2016/03/28

転作の好機を掴む(その1)

3月17日(木)、広島県の尾道市で開催された農業者の方々の団体『中国四国 土を考える会』(事務局:スガノ農機)の研修会で農業向け気象情報提供について講演をさせていただきました。

『全国 土を考える会』は主に稲作を中心とした問題意識の高い農業経営者の皆さん方で組織された団体で、北海道、東北、関東甲信越、北陸東海近畿、中国四国、九州沖縄の6地区の『土を考える会』で構成された全国組織です。事務局を(株)農業技術通信社様とスガノ農機(株)様が務められています。ちなみに、(株)農業技術通信社は「農業経営」という月刊誌を出されている農業専門の通信社さんで、スガノ農機(株)はプラウ(種撒きや苗の植え付けに備えてトラクターに牽かせて圃場の土壌を耕起する農具)製造における日本のトップメーカーさんです。

  (スガノ農機HP
  (農業技術通信社の提供するWebサイト『農業経営者』

今回お招きを受けたのは中国四国地区の「土を考える会」の毎年数回行われる総会にあわせて開催される研修会で、主に中国四国地区から22名の農業経営者の皆さんに加えて、農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)近畿中国四国農業研究センターの水田作研究領域の研究者さん、クボタアグリサービス、ヤンマーアグリジャパンといった農機具メーカーの方を合わせて、40名近い方々がお集まりでした。

このところ農業関連の組織からお声がかかり、全国各地で開催される講演会やセミナー等で講演させていただく機会が増えているのですが、今回は広島県の尾道市で開催される中国四国地区の農業関係者の会での講演ということで、初対面の方々ばかりの前での講演ではあったのですが、まったくアウェイ感は感じなかったですね。私は四国の愛媛県の出身で、香川県の高校、そして広島大学の卒業ということで土地勘はそれなりにあり、参加者一覧を見ても風景が頭に浮かぶほどの馴染みの地名のところで頑張っておられる農家の方々ばかりで、話しておられる方言も、耳に馴染みがあり、懐かしささえも感じられる方言でしたから。

この日の研修会のテーマは『転作の好機を掴む』。

転作(てんさく)とは、同じ農地でそれまで生産していた農作物とは別の種類の農作物を生産することで、狭義では、従来は稲作を行っていた水田において、麦、豆、野菜、飼料作物、園芸作物等の他の農作物を生産することを指します。

1970年代以降の日本の農業においては、肥料の投入や農業機械の導入などによって生産技術が急激に向上したこともあり、米の生産量が急増したいっぽうで、日本人の食生活の欧風化が進行し、消費者の米離れに拍車がかかり、深刻な米の余剰が発生しています。いわゆる“米余り現象”と言われるもので、その“米余り現象”への対策として、1970年(昭和45年)、政府は米の生産を抑制するために米作農家に対して作付面積の削減を要求する「減反政策」を採り、稲作から他の作物の圃場へと転作した水田には転作奨励金を補する一方で、目標面積分の転作を達成することを稲作の補助金支給の条件とすることなどによって、半ば義務的に転作が進められてきました。

この1970年(昭和45年)以降長く続けられた「減反政策」により、米の作付け面積は半減、生産量は60%程度に抑えられるようになったものの、消費者による米の消費量減少には歯止めがかからず、日本人1人あたりの米の年間消費量は、かつての半分以下の60kg台にまで落ち込んでいます。家計支出に占める米類の支払いへの割合は、かつては10%強だったものが今では1.1~1.3%と1/10にまで減少し、米の地位低下が甚だしくなってきています。加えて、生産調整が強化され続ける一方で転作奨励金に向けられる国の予算額は年々減少の一途を辿り、「転作奨励」という手法の限界感から、休耕田や耕作放棄地の問題が顕在化してきていて、日本の原風景とも言える美しい水田の景観も、悲しいことに、荒れるに任されるようになってきています。

さらに、大東亜戦争の最中の1942年(昭和17年)に食糧(主に米)の需給と価格の安定を政府が介入して管理することを目的として当時の東條英機内閣により制定された「食糧管理法」がついに1995年(平成7年)に廃止されて、それを引き継ぐ形で「食糧法(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律)」が施行され、政府が米を買入れる目的が従来の価格維持から備蓄に移行したことに伴い、政府による米の買入れ数量は大幅に削減されました。米の価格は原則として市場取引により形成されるようになり、また、生産数量も原則として生産者(実際はJAを中心とする生産者団体)が自主的に決定するようになりました。この際、転作により米の生産を抑制する仕組みも、転作する面積を配分する当初の方法から、生産できる数量(生産目標数量)を配分する方法に移行されています。そして、2013年11月、第2次安倍内閣は2018年をもって1970年(昭和45年)以降50年近くも続けられてきた「減反政策」をとうとう終了すると発表しました。

政府主導による「減反政策」は終了するものの、米の供給過剰と、消費量(需要)減少によりこの先も引き続き米の大きな価格の上昇は見込めない状況にあります。日本の農業において、これは最大の問題で、これからは農業者は自ら“事業経営”と言う観点を持ち、自らの責任で大きく舵を切って転作を実施していくことが求められていると言えます。

余談ですが、TPPに参加することで日本の稲作は大打撃を受けると思われている風潮が世の中的にはありますが、それは大きな間違いです。冷静になって考えていただくとお分かりいただけるように、供給過剰で価格がここまで下落しているので、高い運送費を払ってまで海外から米が入ってくることは、まずあり得ません。米の品質を日本の水準にまで高めることはかなりのコスト高になりますので、国産の米は価格的にも十分に輸入米に太刀打ちできますから。

むしろ問題なのは、これまで過度に水田での稲作に頼ってきた従来からの農業が、ついに政治から見棄てられる時代が到来したということです。50年近くも「減反政策」を続けてきて転作奨励金という転作のための補助金まで支給してきたのに、ちゃんと転作ができていない(儲かる農業になっていない)というのは、申し訳ないけど、農家の方々の努力がこれまで不足していただけのことなので、あとは自分達の経営責任でなんとかしろ!…と、最後通告を突きつけられたことにほかならないと私は理解しています。それがTPP参加問題とタイミングが一致しているので、混乱しているだけのことではないか…と私は思っています。むしろ、今回のTPP参加問題を転作に向けて大きく舵を切るよいきっかけにするという発想があってもいいと思っています。まさに今回の研修会の開催テーマである『転作の好機を掴む』です(^^)d

実際、愛媛県農業法人協会会長の牧さん(ジェイ・ウイングファーム代表取締役)のところもかつては稲作主体だったようなのですが、地域特性を勘案して早くから麦作(ハダカ麦、モチ麦)主体の経営に切り替え、昨今の健康食品ブームとあいまって、現在では利益のほとんどを麦から得る経営を行っておられます。

稲作からの転作に向いているとされるのは麦(小麦)、大豆、トウモロコシなのですが、その実態たるや、問題がありありなんです。

小麦は世界三大穀物の一つで、古くから栽培され、世界で最も生産量の多い穀物のひとつです。日本でも約2000年前の遺跡から小麦が出土しており、かなり古くから栽培されていたことは知られているのですが、日本では製粉技術が未発達だったゆえか使用法がうどん等に限定されていて、米に比べて生産量は多くありませんでした。主として二毛作の米(稲)の裏作作物として小麦が栽培されてきたのですが、大東亜戦争後、アメリカ合衆国(米国)などから安い小麦が大量に入ってくるようになったことや二毛作自体の衰退、そして1963年(昭和38年)に起きたいわゆる“三八豪雪”と夏の多雨により小麦生産が大打撃を受けたことから、栽培面積は急速に減少して、1963年には栽培面積60万ha、自給率20%前後だったものが、1973年には栽培面積は7.5万haにまで減少し、自給率はわずか4%と小麦栽培は衰退されていました。その後、減反政策によって小麦の生産が奨励され、生産はやや復調傾向にあります。2005年には栽培面積は21万ha、自給率は14%となっています。

大豆も『古事記』に大豆の記録が記載されているくらい日本では古くから栽培され、米・麦・粟・稗・豆(大豆)という五穀に一つに数えられている作物です。節分には大豆を用いた豆まきが行なわれるほどです。主食にまではなっていませんが、植物の中では唯一肉に匹敵するだけのタンパク質を含有する特徴から、日本やドイツでは「畑の(牛)肉」、アメリカ合衆国では「大地の黄金」とも呼ばれています。また、日本料理では調味料の原材料として味噌や醤油など色々な形に加工され、中心的役割を果たしています。この日本食の中心的役割も果たす作物も、現在は大部分を輸入に頼っており、農林水産省による最新の大豆の需要動向(2009.11)の公表によると、国内大豆の生産自給率は平成20年概算で国内総需要において6%と発表されています。

問題はトウモロコシ。トウモロコシは非常に栄養分が高い食品で、世界の年間生産量は2009年に8億1700万tに達するくらいの世界三大穀物の一つです。穀物として人間の食料や家畜の飼料となるほか、デンプン(コーンスターチ)やマーガリン等に使う油脂、バイオエタノールの原料としても重要な作物なのですが、問題はその自給率。な、な、なんとの自給率0%!なんです(@_@) もちろん、トウモロコシを生産している農家さんはいらっしゃいます。しかしながら、その生産量は需要に比べてあまりに少ないため、1%にも満たないのです。日本の輸入量は16百万トンで、その内の95%がアメリカ合衆国から輸入されているのです。

これらの作物の自給率って、“食の安全保障”の観点から言うと、大きな問題だとは思われませんか? そして、この転作さえ上手くいけば、日本の農業って、捨てたもんじゃないって思われませんか? 私は日本の農業には、やり方ひとつで実は明るい未来があると思っている1人です(^^)d 現在、休耕田や耕作放棄地の面積は、一説によると、埼玉県の面積と同じか、それ以上あると言われています。これだけのいろいろな作物が栽培可能な農地がこれだけあるのです。やり方ひとつだと思いませんか?


(その2)に続きます。

執筆者

株式会社ハレックス前代表取締役社長 越智正昭

株式会社ハレックス
前代表取締役社長

越智正昭

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