2016/07/15
晴れ男のレジェンド
7月8日、中心気圧900hPaという猛烈な勢力の台風1号が台湾を直撃しました。たまたまですが、ちょうどその日、私は台湾の首都台北に出張していて、現地でその台風1号の直撃を体験しました。
今年はなかなか台風が発生しなかったのですが、7月3日午前9時(日本時間)にカロリン諸島付近で今年に入って最初の台風1号が発生しました。台風1号はその後勢力を強めながら西北西方向に移動し、私が出張に出た7月6日の時点では、台風1号はおそらく8日の未明には台湾に極めて接近、あるいは上陸するだろうということは概ね分かっていました。その勢力は6日の段階で中心気圧900hPaという猛烈なものでした。気象庁発表の予想進路を見ると、6日の段階では8日の未明に台湾のすぐ北の海域を通過するコースをとるとの予想が出されていて、数値予報モデル(GSM全球モデル)を見ても台湾の南部に上陸って予想になっていたので、おそらく出張中に台風1号の直撃は避けられないな‥‥と思っていました。このように台風の直撃を受けることは予め分かっていたのですが、かねてより予定していた出張であり、また、たいへん不謹慎なことではありますが、緯度の低いところで中心気圧900hPaという猛烈な勢力の台風の直撃を受ける経験ってなかなかできることではないので、「よしっ! 計画通りに台北に出張しちゃおう!」ってことにしたのでした。(10日投開票の参議院議員選挙の期日前投票を済ませていなかったので、9日中に帰国できるかどうかが心配でしたが‥‥。)
6日の羽田空港発台北松山空港行きは極めて快適なフライトでした。この日の飛行ルート上の天候は概ね晴れで、眼下の景色が楽しめました。下の写真は鹿児島県の薩摩半島と大隅半島、そして錦江湾です。
午後4時過ぎ(現地時間)に台北松山空港に着陸したのですが、空港ターミナルビルから一歩外に出ると、南方のギラギラした太陽が照り付け、その暑さで一瞬息が詰まるほどでした。おまけに異常に湿度が高く、まるでミストサウナの中にいるような感じです。この時期に台湾に来るのは初めてのことなので、台湾の夏ってこんな感じなのでしょうね。
その日の夜は現地のIT企業の会長や社長といった幹部の皆様からお招きを受けて会食をさせていただいたのですが、その席でも台風1号のことが話題に上がり、「8日は台風1号の直撃を受ける筈だから、予定を繰り上げて、打ち合わせは7日中に全てやってしまい、8日はフリーにしよう」ってことになりました。どうも台北市政府のほうから8日は台風の直撃を受けるから、企業も学校も1日休業にすることを考えておくように‥‥という通達が既に流れているようなことをおっしゃっていました。さすがは台湾。台風慣れしているというか、準備が早いです。ちなみに、この日の会食も翌7日だと台風の接近で大荒れになっているだろう‥との予測で、急遽1日繰り上げて開催されたものでした。
ホテルに戻って台風の予想進路を確認すると、台風1号は少しコースを南寄りに変え、台湾南部に上陸する前日までの数値予報モデル(GSM全球モデル)の結果とほぼ同じようなコースに変わっています。移動速度も25km/時から15km/時と少し遅くなっています。ほぼこのコースで間違いはないでしょうか。このコースを通った場合、台北は台風の進路の北側にあたり、しかも暴風圏にかかるので、8日の台北は大変な暴風雨に見舞われるのではないか‥‥と、その時は勝手に想像していました。よしっ! 8日は1日中安全なホテルの中にいて、中心気圧900hPaという猛烈な勢力の台風の通過の様子をしっかり見届けよう‥‥と。ちなみに、私は台風1号が通過する翌日の9日(土)に帰国する予定だったのですが、万が一の事を考えて、ホテルには延泊の仮予約をしておきました。
翌7日も朝からよく晴れて、真夏の太陽が照り付け、息が詰まるほどの蒸し暑さでした。朝の段階では、空を見上げてもほとんど雲はありません。風もほとんど無風。本当に猛烈な勢力をもった台風が接近しているのか?‥‥って感じの朝でした。よく晴れてはいましたが、台風が徐々に接近してきているので、午後からは天気が崩れ、雨も降り出すのではないか‥‥という予想から、いちおうホテルで傘を借りていきました。
ちなみに、日本の気象庁の観測によると、台風1号は猛烈な勢力にまで発達し、7日午前9時には沖縄の南の海上を1時間に25キロ/時の速さで西北西へ進んでいます。中心の気圧は900hPaと3年前の平成25年、フィリピンに甚大な被害をもたらした台風30号に匹敵する強さにまで発達し、中心付近の最大風速は60メートル/秒、最大瞬間風速は85メートル/秒で、中心から半径170km以内は風速25メートル/秒以上の暴風が吹いているとのことでした。台風は猛烈な勢力を保ったまま翌8日未明に台湾中部に上陸すると予想が流れていて、台北もかなりの影響を受けると予想されました。
打ち合わせの最中も私は窓から外、それも空の変化を時々眺めていました。朝9時の段階ではよく晴れて、空には雲もほとんどなかったのですが、正午に近づくにつれ、徐々に雲の量が多くなっていきました。その上空の雲が凄い勢いで移動しています。午前中、北から南の方向に移動していたのが、午後になって北東から南西方向へ、さらには東から西の方向に移動の方向が変わってきているようにも見受けられます。台風の中心が徐々に台湾に近づいているせいでしょうか。14時(日本時間15時)を過ぎる頃になると、徐々に黒い雲に覆われる部分が増えてきました。ただ、雨は時折パラつく程度で、逆に時折晴れ間すら覗く妙な天気です。相変わらず、積乱雲を含む雲が物凄い勢いで上空を通り過ぎていきます。台風が接近している時の空って、こういう感じのことが多いですよね。ただ、地上付近は微風のままで、上空だけがやたら風が強い感じです。
台風が接近してくる影響は、夕方から徐々に出てくるだろうという推測で、早々に打ち合わせを終了し、ホテルに戻りました。ただ、同様に仕事を早めに切り上げて帰宅する人が多かったせいか、なかなかタクシーがつかまらず、また道路がいつも以上に渋滞してホテルまで時間がかかってしまいました。夕食も一緒に行った日本人だけでホテルの近くで摂り、早々に部屋に引き上げて、台風の襲来を待ち受けることにしました。前述のように、緯度の低いところで中心気圧900hPaという猛烈な勢力の台風の直撃を受ける経験なんてなかなかできることではないので、不謹慎ではありますが、それを楽しみたいという思いでした。
私達が夕食を摂っている間、少し雨がパラついたようで、路面が濡れていますが、たいしたことはありません。風もほとんど無風で、前日同様、メチャメチャ蒸し暑い夜になりました。
今年(2016年)はなかなか台風が発生せず、台風1号の発生は前述のように7月3日になりました。これは統計を取り始めた1951年以降で2番目に遅い記録です。ちなみに最も遅かったのは1998年7月9日。7月に台風1号が発生するのは実はかなり少なくて、1951年以降で3回しかありません。今年はそれだけ珍しい年ということです。昨年(2015年)は史上最大級規模のエルニーニョ現象が話題になった年でしたが、今年(2016年)はそのエルニーニョ現象が終息しラニーニャ現象に移り変わる年だと言われていました。実は1998年も前年のエルニーニョ現象からラニーニャ現象に移った年でした。一般的にラニーニャ現象が起きる年は台風1号の発生が遅くなると言われているようですが、まさにその通りになりました。
部屋に入って夜中までテレビで地元台湾の放送局のニュースを観ていたのですが、台北市内はこれほどまでに穏やかなのですが、台風1号は台湾南東部に猛烈な雨と風をもたらしているようです。中国語(台湾語)での放送なので、内容は正しくは解かりませんが、字幕の漢字から推察すると、東部の花蓮県では降り始めから10時間のうちに500ミリを超える降水があり、また、南東部の離島の蘭嶼島では、午前2時45分(日本時間午前3時45分)頃に71.3メートルの最大瞬間風速を観測しました。また東部では、1時間に90ミリ以上の猛烈な雨が降っているところがあるということです。花蓮県では強風に吹き飛ばされた男性1人が海に落ちて死亡した(たぶん)というニュースも流れていました。台湾は、世界的に見てもとりわけ山々が密集した地域であり、また人口密度が高いので、世界的にも最も災害が発生しやすい国の1つです。予想される総雨量は800ミリ以上に及ぶ模様で、今後さらに被害が拡大する恐れがあるとの報道が流れています。
台風1号は翌8日午前5時50分(日本時間午前6時50分)、台湾南東部の台東県太麻里付近に上陸しました。台湾中央気象局によりますと、勢力は強烈から中度に弱まったのですが、依然として台湾全土で大雨や強風の恐れがあり、引き続き注意が必要とのことでした。最大風速は台湾東部の離島の蘭嶼で60メートル/秒以上、台東で56メートル/秒以上を観測。台東では台風の影響で、8日午前11時までに69人が怪我をして病院に搬送されたという報道も流れていました。8日午前0時から午前11時50分までの各地の降水量は、花蓮県六十石山524.0ミリ、台東県電光408.0ミリ、花蓮県玉里397.5ミリなどと報道されています。嘉義以南と花蓮、台東では24時間降水量が500ミリ以上に達すると予想されていました。
地元テレビ局では気象予報士が今後の台風の進路予想に関して解説しています。
ちなみに、テレビの画面で「強颱尼伯徳」と書かれているのは「強い台風ニパルタク(Nepartak)」という意味です(漢字表記)。“ニパルタク”は今回の2016年台風1号の名称です。
台風の名称は、日本では毎年1月1日以後、最も早く発生した台風を第1号とし、以後台風の発生順に番号(数字)をつけています。いっぽう米国では、従来から、台風を含む熱帯低気圧に対して固有の英語名称(人名)を付けていました。これに倣って、北西太平洋または南シナ海で発生する台風防災に関する各国の政府間組織である「台風委員会(日本ほか14ヶ国等が加盟)」でも、各国共通の固有の名称で呼ぶように決定がなされ、平成12年(2000年)から北西太平洋または南シナ海の領域で発生する台風には同領域内で用いられている固有の名前(加盟国などが提案した名前)を付けることになり、カンボジアで「象」を意味する「ダムレイ」以下、140個の名前があらかじめ用意され、発生順にそのあらかじめ用意された名称を順番につけていくという運用がなされています。あらかじめ用意された140個の名前が使い終わると、その後再び先頭の「ダムレイ」に戻って順次名前が付けられていくというルールです。台風の年間発生数の平年値は25.6個ですので、おおむね5年間で台風の名前が一巡するということになります。
で、今回の2016年台風第1号にはネパルタク(Nepartak)という名称が付けられています。この“ネパルタク”とは、ミクロネシアの有名な戦士の名前なのだそうです。その漢字での表記が“尼伯徳”というわけです。
8日朝のホテルの前の道路の様子です。台北はまだ静かなものです。
ホテルの正面のガラスは割れた時の飛散防止のためか、ガムテープが×印で貼られています。見ると、通りに並ぶ店舗のガラスもシャッターで覆われているところ以外は、たいてい同じようにガムテープが×印に貼られています。いつもの平日ならこの時間帯、通勤通学のラッシュで、多くのクルマや台北名物のバイクの一団で大変に賑わうホテルの前の道路も、クルマやバイクは1台も走っていません。歩道を歩く人の姿もひとっこひとりいません。まったく静かなものです。おそらく、ほとんどの企業や学校が昨日(7日)のうちに休業を決めた結果なのでしょう。このあたり、台湾の人は台風慣れをしているのかもしれません。ちなみに8日朝の台北市内は風もほとんどなく、雨も降っていません。一瞬ですが雲の合間から青空が覗いたくらいです。穏やかなものです。ホテルのロビーでは日本人観光客や、今日の予定がなくなった出張に来ているビジネスマンでごった返しています。今日の予定をどうするか、コンシェルジュに相談しているのですが、主な観光地やほとんどの商店はどこも閉じているようです。
この台風の影響でしょう、日本列島にも南から湿った空気が大量に流れ込んでいる影響で、西日本で大気の状態が不安定になり、特に鹿児島県では局地的に1時間に80ミリを超える猛烈な雨が降っているようです。九州では、これから夕方にかけて局地的に猛烈な雨が降るおそれがあり、気象庁は、土砂災害や川の増水・氾濫などに警戒するよう呼びかけています。私にはむしろそちらのほうが心配になります。
8日午後0時(日本時間午後1時)現在、台風は南部・高雄の北約50kmにあって、時速12km/時キロで北西に進んでいて、中心気圧は945hPa、中心付近の最大風速は43メートル/秒。新竹や宜蘭より南の地域および離島・澎湖が暴風域に入っていました。勢力が弱まったとはいえ、まだまだ中心気圧は945hPa。とんでもなく強い勢力の台風です。私も現地のテレビニュースでその様子を観ていましたが、とにかく凄まじい光景でした。台湾東部では各地で家屋の浸水、崩壊、山崩れなどが起きているようです。避難している人が1万5千人、停電は25万5000世帯。交通機関も一部の空の便に欠航や遅れが出ているほか、台北と南部の都市、高雄を結ぶ高速鉄道が終日運休を決めるなど、交通機関への影響が今後も続く見通しというような報道が流れていました。
YouTubeにAFPが報道した台風1号の台湾上陸の際の映像がアップされています。こちらでその凄まじさをご覧ください。
AFP BB News
台風の中心は午後2時30分に台湾本島を抜けました。中央災害対策センターが8日午後4時に発表した統計によると、7日夕方から8日にかけて台湾を直撃した台風1号により、3人が死亡、142人が負傷したようです。特に大きな被害が出ているのは東部と南部。倒木や看板落下、損壊などは計1,836件確認され、停電は50万戸以上に上ったのだそうです。死者が出たのは花蓮県と連江県、台東県で各1人。台湾電力によると、停電は17県市におよび、屏東県では16万3,582戸、高雄市は14万1,548戸に上ったようです。台風の中心付近が通過した台東県では、8日午前2時(現地時間)頃から強風や大雨に襲われ、ビルの高層部では揺れを感じられるほどだったそうです。また、台東市内には、強風で飛ばされたトタン屋根や窓、ガラスなどが散乱し、車が100メートルほど飛ばされる被害もあったそうです。
いっぽう、台北市内は時折霧雨のような雨は降りましたが、風も微風で全然穏やかな一日でした。穏やかではあったのですが、前述のように主要な観光地もほとんどの商店も開いていないので、どこにも行くことができません。ヒマを持て余して出掛けて行った日本人観光客達も「参った参った、買い物に行ったんだけどどこも開いてないよ」と言いながら、ホテルに戻って来ました。私もホテルの周辺を散歩したのですが、確かにどの商店も「close」の看板が掛けられて、閉まっています。昼食もホテル近くで唯一店を開けていたモスバーガーでハンバーガーを食べたくらいでした。それにしても街中をウロウロと散歩しているのは近隣のホテルに宿泊している日本人くらいのものです。現地の台湾の方の姿はほとんど見掛けません。街中、ゴーストタウンになってしまったかのように人の姿がありません。クルマやバイクも通りませんし、風の音もしないので、静かなものです。不気味ささえ感じてしまうほどでした。おそらく気象当局や台北市政府が出した厳重警戒勧告を受けて、人々は自宅等の安全な場所で台風が通り過ぎるのをジッと待っているのではないか‥‥と推測します。「台風慣れ」しているというか、国民性の違いを実感します。
結局、台北市はこの日は一日中こんな感じで、拍子抜けしてしまうくらいに穏やかなものでした。日本各地と台北(松山空港&桃園空港)を結ぶ航空路も最大で5時間ほどの遅れは出たものの、欠航した便は1便もなく、この日ホテルをチェックアウトなさった日本人観光客の皆さんも、無事に日本に帰国できたようです。
いっぽうで、前述のように台湾の南東部では深刻な被害が出たようです。テレビのニュースではおそらく強風に煽られて横倒しになった貨物列車の貨車や大型トラック、さらには駐車中の乗用車が勝手に横に滑るように動いている様子を映し出していました。1トン以上もある乗用車が強風で横に滑るように動くなんて、考えられません。想像を絶するような強風が吹いたってことです。
夜、地元のテレビニュースでは、この台風1号で厳重警戒指示(?)を出したにもかかわらず、台北では何事もなく平穏だったことを受けて、台北市長と台湾の気象当局の責任者と思しき方が釈明の(?)記者会見を行っている様子を流していました。中国語なので何を言っているのか分かりませんが、表情や身振り手振りから推察するに、台北市長は「台北市は運が良かっただけだ。何事なくよかったじゃないか」ということを言っている感じに受け取りました。
台湾の気象当局の方の説明では、どうも台湾本島を背骨のように縦断する高い山々が台風の進路を遮り、台風の進路を南寄りに変更させ、また、暴風雨もその高い山々に遮られて台湾島の西側にはほとんど影響を与えなかったというようなことを説明しているようでした。地図上に各地の降り始めからの累積雨量を示すグラフを描いた図を示していましたが、台湾島の東側と西側で極端に雨量が異なる様子が見て取れます。
CNN(台湾版?)ではその様子を地形のCG画像を用いて模式的に説明していました。これがとっても分かりやすい。なるほどぉ~。
台湾島は太平洋西部に位置する島国で、全島面積は35,915平方kmと日本の九州とほぼ同じくらいの面積で、南北に長く東西が狭い形状となっています。地勢は東高西低であり、地形は山地、丘陵地、盆地、台地、平野により構成されますが、山地と丘陵地が全島面積の2/3を占めている山岳中心の地形になっています。台湾島の中央部には東から海岸山脈、雪山山脈(最高峰は標高3,886mの雪山)、中央山脈(最高峰は標高3,825m の秀姑巒山)、玉山山脈(最高峰は標高3,952m の玉山)、阿里山山脈(最高峰は標高2,663mの大塔山)とそれぞれ称される5つの山脈が連なっています。いずれの山脈も険峻であり、標高3,000mを越える高山も数多く存在します。その中で蘇澳より鵝鑾鼻を貫く中央山脈は台湾の背骨とも称され、東西を流れる河川の分水嶺となっています。玉山山脈の玉山の日本統治時代の名称は「新高山」。標高は3,952mで、台湾の最高峰となっていますが、日本統治時代、この新高山が日本最高峰の山でした(富士山は3,776m)。台湾には山頂の標高が3,000メートルを超える山がなんと100座以上もあるそうです。
それら3,000メートルを超える高い山々が、富士山のような独立峰ではなく、北アルプスや中央アルプス、南アルプスのように屏風のように連続して、しかもそれらが幾重にも連なって聳えているわけです(おまけに、北アルプスや中央アルプス、南アルプスの山々より高い)。そりゃあこの高い山脈に遮られると台風だって進路を変えるでしょうし、山脈の東西で気象はまるで異なってくる筈です。
まさに『世の中の最底辺のインフラは地形と気象!』です。
ここ台湾でも、改めてこの言葉を実感しちゃいました。あわせて、台湾(中華民国)の首都が台湾島の北の端から少し内陸に入った台北市に置かれていることの意味も分かったような気がします。緯度が低いところに位置する台湾は毎年のように大型の台風の襲来に見舞われるのですが、台北なら背後の高い山々に守られているので、大きな被害を受けなくて済みます。仮に台風が台湾島の北の東シナ海を進んだとしても、その時は台風の進路の左側(西側)になるため、同じく大きな被害は受けなくて済みますから。なるほどぉ~って思っちゃいました。そう言えば、台北に限らず台中や台南、高雄といった台湾の主要都市は全て台湾島の西海岸にあり、東海岸には大きな都市はありません。
緯度の低いところで中心気圧900hPaの猛烈な勢力の台風の直撃を受ける‥‥、その“不謹慎な”楽しみは完全に肩透かしを食ってしまいましたが、翌9日、無事に日本に帰国することができました(機材繰りの関係で、飛行機が2時間ほど遅れましたが‥‥)。私はかねてより“晴れ男”を自認していましたが、さすがに今回だけは中心気圧900hPaの猛烈な勢力の台風が相手ということで、その“晴れ男”も通用しないと思っていました。しかし、台北に滞在中、ただの一度も傘を利用したことはありませんでした。
飛行機が台北松山空港を出発した際、「目的地東京羽田空港の天気は雨、気温は摂氏◯◯度です」というCAのよる機内アナウンスがあったのですが、実際に羽田空港に到着してみると滑走路の路面は濡れているので確かに雨が降っていた痕跡は残っているものの、既に雨はあがっていて、西の空に沈みつつある夕陽が綺麗に見えました。もうここまで来ると、私の“晴れ男”も『レジェンド』と呼んでいいくらいにまでなりつつあります。自分でも正直怖いくらいです(笑)
【追記】
台北では台風1号が接近しつつあった7日午後10時頃(日本時間午後11時頃)、市内中心部にある松山駅のホームに到着直前の電車で突然爆発が起き、乗客など25人が火傷などの怪我をして、病院で手当てを受けたという事件が起きました。松山というと台北松山空港のあるところで、私が泊まったホテルからはさほど離れてはいません。車内の座席の上に置かれていた黒いリュックサックの中から長さ15cm程度の爆発物が見つかったそうで、「台湾でもテロが起きたのか!?」…と大騒ぎになったのですが、どうも乗客の1人が乗客を巻き添えに自殺を図ったようだとの報道が9日の朝のテレビニュースで流れていました。物騒なことです。
今年はなかなか台風が発生しなかったのですが、7月3日午前9時(日本時間)にカロリン諸島付近で今年に入って最初の台風1号が発生しました。台風1号はその後勢力を強めながら西北西方向に移動し、私が出張に出た7月6日の時点では、台風1号はおそらく8日の未明には台湾に極めて接近、あるいは上陸するだろうということは概ね分かっていました。その勢力は6日の段階で中心気圧900hPaという猛烈なものでした。気象庁発表の予想進路を見ると、6日の段階では8日の未明に台湾のすぐ北の海域を通過するコースをとるとの予想が出されていて、数値予報モデル(GSM全球モデル)を見ても台湾の南部に上陸って予想になっていたので、おそらく出張中に台風1号の直撃は避けられないな‥‥と思っていました。このように台風の直撃を受けることは予め分かっていたのですが、かねてより予定していた出張であり、また、たいへん不謹慎なことではありますが、緯度の低いところで中心気圧900hPaという猛烈な勢力の台風の直撃を受ける経験ってなかなかできることではないので、「よしっ! 計画通りに台北に出張しちゃおう!」ってことにしたのでした。(10日投開票の参議院議員選挙の期日前投票を済ませていなかったので、9日中に帰国できるかどうかが心配でしたが‥‥。)
6日の羽田空港発台北松山空港行きは極めて快適なフライトでした。この日の飛行ルート上の天候は概ね晴れで、眼下の景色が楽しめました。下の写真は鹿児島県の薩摩半島と大隅半島、そして錦江湾です。
午後4時過ぎ(現地時間)に台北松山空港に着陸したのですが、空港ターミナルビルから一歩外に出ると、南方のギラギラした太陽が照り付け、その暑さで一瞬息が詰まるほどでした。おまけに異常に湿度が高く、まるでミストサウナの中にいるような感じです。この時期に台湾に来るのは初めてのことなので、台湾の夏ってこんな感じなのでしょうね。
その日の夜は現地のIT企業の会長や社長といった幹部の皆様からお招きを受けて会食をさせていただいたのですが、その席でも台風1号のことが話題に上がり、「8日は台風1号の直撃を受ける筈だから、予定を繰り上げて、打ち合わせは7日中に全てやってしまい、8日はフリーにしよう」ってことになりました。どうも台北市政府のほうから8日は台風の直撃を受けるから、企業も学校も1日休業にすることを考えておくように‥‥という通達が既に流れているようなことをおっしゃっていました。さすがは台湾。台風慣れしているというか、準備が早いです。ちなみに、この日の会食も翌7日だと台風の接近で大荒れになっているだろう‥との予測で、急遽1日繰り上げて開催されたものでした。
ホテルに戻って台風の予想進路を確認すると、台風1号は少しコースを南寄りに変え、台湾南部に上陸する前日までの数値予報モデル(GSM全球モデル)の結果とほぼ同じようなコースに変わっています。移動速度も25km/時から15km/時と少し遅くなっています。ほぼこのコースで間違いはないでしょうか。このコースを通った場合、台北は台風の進路の北側にあたり、しかも暴風圏にかかるので、8日の台北は大変な暴風雨に見舞われるのではないか‥‥と、その時は勝手に想像していました。よしっ! 8日は1日中安全なホテルの中にいて、中心気圧900hPaという猛烈な勢力の台風の通過の様子をしっかり見届けよう‥‥と。ちなみに、私は台風1号が通過する翌日の9日(土)に帰国する予定だったのですが、万が一の事を考えて、ホテルには延泊の仮予約をしておきました。
翌7日も朝からよく晴れて、真夏の太陽が照り付け、息が詰まるほどの蒸し暑さでした。朝の段階では、空を見上げてもほとんど雲はありません。風もほとんど無風。本当に猛烈な勢力をもった台風が接近しているのか?‥‥って感じの朝でした。よく晴れてはいましたが、台風が徐々に接近してきているので、午後からは天気が崩れ、雨も降り出すのではないか‥‥という予想から、いちおうホテルで傘を借りていきました。
ちなみに、日本の気象庁の観測によると、台風1号は猛烈な勢力にまで発達し、7日午前9時には沖縄の南の海上を1時間に25キロ/時の速さで西北西へ進んでいます。中心の気圧は900hPaと3年前の平成25年、フィリピンに甚大な被害をもたらした台風30号に匹敵する強さにまで発達し、中心付近の最大風速は60メートル/秒、最大瞬間風速は85メートル/秒で、中心から半径170km以内は風速25メートル/秒以上の暴風が吹いているとのことでした。台風は猛烈な勢力を保ったまま翌8日未明に台湾中部に上陸すると予想が流れていて、台北もかなりの影響を受けると予想されました。
打ち合わせの最中も私は窓から外、それも空の変化を時々眺めていました。朝9時の段階ではよく晴れて、空には雲もほとんどなかったのですが、正午に近づくにつれ、徐々に雲の量が多くなっていきました。その上空の雲が凄い勢いで移動しています。午前中、北から南の方向に移動していたのが、午後になって北東から南西方向へ、さらには東から西の方向に移動の方向が変わってきているようにも見受けられます。台風の中心が徐々に台湾に近づいているせいでしょうか。14時(日本時間15時)を過ぎる頃になると、徐々に黒い雲に覆われる部分が増えてきました。ただ、雨は時折パラつく程度で、逆に時折晴れ間すら覗く妙な天気です。相変わらず、積乱雲を含む雲が物凄い勢いで上空を通り過ぎていきます。台風が接近している時の空って、こういう感じのことが多いですよね。ただ、地上付近は微風のままで、上空だけがやたら風が強い感じです。
台風が接近してくる影響は、夕方から徐々に出てくるだろうという推測で、早々に打ち合わせを終了し、ホテルに戻りました。ただ、同様に仕事を早めに切り上げて帰宅する人が多かったせいか、なかなかタクシーがつかまらず、また道路がいつも以上に渋滞してホテルまで時間がかかってしまいました。夕食も一緒に行った日本人だけでホテルの近くで摂り、早々に部屋に引き上げて、台風の襲来を待ち受けることにしました。前述のように、緯度の低いところで中心気圧900hPaという猛烈な勢力の台風の直撃を受ける経験なんてなかなかできることではないので、不謹慎ではありますが、それを楽しみたいという思いでした。
私達が夕食を摂っている間、少し雨がパラついたようで、路面が濡れていますが、たいしたことはありません。風もほとんど無風で、前日同様、メチャメチャ蒸し暑い夜になりました。
今年(2016年)はなかなか台風が発生せず、台風1号の発生は前述のように7月3日になりました。これは統計を取り始めた1951年以降で2番目に遅い記録です。ちなみに最も遅かったのは1998年7月9日。7月に台風1号が発生するのは実はかなり少なくて、1951年以降で3回しかありません。今年はそれだけ珍しい年ということです。昨年(2015年)は史上最大級規模のエルニーニョ現象が話題になった年でしたが、今年(2016年)はそのエルニーニョ現象が終息しラニーニャ現象に移り変わる年だと言われていました。実は1998年も前年のエルニーニョ現象からラニーニャ現象に移った年でした。一般的にラニーニャ現象が起きる年は台風1号の発生が遅くなると言われているようですが、まさにその通りになりました。
部屋に入って夜中までテレビで地元台湾の放送局のニュースを観ていたのですが、台北市内はこれほどまでに穏やかなのですが、台風1号は台湾南東部に猛烈な雨と風をもたらしているようです。中国語(台湾語)での放送なので、内容は正しくは解かりませんが、字幕の漢字から推察すると、東部の花蓮県では降り始めから10時間のうちに500ミリを超える降水があり、また、南東部の離島の蘭嶼島では、午前2時45分(日本時間午前3時45分)頃に71.3メートルの最大瞬間風速を観測しました。また東部では、1時間に90ミリ以上の猛烈な雨が降っているところがあるということです。花蓮県では強風に吹き飛ばされた男性1人が海に落ちて死亡した(たぶん)というニュースも流れていました。台湾は、世界的に見てもとりわけ山々が密集した地域であり、また人口密度が高いので、世界的にも最も災害が発生しやすい国の1つです。予想される総雨量は800ミリ以上に及ぶ模様で、今後さらに被害が拡大する恐れがあるとの報道が流れています。
台風1号は翌8日午前5時50分(日本時間午前6時50分)、台湾南東部の台東県太麻里付近に上陸しました。台湾中央気象局によりますと、勢力は強烈から中度に弱まったのですが、依然として台湾全土で大雨や強風の恐れがあり、引き続き注意が必要とのことでした。最大風速は台湾東部の離島の蘭嶼で60メートル/秒以上、台東で56メートル/秒以上を観測。台東では台風の影響で、8日午前11時までに69人が怪我をして病院に搬送されたという報道も流れていました。8日午前0時から午前11時50分までの各地の降水量は、花蓮県六十石山524.0ミリ、台東県電光408.0ミリ、花蓮県玉里397.5ミリなどと報道されています。嘉義以南と花蓮、台東では24時間降水量が500ミリ以上に達すると予想されていました。
地元テレビ局では気象予報士が今後の台風の進路予想に関して解説しています。
ちなみに、テレビの画面で「強颱尼伯徳」と書かれているのは「強い台風ニパルタク(Nepartak)」という意味です(漢字表記)。“ニパルタク”は今回の2016年台風1号の名称です。
台風の名称は、日本では毎年1月1日以後、最も早く発生した台風を第1号とし、以後台風の発生順に番号(数字)をつけています。いっぽう米国では、従来から、台風を含む熱帯低気圧に対して固有の英語名称(人名)を付けていました。これに倣って、北西太平洋または南シナ海で発生する台風防災に関する各国の政府間組織である「台風委員会(日本ほか14ヶ国等が加盟)」でも、各国共通の固有の名称で呼ぶように決定がなされ、平成12年(2000年)から北西太平洋または南シナ海の領域で発生する台風には同領域内で用いられている固有の名前(加盟国などが提案した名前)を付けることになり、カンボジアで「象」を意味する「ダムレイ」以下、140個の名前があらかじめ用意され、発生順にそのあらかじめ用意された名称を順番につけていくという運用がなされています。あらかじめ用意された140個の名前が使い終わると、その後再び先頭の「ダムレイ」に戻って順次名前が付けられていくというルールです。台風の年間発生数の平年値は25.6個ですので、おおむね5年間で台風の名前が一巡するということになります。
で、今回の2016年台風第1号にはネパルタク(Nepartak)という名称が付けられています。この“ネパルタク”とは、ミクロネシアの有名な戦士の名前なのだそうです。その漢字での表記が“尼伯徳”というわけです。
8日朝のホテルの前の道路の様子です。台北はまだ静かなものです。
ホテルの正面のガラスは割れた時の飛散防止のためか、ガムテープが×印で貼られています。見ると、通りに並ぶ店舗のガラスもシャッターで覆われているところ以外は、たいてい同じようにガムテープが×印に貼られています。いつもの平日ならこの時間帯、通勤通学のラッシュで、多くのクルマや台北名物のバイクの一団で大変に賑わうホテルの前の道路も、クルマやバイクは1台も走っていません。歩道を歩く人の姿もひとっこひとりいません。まったく静かなものです。おそらく、ほとんどの企業や学校が昨日(7日)のうちに休業を決めた結果なのでしょう。このあたり、台湾の人は台風慣れをしているのかもしれません。ちなみに8日朝の台北市内は風もほとんどなく、雨も降っていません。一瞬ですが雲の合間から青空が覗いたくらいです。穏やかなものです。ホテルのロビーでは日本人観光客や、今日の予定がなくなった出張に来ているビジネスマンでごった返しています。今日の予定をどうするか、コンシェルジュに相談しているのですが、主な観光地やほとんどの商店はどこも閉じているようです。
この台風の影響でしょう、日本列島にも南から湿った空気が大量に流れ込んでいる影響で、西日本で大気の状態が不安定になり、特に鹿児島県では局地的に1時間に80ミリを超える猛烈な雨が降っているようです。九州では、これから夕方にかけて局地的に猛烈な雨が降るおそれがあり、気象庁は、土砂災害や川の増水・氾濫などに警戒するよう呼びかけています。私にはむしろそちらのほうが心配になります。
8日午後0時(日本時間午後1時)現在、台風は南部・高雄の北約50kmにあって、時速12km/時キロで北西に進んでいて、中心気圧は945hPa、中心付近の最大風速は43メートル/秒。新竹や宜蘭より南の地域および離島・澎湖が暴風域に入っていました。勢力が弱まったとはいえ、まだまだ中心気圧は945hPa。とんでもなく強い勢力の台風です。私も現地のテレビニュースでその様子を観ていましたが、とにかく凄まじい光景でした。台湾東部では各地で家屋の浸水、崩壊、山崩れなどが起きているようです。避難している人が1万5千人、停電は25万5000世帯。交通機関も一部の空の便に欠航や遅れが出ているほか、台北と南部の都市、高雄を結ぶ高速鉄道が終日運休を決めるなど、交通機関への影響が今後も続く見通しというような報道が流れていました。
YouTubeにAFPが報道した台風1号の台湾上陸の際の映像がアップされています。こちらでその凄まじさをご覧ください。
AFP BB News
台風の中心は午後2時30分に台湾本島を抜けました。中央災害対策センターが8日午後4時に発表した統計によると、7日夕方から8日にかけて台湾を直撃した台風1号により、3人が死亡、142人が負傷したようです。特に大きな被害が出ているのは東部と南部。倒木や看板落下、損壊などは計1,836件確認され、停電は50万戸以上に上ったのだそうです。死者が出たのは花蓮県と連江県、台東県で各1人。台湾電力によると、停電は17県市におよび、屏東県では16万3,582戸、高雄市は14万1,548戸に上ったようです。台風の中心付近が通過した台東県では、8日午前2時(現地時間)頃から強風や大雨に襲われ、ビルの高層部では揺れを感じられるほどだったそうです。また、台東市内には、強風で飛ばされたトタン屋根や窓、ガラスなどが散乱し、車が100メートルほど飛ばされる被害もあったそうです。
いっぽう、台北市内は時折霧雨のような雨は降りましたが、風も微風で全然穏やかな一日でした。穏やかではあったのですが、前述のように主要な観光地もほとんどの商店も開いていないので、どこにも行くことができません。ヒマを持て余して出掛けて行った日本人観光客達も「参った参った、買い物に行ったんだけどどこも開いてないよ」と言いながら、ホテルに戻って来ました。私もホテルの周辺を散歩したのですが、確かにどの商店も「close」の看板が掛けられて、閉まっています。昼食もホテル近くで唯一店を開けていたモスバーガーでハンバーガーを食べたくらいでした。それにしても街中をウロウロと散歩しているのは近隣のホテルに宿泊している日本人くらいのものです。現地の台湾の方の姿はほとんど見掛けません。街中、ゴーストタウンになってしまったかのように人の姿がありません。クルマやバイクも通りませんし、風の音もしないので、静かなものです。不気味ささえ感じてしまうほどでした。おそらく気象当局や台北市政府が出した厳重警戒勧告を受けて、人々は自宅等の安全な場所で台風が通り過ぎるのをジッと待っているのではないか‥‥と推測します。「台風慣れ」しているというか、国民性の違いを実感します。
結局、台北市はこの日は一日中こんな感じで、拍子抜けしてしまうくらいに穏やかなものでした。日本各地と台北(松山空港&桃園空港)を結ぶ航空路も最大で5時間ほどの遅れは出たものの、欠航した便は1便もなく、この日ホテルをチェックアウトなさった日本人観光客の皆さんも、無事に日本に帰国できたようです。
いっぽうで、前述のように台湾の南東部では深刻な被害が出たようです。テレビのニュースではおそらく強風に煽られて横倒しになった貨物列車の貨車や大型トラック、さらには駐車中の乗用車が勝手に横に滑るように動いている様子を映し出していました。1トン以上もある乗用車が強風で横に滑るように動くなんて、考えられません。想像を絶するような強風が吹いたってことです。
夜、地元のテレビニュースでは、この台風1号で厳重警戒指示(?)を出したにもかかわらず、台北では何事もなく平穏だったことを受けて、台北市長と台湾の気象当局の責任者と思しき方が釈明の(?)記者会見を行っている様子を流していました。中国語なので何を言っているのか分かりませんが、表情や身振り手振りから推察するに、台北市長は「台北市は運が良かっただけだ。何事なくよかったじゃないか」ということを言っている感じに受け取りました。
台湾の気象当局の方の説明では、どうも台湾本島を背骨のように縦断する高い山々が台風の進路を遮り、台風の進路を南寄りに変更させ、また、暴風雨もその高い山々に遮られて台湾島の西側にはほとんど影響を与えなかったというようなことを説明しているようでした。地図上に各地の降り始めからの累積雨量を示すグラフを描いた図を示していましたが、台湾島の東側と西側で極端に雨量が異なる様子が見て取れます。
CNN(台湾版?)ではその様子を地形のCG画像を用いて模式的に説明していました。これがとっても分かりやすい。なるほどぉ~。
台湾島は太平洋西部に位置する島国で、全島面積は35,915平方kmと日本の九州とほぼ同じくらいの面積で、南北に長く東西が狭い形状となっています。地勢は東高西低であり、地形は山地、丘陵地、盆地、台地、平野により構成されますが、山地と丘陵地が全島面積の2/3を占めている山岳中心の地形になっています。台湾島の中央部には東から海岸山脈、雪山山脈(最高峰は標高3,886mの雪山)、中央山脈(最高峰は標高3,825m の秀姑巒山)、玉山山脈(最高峰は標高3,952m の玉山)、阿里山山脈(最高峰は標高2,663mの大塔山)とそれぞれ称される5つの山脈が連なっています。いずれの山脈も険峻であり、標高3,000mを越える高山も数多く存在します。その中で蘇澳より鵝鑾鼻を貫く中央山脈は台湾の背骨とも称され、東西を流れる河川の分水嶺となっています。玉山山脈の玉山の日本統治時代の名称は「新高山」。標高は3,952mで、台湾の最高峰となっていますが、日本統治時代、この新高山が日本最高峰の山でした(富士山は3,776m)。台湾には山頂の標高が3,000メートルを超える山がなんと100座以上もあるそうです。
それら3,000メートルを超える高い山々が、富士山のような独立峰ではなく、北アルプスや中央アルプス、南アルプスのように屏風のように連続して、しかもそれらが幾重にも連なって聳えているわけです(おまけに、北アルプスや中央アルプス、南アルプスの山々より高い)。そりゃあこの高い山脈に遮られると台風だって進路を変えるでしょうし、山脈の東西で気象はまるで異なってくる筈です。
まさに『世の中の最底辺のインフラは地形と気象!』です。
ここ台湾でも、改めてこの言葉を実感しちゃいました。あわせて、台湾(中華民国)の首都が台湾島の北の端から少し内陸に入った台北市に置かれていることの意味も分かったような気がします。緯度が低いところに位置する台湾は毎年のように大型の台風の襲来に見舞われるのですが、台北なら背後の高い山々に守られているので、大きな被害を受けなくて済みます。仮に台風が台湾島の北の東シナ海を進んだとしても、その時は台風の進路の左側(西側)になるため、同じく大きな被害は受けなくて済みますから。なるほどぉ~って思っちゃいました。そう言えば、台北に限らず台中や台南、高雄といった台湾の主要都市は全て台湾島の西海岸にあり、東海岸には大きな都市はありません。
緯度の低いところで中心気圧900hPaの猛烈な勢力の台風の直撃を受ける‥‥、その“不謹慎な”楽しみは完全に肩透かしを食ってしまいましたが、翌9日、無事に日本に帰国することができました(機材繰りの関係で、飛行機が2時間ほど遅れましたが‥‥)。私はかねてより“晴れ男”を自認していましたが、さすがに今回だけは中心気圧900hPaの猛烈な勢力の台風が相手ということで、その“晴れ男”も通用しないと思っていました。しかし、台北に滞在中、ただの一度も傘を利用したことはありませんでした。
飛行機が台北松山空港を出発した際、「目的地東京羽田空港の天気は雨、気温は摂氏◯◯度です」というCAのよる機内アナウンスがあったのですが、実際に羽田空港に到着してみると滑走路の路面は濡れているので確かに雨が降っていた痕跡は残っているものの、既に雨はあがっていて、西の空に沈みつつある夕陽が綺麗に見えました。もうここまで来ると、私の“晴れ男”も『レジェンド』と呼んでいいくらいにまでなりつつあります。自分でも正直怖いくらいです(笑)
【追記】
台北では台風1号が接近しつつあった7日午後10時頃(日本時間午後11時頃)、市内中心部にある松山駅のホームに到着直前の電車で突然爆発が起き、乗客など25人が火傷などの怪我をして、病院で手当てを受けたという事件が起きました。松山というと台北松山空港のあるところで、私が泊まったホテルからはさほど離れてはいません。車内の座席の上に置かれていた黒いリュックサックの中から長さ15cm程度の爆発物が見つかったそうで、「台湾でもテロが起きたのか!?」…と大騒ぎになったのですが、どうも乗客の1人が乗客を巻き添えに自殺を図ったようだとの報道が9日の朝のテレビニュースで流れていました。物騒なことです。
執筆者
株式会社ハレックス
前代表取締役社長
越智正昭
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