2015/10/19

平成27年台風第21号の眼の形状

台風第21号の眼の形状_1
与那国島に破壊的な暴風害をもたらした台風第21号は、非常に発達した台風の特徴であるはっきりした眼を持っていた。右は9月28日9時の可視画像である。太陽は東の空約45度の高さにあるので、台風の眼を囲む発達した積乱雲群で構成される眼の壁雲の西側部分に太陽光が反射し一段と白く輝いているが、東側部分はそそり立つ壁雲の影が眼の一部にかかって黒く見えている。台風第21号のように非常に発達した台風では、眼を取り巻く雲壁の雲頂は十数kmに達するため、朝夕には、こうした光の当たる部分と影の部分が見られる。


ここでの話題は、この台風が八重山諸島の南海上を接近通過した時に見られた台風の眼の形状の変化を見ることにある。 まずは「ひまわり8号」の赤外画像により、3時間刻みで台風の眼を切り出して図にしてみた。26日21時から28日15時迄のもので、並びは下段右から始まり左に向かい、次に中段、上段の順としている。眼の周りは背の高い雲が覆っているため一面真っ白となっており、眼の中の黒の部分とのコントラストが強くなっており、眼の形状が変化しているのが良く判る。

台風第21号による記録的な暴風_2


時間順に見ると、27日6時までは眼の形は丸く見えないが、上層雲が眼の一部にかかっているためである。その後は上層雲が眼を覆うことがなくなり、丸みを持った眼がはっきりと見られるようになった。さらに、この眼の中を細かく見ると所々白い部分があり、それは小さい雲の渦となっており、どんどん位置を変えていることがわかる。眼の中にできた渦の形状から二重眼と呼ばれることがあり、こうした形状が見られると数時間から半日程度の蛇行運動が現れることがある。

衛星画像は上空から眼を捕えているので、眼の一部に雲がかかったりすると眼の全体が見えないことがある。しかし、非常に発達した台風では、眼の部分は強い下降流となっているため、眼の中には発達を押さえられた下層の雲しか存在せず、赤外画像では輪郭がはっきりした眼が見られることが多くなる。 ところで、眼の形状は丸みがあるといっても、5角形(27日15時)や、6角形(28日03時)に見える時間もあり、きれいな円形のものは案外少ないかも知れない。眼の形状に関わるのは、眼を取り巻く発達した積乱雲が一様ではなく、発達にムラが生じたことなどが考えられる。そこで、この形状の変化をレーダーエコー図によってもう少し詳細に見ることにする。

台風第21号が八重山諸島の南海上を西北西進した頃のレーダー観測では台風の眼の動きをしっかりと捉えていた。まずは、黙って気象レーダーが捕えた台風の動きを見ていただきたい。

台風1521号 20150928レーダー動画

最初の頃はきれいな円形をしていたが、石垣島の南を通過する頃からは次第に楕円形となって、これが反時計回りに回転しているように見える。しかも、台風は一直線に進んでいるのではなく、楕円の回転に対応するかのように中心が右に左にぶれ、速度にも変化が出ている。周りを取り巻くレーダーエコーは、眼の縁の部分に強いエコーがあり、その外側にスパイラル状の強いエコー域もみられる。

次に示す3枚のレーダーエコー図に円形、三角形(と言えばそのようにも見える)、楕円形の例を示した。5時20分の図から眼の直径を見ると約70kmあり、その周りには強い強度を持つ雨雲がぐるりと取り巻いている。これが楕円形となったころには外側の強いエコー域は明らかに一方向に偏って存在していることがわかる。また、眼を取り巻く部分は長軸側で強いが、短軸側では弱まっている。三角形を呈し始めたころから、眼の周りの強いエコー域に偏りが始まっており、特に、それぞれの頂点部分に強いエコーが集まっているように見られ、楕円形になった時点でよりはっきりと強い部分と弱い部分の偏りが増していた。

台風第21号による記録的な暴風_3


非常に強い勢力を持った台風では、一般に台風の眼は小さく、円形をしており、眼の中には雨雲がほとんどない。台風第21号も、これらの要件を満たしていた。最盛期を過ぎると眼が大きくなるが、この頃の台風第21号の眼は特に大きくなったわけではなく、眼の中にはほとんど雨雲がない状況が続いており、八重山諸島へ接近時には最盛期の勢力を保っていたことがわかる。

眼の形を変えたのは台風の勢力が衰えた訳ではなく、周囲を取り巻く積乱雲の一部に偏った発達が起こったもので、このような変化はこの台風だけに見られたわけではない。最盛期の台風でも眼の変形はしばしば起こることが確認されている。 私のブロクで、2014年7月14日に「台風第8号の眼」 を載せたが、この中の衛星画像の動画を見てほしい。台風の眼の形が時間と共に激しく変化している様子を見ることができる。このような変化に合わせて、進路の蛇行なども起こっていた。台風第21号が与那国島にかなり接近した動きをしたのも、眼の形状の変化に関係した可能性がある。