2015/09/04

台風第15号が九州上陸時の観測記録

八重山諸島を通過した台風第15号は東シナ海に入ってから勢力を弱めることなく北上をつづけ、九州上陸まで眼がはっきりしていた。今回は、台風第15号が九州に接近し、上陸・縦断した時期を、気象官署とアメダスの観測記録を使って見ることにする。今回は、普段見かけない形での解析資料を示すことにするが、地上観測資料は使い方により、現象をより詳細に見ることができることを知ってほしい。

衛星画像で台風の動きを概観
地上観測資料を扱う前に、どのような状況であったかを衛星画像で概観する。まず、衛星画像であるが、気象庁ホームページには、ひまわり8号の高頻度観測画像が載っている。ここでは容量の関係で30分間隔の画像で動画を作ってみた。台風第15号は東シナ海を北上する間、はっきりした眼を持っているが、九州に近づくにつれて、眼の輪郭がやや不鮮明となったが、九州に上陸までは眼は確認できた。台風を取り巻く雲域は進行方向に伸び、円形の厚い雲域の他に、進行前方にも活発な雲域も見られた。九州に近づいたころ、台風西側の大陸東岸付近に急速に発達しながら台風に向かって東進する積乱雲の塊が見られる。これは大陸東部に進んできた上空寒気渦の先端部分に当たり、この寒気渦がその後の台風の勢力の弱まりと、台風が東に向かうのを妨げる働きをしたようである。

台風1515号高頻度眼消滅動画


レーダーエコー図で台風の眼を追跡
次に、レーダーエコーでも見ることにする。台風第15号が九州に上陸し縦断する間を5分刻みの動画にした。鹿児島県の西海上を北上する間は中心の眼が明瞭であった。この時点で台風の眼は鹿児島県北西部を通過したように見える。
その後、熊本県(有明海を含む)を北上する間に中心部まで、エコーが覆って眼はなくなった。さらに福岡県に近づくに従って、中心の南側部分でエコーがなくなり、再び眼が見えたよう見える。これは、台風の進行後面に上空の乾燥気塊が侵入を始め、中心の南側部分で積乱雲の発達が抑えられるようななったためで、台風の勢力の衰えを示していると言える。
台風を取り巻く降水域を見ると、中心部分の強い降水域の他に九州山地の東側斜面や四国山地の南斜面で降水強度が強くなっている。これは、台風に向かって流れ込む湿潤な気流が斜面を滑昇し、雨雲を発達させるために生じたものである。台風が九州の西側を北上しても東側の地方では大雨となることが多いのは、このような地形の影響によるものである。

台風1515号九州縦断動画


観測点の風向変化から台風の移動経路を見る
アメダス観測点では、風向・風速を観測している地点がある。この風向の観測資料を使って台風第15号がどこを通過したかを調べてみた。
台風は、中心が最も低い気圧を持つ円対称のじょう乱である。北半球では低気圧の中心に向かって反時計回りに風が吹き込む。この2つの特徴を理解すれば、台風がその地点のどちら側を通るとどのような風の変化が起こるか知ることができる。図に示すように台風の進行方向の右側に当たるか、左側に当たるかで風向変化は反対となる。風向変化が時計回りの場合を順転といい、反時計回りの場合を反転という。図は台風の進行方向を東にしているが、台風の進行方向に合わせて、この図を回転させれば、どのような風向変化が起こるか読み取れます。

台風第15号が九州上陸時の観測記録_1


各観測点の風の変化が時計回りに変化した地点(赤円弧矢印)と、反時計回りに変化した地点(青円弧矢印)を図に示す。地形の影響などできれいな変化が見られない地点や、どちら周りであったか判断ができない地点は、マークを変えて示してある。風向変化の向きが逆になる境界線が台風の中心が通過したところである。図中に示した太桃色矢印は、中心が通過したと見られるところで、その動きは直線的でなく、左右に揺れていたようである。
また、レーダーでは鹿児島県北西部が台風の眼の中に入っているように見られたが、風の変化では西海上にあったことになる。台風の中心決定は地上の観測資料によっているので、レーダーで見た位置とはずれることがある。といっても数十キロある眼の中に納まっているので問題ではない。

台風第15号が九州上陸時の観測記録_2


最低気圧とその発現時刻(起時)で台風の移動と勢力変化をみる
気象官署とアメダス観測点の一部(旧測候所)で気圧の観測を行っている。台風の中心位置の決定では、風の分布と気圧の分布を使っており、気圧は強度の決定にも利用されている。ここでは、各観測点が観測した最低気圧とその値を記録した時刻(起時という)を使って台風の動きと勢力変化を読むことにする。図には最低気圧(赤)と起時(黒)で示してある。鹿児島県阿久根では25日3時54分に最低気圧947.3㍱を観測しており、九州の中で最も低い値であった。この最低気圧の分布を等値線(赤)で示してあるが、台風の進行方向に細く延びる形ができる。最も低い部分を台風が通過したことを示しており、北に向かって次第に最低気圧が高くなっていることが判る。950㍱の等最低気圧線は鹿児島県の少し北で止まり、970㍱の等最低気圧線は福岡線北部で止まっている。これが中心気圧の弱まりを示している。さらに、950㍱に比べ970㍱の先端部分が広がっているが、これは、台風の中心部分の気圧傾度が緩んでいることを示している。すなわち、中心付近の最大風速が弱まっていることを表している。
次に最低気圧起時を使って青破線の等時刻線を引いたが、これが台風の最接近時刻に当たり、最低気圧の中心線とこの等時刻線の交点がその時刻の台風位置を示している。
このように、地上の観測資料を使って台風の状況を把握できることができることを理解して欲しいが、ここでの解析は厳密に行ったものではない。あくまでも参考の図に留めてください。

台風第15号が九州上陸時の観測記録_3