横行しているのが実態なんです。『讃岐うどん』を語っていますが、それを信じて食べると、地元香川県人にとっては少し騙されたような気分になってしまいます。おまけに値段も高いし。それって、敢えて分類すると、『讃岐うどん風うどん』ってことになります。『讃岐うどん』と『讃岐うどん風うどん』はまるで違う種類の食べ物です。前述のように、おそらく店長が関東地方で生まれ育った人だったりすると、ダシがカツオ出汁であったり、使っている醤油が関東人に馴染みの深い千葉県の野田の醤油を使っていたり…と、似ているようで、なにかが微妙に違うのです。まぁ~、郷に入らば郷に従え…ってやつで、仕方がないことではありますが、一番大きな違いは、この水なのではないか…と私は思っています。

(その2)で「丸亀製麺」のことについて少し触れましたが、この「丸亀製麺」も店舗ごとに『讃岐うどん』と『讃岐うどん風うどん』が混在しているように感じています。まぁ~、どの店舗も限りなく『讃岐うどん』に近いのではありますが、「う~~~ん、惜しい! どこかが、なにかが違う!」って感じるところがあって、私は分類上は『讃岐うどん風うどん』に加えています。(『讃岐うどん風うどん』と思えば、限りなく『讃岐うどん』に近いので納得ができ、それなりに美味しくいただけるので、よく利用させていただいています。)

と言うことで、我々首都圏に住む香川県人は新橋にある香川県愛媛県の共同アンテナショップ『せとうち旬彩館』に行って、「鎌田」や「かめびし」という地元のマイナーな醤油メーカー製の醤油を購入し、自宅でテーブルマーク(旧・加ト吉)の「冷凍うどん」を楽しむのが間違いがないと本気で思っています。少なくとも、本場の香川県人は、『うどん』に千葉県野田の醤油を使うのは違うだろっ!…と思っています。小麦粉と塩と水というシンプルな原材料で出来た食品だけに、最後の味の決め手となる醤油にはこだわって、選びに選びます。『讃岐うどん』を正しく食するには、やはり香川県産の醤油を使うのがよろしいようです。ちなみに、地元香川県には『醤油豆』という不思議な食べ物もあり、こいつが『うどん』を食べる際のオカズによろしいんですね。お正月の雑煮に餡入り餅と白味噌を使う土地柄は、どうも独特の味覚を生み出すようです。

そうそう、『せとうち旬彩館』の中にある郷土料理店『かおりひめ』のうどんもなかなかのものです(ここもジャンルで言えば『観光うどん系』に属するお店ですが…)。北四国連合で愛媛県の宇和島名産の『ジャコ天』をのせて食べると最高です。一度お試しあれ。


【追記】
誤解のないように言っておきますと、私は『うどん』は『讃岐うどん』以外認めていないわけではありません。日本全国には各地に実に様々な『うどん』があります。各地域で食べられている『うどん』には小麦の生産される土壌、気候、醤油などの醸造業や漁業などの地場産業、流通を担う商人などの存在により、その地域独特の食文化が色濃く反映されていて、私は好きです。秋田県南部の『稲庭うどん』、群馬県館林の『館林うどん』、同じく群馬県伊香保町の『水沢うどん』、埼玉県加須市の『加須うどん』や埼玉県から多摩地区にかけての伝統の『武蔵野うどん』などは美味しく、大好きです。

ただ、『讃岐うどん』と名乗る『うどん』だけは別です。『讃岐うどん』を名乗る以上は、ちゃんと私の故郷の伝統料理である『讃岐うどん』らしい味や食感、店の雰囲気を出せや!…と言っているだけのことです。特に郷土の歴史や瀬戸内の風土は感じさせていただかないと。


……「おそるべき讃岐うどん」完結です。

執筆者

株式会社ハレックス前代表取締役社長 越智正昭

株式会社ハレックス
前代表取締役社長

越智正昭

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