2015/09/02

台風第15号の八重山諸島通過の観測記録から

8 月15 日03 時にマリアナ諸島近海で発生した台風第15 号は、発達しながら西に進み、17日午後には最大風速50m/sの非常に強い台風に発達した。その後も西に進み、ルソン島北東海上に達した21日には速度を落とし、進路を北へ急変させた。進路を変える前後には勢力を弱めたが、北上しながら八重山諸島に接近するに従って再び発達を始め、非常に強い勢力となって、八重山諸島を通過した。その後、東シナ海に入ってもはっきりした眼を持ち九州に接近し、25日朝には熊本県に上陸した。

台風第15号の八重山諸島通過の観測記録から


この台風が通過した八重山諸島では記録的な暴風となり、石垣島では最大瞬間風速が71.0m/sと同地点の記録を更新した。この地域は最盛期の台風が接近・通過することが多い所であるが、今回のような猛烈な暴風雨をもたらす台風の接近・通過は、数年から十数年に一度あるかである。それ故に、今回の台風第15号が八重山諸島を通過した時の観測記録を示すことにより、今後の台風への備えの参考にできればと思う。

レーダーエコー図で台風の動きを概観
5分刻みのレーダーエコー図の動画によると、波照間島と西表島が相次いで台風の眼の中に入って出ていく様子が見られる。この台風の眼の直径は40km ほどで、眼の壁雲(アイウォール)の部分は非常に発達した雨雲となっていることがわかる。周囲には何本ものバンド状のエコー域が中心に巻き込むように取り巻いている。このバンド状のエコー域の下では、激しい雨、雷、突風等の発生の恐れが高い。

台風15号八重山通過レーダー動画


台風の眼に入った地点の観測記録
一般に、強い勢力を持つ最盛期の台風の眼の直径は20km~100km程度である。ただ、気象庁の決定する台風の中心位置は、この眼の中心部分をピンポイントで示しているので、1時間毎に決められた中心を結ぶ線からかなり離れた地点でも眼の中に入ることはしばしばある。先にレーダーで見たように、台風第15号は直径40km程度の眼を持っており、波照間と西表島の大原が眼の中に入った(経路図に付加した八重山諸島の観測位置関係の図に眼のおよその幅を示した)。
この眼の中に入った2地点の10分刻みの風と雨の変化を時間変化図にしてみた。図中にはこの地点が眼の中にあった時刻のレーダーエコー図も重ねて示した。

台風第15号の八重山諸島通過の観測記録から_2


波照間の観測記録では、台風接近中の15時56分に最大風速北東34.9m/s、最大瞬間風速56.1m/sを観測した後、急激に風が弱まり、1時間ほど風速は10m/s以下となった。接近中は東風が続いていたが、通過後は一転して西風に変わり、再び最大風速が30m/s程度に達し、19時10分に最大瞬間風速、西52.1m/sを記録している。その後は強弱を繰り返しながら徐々に風が弱まっていた。波照間では、風速20m/s を超える暴風が10時間に及んだ。雨は断続的で、眼の南側の強いエコーがかかった時間帯に強まったが、総雨量は100mm程度であった。

台風第15号の八重山諸島通過の観測記録から_3


西表島の南東端にある大原の観測記録も同じように図にしてみた。台風が波照間島を通過してから2時間経過した19時のレーダーエコー図には、西表島の大半がはっきりした眼の中に入り、眼を取り巻く強い壁雲(アイウォール)は、波照間島通過の時より強まっているようにも見える。大原では台風中心が波照間島を通過中の17時17分に最大瞬間風速、東58.9m/sを記録した。その後、急激な風の弱まりが見られ、風速10m/s以下の状態が1時間以上続いた。眼の中に入っていた時間帯である。大原では、台風中心の通過前と通過後で風速に大きな差があるが、台風が弱まった訳ではなく、地形の影響によるものである。地形の影響による風は、風が吹いてくる背後に山があったり、風の吹き抜ける方向と川筋が同じであったりすることで大きく変化する。特に風の吹き抜ける谷筋等では、周囲より一段と強い風が吹くことがあるので、観測所の風の記録だけで判断しない方が良い。
レーダーエコー図で見られた円形の強いエコーがかかった時間帯には強い雨が降り、特に通過後の21時過ぎに10分間に12mmの非常に強い降り方をしていた。ただ、雨の降り方は台風が遠ざかるに従って次第に弱まるのではなく、強弱の繰り返しがあることも示している。

この2地点の観測記録から台風の中心が通過するときの風や雨の変化の特徴がはっきり見られた。
① 台風の接近と共に風の急激な強まりが見られ、断続的な雨を伴っていた。
② 眼に入った状況では風が弱まり、雨も止んだ。
③ 眼から抜けると、吹き返しの風(それまでと反対方向からの風)が急激に強まり、激しい雨を伴った。台風の通過時で最も危険な時間帯である。
④ 台風が遠ざかるに従って雨や風は次第に弱まっていくが、その間にも強弱を繰り返しており、雨と風が同時に強まったり、弱まったりすることが多い。

台風の中心が通過することは、まれである。台風の通過に際して、このような劇的な気象状況の変化が起こることを知っておいて欲しい。

台風の眼の縁に当った観測点の記録
次に示す2地点の観測には気圧も記録されている。気圧変化も含めて台風の接近通過がどのように観測されたか見る。西表島は島の北端部分に位置しており、台風はこの地点の東側を通過している。一方、石垣島は島の南西端部分に位置しており、台風はこの地点の西側を通過した。台風の進行方向の右側と左側での気象変化の違いが読み取れる。

台風第15号の八重山諸島通過の観測記録から_4


西表島の気圧変化は、台風の接近に伴って急激な気圧降下があり、19時頃から21時前にかけて、気圧の変化が小さくなっている。この時間帯に台風が最接近したのであるが、風速の変化や雨の降り方から見て、台風の眼の中に入ったのではなく、台風の眼の縁付近まで接近した状況であった。当然であるが、台風の中心気圧は、この地点の最低気圧よりも低く、940 ㍱あるいはそれ以下であったと推測できる。風向変化を見ると、「東⇒北東⇒北⇒北西⇒西北西」と反時計回りに変化しており、台風中心がその地点の東側を北上したことを示している。
ところで、この観測点では、最低気圧を記録した頃に風速の急変が見られるが、これは、この地点でも地形が影響したものである。この地点は北東の風が最も強く表れる特徴を持っているが、台風の通過により、風向が北に変わったことから風上側に山を抱える形となり、風が弱まったものである。 台風の接近に伴って断続した雨は強さを増し、非常に強い雨が降った。最低気圧の発現前後に2つの極大が見られるが、これがレーダーで見られる眼の壁雲の中心部分で、最接近時には壁雲のやや内側にまで入ったため、やや雨脚が弱まったもので、眼の中に入った状況までは示していない。

台風第15号の八重山諸島通過の観測記録から_5


一方の台風の進路の東側に当たった石垣島を見ると、気圧変化は西表島とほぼ同様な変化が見られ、最低気圧は946.7㍱を記録しており、中心がかなり近い所を通ったことがわかる。風速分布は一つの山形の形状をしており、最接近時を挟んでの2時間程がピークとなっている。このピークの時間帯には特に風速の変動が激しくなり、時間雨量で50㎜以上に相当する非常に激しい雨を伴っていた。風速20m/sを超える状況が9時間近くに及び、瞬間風速が40m/sを超える状況も7時間近くに及んだ。これは、家屋の一部損壊、倒木、電柱の倒壊、トラックの横転など暴風による被害が多発する状態が続いたことを示しており、この台風が如何に強い勢力で八重山地方を襲ったかがわかる。

今回、台風第15号が八重山地方を通過した際の気象観測記録を中心に説明した。次回は、九州に上陸縦断した時の気象観測記録で、台風の状況を説明する。

執筆者

気象庁OB 市澤成介

気象庁OB
市澤成介

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