2015/05/01

北海道の高温と急激な気温変化

2015年4月27日に北日本を中心に各地で異常な高温を記録した。北海道東部では朝9時には25℃以上の夏日となった所があり、午後には30℃を超えた所もでて、4月の最高気温の歴代一位の記録を更新する記録的な高温となったところもあった。



この高温をもたらした要因は中国東北区方面から暖かい気流が北日本方面に流入したことに加えて、北海道東部や東北地方の太平洋側では山を越えて吹き下りることで気温が上昇するフェーン現象も重なったためである。下の図は朝6時の地上天気図に高さ約1500m付近で15℃以上の高温の空気(標準の大気を仮定すると地上では24℃程度)が、北日本に流れ込んでいる部分を示した。さらに、この高温の気流の流入に加えて、大雪山系や奥羽山地を超えて吹き下りる西風によって、北海道東部や東北地方に太平洋側で昇温が起こったことを示した。



この日は北海道の北には低気圧があり、本州の南には高気圧が張り出す南高北低型の気圧配置で、晴れて気温が高くなるバターンで、北日本以外でも高気圧の縁を回る南寄りの風で北陸から西の日本海側の地方でも気温が高くなった。

このようにこの日は広範囲で高温となったが、ここでは北海道の気温変化に着目してみる。北海道を取り上げたのは、高温が現れた地点の気温変化の複雑さを見る好材料がいくつも見られたためである。
複雑な図で申し訳ないが、取り上げた地点は日本海側の沿岸部に位置する留萌、大雪山系の西の内陸に位置する旭川、オホーツク海沿岸に位置する紋別、大雪山系の東の内陸に位置する帯広とその東の太平洋沿岸に位置する大津の5地点の10分刻みの気温の変化を示した。各地点の位置関係は図中に示した地図で確認されたい。



日本海側に位置する留萌では、前夜から東南東の風が8㎧前後と強く、気温はこの時期の日平均気温より2℃程度高い状態が続いていた。東寄りの風なのになぜ気温が高いのと思われるかもしれないが、これは南からの温かい気流がこの地の南側に位置する山を吹き下りたのち、留萌川に沿って東寄りの風となったためである。日が高くなると共に気温が上がり、8時前には18℃となり、日中の暑さを心配させるような状況となった。しかし、そのすぐ後に北風に変わって気温が急下降した。出勤時間帯で戸惑った方も多かったのではないだろうか。北風に変わった後の気温変化は小さく、ほぼ平年並みとなった。

次に内陸の旭川を見る。前夜から明け方にかけて10㎧前後の南風が吹いて、留萌と同様に気温が高めに経過していたが、日の出とともに気温が上昇する晴天日の気温変化が見られ、夏日となった。 ここで、十勝岳を挟んだ南東側の帯広の気温変化と比較して見て欲しい。旭川では明け方にかけて南からの暖気の流入があったが、帯広では明け方の冷え込みがはっきり見られる。旭川に入っていたような強い南風もなかったためであるが、日の出とともに気温が急上昇し、4月というのに真夏日となった。最低気温7.9℃(5時39分)から最高気温30.6℃(12時51分)まで、なんと気温差が22.7℃になった。高温が現れた時間帯の帯広と旭川の気温差は4~5℃もある。この大きな気温差をもたらした要因の大部分が十勝岳を含む北海道を南北に連なる山脈を越えて吹き下りたフェーンによるものと言える。

次はオホーツク海沿岸の紋別の気温変化を見る。オホーツク海は流氷も広がることもある冷たい海である。この沿岸ゆえ4月27日の平年値を見ると最高気温11.4℃で最低気温2.5℃とまだまだ寒さが残る時期である。こうした場所で夜間の気温が19℃前後は、紋別の方々は寝苦しい夜を過ごしたのではと思うほどの状況であった。留萌でも明け方まで高温であったが、それをはるかに上回る気温(5℃程度)となっている。これもフェーン現象の現れである。改めて紋別の気温変化に風向変化を加えた図を作ってみた。参考に留萌の気温変化も示し、気温変化を比較してみる。



紋別では最高気温が11時6分に26.6℃を記録している。しかし、この地の気温変化は明け方から最高気温の現れるまで、極端な高低を繰り返している。ピンクの帯で示す温度帯と薄青の帯で示す温度帯の間を行ったり来たりしている。高温側の部分では西から南西の風が吹いており、低温側の部分では北東の風となっていることが読み取れる。高温側は、山を越えて吹き下りる高温で湿度20%程度の乾燥した空気が支配した時間で、低温側は冷たいオホーツク海上から吹き込む冷たい空気が支配した時間と言える。極端な高低の繰り返しは、二つの性質の異なる空気のせめぎ合いの結果である。しかし、9時頃からは山を吹き下りる気流が優勢となり、4月としては観測史上2位を記録し夏日となった。午前中の気温変化の異常さにびっくりするが、さらに劇的な変化が昼前に現れた。一般に、代表的な気温の日変化では最高気温が現れるのは午後2時前後と言われるが、この時はさらに気温が上昇する時間帯にも関わらず、急激な気温の下降が起こった。11時20分には26.2℃であったが、30分後の11時50分には10.5℃まで下がっている。この変化は朝方に見られた気温変動の幅を超えている。この要因を考えると、北海道上空に流入した高温の気流の風向きが少し変化し、西南西から西北西へと南側に向かう流れに変わったため、紋別方面に吹き下りる風が弱まったためで、オホーツク海中から吹き込む冷気に完全に入れ替わったためであろう。一日の気温変化がこんなに劇的に現れるのはそんなに多くはない。

最後に残った十勝管内の豊頃町大津の気温変化である(再度、大津の気温変化を下に示す)。この地は太平洋側沿岸に位置するため、沿岸を流れる低温の親潮の影響を受け、この時期の平均気温の平年値は6℃程度である。そんな場所で最高気温が31.9℃は異例なことで、4月の最高気温の歴代1位の記録を更新した。また、全年で見ても6位の記録であった。10分毎の気温変化を見ると、10時過ぎから比較的気温の高低の変動が大きく、なだらかな日変化を示していないが、全体としては平年よりかなり高めの気温で経過していた。しかし、突然と思えるような変化が起こって、13時30分~15時00分まで30℃以上の異常な気温が発現した。この時だけ西から北西の風となって、その前後は南や東寄りの風となっている。この異常な高温が現れた西から北西の風は十勝岳を含む山脈を吹き下りた風であり、フェーン現象が現れたものである。



紋別を含むオホーツク海側の地方では昼前に顕著な昇温があったが、十勝地方ではそれから3,4時間後の午後2時から3時頃に現れている。上空の風向きの変化でこうした時間差が現れたものであろう。

今回、北海道のいくつかの地点での気温変化の詳細を見てきた。このほかにも最初に示した9時のアメダスの気温分布図にも気になる分布がいくつかある。これについては、今回は詳細について述べないが、知床半島を挟んで宇登呂と羅臼で気温差が13.2℃もあった。知床半島が西風で運ばれてきた暖気の流入を妨げたためである。また、釧路の東に位置する知方学(ちっぽまない)の気温は8.3℃しかない。周囲が平年をかなり上回る高温の中で際立った低温は狭い地域に海霧の発生があったのではと推測される。

4月27日に北日本に高温をもたらしたのは「高温の気流が流入したこと」と、「フェーン現象」が重なったためであると片づければ簡単であるが、各地の気温変化に大きな違いが生じた原因まで考えると、それぞれの地方の地理的環境やその地を取り巻く海の状況が関連している。 気象台から発表される最高気温や最低気温の予想は数値予報モデルの予想結果を統計的手法も加えた、補正を行ったうえで、その地域を担当する予報官がその日現れる気象現象とその地域の地理的特性を加味して発表されるが、地域を代表した地点の値しか示していない。普段は、この特定地点の予想と自分の住む地域との差を意識して利用すればよいが、この事例の場合は、対応できない気温変化が起こることも知っておいて欲しい。