2015/10/16

平成27年台風第21号の記録的な暴風

9 月23 日03 時にフィリピンの東で発生した台風第21 号はゆっくりと西または北西へ進みながら発達を続け、9月28日夕刻、与那国島の南約50kmの海上を猛烈な強さとなって通過した。このため、与那国島(与那国町祖納)では、最大風速、南東の風54.6m/s(28 日16 時08 分)、最大瞬間風速、南東の風81.1m/s(28 日15 時41 分)を観測した。これはこの地の記録を更新するものであった。

●最大瞬間風速の記録
これまでに気象庁の管轄する観測所で、最大瞬間風速が80m/s以上を観測したのは、山岳の観測所以外では第2宮古島台風での宮古島地方気象台と、第2室戸台風時の室戸岬測候所の2例のみで、今回の記録は3例目であった。これを見ても今回の暴風の激しさを知ることができる。
最大瞬間風速80m/s以上を記録した3事例を表に示したが、室戸岬の記録は風速計が破損したため、84.5m/s以上としている。参考までに最大風速の記録も表にした。最大風速についても宮古島、室戸岬の2点が上位にあり、今回の記録が3位に入っている。ただし、室戸岬の記録は最大瞬間風速を記録した第2室戸台風ではなく、4年後の昭和40年台風第23号時の記録である。勿論、第2室戸台風での最大風速も西南西66.7m/aと他の地点を上回る記録的なものであったことは言うまでもない。

台風第21号による記録的な暴風_1


●与那国島の観測記録
今回の台風第21号が近傍を通過時したときの与那国島の観測記録を図にしてみた。気圧変化を見ると15時32分に最低気圧949.3㍱を記録しており、風向は北東から東を経て南東へと変わっていた。中心がこの地点の南側を西に進んだことを示している。接近時より通過後の方が気圧の上がり方が早いのは、台風が速度を上げたことが関係している。これが最低気圧を記録した時間より後に暴風の激しさを増した要因の一つと考えられる。要因はこれだけでなく観測点の地理的条件が風向によっては一層激しい風が吹く場合があることも考えなくてはいけない。

台風第21号による記録的な暴風_2


最低気圧を記録した前後で気圧変化が最も大きい。下降から上昇に転じているシャープな形をした部分が台風の眼のすぐ外側の部分に当たっていたと考えられる。台風が最接近したとき、観測点からの距離は約50kmであり、レーダーエコーから測定した台風の眼の半径は約35kmであった。これから、最も激しい暴風をもたらす眼のすぐ外側の部分(眼の壁雲に当たる部分)にあったことを示している。
このことを最低気圧が観測された時間に近い衛星画像(赤外画像)と、レーダーエコー強度図で見ると眼の北縁部分に与那国島がかかっている。

台風第21号による記録的な暴風_3


●台風の強度を示す風と気圧
今回の台風第21号では与那国島で、最大瞬間風速81.1m/sの破壊的な暴風を観測した。まさに最強台風の仲間入りするような強度であった。しかし、風は他の気象要素に比べると変動が激しい要素である。この変動に台風の構造、地形要因等のさまざまな条件が重なったとき、極端な値を示すことになるので、扱いが難しい要素と言える。同じような条件となっても、大きな観測値が記録されない場合もあるので、風の観測値だけで台風の強度を論ずることは注意が必要である。
これに対して、気圧も変動はあるが、風よりも安定した測定ができる。気圧の水平傾度の大きさ(等圧線の込み具合)によって、風の強度が推定できるので、気象庁が発表する台風情報には必ず中心気圧と最大風速、最大瞬間風速が併記される。

与那国島では台風第21号によって風の記録を更新したが、最低気圧の記録から見れば、与那国島で観測した最低気圧の第7位であった。与那国島で今回の台風より低い気圧を観測した時の最大風速と最大瞬間風速を表にしてみた。観測点で低い気圧を観測したことは勢力の強い台風が近傍を通過したことは事実であるが、風との対応は必ずしも良くなかった。

台風第21号による記録的な暴風_4


最低気圧1位、2位を記録した場合を見ると、最大風速は北よりの風の時に発現し、最大瞬間風速は南より風の時と発現している。このことは北よりの風向の時より南よりの風向の時の方が風速の変動が大きくなることを示していると言える。島の中でも別の地域ではこの条件とは異なるはずで、観測地点より強い風が吹く可能性があると見た方が良い。

即ち、気圧と風の関係にバラツキが大きいことから見て、与那国島で記録したような記録的な暴風は、これまで接近した猛烈な勢力の台風でも、起こり得たと見るべきで、今回の事例が極めてまれではなく、もっと発生頻度が高いと考えて対応すべきと思う。