2016/05/11
大人の修学旅行2016 in城崎温泉(その9)
この『餘部鉄橋』は1909年(明治42年)12月16日に着工、約2年ちょっとの工期で1912年(明治45年)1月13日には完成し、同年3月1日に最初の列車が通り開通しました。この長大な鉄橋がなんと明治時代に作られたわけです。鋼材はアメリカから輸入したものですが、設計と組み立ては日本人の手によって行われました。当時はまだクレーンをはじめとした重機などはなく、機械力の乏しい前近代的な(ほとんどが人力による)工法での建設でした。そうした中にあって、当時の最高とも言える技術を駆使し、短い工期でこれだけ長大な橋を建設したということには、驚きの一言しかありません。工事のための足場だって木の丸太を組んで作ったのでしょうが、この橋梁の高さを考えると50メートル近い丸太の足場を組まないといけなかった筈です。しかも鋼材を接続するリベットを打つのはすべて鳶職の方々による手作業。よくぞ建設したものだと思います。高さ41.5メートル。高所恐怖症の私なんぞには、下から見上げただけでも寒気で身震いしてしまうほどの高さです( ̄◇ ̄;)
この『餘部鉄橋』は、結果的に完成から98年という驚くほど長期にわたってほぼ建設時の構造のまま使用されました。鉄橋を構成する各部位の製造精度や組み立て精度が極めて高く、建設当時から晩年に至るまでほとんど構造に狂いが生じていなかったことがその最大の要因であるとされています。ほとんどのものが手作りであった明治の時代にそれほどの技術力があったということに驚くほかありません。まさに職人技の集積。これは貴重な技術遺産で、日本の誇りともいうべきものです。鉄道マニアでなくても、1人でも多くの日本人にご覧になっていただきたいと思っていますd(^_^o)
加えて、日々の地道な保守作業や適切な維持管理作業の積み重ねなくしては、そういうことはあり得ません。前述のように、このあたりは三方を山に囲まれ、一方は日本海の海岸から極めて近いという厳しい地形で、常に日本海から吹き付ける潮風に晒され、特に冬季は季節風や吹雪も吹き付けるという鉄橋にとっては極めて厳しい自然環境です。そこに鉄でできた巨大な橋梁を建設したわけです。そのため、開通直後から地道な保守作業や適切な維持管理作業が継続して行われました。保守作業や維持管理作業といっても、この橋梁の長さと高さでは容易なことではありません。常に11基の橋脚と23連の橋桁のどこかを保守しているような状態ではなかったか‥‥と思われます。残されている橋脚を見ても、何重にも重ね塗りされた錆止め塗装の跡がそれを物語っています。
建設、そして保守、関係された多くの技術者の方々に心からの敬意を表したいと思います。ちなみに、完成当時「東洋一」と謳われていた『餘部鉄橋』は、運用終了時までトレッスル橋梁としては日本一の長さを誇る橋梁でした。
しかし、この『餘部鉄橋』にも忘れられない悲しい歴史があります。1986年(昭和61年)12月28日13時25分頃、香住駅より浜坂駅へ回送中の客車列車(DD51形ディーゼル機関車牽引のお座敷列車「みやび」7両の計8両編成)が、日本海から吹き付ける最大風速約33メートル/秒の突風に煽られ、客車の全車両が台車の一部を残して橋梁中央部付近より下へ転落するという大惨事を起こしました。転落した客車は橋梁の真下にあった水産加工工場と民家を直撃し、工場が全壊、民家が半壊しました。回送列車であったため車内に乗客はいませんでしたが、工場の従業員だった主婦5名と列車に乗務中の車掌1名の計6名が死亡、客車内にいた日本食堂の車内販売員3名と工場の従業員3名の計6名が重傷を負いました。なお、重量のある機関車が転落を免れたことと、民家が留守だったことで、幸いにも機関士と民家の住民は無事でした。しかし事故後、機関士の上司は責任を感じて自殺するという更なる悲劇を引き起こしました。
7両の客車が41.5メートルの高さから落下‥‥。実際の現場を見ながらその光景を想像したのですが、あまりに凄すぎて言葉になりません。そうとうな高さです。事故で犠牲になられた方々に、心から哀悼の意を表します。
合掌‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
ちなみに、この大事故を受けて、JR西日本(当時は国鉄)は1988年(昭和63年)から運行基準を見直し、風速20メートル/秒以上で香住駅~浜坂駅間の列車運行は停止するようになっています。
お昼時で、ウスキ達が橋梁の下にある「道の駅あまるべ」で昼食を食べているということなので、私とココさんもそこに合流することにしました。餘部駅から細い坂道を下に下っていくのですが、餘部鉄橋の高さは41.5メートル。これはオフィスビルなら10階建て前後、マンションなら13階建て前後の高さに相当します。下りとはいえ、これだけ下ると脚が張ってきます。こりゃあ運動不足ですね;^_^A
「道の駅あまるべ」でウスキ、キョウコさん、ノリコさんと合流。約1年2ヶ月ぶりの再会です。「久し振りぃ〜」って挨拶はするのですが、実際は気持ちの中でたいして久し振り感が湧いてこないのは何故? きっと今朝がたからメールで頻繁にやり取りしているからでしょうね。でも、これで5人になりました。
「道の駅あまるべ」のレストランで昼食。ウスキ、キョウコさん、ノリコさんが食べていた魚(メバル?)の煮付けとワカメの味噌汁という定食も魅力的でしたが、ここは奮発してカニのちらし寿し丼とアサリのみそ汁という「鉄橋御膳」(1500円)を注文しました。冬の日本海の味覚と言えば、なんと言っても“蟹(カニ)”。3月の下旬と言っても、まだまだ楽しめます。嬉しいことに、「鉄橋御膳」にはお子様ランチのようにオマケが付いていて、それが初代の餘部鉄橋の写真が載ったカード。鉄ちゃんとしては嬉しい嬉しい限りです。ちょっと高めの御膳にしてよかった(^-^)
13時31分、餘部駅発城崎温泉駅行きの上り普通列車があり、そろそろその出発時刻が近づいてきたので外に出て、橋梁の下から遥か40メートル上を列車が通過していく様を見てみることにしました。私は餘部鉄橋を渡った経験は2度あるのですが、どちらも列車に乗って渡っただけで、下から見上げて眺めるのは初めてのことです。
遠くで微かに警笛音が鳴り、上り普通列車が餘部駅を発車したのが分かりました。ゴォゴォと大きな音を立てて列車がやって来るのかな…と思って待ち構えていたのですが、想像に反してほとんど無音です。頭の上を通り過ぎる時だけ、微かに列車が線路の上を走るゴォゴォという音と、ディーゼルエンジンの音が聞こえたくらいです。期待していた列車の姿も、車体は屋根の部分が見えるだけで、あっけなく通過していきます。初代の餘部鉄橋は鋼材を組み合わせた鉄橋だったので、2本のレールの間が空いていて、しかも低い転落防止柵しか設けられていなかったので、橋梁直下に住む地元住民は列車通過時のゴォゴォという大きな騒音や、様々な落下物や飛来物に常に悩まされていたと聞きます。私達鉄道マニアからすると、ほぼ剥き出しのような状態で列車が空中(上空)を進んでいく様を下から眺められたわけですが、鉄筋コンクリート(PC)製の橋脚と橋桁を持つ橋梁に変わってからはそうもいかなくなったようです。ちょっと残念ですが、仕方ないですね。
それにしても高い!(O_O) 自分の頭上40メートルの高さのところを列車が通り過ぎる様って、そうそう見られるものではありません。初代の餘部鉄橋がまだ現役の時代に、ここへ来て、こうして列車が頭上を通り過ぎる様を見たかったものだ…と思いました。後悔先に立たず…です。
「道の駅あまるべ」で少し時間を潰し、今度は長く細い坂道を登って餘部駅に戻りました。標高差40メートルを登るって相当にキツいことです。駅が出来たことで危険を冒して線路を歩いて隣の駅まで行く必要はなくなりましたが、今も餘部の集落に住む人達は毎日この長くて細い坂道を昇り降りしているわけです。お疲れ様です…と心から申し上げたい気分になります。
しばしホームの片隅に設けられた待合室のようなところで時間を潰し、14時34分餘部駅発の豊岡行普通列車に乗り込みました。この列車で行くと他の皆さんが待つ本日の最終目的地・城崎温泉駅への到着は15時28分。いよいよ『大人の修学旅行2016in城崎温泉』の本番開始です。同行5人に増えたのでワイワイガヤガヤ…と話は尽きなく、城崎温泉駅までの1時間弱の車中はあっという間でした。
……(その10)に続きます。
執筆者
株式会社ハレックス
前代表取締役社長
越智正昭
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