2015/10/02

北のカナリアたちに逢いに最北限の島へ(その4)

利尻島の地図

登山口でハレックス山の会の連中の出発を見送った後、妻と私は借りているレンタカーを使って利尻島観光をすることにしました。現在午前5時。山の会の連中が登頂を果たして登山口まで下山してくるのは、順調にいけば14時30分頃の予定なので、それまでの約9時間半は私達夫婦で自由にレンタカーを使うことができます。

利尻島は、北海道北部、日本最北の地、稚内より西、サロベツの海岸線から利尻水道を隔てて約20kmの日本海海上に浮かぶ周囲63kmのほぼ円形の島です。面積182.11平方km。日本の島嶼部で18番目に広い面積を有しています。島内には利尻富士町と利尻町の2つの自治体がありますが、漁業以外に主たる産業もなく、島の総人口は約5,400人と過疎化が進んでいます。北には礼文水道を挟み礼文島が浮かびます。

利尻の地名の語源は、アイヌ語のリー・シリ(高い島)。その名のごとく、山頂の標高1,721メートルという島にある山としては異様に高い利尻山を主体とした火山島です。利尻山が富士山と同様の円錐形をした成層火山であるため、島はほぼ円形の形をしていて、麓には美しい山裾が広がっています。島の大部分は利尻礼文サロベツ国立公園に指定されていて、豊かな自然に恵まれた風光明媚なところです。

周囲63kmの円形の島で、主要な道路は海岸線に沿った一本の道路だけなので、迷いようがなく、島内一周も容易です(なので、レンタカーにナビはついておりませんが、まったく困りません)。島内に目立った観光施設はほとんどないものの、雄大な利尻山の風景をはじめ前述のように自然の宝庫のようなところであり、映画『北のカナリアたち』のロケ地になったことからその魅力が広く世間に知られることになり、最近は、多くの旅行会社がツアーを企画して募集するなど、登山客だけでなく一般観光客にも注目の観光スポットになってきつつあります。美しい自然の風景もさることながら、ウニや昆布など、新鮮な北の海の幸の味覚がまた抜群ですからねぇ~。

とは言え、前述のように、利尻空港から新千歳空港間がANAにて、丘珠空港間が北海道エアシステムにて就航してはいますが、1日1往復ずつ。利尻空港~丘珠空港間は通年で運航されているものの、利尻空港~新千歳空港間は観光シーズンである夏期のみの季節運航となっているます。島の北側の鴛泊港(利尻富士町)と、南側の沓形港(利尻町)から、稚内及び礼文島へのフェリーが就航していますが、こちらも便数が少ないため、まだまだ訪れるのに不便なところであることにかわりはなく、観光シーズンと言ってもそれほど観光客の数は多くありません。

前述のように緯度が高いところに位置しているため、本州では2,000m以上の高山帯でしか見られない高山植物が平地から容易に見る事ができる高山植物の宝庫のようなところであり、この島にしかない固有種も多く見られます。花の旬の時期は6月下旬から8月下旬にかけてで、9月に入った今はちょっとシーズンが終わったところで、花が大好きな妻は残念がっていましたが、前日に鴛泊港の観光案内所で話を聞いたところ、島の南側にある仙法志御崎公園あたりなどではまだチシマフウロやクロユリ等の花が少し残っているようなので、まずはそこを目指すことにしました。

まだ朝食を食べてなくてお腹もすいてきたので、幾つかの商店が立ち並ぶ鴛泊のフェリーターミナルのところまで戻ってはきてみたのですが、時計を見るとまだ時刻は午前6時前。コンビニを含め商店はどこもシャッターを下ろしたままで、開いていません。田舎なので当然と言えば当然のことです。仕方なく、島を時計回りに回ってみることにしました。先ほどまで雨が降っていたのに、今はその雨もすっかりあがって、徐々に明るい青空が広がってきました。

利尻島はかつてはアイヌの人達が住む島だったので、地名は基本的にアイヌ語の地名がベースになっています。ちなみに、鴛泊(おしどまり)はアイヌ語で「オ・シ・トマリ(岬の根元にある入り江)」から来た地名とされています。鴛泊を出てしばらくクルマを走らせると「雄忠志内(おちゅうしない)」という地名表示の集落があります。いかにも…って感じの地名で、これはアイヌ語で「オチウシ(断崖)ナイ(川)」から来ているのだとか。ガイドブックを見ながら、助手席の妻が解説してくれます。

鴛泊を出てから30分ほどクルマを走らせると、もう鴛泊とは反対側の島の南側に到達しちゃいました。島の周囲は63kmしかなく、途中に信号機が1つもないので(交差するような道もありませんし…)、時速60kmほどで停まることなく走ると30分ほどで島の反対側に着いちゃいますわねぇ~。

ここには「オタトマリ沼」という利尻島観光においては絶対に外せない景勝地があります。この「オタトマリ」もアイヌ語で、「オタ(砂)トマリ(入り江)」、すなわち、砂の入り江ということです。現在は海の入り江ではなく、火山活動による地面の隆起があったためなのか、入り江の海側が陸地と化して、大きな沼(湖)になっています。このオタトマリ沼は日本最北限の赤エゾマツの原生林に囲まれた静かな湖なのですが、海辺から近いところに位置していることも関係しているのか、どことなく風景が明るく、秀峰利尻山を背景に広々とした雰囲気の雄大な景色が楽しめる場所となっています。湖畔には散策路が整備され、爽やかな水辺や季節の花といった自然を満喫することができるようになっているほか、活ウニを寿司で食べられる売店等もあります。

オタトマリ沼1

利尻島の周回道路からはどこからも秀峰利尻山の姿が見えるのですが、円錐形の成層火山とはいえ、利尻山は見る角度を変えてみることで、実に様々な様相を呈してくれます。利尻空港やベースキャンプとしたキャンプ場のある鴛泊あたりの北側から見える利尻山は優しい感じがするなだらかな山の姿をしているのですが、南側はそれとは一変。崩落を繰り返したのであろう荒々しい山肌が現れ、まるでヨーロッパのアルプスの山のような感じです。北側の山肌は低い森林限界の上はほとんどクマザサと思われる低い低木に覆われて、一面薄い緑色をしているのですが、南側の山肌は崩落により黒い火山岩の岩場が剥き出しになっている高い絶壁のようなところが多く見られます。北側が女性的で、南側が男性的とでも表現すればよろしいでしょうか。こりゃあ南側からの登山ルートがない筈です。このように、利尻島観光においては、見る角度によって様々に印象が変わる利尻山の姿自体が貴重な観光資源になっているのですが、南側からの利尻山の姿を堪能できる絶好の場所がこのオタトマリ沼なのです。

クルマを駐車場に停めて、改めて(落ち着いて)オタトマリ沼からの利尻山の風景を眺めてみたのですが、澄みきった濃い青空をバックに優美な姿を見せる利尻山のあまりの素晴らしさ(山の形の美しさ)に、思わず息を飲みそうになりました。しかも、風の向きが変わる早朝のこの一瞬の時間帯は風もほとんどなく、沼の湖面はほとんどと言っていいくらいに波がなく(乱れがなく)、鏡のように穏やかです。時折一匹のカモ(鴨)がゆっくりと泳いでいくのですが、カモが泳いでいった時に湖面にスゥ~っと微かな波紋が立って乱れるくらいで(それが邪魔に感じられるくらいに滑らかな湖面です)、湖面には利尻山がいわゆる“逆さ富士”のようにクッキリと映っていました。利尻山は利尻富士とも呼ばれているので、まさに“逆さ富士”そのものです。この光景を見ながら、無理をして早朝のこの時間にこの場所に来て、本当によかったと思いました。

オタトマリ沼2

利尻山のほとんど山頂に近い九合目付近までは雲がかかってなくて、先ほどの雨で空気中の埃も洗い流されたのか、山がはっきりくっきりと見えるのですが、残念なことに九合目あたりから上の山頂付近にだけは、濃い小さな雲にしっかりと覆われています。なので、せっかくの“逆さ富士”も、「う~ん、惜しい! 残念!」てな感じになっています。そのうち山頂を覆う邪魔な白い雲もはれるのではないか…と期待しながら30分ほど利尻山とオタトマリ沼の湖面を見つめながら待ち続けていたのですが、雲は流れてはいるのですが、山頂付近で次から次へと白い雲が湧いてくる感じで、いつまで待っても山頂がその顔を出してきません。そのうちに風が出てきて、湖面全体に微かな波紋が立つようになってきたので、綺麗な“逆さ富士”を拝むのは諦めることにしました。

それにしても、九合目あたりまでは見事なまでに晴れています。きっと山の会の連中も、気持ちよく山頂を目指して利尻山を登っていることと思います。彼等が山頂に到着する午前10時前後に、山頂の雲が晴れていることを祈るばかりです。

執筆者

株式会社ハレックス前代表取締役社長 越智正昭

株式会社ハレックス
前代表取締役社長

越智正昭

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