2016/06/06

産地マニア(その1)

私は以前からスーパーマーケットで農産物や魚介類の産地表示を見るのを秘かな楽しみにしていたのですが、農業に興味を持つようになって、さらにその楽しみに拍車がかかってきた感じです。

野菜は大きく分けて葉物野菜と根菜類、花菜類、茎菜類、果菜類、さらには主食にも分類される穀類、芋類、豆類に分けられます。このうち葉物野菜とは、青梗菜やキャベツ、白菜など、文字通り葉っぱの部分を食べる野菜のことで、葉物野菜は含まれる水分も多く、買ってから(正確には収穫してから)すぐに萎れてしまうので、鮮度を保つのが最も重要となります。なので産地を見ても地元埼玉県をはじめ近隣県産の野菜がほとんどですね。カリフラワーやブロッコリーといった花菜類も似たようなところがありますが、もうちょっと遠方からも来ている感じ。いっぽう、ダイコンやニンジン、ゴボウといった根菜類や、アスバラガスやタマネギといった茎菜類、キュウリやナス、カボチャといった果菜類、穀類や芋類、豆類は比較的日保ちがいいので、北海道をはじめかなりの遠方から運ばれてきています。

カレーライスは旧大日本帝国海軍の艦内食として生まれたものですが、使われている主な野菜がジャガイモにタマネギにニンジン。どれも日保ちがいい野菜なので、長い間航海をする海軍での艦内食としては最適だったのでしょうね。そのジャガイモ、タマネギ、ニンジンなら北海道…とたいていは野菜毎に定番の産地というものがあるのですが、意外な産地のものを目にしたりして、結構楽しいです。意外な産地のものはたいてい新しい品種のもので、なんとか定番産地と差別化しようという意気込みが感じられます。苦心の跡が感じられて、頑張れ!って気分になりますね。

ショウガやミョウガといった茎菜類で頑張っているのが四国の高知県。高知県と言えばシシトウやナス、ピーマンのハウス栽培のイメージが強いのですが、最近は首都圏から遠いという地理的な不利を日保ちの良い茎菜類の栽培で補っているのでしょう。この時期のミョウガはほぼ100%が高知県産。おそらくミョウガもハウス栽培なのでしょうね。

一度でも訪れたことのある土地だと、栽培している様子や収穫の様子も頭の中でイメージできたりもします。で、やはりどうしても私の故郷・愛媛県の産物のことが気になります。

愛媛県と言えば柑橘類。愛媛県産の柑橘類で全国シェア第1位を誇っている種類は「イヨカン(伊予柑)」、「ポンカン」、「キヨミ(清見)」、「カワチバンカン(河内晩柑)」、「セトカ(せとか)」などがあります。愛媛県のイヨカン(伊予柑)の出荷量は約4万6,076トンで日本全国の約91.1%のシェアを誇ります。ポンカンの出荷量は約1万1,650トンで約38.8%、キヨミ(清見)の出荷量は約7,400トンで約24.8%…と、このあたりは愛媛県産が群を抜いて多く、首都圏のスーパーマーケットでも他の産地のものはほとんど見かけません。

ですが、それ以外の柑橘類はと言うと、他県に出荷量で若干負けています。どれも2位か3位には入っていて、総合力として愛媛県は「日本随一の柑橘類の生産地」と言うことはできるのですが、残念ながら各品種のトップの座は他県に譲っています。と言うか、他県は愛媛県との正面切っての勝負を避けて、一品狙いに来ているような感じさえします。

ミカンの代名詞である温州ミカンのシェア第1位は和歌山県。出荷量は約16万2,600トンで全体の約19.21%が和歌山県産です。愛媛県は残念ながら出荷量12万9,900トン、シェア15.35%で第2位です。ちなみに第3位は静岡県です。愛媛県は温州ミカンが生産過多で値崩れしたため、温州ミカンから他の品種に切り替えたのだそうです(柑橘類は接ぎ木により品種の切り替えが可能ですから)。大消費地である関西地方に位置する和歌山県や、首都圏に近い静岡県と比べ、両消費地との間で距離のある愛媛県は輸送コストの面でも不利ですからね。

和歌山県が出荷量第1位の柑橘類はもう一つあってハッサク。反対にその名も紀州ミカン(小ミカン)は鹿児島県が第1位で、紀州和歌山県では現在生産されていません。妻の故郷は鹿児島県の大隅半島にある志布志。その大隅半島で多く作られているのがその紀州ミカン(小ミカン)で、季節になると毎年親戚から送られてきます。サイズはかなり小振りで見た目も最近出てきた品種と比べるとイマイチなのですが、糖度は高く、昔懐かしい感じの味がします。最近は首都圏ではほとんど目にすることはありませんが、妻に言わせると、鹿児島でミカンと言うと、この紀州ミカン(小ミカン)のことだそうです。

ナツミカンの出荷量第1位は熊本県、キンカンは宮崎県、タンカンは鹿児島県、ブンタンは高知県、レモンとネーブルオレンジは広島県が国内出荷量第1位です。また、焼き魚や鍋物に付き物の柑橘類では、スダチが徳島県、ユズが高知県、カボスは大分県が出荷量第1位です。(我が家では小さなビンに入った高知県馬路村産のユズの酢を通信販売で購入して、愛用しています。)

柑橘類が広く市場に出回るシーズンになると、私も近くの大型スーパーマーケットの柑橘類売り場等でいろいろと産地調査をしているのですが、種別ごとにやはり出荷量第1位の産地からのものがほとんどでしたね。このあたり、もう完全にブランド化してしまっている感じがします。

グレープフルーツやバレンシアオレンジ、ネーブルオレンジ等の海外(主にアメリカ)からの輸入物も棚に並んでいますが、価格は安いものの、国内産が豊富に並ぶ時期は、やはり国内産の柑橘が主流です。しばらく眺めていても、売れ筋はやはり国内産柑橘類のようです。

ちなみに我が家では私の実家から箱で送られてくるイヨカンやポンカン、妻の親戚から同じく箱で送られてくるタンカン等が何箱も並ぶので、柑橘類をスーパーマーケットで購入することはまずありません(^^; 箱で送られてきたイヨカンやタンカンが底をつくと、あ~今年も柑橘類のシーズンは終わったな~…って気分になります。(本音を言うと、他の柑橘類も味わってみたいのですが…)

海外産も加えたこの激烈な市場競争に打ち勝つため、最近は愛媛県も糖度の高い新品種を次々と開発して市場に投入しているようです。まだまだ生産量が限られているので一般のスーパーマーケットなどでは販売されていませんが、甘平(カンペイ)、愛南ゴールド、紅マドンナなどは1個500円以上の贈答用の高級果物として首都圏でも販売され始めているようです。

『果物ナビ』という面白いサイトがあって、果物に関してのいろいろな情報が載っています。
  (果物ナビ

この中でも、「果物統計」というページには「国内栽培面積の比較」やら「都道府県ランキング」やらいろいろと情報があって、見ていて飽きません。
  (果物統計

同じく野菜に関しても『野菜ナビ』というサイトがあって、ここにも「野菜統計」というページがあります。
  (野菜ナビ
  (野菜統計

このサイトは果物ナビ以上に楽しいです。ふだん何気なく食べている野菜でも、知らないことがいっぱいあります。また、各地方の農家の皆さんが戦略的に農業経営している様子も見てとれます。しばらくこのサイトにはまりそうです。


【追記】
日本では冬の野菜として好まれ、多く栽培・利用されているアブラナ科の白菜(ハクサイ)。今でこそ白菜は日本料理の代表的な食材として鍋物や漬物等で多用されていますが、日本で結球種の白菜が広く食べられるようになったのは、なんと20世紀に入ってからのことなのです。白菜の原産地は実は地中海沿岸地方で、原種は結球しない形の緑色の大きな葉をした植物でした。それが、中国に伝搬された以降、白菜として発達していったのだそうで、7世紀頃に中国北部で最初の白菜の形が誕生したと考えられています。最初は丸くならない不結球型で、長い試行錯誤の結果、16~18世紀頃になってやっと、今のように結球するように品種に改良されたといわれています。

日本に白菜が渡来したのは江戸時代の末期で、本格的に栽培が行われるようになったのは日清・日露戦争の後ぐらいからだといわれています。しかし当初は結球させるのが極めて難しく、何度も試行錯誤を繰り返したようです。このように、白菜って、実は歴史としてはさほど古い野菜ではないのですね。

ちなみに、朝鮮半島に白菜が持ち込まれたのは、伊藤博文が韓国統監府長官を務めていた1909年のことで、10年余りの研究の末に朝鮮半島での栽培法が確立され、朝鮮総督府によって朝鮮半島全土に普及したのだそうです (寒冷地に適した葉物野菜として持ち込まれたようです。他に栽培できるめぼしい葉物野菜がなかったことから、瞬く間に全土に普及したようです)。この普及と同時に白菜キムチも生まれる事になったとあります。と言うことは、朝鮮半島の人が好んで食べて、今では朝鮮料理の代表のように思われている白菜キムチって、実は20世紀に入ってから作られるようになった新しい食べ物で、歴史的にはたかだか100年ほどの歴史しかない、さほど古い食べ物ではないってことなんですね。

それと、キムチに大量に使用されるトウガラシ。このトウガラシは中南米が原産で、メキシコでは紀元前6500~5000年頃にはすでに食用とされていました。コロンブスによるアメリカ大陸発見後にヨーロッパへ伝わり、のちにインド、中国へ伝播。諸説ありますが、日本へは16世紀頃にポルトガル人宣教師によって鉄砲と同時に渡来したといわれています。ちなみに、トウガラシは「唐辛子」と書きますが、中国の唐から来たという意味ではありません。トウガラシが中国に伝播したのは日本よりも遅いという説が有力ですから。従って、この場合の「唐」というのは「外国」という意味で、要するに外国からやってきた「からし」という意味です(そう言えば、中華料理ではそれほどトウガラシは使いませんよね)。と言うことで、トウガラシも歴史的にはさほど古いものではないってことです。

で、トウガラシがいつ頃朝鮮半島に伝播されたかについてですが、17世紀初頭に書かれた朝鮮半島の記録には「日本から伝わったので、“倭芥子(にほんのからし)”と呼ぶ」と、トウガラシの伝播についての記載が残されているそうです。朝鮮半島でトウガラシの栽培の記録が見られるようになるのは18世紀初め。キムチ(のような漬物)やコチュジャンの作り方が文献に初めて出てくるのが18世紀の終わり頃のことで、今日のようなトウガラシを多用したメチャメチャ辛い料理が好まれる朝鮮半島へと変遷するのは、18世紀末~19世紀初めにかけてのことだったとみられています。余談ですが、韓国人のトウガラシの消費量は、1人あたり年間約4kgだと言われています。辛そう〜(*_*)

皆さん、ご存知でしたでしょうか?

現在、朝鮮半島にある2つの国は、どちらもキムチを国連教育科学文化機関(UNESCO)の世界文化遺産に選ばれる候補リストに登録したという報道があります。UNESCOは既に韓国のキムジャン(冬にキムチを漬け込む行事)を無形文化遺産として指定しているということですが、上記のような白菜やトウガラシ伝播の歴史的事実を十分に知ったうえでのことなんでしょうねぇ〜。なら、よろしいのですが‥‥。

だったら、もっと歴史のある我等が『讃岐うどん』も、UNESCOの世界文化遺産の候補リストに十分登録できる資格ありってことですよね(^。^)

執筆者

株式会社ハレックス前代表取締役社長 越智正昭

株式会社ハレックス
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越智正昭

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