2014/07/23
農業と天気のことわざ
『新農家暦2012年』に載っていた農業と天気の諺(ことわざ)を幾つか紹介します。
農業は昔からお天気次第と言われ、人々はその地域の風や雲、空の様子などから天気がどうなるのかを諺として言い伝えて、農作業などに利用してきました。まさに長年の経験から得た知恵の塊のようなものです。
今でも役立ちそうな内容が多くあります。
【夕焼けに鎌を研げ】
天気はふつう西から東に移動します。西の空が明るい夕焼けは、明日の晴れを保証するようなもの。だから、鎌を研いで草刈りや稲刈りの準備をせよ、準備が肝心という意味です。
【二百十日は農家の厄日】
二百十日は立春から210日目、平年なら9月1日、閏年なら8月31日になります。立春から二百十日は台風が多いので注意しなさいということです。暦学者渋川春海が貞享暦を編んだ際、初めて採用したと言われています。渋川が釣りに出掛けようと舟を出そうとしたところ、漁夫に「210日目の今日は大暴風雨になる可能性が高いから、舟を出すのはやめた方がよい」と注意され、実際、その通り暴風雨になったということです。そこで暦に載せ、農家の厄日に数えられるようになったというわけです。
【稲光は豊年の兆し】
昔の人は、経験的に雷があると豊作になると感じていました。そこで、雷光が稲を妊娠させると考えて、雷光のことを「稲の夫(つま)」と言うようになりました。やがて江戸時代になると、夫→妻に変化して、「稲妻」と書くようになったようです。科学的に見ると、空気の成分である窒素と酸素が放電現象である雷のエネルギーによって窒素酸化物に変化し、それが雨水によって硝酸に変化し、肥料となるということです。昔の人の観察力は凄いですね。
【日照りに不作なし】
日照りが続く年は、一部に干害はあるとしても、全体としては豊作になるということ。このところ毎年の夏は記録的な猛暑で、雨も僅かでしたが、凶作にはなりませんでした。まさに「日照りに不作なし」ってことですね。
【カッコウのかまびすしく鳴く年は豊年の兆し】
カッコウは夏鳥で、5月頃になると南の方から渡ってきます。他の鳥の巣に卵を産んで育ててもらうという習性があります。カッコウは、体温保持能力が低く、外気温や運動の有無によって体温が大きく変動してしまいます。ですから、天候が良いところに集まるわけですね。集まって鳴き声がかまびすしく聞こえる年は、天気も良好で、豊作になるということです。
【寒さが暖かいと凶作】
「寒さが暖かい」というのは、冬の寒さがいつもの年よりも暖かいという意味です。暖冬の時は病害虫が死なずに越冬してしまい、病害虫の被害が増えて凶作になるということです。また、暖冬の年は夏の気温が低くなることが多く、冷害で凶作になることもあるようです。
【厳冬はコメ豊作】
冬は冬らしく寒いと、夏もよい天候になり、豊作になるということ。上記と対をなしている諺で、冬の寒さで病害虫が死滅してしまうので、夏の被害も少なくなります。
【ダイコンの根が長い年は寒い】
ダイコンは温度に敏感な野菜です。寒い地域では細長く、暖かいところでは太くなります。寒い年には地下深く根を下ろし、暖かい年には太くなります。
【ナスの豊作はイネの豊作】
ナスはインド原産。暑いと生育が良く、逆に寒いと生育が悪くなります。また、ナスの花が咲く頃に雨が多くなると、花が落ちてしまい、実がつきません。イネもまた熱帯が原産地です。ナスがよく育って豊作になる時は、イネも豊作になるわけです。
【夏の東風は凶作】
夏の東風とは、オホーツク海高気圧から吹く風を意味します。このオホーツク海高気圧は冷たい高気圧で、ここから吹く風を「やませ」と呼んでいます。「やませ」が7月から8月にかけて北日本に東風が吹くと、気温が下がって冷害となってしまいます。
【立夏後の雨はムギを害す】
立夏は夏が始まる5月6日頃ですが、この時期は、春撒き小麦の成熟期から収穫期に当たるところが多くなります。その成熟期と収穫期に当たる時に雨が多く降ると、赤カビ病などの病害が発生しやすくなります。まさにムギを害すということになります。
〔追記〕
上記は、昔の農民が長年の経験から得た貴重な知識を諺(ことわざ)にして、後世の人に伝承したものです。今では科学的に証明できるものがほとんどですが、なるほどなぁ~…と思えるものばかりです。
考えてみると、農業って(農家の人って)、1人の人が経験している回数ってさほど多くないんですよね。例えば稲作。これは1年がかりの仕事ですから、50年やってる超ベテランの人でも栽培の経験回数はせいぜい50回。いっぽうで自然の現象はそれこそ数えきれないくらい何通りもあって、その50回の栽培の中で経験できることの割合はむしろ少ないくらいです。
なので、諺に込められている過去から伝承されてきた知恵が貴重になってくるのです。
近年、農業従事者の高齢化と、著しい若者の農業離れによって、この伝承が徐々に廃れていってしまっている…と聞きました。後継者不足だけでなく、日本の農業が昔からの自然栽培主体の農法ではなく、大量生産を目的に農薬と化学肥料を施すことによりある意味自然環境からバリアーするような農法に変わってしまったこともその一因に挙げられるのではないかと思われます。これは大きな問題です。
この諺の大部分は気象が関係している事柄であり、我々気象情報会社がなんらかの方法でその代替が出来たらいいな…と、私は思っています。
農業漁業と言った第一次産業の支援は、気象に関わる者の“一丁目一番地”なのではないか…と、今、私は考えていますから。
農業は昔からお天気次第と言われ、人々はその地域の風や雲、空の様子などから天気がどうなるのかを諺として言い伝えて、農作業などに利用してきました。まさに長年の経験から得た知恵の塊のようなものです。
今でも役立ちそうな内容が多くあります。
【夕焼けに鎌を研げ】
天気はふつう西から東に移動します。西の空が明るい夕焼けは、明日の晴れを保証するようなもの。だから、鎌を研いで草刈りや稲刈りの準備をせよ、準備が肝心という意味です。
【二百十日は農家の厄日】
二百十日は立春から210日目、平年なら9月1日、閏年なら8月31日になります。立春から二百十日は台風が多いので注意しなさいということです。暦学者渋川春海が貞享暦を編んだ際、初めて採用したと言われています。渋川が釣りに出掛けようと舟を出そうとしたところ、漁夫に「210日目の今日は大暴風雨になる可能性が高いから、舟を出すのはやめた方がよい」と注意され、実際、その通り暴風雨になったということです。そこで暦に載せ、農家の厄日に数えられるようになったというわけです。
【稲光は豊年の兆し】
昔の人は、経験的に雷があると豊作になると感じていました。そこで、雷光が稲を妊娠させると考えて、雷光のことを「稲の夫(つま)」と言うようになりました。やがて江戸時代になると、夫→妻に変化して、「稲妻」と書くようになったようです。科学的に見ると、空気の成分である窒素と酸素が放電現象である雷のエネルギーによって窒素酸化物に変化し、それが雨水によって硝酸に変化し、肥料となるということです。昔の人の観察力は凄いですね。
【日照りに不作なし】
日照りが続く年は、一部に干害はあるとしても、全体としては豊作になるということ。このところ毎年の夏は記録的な猛暑で、雨も僅かでしたが、凶作にはなりませんでした。まさに「日照りに不作なし」ってことですね。
【カッコウのかまびすしく鳴く年は豊年の兆し】
カッコウは夏鳥で、5月頃になると南の方から渡ってきます。他の鳥の巣に卵を産んで育ててもらうという習性があります。カッコウは、体温保持能力が低く、外気温や運動の有無によって体温が大きく変動してしまいます。ですから、天候が良いところに集まるわけですね。集まって鳴き声がかまびすしく聞こえる年は、天気も良好で、豊作になるということです。
【寒さが暖かいと凶作】
「寒さが暖かい」というのは、冬の寒さがいつもの年よりも暖かいという意味です。暖冬の時は病害虫が死なずに越冬してしまい、病害虫の被害が増えて凶作になるということです。また、暖冬の年は夏の気温が低くなることが多く、冷害で凶作になることもあるようです。
【厳冬はコメ豊作】
冬は冬らしく寒いと、夏もよい天候になり、豊作になるということ。上記と対をなしている諺で、冬の寒さで病害虫が死滅してしまうので、夏の被害も少なくなります。
【ダイコンの根が長い年は寒い】
ダイコンは温度に敏感な野菜です。寒い地域では細長く、暖かいところでは太くなります。寒い年には地下深く根を下ろし、暖かい年には太くなります。
【ナスの豊作はイネの豊作】
ナスはインド原産。暑いと生育が良く、逆に寒いと生育が悪くなります。また、ナスの花が咲く頃に雨が多くなると、花が落ちてしまい、実がつきません。イネもまた熱帯が原産地です。ナスがよく育って豊作になる時は、イネも豊作になるわけです。
【夏の東風は凶作】
夏の東風とは、オホーツク海高気圧から吹く風を意味します。このオホーツク海高気圧は冷たい高気圧で、ここから吹く風を「やませ」と呼んでいます。「やませ」が7月から8月にかけて北日本に東風が吹くと、気温が下がって冷害となってしまいます。
【立夏後の雨はムギを害す】
立夏は夏が始まる5月6日頃ですが、この時期は、春撒き小麦の成熟期から収穫期に当たるところが多くなります。その成熟期と収穫期に当たる時に雨が多く降ると、赤カビ病などの病害が発生しやすくなります。まさにムギを害すということになります。
〔追記〕
上記は、昔の農民が長年の経験から得た貴重な知識を諺(ことわざ)にして、後世の人に伝承したものです。今では科学的に証明できるものがほとんどですが、なるほどなぁ~…と思えるものばかりです。
考えてみると、農業って(農家の人って)、1人の人が経験している回数ってさほど多くないんですよね。例えば稲作。これは1年がかりの仕事ですから、50年やってる超ベテランの人でも栽培の経験回数はせいぜい50回。いっぽうで自然の現象はそれこそ数えきれないくらい何通りもあって、その50回の栽培の中で経験できることの割合はむしろ少ないくらいです。
なので、諺に込められている過去から伝承されてきた知恵が貴重になってくるのです。
近年、農業従事者の高齢化と、著しい若者の農業離れによって、この伝承が徐々に廃れていってしまっている…と聞きました。後継者不足だけでなく、日本の農業が昔からの自然栽培主体の農法ではなく、大量生産を目的に農薬と化学肥料を施すことによりある意味自然環境からバリアーするような農法に変わってしまったこともその一因に挙げられるのではないかと思われます。これは大きな問題です。
この諺の大部分は気象が関係している事柄であり、我々気象情報会社がなんらかの方法でその代替が出来たらいいな…と、私は思っています。
農業漁業と言った第一次産業の支援は、気象に関わる者の“一丁目一番地”なのではないか…と、今、私は考えていますから。
執筆者
株式会社ハレックス
前代表取締役社長
越智正昭
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