2015/04/17

上空の寒気渦の周辺で降雹

4月14日~15日にかけて、日本付近を上空の強い寒気渦が通過した。このため、大気の状態が不安定となり、突然の雨や雷が発生し、「ひょう」が降ったところもあった。上空の寒気渦と言われてもピンとこない。そこで、気象衛星画像で、この上空の寒気渦の様子を見ることにする。14日15時(左図)と15日15時(右図)の可視画像を並べてみる。赤丸を付した部分の中央付近に寒気渦の中心がある。「の」の字型の雲の中心に上空に強い寒気を持つ渦(低気圧)がある。大気の流れは反時計回りに中心に向かっている。14日15時の画像では九州には塊状をした白い雲が散在している。雷、突風、にわか雨などをもたらす積乱雲が発生していることを示している。西日本は、前日に雨を降らせた低気圧や前線が東に進み、晴れ上がって南寄りの風が吹き気温も上昇していた。ここに、この上空の寒気渦が接近したことで、地上と上層との気温差が大きくなり、大気の状態が不安定となって、積乱雲が発達したのである。このため、各地で雷を観測し、長崎と鹿児島では「ひょう」を観測した。

上空寒気渦の周辺で降雹


15日になると、この上空寒気渦は北陸方面に進み、関東甲信地方から東北地方南部には発達した積乱雲も見られた。前日の西日本の積乱雲の発達より強いものが多く見られた。

この日、関東地方は朝から晴天が広がっていたが、昼頃には南風も強まり、所々で雨がパラツキはじめ、関東北部や東北地方南部を中心には激しい雷雨となったところがあった。衛星画像と同時刻の15日15時のレーダーエコー強度、雷活動度及び竜巻発生確度の図を示すが、群馬県や福島県には強い降雨域があり、落雷も頻発していたことが判る。特に竜巻が起こったとのニュースはなかったが、群馬県内には竜巻発生確度が高い領域が解析されており、突風が起こってもおかしくない状況であった。このように、発達した積乱雲の下では、短時間強雨、落雷、突風等に警戒が必要となるが、春のこの時期は特に、「降ひょう」にも警戒が必要となる。

上空寒気渦の周辺で降雹_2


今回の上空の寒気渦の影響により、各地で「ひょう」を観測した。14日夕刻には長崎と鹿児島で、15日朝には福岡で、昼前には岐阜で、そして午後と夕方には前橋で観測していた。この他に、静岡では昼過ぎに「あられ」を観測していた。
「ひょう」と「あられ」は、おなじ氷の粒が落下する現象であるが、雲から落下する白色不透明・半透明または透明な氷の粒で、直径が5mm未満のものを「あられ」といい、直径5mmを超えるものを「ひょう」と分ける。この粒子はほとんど球状で,時に円すい状のとがりをもち、簡単にはつぶれず,堅い地面に当たると音をたててはずむ。

各地気象台では、気象台周辺に起こる大気現象を観測者の目視によって記録している。「ひょう」が降った場合は、その旨を即時に報告することも行っているので、特に、「ひょう」が降ったことはすぐ放送される。
気象台では様々な大気現象を観測したときには、その確認時刻の始まりと終わり、強度などを記事として残しており、これは、気象庁HPの「ホーム > 各種データ・資料 > 過去の気象データ検索 > 1時間ごとの値」のページに示されており、その記号の意味なども解説している。

ここに、14日の鹿児島と15日の前橋の観測記事を示す。記事の最初の部分には降水現象が示されており、「●」は雨、「上空寒気渦の周辺で降雹_3」はにわか雨を示し、「ひょう」は「▲」の記号で示される。赤枠で囲んだ部分が「ひょう」に関する記録で最初の4桁の数字が発現時刻を示し、後の4桁の数字が終了時刻を示している。鹿児島では、17時00分に「にわか雨」に「ひょう」が混じり、17時5分で終わった。この「ひょう」の直径は「d05」として示され、直径5mmであったとしている。一方の前橋では、14時30分からと17時0分からの2回、直径7mmの「ひょう」が降ったことを示している。
記事の欄には、降水現象に続き、雷電現象(2段目の記事)が示されている。「ひょう」を観測したときには、雷も発生していることが多く、この場合も前橋の2回目を除き雷が観測されている。
鹿児島の記事の最後の行には、「ひょう」の降っている一方で、虹が観測された。これは、「ひょう」をもたらした積乱雲の隣では日が射している状況を示している。わずか離れた所では、にわか雨すら降らなかったところがあるかもしれない。同時にこの二つの現象を観測できたのも上空の寒気がもたらした不安定な大気の状態のためといえる。
一方の前橋の最後の行は「もや」がかかっていることを示している。

上空寒気渦の周辺で降雹_4

上空寒気渦の周辺で降雹_5


鹿児島で「ひょう」の降った前後の気象要素の変化を見ると、赤枠で囲んだ部分で、やや強いにわか雨があり、風が一時的に強まり風向も変化している。気温も2℃ほど急降下している。気圧の跳ね上がりも見られた。短い時間であったが、現象の激しさを示すものと見ることができる。

気象庁HPで観測資料を取り出すことがあるかも知れないが、観測記事や10分刻みの記録も見ると、そのときどんな空模様であったかが詳細に判る。興味があったら、こんな記事や詳細な観測資料にも眼をやったらいかがでしょうか。

最後になったが、各地に「ひょう」や雷をもたらした上空の寒気渦の動きを衛星画像で見ていただきたい。今回は、あまり見ることの無い水蒸気画像を使ってみる。水蒸気画像は大気中上層の水蒸気量の多寡が見られる画像であるが、上中層の大気の流れを見ることもでき、今夏の今回のような上層の寒気渦の変化を見るのに適している。4月12日~15日の4日分を3時間刻みの画像で作成した動画である。中国の華北から南東進し東シナ海に進み、その後、日本付近を東北東進した。反時計回りに回転する渦の動きを見ていただきたい。この渦の南東象限では南からの湿潤な気塊が流入しやすい場所に当たり、この画像でも特に白くなり、水蒸気量の多いことを示している。

20150412-15寒気渦水蒸気動画


こうした寒気渦は、偏西風の流れが大きく蛇行する時に現れる。そのため、東西の移動速度が遅くなることで、長い時間この影響を受けることが多く、天気変化も遅くなる傾向がある。
今年の春は天気変化が極端から極端へ振れ幅が大きいのが眼に付くが、気温の大きな変動や長く続く悪天などは、このような現象も関わっている。今後も偏西風の蛇行が大きくなることがしばしば起こるかも知れないので、気象情報に留意して必要な対策は講じてほしい。